愛情表現は痛くないのでお願いします
「いやあ!来ないでっ!!」
「ちょっと、クレあ、たたたた!肩!肩噛むな!」
余程酷い目にあったのか、姉さんの声を聞いたクレアは姉さんを拒絶すると足を腰に回し、服を強く握りしめ離れたくないという意思表示なのか、肩に思いっ切り噛みついてきた。
「青空の下、裸同然の妹に伸し掛かられ噛みつかれる。私から逃げた時は二度と逃げ出さないように調教をしようかと思いましたが、アレクを襲いたくて逃げ出したのですね。それでこそ自慢の妹です。」
「んな訳ねぇだろ。普通に姉のセクハラが酷くて逃げたに決まってるだろうが。」
クレアが逃げた理由を勝手に自分に都合の良いように解釈した姉さんに兄さんからの呆れたツッコミが入る。
「ふっ。ほんと、お兄様は人を見る目が無いですね。まさに節穴。そのような目の前の物事を理解出来ないような目は捨てて、新しい目に取り替えたらどうですか?」
「人の体を簡単に交換出来る安物の玩具と一緒にするな、盲目女。お前こそ、その異常な脳みそを正常な物と取り替えてもらえ。」
「まあ失礼な。私の脳は至って正常ですよ。それはもう二十四時間、いつ如何なる時でも常にアレクについて考えてるのですから。」
「それが異常なんだよ。いい加減に気づけ。」
「安心してくださいお兄様。お兄様の言いたい事はちゃんと分ってますよ。」
「なんだ?ようやく自分がストーカーとみと――。」
「クレアちゃんとも結婚するのだから、アレクの事ばかり考えてないでクレアちゃんの事も考えろ、と言うのでしょ?」
「誰が言うか、そんな事!」
兄さんは言いたいことを何一つ分かっていない姉さんに叫んだが、俺もいい加減に言いたい。
「弟が痛がって助けを求めてるのに助けずに呑気に話すな!!」
二人が話している間に力強く噛んでいたせいか、クレアの歯は肉に食い込み血が流れている。そんな弟が痛がり、助けを求めていたのによく気付かずに話せていたものだ。
俺が叫ぶと兄さんは思い出したように姉さんは不思議そうな顔をしていた。
「あっ、すまん。素で忘れてたわ。」
「後で覚えとけよ、クソ兄貴!」
「すまんすまん。後でお前の頼みを聞いてやるから、許せよな。」
そう言いながら兄さんは、相変わらず目を逸らしながら俺とクレアを剥がそうと近づくが、姉さんがそれに待ったを掛けた。
「お兄様、離すのは待ってもらえますか?」
「なんだよ。絵面的にいろいろと酷いんだから邪魔するな。」
兄さんの言う通り、俺達からしたらその場に居たので何が起こったかは分かるが、これを他人が見た状態を想像してみよう。
青い空の下、広がる草原にボロボロの服を着た男の子供に伸し掛かり肩に噛みつく裸の女の子。そして、そんな二人に目を逸らしながら近づく白衣の男性とその男性を止めようとしている女性。
なんだこれ?
他の人から見たら何が何だか分からないのは確かだが、この四人の中で怪しいと言われると兄さんな気がする。
俺を助けようとしているのが現実だが、見方によっては白衣を着た大人が倒れている子供を囮に裸の幼女を捕まえようとしているのを女の子が止めようとしているようにも見える。
これは兄さんも絵面が酷いと言う筈だ。しかし、姉さんはそんな事を気にせず。
「邪魔をしてるのはお兄様でしょ?折角クレアちゃんがアレクに愛情表現を示しているのにそれをお兄様が邪魔しようとしてるのですから、一度馬に蹴られてください。」
「どう見ても愛情表現じゃないよね!?」
「愛情表現じゃなく、姉からの恐怖に我慢してる状態だろあれは。」
俺達が否定すると姉さんは心底残念そうにため息を吐き。
「それだからあなた達は駄目なのですよ。ちゃんと乙女心を理解しないと女の子が可哀そうでしょ。」
「姉さんは弟の気持ちを分かってないから、駄目だけどな。」
「それ以前に常識すら分かってないだろ。」
「お黙りなさい!」
姉さんの言葉に俺達がツッコむと姉さんは一喝し、兄さんを指した。
「見なさいアレク。乙女心を理解しないまま大人になってしまったお兄様を!」
「おいイントア。人に指を向けるなと教えただろ。ちゃんと下ろしなさい。」
「今それ重要じゃないよな!?」
「重要ではないが、間違いは見つけたその時に指摘しないと効果がないだろ?」
「普段適当なくせにこういう時だけ正論言うな!というより姉さんの事は無視して、いい加減クレアを離してくれない!?」
足を止め、普通に会話していた兄さんに早く助けるように言うと指摘され、指を下した姉さんが。
「こらアレク!クレアちゃんが一生懸命、あなたへの愛情をその身に教えてるのにあなたはそれを拒絶するのですか!?」
「こんな動物や魔物みたいな愛情表現があって堪るか!人間ならもっとマシな愛情表現があるだろ!」
「知性はあれども人間も所詮は動物。原点回帰して愛情表現で噛みつくのも充分あり得る話ですよ。」
「あって堪るか!仮にあったとしてもそれは、姉さんみたいな特殊な人種だけだ!」
「まさかアレクは、私に噛んで欲しいのですか?」
「良くない何かが感染しそうだからやめてくれ。」
実際にクレアが姉さんに毒されておかしくなった実績があるもんな。俺は姉さんの毒に犯されたくない。
しかし、俺の返しにムッと来たらしく。
「人を病原菌扱いとはどうかと思いますよ。」
「事実を言ったんだけど。」
「分りました。私も裸になり、アレクに噛みつきます。」
そう言うと姉さんは、こちらに歩きながら服を脱ごうとしたが、それよりも先に。
「流石にそれはアウトだわ。ちょっと頭冷やせ「封印・影渡り」「転移」」
兄さんによって姉さんは何処かに跳ばされた。
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