騙されやすいメイド
「しかしアレクさんの魔法は何回見ても思うけど凄いな。離れていたのに爆風で飛ばされそうになったんだから巻き込まれるかと思ったよ。倒すためとはいえ少し加減してくれても良かったんじゃないか?」
「加減しろなんて言うけど加減が難しいぞこの魔法。それにカゴットが薬を出してくれたおかげで退治できたからな。」
「そうだなカゴットがくれた薬がなかったら、あそこまで誘導することも逃げ出す事もできなかったからな。」
木から降りたら昼になっていたのでそのまま昼食を食べた後、俺達四人はツフトローチを退治した場所に話しながら歩いていた。話は退治する時に使った魔法の話をしている。
「でもアレク様。いつの間に転移魔法まで覚えていたんですか?」
「私達は一つか二つしか覚えてないのにアレクだけ四つも覚えてるなんて早すぎないか?」
「確かに早いけど。アレクさんが転移魔法を使えたから俺とシムさんはあの場から逃げれたんだし、そこはいいじゃないか。」
結局俺は二人を逃がすために必要だったので転移魔法を教えた。どうやら薬魔法は素材を使って薬を作るのに対し、合成魔法は物と魔法を合わせる魔法とのことだ。
その合成魔法を使ってカゴットが持っている薬と俺が持っている転移魔法を合成した結果、転移薬が完成した。
「そうですね。もし走って逃げようとしたら確実に巻き込まれていたでしょうしね。」
「ほんと転移できてよかったよ。」
「本当にな。だけど二人があそこに連れてこれなかったら作戦の考え直しだから、上手く連れてこれて良かった。」
「まあ、さっきも言ったけどカゴットの薬がなかったら危なかったけどね。その代わり私の服が破けたけど……。」
俺たちが考えた退治方法はこうだ。俺とシアンは高い木の上で待機しカゴットとシムがツフトローチを予定した場所に連れて来る。上手く連れてきたら合図を出し、俺が魔法を撃つ前に二人は転移薬を飲みあそこから逃げる。二人が逃げたのを索敵魔法で確認したら後は花火魔法を撃ちまくる簡単な作戦だ。
ただ森の被害までは考えていなかったな。それにシムが着ているワンピースは足首まであるスカートが太ももまで裂けていた。後で聞いたが俺が使った花火魔法の爆風で吹き飛ばされた時に破けたらしい。
「この場所たくさんの木が折れてるんだけど。」
「そうですね。あの木なんか根本から倒れてますよ。」
「上から見ても凄かったが近くで見るとよく分かるな。」
「なあアレクさん。これ、後で怒られんか?」
「……大丈夫と思いたい。」
やっぱり怒られるかな。流石にやり過ぎたという自覚があるもんな。でも虫退治は母からの頼みでもあるんだし大丈夫と思っておこう。
俺が怒られるかどうか考えていたら肩に手を置かれたのでそちらを見ると、シアンがいい笑顔をして見ていた。
「大丈夫ですよアレク様。」
そうか、俺が怒られたら一緒に怒られてくれるんだな。普段はやらかす事が多いメイドだが主が困っていたらちゃんと助けてくれる。今度こいつが困っていたら助けてやるか。俺が感動して、そう考えているとシアンは。
「もしアレク様が怒られて罰を受けることになったら、私はその間ヴィクトリア様に許可を得てアレク様の罰が終わるまで休暇をもらいますから。」
「おい変態メイド俺の感動を返せ。そんな提案をしたら少しの休暇じゃなくて一生の休暇になるぞ。お前も一緒に罰を受けるんだよ。」
このメイド、俺を見捨てて休みをもらおうとしてやがる。さっきの感動を返せ。俺が罰を受けるならこいつも道ずれだ。
「誰が変態ですか!人のパンツをよく見るアレク様に変態なんて言われたくないです!」
こいつ俺を変態扱いし始めた。本当に使用人かこいつ?
「アレク。男だから女性に興味があるのは仕方ないが、女性の下着をむりやり見ようとするのはどうかと思うぞ。そういったのはお互い合――。」
「女性じゃなく女装に興味があるやつは黙ってろ。」
「なっ!私はちゃんと女性に興味がある!失礼な事を言うな!」
ああ、シアンが余計なことを言うからシムまで参加したじゃないか。こいつが入ると面倒くさいんだよな。せめてカゴットは俺の味方にさせよ。
「おいカゴット。すまんがこの二人を静かにさせるのを手伝ってくれ。」
そう言ってカゴットの方を見るとあいつの姿は無かった。あれ?あいつどこ行った?
「おいアレク聞いているのか。女装する原因はお前の姉にあるんだからな。」
「聞いているんですかアレク様。どうしても私の下着が見たいのなら、今度誰もいない時にこっそり見せてあげますから。人が多い場所や――。」
「うるさいっ!」
周りを見てカゴットがいないから、何処に行ったかマップで確認しようとしたら俺が聞いてないと思ったのか二人は耳元で言い始めた。
「カゴットがいなくて探そうとしてるのに、うるさいぞシアンとシム。」
「誰が変態ですか!」
「誰が性別詐欺だ!」
「お前らだ。分かったらちょっと黙っとけ。俺はカゴットを探すんだから。」
俺がそう言うと二人はまだ言いたいことがある感じだったが頷いた。マップを確認するとどうやらカゴットは先に進んでおり、俺が魔法で開けた穴の所にいた。
穴の所に来ると穴はすり鉢状の形であいていた。深さはなかなかにある。
どうやって降りようかと思ったら、近くの木にロープを結び穴の下に垂らしてあるのを見つけたので、それを伝って下に降りた。
下に降りてカゴットを見つけたのはいいがカゴットはスコップを持って穴を掘っていた。よく見るとあちこちに掘った形跡がある。とりあえず呼んでみるか。
「おい、カゴット。」
「うん?ああ、やっと終わったか。」
俺が呼んだら振り返り、待ちくたびれたみたいな顔をした。
「先に行くな、危ないだろ。また何かが出てきたらどうするんだ?」
「そうですよ。皆さん心配してたんですからね。」
「シムさんもシアンさんも心配してくれてありがとう。でも大丈夫ですよ。何かが出たらアレクさんが見つけますから。」
確かに何か出たら教えるがそういう問題じゃないだろ。
「言われてみればそうですね。」
「でしょ。」
「待て待て。そういう事じゃない。」
シアンのやつ何を納得している。シムはそうじゃない事じゃ無いと分かっているのに、これじゃあどっちが年上かわからんな。
「じゃあどういうこと?」
俺が止めるとカゴットは笑いながら聞いてきた。こいつ分かっていながら言ってやがるな。そしてシアンは首を傾げるんじゃない。うっかりすることもあるけど最近ポンコツ化してないかこいつ?
「さっき言った通り何かが出てくるかもしれないし、俺から離れたら何か来てもすぐに伝えられないだろ。」
「確かにそうですね。全然思いつきませんでした。」
「シアンさんは可愛いのですから、もう少し危機感持ちましょう。そんなのでは簡単に騙されて誘拐されますよ。」
シアンの発言にシムも呆れている。まあ、そうだよな。五歳の俺らが気づいているのに、十四歳のシアンが気づいて無いなんて呆れるか。
「おいカゴット、何笑ってんだよ。お前分かってて聞いただろ。」
こいつシアンが今気づいた事に笑ってやがる。
「だ、だって…。ここまで簡単に、騙される、なんて……。はっはっは。」
「騙すなんて酷いですよカゴットさん。」
「酷いのはお前の頭だポンコツメイド。こんなの少し考えれば分かるだろ。」
「ポンコツってなんですか。私はそこまで酷くないです。」
シアンはそう言うが俺は呆れ、シムは苦笑い、カゴットは爆笑しはじめた。それを見たシアンはさらに怒るがまったく怖くなく、むしろ可愛い方だと思う。
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