賭けの内容
「「七号玉」……お、ようやく終わったか。」
攻撃をしながらチーちゃんを見ていたら、クレアと決めた戦闘終了の合図である影で形成された丸が見えた。それを確認すると俺は手を下ろし、疲れから地面に寝転がった。
はあ……、間に合って良かった。クレアを信じて後は野となれ山となれの精神で撃ちまくったから、もう魔力が底を突きそうだったんだよな。回復しようにも魔力回復薬は無いし、戦闘続行になったらクレアが姉さんとシムを過重で無理やり落として、俺が二人を助ける手筈だったけどそうならなくて良かったよ。あとはまあ、滅茶苦茶に撃ったお陰で花火魔法の新しい魔法名も覚えたのも良かったな。
面倒な結果にならず満足していたら、複数の足音が聞こえ視界に影が射す。そちらに視線を移すと不機嫌そうな顔で姉さんが俺を睨みながら見下ろし、クレアとシムは姉さんの後ろに立っている。
「戦いが終わったからって、少し油断し過ぎじゃないですか?今ここで襲っても良いのですよ。「色毒」」
そう言いながら姉さんは色毒を出したが、俺はそれを呆れた目で見る。
「撃つ気も無い癖にそんな物騒な物出すなよ。」
「あら、何故私が撃たないと思ってるのかしら?」
「姉さんは負けを認めたら、譲れない事以外は変な悪あがきはしないだろ。」
「それはアレクの思っている私であって、本当の私は悪あがきをする往生際の悪い人かもしれませんよ?」
そうして姉さんは影から剣を取り出し、その切っ先を俺に向ける。
「そう言ってるけど、本気で俺を害そうとしてるならシムはともかく、クレアが助けようとするだろ。」
「私はともかくって何だよ。友達が殺されそうだったら、私だって普通に助けるよ。」
「その友達よりも姉さんの味方をした奴は黙っとけ。」
「あれはアレクが――。」
何かシムが言ってるが今は無視でいいか。
シムの言葉を聞き流しながら、俺は姉さんの方を見る。
「どうせこっちに来る途中でクレア達と相談したんだろうけど、何年姉さんと一緒に暮らしたと思ってるんだ。完全じゃなくても、多少は姉さんの事くらい解るわ。あんまり弟を舐めるなよ。」
言い切るとお互い見つめ合うが、少しして姉さんはため息を吐くと毒を消し、剣は影に収納した。
「意外と私の事を見てるのですね。」
「そうしないといろんな意味で危なかったからな。」
具体的には、俺の自由と貞操に関してだけど。
「さて、賭けにも負けた事ですし家に帰りましょうか。」
「賛成。」
「そうしますか。」
姉さんの家に帰る発言にクレアとシムは賛同しているが、俺にとっては聞き捨てならない単語が聞こえた。
「ちょっと待て。賭けって何のこと!?」
「終わった事なので答えますが、アレクがあの場で逃げるを選んでいたら今日の夜、アレクで初体験をするのにクレアちゃんも手伝ってくれる約束をしていたのですよね。勿論、クレアちゃんの初体験も賭けに含まれてますよ。」
聞いてみると姉さんは残念そうな顔をしながらも答えてくれたけど、この二人なんて賭けをしてんだ!?
「勝手に人を賭けの対象にしないでもらえる!?」
「そうは言いますが、私とアレクはもはや一心同体。つまり、アレクの人生や身体は私の物という意味に――。」
「ならないから!」
姉さんに俺の体を好きにさせたら、絶対によろしくない使い方しかしないだろ。
そんな、どこのガキ大将かってくらい滅茶苦茶な理論を姉さんが言ってると、シムとクレアが傍に来た。
「ところで、お兄ちゃんはいつまで寝てるの?もう夕方になるし、そろそろ屋敷に帰ろう。」
青い空は端の方から徐々に赤くなり始め、クレアは屋敷に帰ろうと言ってくるが俺は体を起こすと自分の片方の足を指さし。
「あー、俺も帰りたいんだけど、この通り足が折れて歩けそうにないんだ。だからシム、すまんが――。」
「全部言わなくても分かってるよ。」
「お、そうか。」
流石シムだ。俺が全部言わなくても分かってくれるなんて、良い友達だよ。
全部口にせずとも察してくれる友に感動しているとシムは良い笑顔をして。
「アレクを置いて帰ればいいんだよね。任せといて。」
「んな訳ねぇだろ!全身の骨を折ってやろうか!?」
「ははは、冗談だって。回復して欲しいんだろ。」
分かってるなら、あんな事を言わずに始めから言えよ。お陰で感動がどっかに行ってしまったわ。
シムは笑いながら足元に来ると俺の足を見て、眉間に皺を寄せた。
「あー、思ったより酷いな。血が流れてるのは気付いてたけど、骨折だけじゃなくて、ざっくりと切れてるじゃないか。」
「だから頼んでるんだよ。これじゃあ歩こうにも痛くて歩けそうにないからさ。」
「まあやるけど、傷が深そうだから時間は掛かるけど良いよね?」
「ああ、怪我が治るなら良いぞ。」
「そこは任せといて。最初は外傷から「中回復」」
シムは足に回復魔法を掛けてくれるが、その治りは普段に比べれば遅かった。
はぁ……、これは予想以上に時間が掛かるな。そう思っていると姉さんが隣に座り、クレアは姉さんの隣に座った。
「さて、アレクの治療でしばらく動くことも出来そうにないですし、治るまでお姉ちゃんとお話でもしましょうか。」
「……話すのは良いけど、動けないからって手を出すなよ。」
無駄かもしれないが一応忠告してみると、姉さんは微笑んでいた顔から眉間に皺を寄せ不機嫌そうな顔に戻った。
当たり前の事を言っただけなのに今のどこに不機嫌になる要素があるんだよ。まさか姉さん、怪我人を本当に襲う気だったのか!?
「そんな訳ないでしょ。いくら私でも治療中の人を襲うほど節操無しじゃないですよ。」
「そうか。疑ってごめん、姉さん。」
まあそうだよな。いくら姉さんでもそこまで非常識じゃないか。
疑った自分を反省しながら、姉さんの言葉に安心していたら……。
「でもお兄ちゃん。お姉ちゃんは治療中は襲わないって言ったけど、怪我人は襲わないって言ってないよ。」
呟くように言ったクレアの声は良く聞こえ、そんな訳ないよな、と姉さんの方を見ると。
「………………。」
俺とは目を合わそうとせず、空を見ていた。
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