与えられた罰と被害金額
母親が予定していた方向と違うキャラになってしまいました。
最後までお楽しみください。
俺とシアンは屋敷に戻り散々に叱られ、次の日の早朝にヴィクトリア母さんの執務室に呼び出された。気になった事があるので、話が始まる前に聞いていいか質問してみた。
「話の前に聞いていいかな?」
「何かしら。」
「なんで父さんの執務室じゃないの?」
「あの人は、昨日から供を連れて東の村へ視察に行ってるわ。帰ってくるのは今日の昼かしらね。」
どうりで昨日から姿を見ない訳だ。また何かやって氷漬けにされてると思ったな。
「今はあの人の事はどうでもいいのよ。そんな事より、アレク。」
「はい。」
「無詠唱が使えるようになった事に関してはおめでとう、と言っておくわ。」
「……ありがとうございます。」
母さんに何を言われるかと思ったら、無詠唱の事で褒められるのは予想外だった。このまま褒めるだけで帰してくれないかな。
「ですが、練習をするにあたって、誰が被害を出せと言ったかしら?」
「あれは。ちょっとした事故のようなもので……。」
やっぱり帰してくれませんよね。俺は草原であった事をすべて話した。
「なんでお世話係のシアンも一緒になるのですか。そこは止めるべきでしょ……。」
母さんは俺の話を聞き終わると、頭を抱えていた。
「おい。シアンのせいで母さんが頭を抱えているぞ。」
「いえ。あれはアレク様の不用意な行動に頭を抱えているのです。断じて私のせいではありません。」
「俺だけが不用意な行動をしてる、みたいな言い方やめろ。それはお前もだろ。」
「私が不用意な行動になるのは、アレク様に巻き込まれるからじゃないですか。」
「俺もシアンに巻き込まれる事が多いけどな。」
俺たちが小声で言い争っていると母さんがこちらを睨み。
「二人の行動に頭を抱えているのです。」
「「すみませんでした!」」
「はぁ……。アレク、あなたに罰を言います。春になったせいか、最近森の方で虫系の魔物が活発になり始めたの。少し退治してきてね。」
「それってかなり危なくない?子供一人に与える罰にしては重過ぎる内容だけど。」
この母親は子供になんて危ないことをさせようとするんだ。こんなか弱い子供を一人で行かすなんて、母親の皮を被った悪魔に違いない。
そんな事を思ったら、近くに来て拳骨をされた。
「誰が悪魔よ。」
「あの、何も言ってないのですが?」
「言ってなくても顔に出てるわよ。」
俺ってそんなに分かりやすく顔に出るのか?魔法ばかりじゃなく、少しポーカーフェイスを覚えないと。なんて考えていると母さんがため息を吐いた。
「はぁ……。もちろんシアンも連れてよ。それに森にいる虫は弱いのがほとんどで、強いのなんて奥の方に行かないと出てこないわ。」
「あのー、ヴィクトリア様。私の魔法は戦闘用じゃないので誰か――。」
「却下よ。これはアレクだけじゃなく、シアンも含めての罰として行かせるのだから、他の人じゃ意味ないでしょ。」
シアンも森に行きたくないのか、魔法を理由に別の人に代わってもらおうとしていた。全部言う前に却下されてたけど。
「ですが――」
「それ以上言うと半年間、お給料を七割から九割減らすことにするわよ。」
「やめてくださいっ!これ以上減らされたら生活できません!」
「大丈夫。シアンは可愛いから、町に行って男の人と適当に一日デートなんかすれば貢いでもらえるわよ。もしかしたら宿屋で一泊するかもしれないけど。」
「嫌ですよっ!身体を売るなんて!私の初めては好きな人がいいです!」
「それが嫌なら行ってきてね。」
「……はい。」
酷いのを見た。これってお願いじゃなくて脅迫だろ。シアンは給料を減らすと聞いて土下座をしてる。シアンの土下座は動きが速すぎて全然見えなかったが、それだけ給料を減らされるのが嫌なんだろう。
おそらく冗談だろうが使用人に身体を売らせようとするなんて、ヴィクトリア母さんはあく――
「悪魔じゃないと言ってるでしょ。いい加減にしないと冷凍便で送るわよ。」
「母さんは女神のように美しく、慈悲深い聖女のようなお方です!」
冷凍便と聞いて俺は即座に土下座をした。俺とシアンで母さんに土下座をしているが、見方によっては母さんに祈りを捧げてる様に見えるな。……そんな訳ないか。
「話しにくいから土下座はやめてね。」
俺が馬鹿な事を考えていると、母さんの許しが出たので俺らは土下座をやめた。土下座をやめて立ち上がると母さんが話を続けた。
「本当はあなた達だけじゃなくて、屋敷から何人か出そうと思ってたんだけど……。」
「だけど?」
「街道整備や屋敷の増築。使用人の寮の修理とやることが多すぎて、人が全然足りなくて回せないのよね。冒険者を雇ったら、あなた達の罰にならないから出来ないしね。」
ぐはっ!ここで今までやらかした付けが来るか。
「どうするんですか!アレク様が色々とやらかしたせいで人が来れなくなりましたよ。」
「おいこら。自分も関係があるくせに、何俺一人のせいにしてるんだ。それが仕えてる人にすることか?」
この馬鹿しれっと俺一人のせいにしやがった。こいつの給料を本当に九割まで減らすよう頼んでやろうか。
「でも、アレク様の無詠唱の練習が原因で私のお給料が引かれることになったんですから、間違いではないのでは?」
そう言われると確かにそうだけど、街中で口を滑らしたのも原因の一つだと思うぞ。なんて思ったら黙って聞いていた母さんがシアンに。
「そんな事いってるけどシアンも畑にある野菜を魔法を使って、成長させてからこっそり持って帰ってるよね?」
「お前泥棒じゃねえか!」
「違いますよ!私も泥棒だと言ったのですが、先輩のメイドに度胸試しでこういった事をするのが伝統だって教えられたんです!」
「そんな先輩の言う事を聞くなよ!」
「だってその先輩達良くない噂があって、断ると虐められるかも、と思ってしまったんですよ!」
「へ~。そんな馬鹿な事を言ってる人が使用人にいるのね。」
「……。」
「ひぃっ。」
シアンと言い合いをしていると母さんから不機嫌そうな声が聞こえ、部屋の温度が下がったような気がした。二人でそちらを見ると、口元は笑っているが目はまったく笑っておらず、黒いオーラを背負ったヴィクトリア母さんがいた。
その表情のままシアンに近づいて肩に手を置き。
「ねえシアン。」
「………ッ。……。」
ダメだ。シアンのやつ恐怖のあまり、声が出せなくなってる。身体も震えているし大丈夫かあいつ……。あ、ダメだ。恐怖で、白目むいて立ったまま気絶してる。
「あら?無視かしら?おーい、シアン。」
気絶したことに気づいてないのか分からないが。母さんは返事がなかったシアンの頬を両手で伸ばしたり顔の前で手を振ったりしている。
「むー。主人を無視するとはいい度胸ね。」
そういうと母さんはシアンのスカートの中に手を――。
「てっ、待て!ちょ母さん!何をやってんの!?」
「パンツを脱がそうとすればさすがに反応するかと思ってね。あと、誰が変体よ。」
そう言いながら母さんの手には黒のパンツが握られていた。前に見た青いパンツは普通だったがこの黒のパンツ、なんか透けてね?
「あらあら。この子ったら意外なのを履いてるわね。誰か気になる人でもできたのかしら?」
そんな事を言いながらパンツは母さんのポケットの中――。
「なんでポケットに入れてるの!?返してあげなよ!シアンがパンツを履かないことにハマったらどうするの!」
「安心して。その時は責任を持って私が教育するわ。」
「全然安心できない。」
「母を信用しなさい。まあ今はノーパンメイドはどうでもいいのよ。」
どうでもよくないし、ノーパンにしたのはあなたでしょ変態母さん。
「あなたを裸にして町の木に吊るそうかしら。」
「やめてください!そんな事をされたら恥ずかしくて、明日から町を歩けなくなってしまいます。」
母さんのとんでもない発言に俺は再び土下座をした。
「私はあなたのやった事が屋敷の皆に申し訳なくて恥ずかしいわ。それよりも、あなたもシュページと同じで土下座が好きね。まあ、アレクの土下座はシュページ程じゃないけど。そんなことよりアレク、シアンが起きないから後で内容を教えてあげてね。」
「教えるも何も森に行って虫退治だよね?」
あと俺はシュページ父さんと違って土下座が好きではない。
「そうだけど、あと二人連れて行く人がいるのよ。」
「予想は出来るけど、誰?」
俺とシアン、後二人と言ったら大体予想は出来るな。俺が言える訳じゃないけどあいつら何をやったんだ。
「あなたの友達のカゴット君とシム君よ。家の人にはすでに話をしてあるわ。」
「連れて行けるのは嬉しいけど。何で?」
「まずカゴット君は薬魔法を使うために店で売ってある素材をこっそり使ったらしく、使い込んだ素材を取りに行くため森へ連れて行くの。」
ああ。昨日カゴットのやつ素材をよく使うから森に取りに行くとか言ってたけど、実際は使い込んだ素材の補充か。
「シム君は単純にあなた達のブレーキ役ね。」
「ちょっと待って。その言い方だと俺やカゴットがブレーキの付いてない、アクセル全開の暴走車と同じみたいな理由じゃないか。」
「みたいな、じゃなくて暴走車なのよ。最近はブレーキ役のシアンも暴走車の仲間入りしてるけどね。」
「シアンにブレーキ役は無理でしょ。」
「……もう少し教育をしてからあなたのお世話係にすれば良かったかしら。」
俺がブレーキ役は無理、と言ったら目を逸らしながらそんな事を言っていた。
大体悪いと自覚して問題を起こしてるシアンやカゴットはともかく、俺は偶然で事故になってるのが多いだけなのに、酷いなあ。
「家にある車を使っていいから早く出なさい。さもないと……。」
「さもないと?」
「あなたが壊した色々の代金、金貨四十万枚払ってもらうから。白金貨なら四千枚ね。」
「高過ぎじゃないかな!」
何個かやらかしてるけど金貨四十万枚は高すぎだろ。
「それが嫌ならやっぱり冷」 バタンッ!
俺は「れ」の言葉が聞こえてすぐにシアンを引っ張りながら部屋から出て行った。
――――――――
私が冷凍便と言おうとしたらアレクはシアンを連れて急いで部屋から出て行き、それを見て私は今日何度目になるか、ため息を吐いた。
「まったくあの子は、ぐだぐだ言わずに初めから黙って行けばいいのに。」
「失礼します。ヴィクトリア様にお電話が来ています。」
そんな事をぼやいているとドアがノックされた。ノックしたのはソフィーのようで私に電話が来てるのを伝えに来たようだ。
「ご苦労様。相手は誰かしら?」
「相手はイントア様です。どうやら帰省についてお話したい、との事です。」
「そういえば学園は春休みに入っていたわね。分かったわ、今行きます。」
帰省かぁ。あの子のことだから、春休みに入るなり直ぐ王都を出てこちらに帰ってきてるわよね。多分近くにいるから迎えに来てくれとか、もうすぐ家に着くとかそんなのでしょうけど。
冬休みの時は大雪で帰れなかったから、春休みは何があっても帰って来る、って言ってたけど間違いなく騒がしくなるわよねぇ。それにルーベルからきた手紙には、預かって欲しい子がいるからイントアが帰る際一緒に連れて行くと書かれてたけど、どんな子かしら?まあ取りあえず話を聞いてから考えましょ。
私はイントアと話すため電話へ向かった。
読んでいただきありがとうございます。
次回もお楽しみください。




