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-特別編6- 審判 その2。

 リーネはそう思いつつも、断るのもなんだか面倒臭くて近くに見える屋台へと歩き出した。


**********


 本日、雲1つない晴天。

 リーネが屋台で買ってきたのは肉巻きおにぎり。

 【リリエル】は1人につき2つずつ食べた後、全員で現実逃避の行動に移っていた。


「いい天気ですね」

「そうね。気候も丁度いいし気持ち良いわ」

「王都って賑やかで肌に合わないけどさー。こういう雰囲気の所はいよねー」

「ふわっ。食べた後って眠くなるのはどうしてかな」

「膝枕してやろうか? ケーレ」

「恥ずかしいからやめとく。けど、肩は貸して」


 有言実行。カミラの肩に頭を乗せるケーレ。

 カミラ達を見てリーネとアリシアもミーアの肩に自分達の頭を乗せる。

 ほのぼのとした時。胸に"じわり"と温かなモノが広がっていくのを感じるカミラとミーア。


「ケーレが可愛すぎて"クラクラ"するんだが」

「うちの妻達が可愛すぎるー」


 カミラとミーアの心からの呟き。

 彼女達の傍を偶然にも通りかかった通行人達は思わず足を止めて見てしまう。


「と、尊い」

「あれって【リリエル】の皆さんよね? まさかこんな所でお会いできるなんて」

「ああ……、美しい百合の花が咲き誇っているわ」


 【リリエル】を見て、"へなへな"と自分達が立ち止まった場に座り込んでしまう幾人かの通行人。

 大したことをしていなくても人々を魅了する凶器。【リリエル】。

 いつしか愛する者の肩に頭を預けている側は眠気に抗えなくなり、目を瞑って夢の世界へと旅立っていった。


「寝顔が、寝顔が……」

「無理、こんなの無理よ」

「可愛い可愛い可愛い可愛い可愛いーーーー」


 通行人達は【リリエル】達からは少し離れた距離にいる。

 それでも見える彼女達の顔。

 愛らしい寝顔に尊死させられる者多数。


 しかし、愛らしいと思っているのは通行人達だけではなかった。

 カミラとミーアも彼女達と同じ意見だ。

 無邪気な寝顔ったら破壊力抜群なこと、この上無い。


「ミーア、生きてるか?」

「なんとかねー。けど心臓が死ぬ程煩いよー」

「こっちもだ」

「この子達さー。的確に"ごりごり"と理性を奪っていくよねー」

「そうだな」


 ……………。

『今日の深夜か明日の深夜に報復しよう』


 カミラとミーアは目と目とを合わせて決意する。

 その時、【リリエル】が現実逃避に至っていた原因のロジーヌが起きている2人に話し掛けてきた。


「なんだ。お前らって有名人なのか?」


 彼女の両手に包まれているのは肉巻きおにぎり。

 これで何個目なのだろうか?

 リーネはロジーヌと自分達の分は別にして屋台から肉巻きおにぎりを全部で12個買ってきたが、ロジーヌには「そんなんで足りるわけねぇだろ。折角銀貨2枚渡したんだ。買えるだけ買ってこい」と言われて屋台に逆戻りすることになった。


 肉巻きおにぎり1つ大銅貨2枚。

 銀貨2枚だと100個買える。

 誰がそんなに食べると思うだろうか?

 リーネは複雑な思いを抱きつつも屋台を何件か梯子して肉巻きおにぎりをかき集めて買ってきた。


「一応買ってきましたけど、こんなに食べれるのですか?」


 リーネの心配は無用の長物だった。

 ロジーヌはリーネから肉巻きおにぎりを受け取ると、見ているだけでこちら側の空腹感が消えていく勢いで食べ始めたのだ。

 彼女は決して肥満ではない。

 寧ろモデル体型と言っていいスリムな身体付きだ。

 そんな身体の何処に肉巻きおにぎりが消えていくんだろうか?

 胃の中はブラックホールだったりするのかな。

 【リリエル】はそのうち見ているのもしんどくなり、現実逃避に全力を出した。


 肉巻きおにぎり100個から10個に迄減少。

 つまり90個は食べて終わったということ。

 頬を引き攣らせるカミラとミーア。

 大食いであることもさることながら、味変も無し、野菜も無しで延々と同じ品物を食べ続けられるのが恐ろしい。


「ねぇ、胃もたれとかしないのー」


 思わず聞いてしまうミーア。

 彼女の質問に不思議な顔をするロジーヌ。


「この程度でするわけねぇだろうが。ってかなんかよ、見世物みたいになってねぇか? あたし達。……お前らよく平気でいられるな」


 言われてみれば視線を感じる。

 【リリエル】にとっては日常茶飯事。

 感覚が麻痺してしまって今の今迄、特に何も思わなかった。


「そう言えばそうだな」

「なんだろねー」

「んっ……」


 ミーアが呑気に返事した時、リーネの頭が彼女の肩からずり落ちる。

 そのまま太腿の上に着地。無意識で"ぺたぺた"とミーアの太腿を何度か触った後、丁度良い所を見つけたのだろうか? 彼女の太腿を枕にして横向きに丸まって幸せそうに眠り始めた。


「殺す気かー」


 リーネの行為と幸せを満面に浮かべた顔に頬が紅に染まるミーア。

 一部始終を見届けた公園にいる者達は鼻血を"ボタボタ"と零す者が現れる。

 尊死する者も複数。


 愛する者達が眠ってから、かれこれ2時間弱。

 カミラとミーアは懸命に理性と戦い続けた。

 夕刻。

「ふわぁぁ。よく寝ました」

「ん~、頭がスッキリしてるわ。でもミーアごめんなさいね。身体動かせられなくて辛かったでしょう?」

「うちもごめんね、カミラ。大丈夫だった?」

「身体は大丈夫だったけど、理性は危なかったー」

「同じくだ」


 屋台の肉巻きおにぎりを食べ終わり、昼寝して目覚めて数分。

 【リリエル】一行とロジーヌは今度こそ目的の場所へと歩いていた。

 【リリエル】が雑談してるのに対して、ロジーヌは出会ったばかりの頃とは人が変わったように無言。

 彼女の態度が気になって彼女に話し掛けるリーネ。


「あの、どうかされたのですか?」

「ん? いや、ちょっと考え事をな」

「大丈夫ですか? 何やら顔色が悪くも見えますが」

「ああ、心配してくれてありがとよ。けど、気にすんな。それより着いたぞ」


 着いた。ロジーヌに言われてリーネは目的地を見る。

 白亜の神殿。荘厳で如何にも神様の居る場所という雰囲気なのだが、なんなんだろうか? どうも穢れを感じて気持ちが悪い。

 すぐにでも空中から杖を取り出して、この神殿を粉微塵にしてしまいたい衝動に駆られる。

 ここは神聖な場所の筈なのに。


 黙って神殿を見つめるリーネ。

 女神セレナディアを祀る場所。

 この国での総本部。総……本部。


「……っ。万死に値します!!」


 心の底から湧き上がる怒り。

 空中から杖を取り出し、リーネは怒りのままに神殿に魔法を全力で放とうとする。

 銀色に輝く杖の先。後一歩で魔法の構築が終わって発動。

 ……というところでロジーヌが間一髪、魔法の発動を止めた。


「おい。よせ」


 ロジーヌに腕を掴まれて我に返るリーネ。

 魔法を霧散させて彼女は杖を空中へと収める。


「ごめんなさい。……私、どうしたのでしょうか。この建物を見ていると突然怒りが湧いてきまして……」

「分からんが、この建物内で行われてることを感じ取ったのかもな」

「どういう意味ですか?」

「来れば分かる」


 【リリエル】全員にロジーヌから仮面舞踏会で使う物なベネチアンマスクが手渡される。

 思えば今回の依頼内容、ルミナから詳しく聞かされていない。

 聞かされたのは、「昨今、ルーディア王国で起きている不審な事項を暴いてきてください」という曖昧な内容だ。

 ルミナは知っていて何かをわざと隠した。

「覚悟しておいてくださいね」という言葉はロジーヌのことだろうと思っていたが、きっとそうじゃない。

 ここで何か。【リリエル】が嫌悪感を覚えるようなことが行われているのだ。


「行くぞ」


 ロジーヌに促されて【リリエル】は神殿の中へ。

 建物内も立派だ。だが、外よりも濃厚に穢れを感じる。

 杖を取ろうとする右手をリーネは左手で必死に押さえる。

 やがて辿り着くは神殿内の一番奥。

 そこに、ここでは場違いすぎる格好。バニーガールの姿をした女性がいて、人々から何かを受け取っては確認している。

 確認後の人々は先にある階段へ。

 どうやらこの神殿には地下室があるらしい。

 リーネが続々と地下室へ下りていく人々を見ているといつしか自分達がバニーガールの前。

 ロジーヌが彼女に【リリエル】を入れた枚数の券のようなものを彼女に渡した。


「はい、確認取れました。本日はようこそ。どうぞ中へお進みください」


 バニーガールからの声。

 何故か不愉快だ。


「騒ぎは起こすなよ」

「分かっています」


 ロジーヌから注意されつつ地下へ。

 下りたリーネが見たものは劇場のような場所。

 階段が中央にあり、左右に段々で席がある。最下部に雛壇。

 人々は全員ベネチアンマスクを被って、ここで何かの催しが始まるのを今か今かと待っている。

 全員の顔が気持ちが悪い。マスクで顔は隠れているのに、透けて見えている気がする。吐き気が込み上げてくる。

 

 ―――この場所にはいたくない―――


 【リリエル】の気持ちが一致。

 目と目を合わせる彼女達。

 それから出口を見たが、ロジーヌがリーネの手を引く。


「こっちだ」


 ……行きたくない。

 けど、止むを得ない。

 ロジーヌに大人しく従って席に着く【リリエル】。

 待つこと数分。

 劇場らしき場所の壇上に1人の女性が上がる。

 魔道具のマイクを手に言うは、「それではこれより第22回奴隷売買オークションを開催致します」という言葉。


「奴隷……」

「売買ですって!」


 自分達の聞き間違いだろうか?

 奴隷売買などルージェン王国と同盟国では当の昔に禁止された筈だ。

 奴隷という制度は残ってはいる。重大事件を起こした犯罪者に適用されて、例えば鉱山などで生涯こき使われ続ける制度。


「犯罪者を売買するってことですか?」


 ロジーヌに尋ねるリーネ。

 しかし、彼女からの返事は無い。

 そうこうしているうちにオークションが始まった。

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