-特別編6- 魔力の霧 その1。
ルージェン王国の同盟国の一国・ルーケンス王国。
ここはルージェン王国の同盟国としては最も歴史が浅い国。
国全体が霧の国と呼ばれており、季節を問わず濃霧に包まれる日がよくある国。
そんな国を治めているのは玲瓏の魔女フィンリー。
称号の通りに透き通った声色を持つ魔女。
蒼い瞳、胸よりも少し下辺り迄の純白な長い髪の持ち主。
容姿は国の民 及び 同盟国の人々にそのように知られているのだが、過去などの素性は全くの不明で女王となった経緯も知られていない。
それでもこの国の民が彼女を慕うのは、フィンリーが女王に相応しい器の持ち主に他ならないからだろう。
道行く人々は満ち足りた幸せそうな顔。
景気もかなり良いようで、様々な場所で様々な商品が売買されているのが見受けられる。
「ここは霧の国でもありますが、商いの国でもあるようですね」
活気ある光景に言葉を紡ぐリーネ。
彼女の言葉に返事をする【リリエル】一行。
「ルージェン王国に勝るとも劣らないわね」
「あそこのガラス製品気になるなー。部屋に丁度良い感じがするー」
「飲食店とか露店も多いな。何か食ってみるか?」
「うちはコロッケ食べたい気分かも」
ルージェン王国からは結構離れた所にある国。
そこに【リリエル】一行がいるのは今から3日程遡った日に女王フレデリークから勅命を受けた為。
この国で起きている不可解な事件を解決して欲しいという内容の勅命を。
不可解な事件。この国から突然[人]が消えるという怪事件。
この国も事件解決に向けて動いているようだが、自分達だけではどうにもならずに藁をも掴む思いで同盟国の母体たるルージェン王国に助けを求めて使者がやって来たとのこと。
ルージェン王国としては同盟を結んでいる国のこと。見過ごすことはできない。
そこで、怪事件の謎を解く為に【リリエル】に白羽の矢が立ったのだ。
「しかし、人が消えるって気味が悪いな」
「こういうのってなんていうんだった? うち、前にリーネにそういう事件に関する言葉を教えて貰ったような覚えがあるんだけど」
「神隠し。ですね」
「そう、それ!」
「神隠しねぇ。セレナディア様がそんなことをするとは思えないわね。それならば、他の神様の仕業かしら? 何の目的があるのかは分からないけれど」
「まだそうと決まったわけではありませんよ。あまり思い出したくはありませんが、以前のように何者かに拉致されて何処かで何かをされている可能性もあります」
「あれは嫌な事件だったなー」
【リリエル】一行は少し前に自分達が遭遇した事柄について話し合いながら道を歩く。
最中、さっきまで澄み渡っていた空が突如雲に覆われ"ぽつぽつ"と雨が降り出してきた。
降り出した雨によって、【リリエル】一行が歩いている道が霧に包まれる。
発生した霧に違和感を覚えるリーネ。
「これは……。微量ですが、魔力が混ざっていますね。でずか、[人]が放出した魔力とは違うようです。自然の魔力。事件に関係があるかもしれません」
リーネはそこ迄違和感のことを分析した後に【リリエル】の誰からも返事が無いことに気が付く。
いや、返事だけじゃない。存在が感じられない。
「アイリ? ミーア?」
呼び掛けても応えは来ない。
どうやら自分1人だけが魔力の霧の中に閉じ込められてしまったらしい。
「参りましたね」
リーネがため息を吐いたのと同時に彼女は背後から何者かに肩を軽く叩かれて、少し驚きながら肩を叩いた者と距離を取りつつ、空中から杖を出現させた。
「何者です?」
「驚かせちゃってごめんなさい。それよりもその恰好。貴女は魔女?」
「どうして貴女が!?」
リーネはその姿を見て目を見開く。
ここにいる筈のない人物。
この国の女王フィンリー。
「私のことを知っているの?」
……………。
フィンリーに問われるが、リーネは何も答えられない。
とりあえず彼女に先を向けていた杖を下ろして脳内で思考を巡らせる。
『これは、どういうことですか? 私の目の前にいる人は女王フィンリー様で間違いありません。でも、でも何かが……』
違う。リーネは【リリエル】として女王フィンリーに会ったことがある。
会った時の彼女は凛としてして、気品があり、国の頂点に立つ者らしく荘厳な雰囲気が宙に漂っていた。
けれど今の彼女には雰囲気が感じられない。
魔女であるだけに一般人よりも雰囲気は濃いが、女王フィンリーとは別人であるように感じられる。
『別人、なのですか? ですがあまりにも似すぎています』
混乱して、困惑するリーネ。
困惑している間に彼女に腕を掴まれて、リーネは考えが纏まらないまま何処かへと引っ張られる。
「なんで私のことを知っているかは分からないけど、とにかく急いでいるの。一緒に来て」
「待っ! 何処に行くんですか!?」
「説明してる暇は無いんだってば」
一体なんなんだろうか?
訳が分からないが、"じっ"としていても仕方がない。
リーネは黙って腕を引かれるままに女王フィンリーに付いていく。
付いていく途中でリーネはある所に目が行った。
『建物が、今より古い気がします。人々の格好も先程見たものよりも……』
霧の魔力は過去へのタイムスリップだったということだろうか?
それならば色々と合点がいく。建物や人々についても。女王フィンリーに関しても。何もかも全てが。
女王フィンリーは、多分まだ女王では無いのだ。
この後で何かが起きて彼女は女王に即位することになるものと思われる。
「一体何が……」
突然起こる地のうねり。
かなりの揺れ。咄嗟に女王フィンリー……。
今は玲瓏の魔女フィンリーを庇おうとするリーネ。
「フィンリーさん、こちらへ」
「名前迄知って?」
「今はそれどころではありません。まず謝ります。ごめんなさい」
フィンリーが引いている自分の腕をリーネは強引に引っ込める。
引力によって、自身に近付くことになったフィンリーを抱き締めて杖を空に向けて振るうリーネ。
できあがるは魔力の球体・結界。
自分達を目掛けて落ちてくる石などが結界によって防がれる。
建物が倒壊して自分達に襲い掛かってきたが、それはリーネが攻撃魔法を用いて小石レベルに迄破壊した。
「本当は壊したくはないのですが、止むを得ませんよね」
「ああ……。どうしよう。これじゃあ間に合わないかもしれない」
「何か知っているんですか? 全部話してください」
リーネは倒壊した建物や巨大な物体に魔法を撃ちながらフィンリーに問う。
問われた彼女はリーネにある方角を見るようにと告げた。
「……っ。原因はあれですか」
「うん。この国はもうダメかもしれない」
「諦めないでください! 貴女も魔女でしょう? 私達でなんとかするんです!!」
絶望しているフィンリーを見て、彼女を鼓舞するリーネ。
とは言ったものの、彼女の気持ちは理解できる。
地震の原因は火山の噴火。
それも並大抵の火山じゃない。
この国で一番巨大な火山だ。
流れるマグマと火砕流、空高く舞い上がる噴煙、飛び交う噴石。悲鳴を上げつつ逃げ惑う人々。
地獄のような情景がリーネとフィンリーの前に広がっている。
「ねぇ、黒の魔女さん」
「黒の魔女? ああ、私のことですか。そう言えば自己紹介をしてなかったですね。私は悠遠の魔女リーネです」
「リーネ……さん。お願いがあるの」
「なんですか? 今はこの通り余裕があまり無い状況ですので、無茶なことは聞けないですよ」
「私を王城に連れて行って」
「王城に、ですか?」
「幼馴染がいるの。この国の女王様で今も陣頭指揮を執っている筈。彼女を助けたいの。お願い」
「そういうことなら、分かりました」
杖を箒に変化させるリーネ。
フィンリーにしっかり自分に捉まるように言ってから黒々とした重い鉛色の空へと飛び立つ。
空中から見たこの国は、地上にいる時よりも世界の終わりを感じさせた。
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箒を巧みに操り、噴石を避けながら王城へ到着したリーネ達。
そこではフィンリーの幼馴染が決死の陣頭指揮を執っていた。
「早く、早く逃げるのです。急ぎなさい」
「女王様。女王様も早くお逃げください」
「国の頂点に立つ者は最後迄国の為に残るのがその務めです! わたくしのことには構わず貴女達は早く逃げなさい」
「……ですが」
「命令です!」
「っ。分かりました。でも、女王様も城の者の避難が終わったら、急いでこちらに来てくださいね」
「ええ、約束するわ」
「必ず生きてお会いしましょう」
「そうね」
立派な女性だ。
彼女の強さと格好良さにリーネの心が高鳴る。
この女性は絶対に死なせたらいけない。
何としても助けなければならない。
「ミオーネちゃん」
「フィンリー? どうしてここに来たの!! 貴女も早く逃げなさい」
「助けに来たんだよ。一緒に逃げよう」
「わたくしはまだ逃げれません」
「どうして? もうお城の人達はいないように見えるけど」
「国民が残っています」
「そんなこと言ってたら間に合わないよ!」
「わたくしは……」
「あの火山を止めます」
「ミオーネちゃん。……ってリーネさん?」
「2人は急いで逃げてください」
「リーネさん!」
フィンリーの声がもう遠い。
噴火口へ一直線。急ぐリーネ。
「何としても、止めてみせます!!」
火山の噴火によって起こる"ものもの"を躱しながら噴火口付近に到着。
リーネはそこで急上昇。自身がもういいかと思ったところで箒を杖へと戻す。
落下するリーネの身体。
引力に引きずられながらリーネは杖に身体中のほぼ全ての魔力を杖に集める。
「……。アイリ、ミーア、カミラ、ケーレ。私は、生きて貴女達の元へ帰ります。待っていてくださいね」
【リリエル】のメンバーの名を呼ぶリーネ。
目を一瞬だけ瞑り、開いてからリーネは杖から魔法を放出させた。




