襲い掛かる姉妹
姉さんが俺達を殺意のこもった目で睨み。そんな姉さんを見たラーシェは……。
「ちょっとアレク様!?何ですかあれ!?何ですかあれ!?何ですか!あれは!?」
「うるせぇ!聞こえてるんだから、何回も言わなくていいんだよ!」
「だって凄く珍しいじゃないですか!?アレク様に対して、鍋いっぱいに砂糖を煮詰めた後に練乳と蜂蜜をかけた食べ物くらい甘いイントア様が、アレク様に本気の殺意を向けてるんですよ!」
「……ラーシェにも殺意を向けてるけどな。そして何だ?その胸やけしそうな食べ物は。」
しかしテンションの上がってるラーシェには俺の声は聞こえて無いらしく、俺に詰め寄り早口でまくしたてる。そういえばこいつ、人の表情が好きとか言ってたな。普段の姉さんでは考えられない表情を見れたせいで、こんなにテンションが上がってるのか。
「こんな光景、なかなか見る事の出来ないレアな姿ですよ!?まるでシアンが私に向ける殺意と同等…いや、それ以上の殺意!どうやってあんなに怒らせたんですか!?是非私にその怒らせ方をご教授ください!それを参考にシア――。」
「いい加減うるさい!それに姉さんが怒ってる理由は、お前に貰った写真が姉さんとクレアにバレ……あれ?クレアは何処、っ!後ろか!」
「ふにゃっ!?」
「もう、お兄ちゃん勘が良すぎない?今のも避けられるとは思わなかったよ。」
剣を構える姉さんに警戒しながらラーシェと話してたら、クレアが一緒でない事に気付き周りを警戒しようとすると再び背後から殺気を感じ、詰め寄っていたラーシェを押し倒した。その直後、俺の立っていた場所に数本の注射器を模った影が突き出していた。
「ここ最近、いろんな人に追われたせいか勘が良くなったんだよ。それよりも何故注射器?」
もっと他に、それこそ姉さんみたいに剣とかの選択肢があっただろうに。まあ、なんとなく注射器の理由は予想出来るけど。
「それは勿論。お兄ちゃんの血を採取するためだよ。だから、避けないで、ねっ!」
「やっぱりか!「転移」」
「「印・アレク=ナルスタック」」
クレアが楽しそうな顔で床に倒れている俺に刺そうとしたが、転移で二人から少し離れた位置に避け、ラーシェも魔法を使い俺の隣に避けた。
「また避けた……。お兄ちゃんは私が嫌いなの?」
「むしろ、クレアが俺を嫌いかを聞きたいんだけど!?」
「私はお兄ちゃんが好きだよ。」
「だったらやめてくれない!?」
「やだ。お兄ちゃんが好きなのは本当だけど、お兄ちゃんの血も同じくらい好きなの。」
「……クレア様って、あんな子でしたっけ?私の知ってるクレア様より猟奇的な気がするんですが?」
「あー…。なんか俺の血を偶々口にした時、その味が好みだったせいか、毒レアになると俺の血を欲しがるんだよ。」
「なんかクレア様、吸血鬼みたいですね。アレク様の血を飲むのは栄養を摂る為なのか、若返る為なのかどっちでしょ?」
「栄養が摂れるかは知らないが、これ以上若返ってどうするんだよ!?」
「ほら、女性は皆いつまでも若く見られたいですから。」
「限度があるわ!……それより、何で様付け?確かクレアを呼び捨てにしてたよな?」
「アレク様は駄目ですねぇ。こんな場所で使用人が主人の娘を呼び捨てにしたら、家の品性を疑われるでしょ?少しは勉強をしましょうよ。」
「お前は俺に対する接し方を勉強しようか?」
「そういうアレクは、お姉ちゃんの気持ちを勉強しましょうか。」
いくら家が礼儀に緩いと言っても、ラーシェの俺に対する言葉が酷すぎないか?ラーシェに言い返したら、姉さんが俺の言葉にツッコミながら斬りかかったが……。
「姉さんの!気持ちを!勉強したら!発狂してしまうわ!」
姉さんは上段の振り下ろしや水平斬り、袈裟切りに逆袈裟切り等と言った容赦の無い連撃を繰り出すが、それらを横や後ろに跳んで避け、しゃがんで避け、転移で避けと躱していく。
幼児の遊戯や演劇ではない、本気の攻防。命のやり取り。
始めは悲鳴などの声が聞こえていたが、いつしか周りからの音は消え、今では姉さんと俺の出す音しか聞こえない。
いつまで続くとも知れぬ攻防。そのような攻防も長くは続かなかった。
「うおっ!?」
「もらったぁあ!!」
横に避けた時、バランスを崩して膝をついた俺を当然姉さんが見逃す筈もなく、上段から剣を力強く振り下ろす。
誰もが終わったと思うこの状況。この後に起こる出来事を想像して目を背ける人、逃げ出す人、悲鳴を上げる人、目を離さず最後まで見ようとする人、様々な人が居る。皆一様にこれ以上避けるのは不可能と諦めているが、俺はこれで終わる気などなく諦めてもいない。
「舐めるなぁあっ!!」
一か八かこの一瞬を乗り越える為、自分を奮い立たす為に姉さんに負けないくらいの声を出し。
「はあっ!!」
「なっ!?」
見事、真剣白刃取りが成功した。
決まると思った姉さんは目を見開いて驚き、離れていた人達からは割れんばかりの歓声と拍手が沸き起こり、お捻りまで投げる人が居る。あなた達はそんな事してないで、逃げてくれませんかね!?
そして、拍手をしているのは離れて見ている人だけではない。
「おお。アレク様、避けるのが上手いですね。」
「拍手しないで助けてくれない!?」
このラーシェも、俺を助けようとはせず拍手して楽しんでいる。
「いや~。姉弟喧嘩に水を差すのは、無粋じゃないですか。それに夫婦喧嘩は犬も食わない、と言う言葉があるように私は手を出さなくていいかなぁ、と。」
「この状況をそれで済ますか!?喧嘩の域を超えてるんだけど!?」
「まぁ、イントア様は過激ですから。」
「過激で済ますな!っと、「転移」」
「ちっ。またそれですか。」
姉さんの剣を押さえていたが限界になり斬られそうになった為、転移で再び避けた。また舌打ちするって、どれだけ俺を斬りたいんだよ。
「避けなきゃ斬られるだろ!いくら写真を持っていたからって、本気で斬ろうとするのはやり過ぎだ!」
「……確かに。私があの写真で怒っていたのは事実です。」
「やっぱり――。」
「ただ、私が怒ってるのは写真が原因ではありません!」
俺の言葉を遮り、写真が原因でないと叫ぶ。それなら何が原因だ?
「アレクが私の胸で無く、あのメイドの胸に欲情していると知って、一瞬の間に何度脳内で殺した事か。」
「だからって、実践しないでよ!?」
「いくらイントア様でも、私のシアンに手を出したら許しませんからね!」
「お前のじゃねぇよ!」
どさくさに紛れて、何シアンを自分のものにしようとしている。シアンは絶対に渡さん!
「いくら私でも盗撮の被害者に手は出しませんよ。…………そう、思ってました。」
「姉さん!?」
ちょっ!?手を出さないと聞いて安心していたら、最後の一言で一気に不安になったんだけど。
「ええ。アレクとラーシェさんから、あの話を聞くまではそう思ってたのですよ。」
「あの話?」
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