呪いの剣
ネフィーさんの言葉が本当なら、この場で処女なのはただ一人。
「クレア、俺の影に逃げろ!」
「!「入影」」
ネフィーさんに標的にされ怯えていたクレアだったが、俺の声を聞くと影に入ろうとすぐに魔法を発動させる。
「逃がしませんよ!」
「え?きゃあ!?」
しかしネフィーさんが逃がさないと言うと、何の魔法か分からないが辺り一帯は強烈な光で照らされ影を消されてしまい、そのせいで入ろうとした影からクレアがはじき出されてしまう。前から思ってたけどこの人、魔法の手数が多すぎないか!?
「これで私から逃げるのは不可能と分かったでしょ。さあ、諦めて処女を渡しなさい。」
「お兄ちゃんどうするの?これじゃあ私、影に入れないんだけど。」
影に隠れようとしたが、それを阻まれどうしたらいいか分からず聞いてくるクレア。そのクレアの処女を狙い、剣を構えにじり寄るネフィーさん。
この状況で取れる行動なんて、限られている。
「どうするって、隠れられないなら一つだろ。」
そう言ってクレアの手を離さないように力強く掴むと。
「死ぬ気で走れぇ!!」
俺は屋敷を目指して全力疾走を始めた。
「えええっ!?」
いきなり走り出したせいでクレアは驚いて多少足を縺れさせながら走り出し、ネフィーさんは予想外の出来事にポカンとして見送っている。
「はっ!待ちなさい、逃がしませんよ!」
が、それもほんの僅かな時間。すぐに気を取り直すと俺達を追いかける為に走り出した。
「さあ逃げないで、大人しく処女をこの剣に捧げなさい!」
「そんなに剣を振り回したら、処女の前に命を捧げる事になるわ!」
屋敷へ続く道、ネフィーさんは剣を振り回しながら叫ぶがその剣筋は呪われているせいか滅茶苦茶になっており、俺でもギリギリで回避できている。
その代わり、次の攻撃までの速度が速すぎて反撃する暇がないのが厄介だ。
「大体、なんでそんなに処女に固執するの!?」
「それはこの剣の製作者のせいなんです、よ!」
「!「転移」」
今は手を離し、俺の隣で剣を躱しながら走ってるクレアが悲鳴のような声で聞くと、ネフィーさんは呪われているのに案外すんなり答えてくれた。但し、振り回している剣から斬撃を飛ばし始めたけど。
いきなり斬撃を飛ばし始めたせいで、驚いて回避が遅れたがそれを転移で回避した。転移後、斬撃の通った位置を確認するとそこには屋敷へと続く道に斬撃の通った跡が深く残っており、それが見えなくなるほど先まで続いている。
「あぶねっ!?製作者って何したんだよ、その人!?」
呪われた剣を打つくらいだから、絶対に危ない事してるだろ!?
「何をしたって、その人は特に何もしてませんよ!生涯を剣に注ぎ続けた普通の方です!」
「絶対に嘘だろ!?」
「呪いの剣を打つ人が、普通の筈ないよ!?」
ネフィーさんがクレアの質問に答えてくれたけど、俺たちはその答えを聞いて即否定する。
普通の人がこんな剣を打てるか!どうせ生贄なり、悪魔召喚なり、人斬りをしてたせいでこんな剣になってるんだろ!?
「本当に普通の人です!ただその製作者は剣を打つ事に生涯を捧げ続けた結果、女の人との出会いには恵まれず、生涯を童貞で終えました!」
ああ、もう何か話のオチが見えてきたわ。
オチの分かった俺は呆れた顔になり隣を見るとそれはクレアも同じらしく、斬り掛かられているというのに呆れた顔をしていた。
「そしてその無念が最後に打った剣、この剣に宿ったのです!剣の銘は処女斬り丸、世界の駄剣特集にも選ばれた名剣です!」
「剣になんて名前を付けてるんだよ!」
製作者、絶対に悪ふざけで付けてるだろ!?
「それに駄剣なのに名剣って何!?」
「駄剣というのは、突出した能力があるのにそれを上回るくらい残念又は駄目な剣を差します!この剣で言うなら、斬れ味が凄いのに処女を見ると剣で襲いたくなる性質を持ってるのです!」
「その襲うって、斬る方じゃなくて性的に襲う方だよな!?」
「その通り!そして襲うのは女性だけでなく男性も対象!」
あ、マズイ。処女って聞いたからクレアだけが対象と思ったけど、これって俺の尻も狙われてるじゃねぇか!
「さあ大人しく処女を差し出しなさい!」
「差し出せるかぁ!!」
叫び返すと残りの体力も考えず、自分の尻を守るために走るスピードを更に上げていく。こんな事になるなら、あの時逃げ出さなければ良かった!
叱られるのが嫌で逃げ出す選択肢を選んだ自分に後悔するが、今更後悔しても遅すぎた。今は男としての何かを失わない為に死ぬ気で走る。
「まだ屋敷に着かないのか!?」
「そろそろだと思……お兄ちゃん、あれを見て!」
「あれ?」
クレアの指さす先、そこには鎮火した屋敷が見えた。見えたのだけど……。
「なんかボロボロじゃね?」
「そうだね。何かあったのかな?」
見えた屋敷は、以前鎮火した時よりも酷く損傷していた。入り口は扉が吹き飛んだのか、大きな穴が開いており、窓は割れ、斬りつけられた跡が多く残っている。
普段自分たちが暮らしている屋敷とは思えない変わり様に何があったのかと思っていると、入り口だった場所に誰かが立っているのが見えた。そして俺はそれが誰か分かった時、一つ分かった事がある。
「……なあクレア。」
「何、お兄ちゃん。」
「進むも地獄退くも地獄って、こういう時に言うんだろうな。」
「だろうね。」
クレアも立っている人物を遅れて気付いたらしく、諦めたように同意した。
さぁて、今回は何をされるんだろ。これ以上逃げれないと分かった俺はその人物……母さんを眺めながら、これから我が身に起こる事を遠い目をしながら予想した。
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