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-特別編6- 御使いと百合の蕾。

 ラナの村。

 その村の一角にある趣きのある神社。

 そこはルージェン王国とその同盟国の国教の総本部であり、国教における主神・恋愛とその安寧の女神セレナディアの御使いであり、この村で美髪店を営むメディの自宅でもある。

 この神社は長らくの間、2つの役割を果たしていたが、近頃もう1つの役割が加わって、神社は以前よりも多くの人々で賑わうようになった。

 もう1つの役割。人々の正しい年齢を伝える役割。

 スライムの溶液が変貌して、ルージェン王国と同盟国に住まう多くの女性達は心身共に10~20代に戻ったことは確かなのだが、一口に10~20代と言ったって10~29歳迄幅がある。

 どうやら溶液はその辺りのことはランダムなようで、人々は暫くの間自分の年齢が不詳状態にあったのだ。

 そこに女神セレナディアによって新たな御使いが派遣されて来て、人々は銅貨を1枚支払えば、新たな御使いから自分の年齢を聞くことができるようになったのだ。

 新たな御使いの名はスキャラ。地球では愚かなる女神に毒薬を盛られて怪物の姿とされてしまったが、こちらの世界ではスキャラは策略を見破って、毒を盛ろうとした女神に「今よりも更に美しくなれる薬をお持ちしました」などと口から出任せの言葉を掛けて、愚かな女神に自身が作った毒薬を飲ませて逆に怪物にさせたという経歴の持ち主。

 当然ながら、女神は怒り狂ってスキャラに復讐を企んだが、復讐は果たされることは無かった。

 何故ならばセレナディアの手によって邪族に堕とされたから。

 愚かなる女神は邪族となったことで自我を失いつつも、数百年の間は運よく生き伸びていたが、元女神の命運は不意に尽きることになった。

 邪族大行進(スタンピート)。[人]を屠るという本能に突き動かされて彼女は行進に参加したのだが、プリエール女子学園を卒業した後にハンターとなった者によって、首を刎ねられて彼女は生涯を終えた。

 邪族となった者に輪廻転生の(ことわり)は無い。

 つまり愚かなる女神は[無]となったのだ。


 一方でスキャラはメディがセレナディアの右腕ならば、彼女は左腕。

 セレナディアがメディを地上に派遣した後もスキャラは神の国に残って[(あるじ)]から依頼される仕事を日々こなしていたが、その主であるセレナディアが地上で起きた[事]を視て事態を重く受け止めたことによってスキャラはメディに続いて地上へと派遣されることになった。

 

 メディとの再会を喜んだ後に神の国でセレナディアから命じられていた通りに溶液の分析を開始。

 数ヶ月掛けて分析に成功したスキャラはメディと共に分析結果をセレナディアからの神託として人々に触れ回った。

 溶液が役割を本格的に果たすのは[人]が14歳になってから。

 それ迄はムダ毛の処理など女性の美貌を保つ効果はあるが、それ以上の効果は眠りに付いたまま。

 つまりは現在元々14歳以下だった女性達はそのままの年齢だが、それ以上だった女性達は14~29歳のどれかにある。

 実年齢を知るには特別な儀式が必要で、神社で銅貨1枚にてスキャラが儀式を受け持つという内容。

 本当は無料でも良いのだが、神社はいずれは修繕が必要になる。

 銅貨はその時が訪れた時に使う為の費用として徴収することにした。

 今日も多くの人々で賑わう神社。

 この日よりも随分と前に【リリエル】と【ガザニア】、【クレナイ】も1人1枚ずつ銅貨を支払ってスキャラからの儀式を受けた。

 結果はリーネは15歳。アリシアとミーアは16歳。

 フィーナとマリーは14歳。

 ケーレとカミラは18歳でクレナイはメンバー全員20歳。

 各々がそれくらいっぽいかなと自己判断していたまんまの結果が出た。

 帰り道でケーレとカミラがリーネ達年下組に対してお姉さんぶったのは今は少し懐かしい思い出。

 【クレナイ】は変わらずに【リリエル】の全員をお姉さま呼びしていたが。


 スキャラは今日も沢山の人々が神社に訪れているのを見て複雑な表情となる。

 儀式ができるのは現状自分だけ。時間が掛かってしまう。

 1度に年齢が言えるのは5人迄。順番制。

 人を待たせてしまうのが少々心苦しい。

 神社は朝の9時から夕方の17時迄しか開いてない。

 それ以降は邪族とは別、肉体を持たない邪悪なる者・悪霊を祓う場となるから。

 そのせいで折角神社に来ても儀式を受けられないまま帰るしかない人も中には現れてしまう。


「人手が欲しいです」


 誰に言うともなく呟くスキャラ。

 彼女の様と独り言をセレナディアは視て、聞いていたのだろうか?

 数日後に彼女に強力な助っ人が現れることになった。


「あの、おはようございます。実は先日夢の中に女神セレナディア様が現れまして、スキャラさんを助けてあげて欲しいとのことで」


 助っ人、ルージェン王国にて女王フレデリークの近衛騎士団長を務めるアラクネーのシンディの妻であり、フランことコハルの大親友でもあるエルフのレノア。

 スキャラにとっては待望の人材。

 有難くはあるが……。


「儀式のこと知ってる?」

「はい! 夢の中でセレナディア様に叩き込まれたので大丈夫です」

「それなら大丈夫だね!」


 スキャラはこの後、レノアと2人体制で儀式を行うことになる。


**********


 スキャラが地上に降り立ってから数ヶ月後。

 リーネはこの日は珍しく1人行動。

 彼女の首には変わらずに[隷属の首輪]が填められているが、数百年程前に何度目かの改良が実施されて、現在は首輪を填めた者から半径5km以内なら離れられるようになっている。

 それと、それは【アングレカム】同様にホムンクルスの身体に人格を移して古くから生き続けているマロンの手によってされたことなので、それ迄は首輪の罰則を破ると強い電撃が首輪を填められた者の身体に流れるようになっていたが、電撃能力は外されて別のことが起こるようにされた。

 罰則を破ると強制的に首輪を填めた者の元に戻されるという能力に。

 言わば一方通行の転移の魔法が発動するということ。

 5km以上先にいても、次の瞬間には首輪を填めた者の目の前。

 逃亡は絶対に不可能になった。


――――――

 最も、ルージェン王国と同盟国では[隷属の首輪]は婚約指輪と同じような扱いの代物。

 なのでリーネを含めて誰も首輪を填めた者から逃亡したいなんて考えもしないと思われるが。

 他の国ならともかくとして……。

 マロンが弄ったのはルージェン王国と同盟国に出回っている首輪だけ。

 他の国の物は弄っていないので時が経っても効力はそのまま。

 さぞかし首輪を填められた者達は不自由な暮らしを強いられていることだろうが、流石に親交の薄い・無い国のこと迄マロンは面倒を見る気は無い。


 閑話休題

――――――


 1人行動をしているリーネが訪れたのはメディの美髪店。

 店内に入ると店長のメディ直々に接客を受けてリーネは入店早々に髪を切って貰う為の席に着いた。


「リーネちゃん、いつもと同じで良いのかな?」

「はい。よろしくお願いしますね」

「うん! 任せて」


 リーネはメディの店の常連客。

 お陰様で注文を言わずとも「いつも通り」で通じる。

 鋏を手に持ち、早速リーネの髪を整え始めるメディ。

 手の動きは毎回ここに訪れる時と同じ。

 だが、心なしか? メディにリーネはちょっとした違和感を覚える。

 

『何かを言いたそうな顔をしているような気がしますね』


 何を言いたいのか迄は分からない。

 メディが自分に何かを言いたいことがあるのだということには確信がある。

 リーネはしばし脳内で考えを巡らせた後、カマを掛けてみることにした。


「そう言えば、スキャラさんとは上手くやっていますか?」

「うっ……」


 リーネが思ったことは大当たりだったらしい。

 メディの顔が薄紅に染まっているのが眼前に在る大きな鏡によって見て取れる。

 

『……そういうことですか』


 メディの顔を見てニヤけてしまうリーネ。

 メディは"テキパキ"と手を動かしながらも決心したようにリーネに話を始めた。


「あ、あのね。リーネちゃん、聞いてくれる?」

「はい。私でよければ聞きますよ」

「なんかね、最近自分が変なの」

「変。とはどういう風にですか?」

「んと……」


 リーネに問われてメディの顔が先より強く紅を帯びる。

 手を動かしつつも身体を"もじもじ"させて、メディはリーネに心の中にあることを思い切って打ち明けた。


「スキャラちゃん見てると胸が苦しいの。これって何かの病気なのかな?」


 病気と言われると、病気だ。

 不治の病ではないが、重症になる時もある。

 メディはまだそこ迄は行っていない様子だが、これから次第でそうなる可能性は充分にある。


『毎日顔を合わせているわけですしね』


 心の中で思いながら、リーネは『さて、どうやって答えたものでしょうか』と少々困る。

 ずばり言うのは簡単だが、こういうのは本人が気が付いた方が良い。


『では、はぐらかすべきですよね』


 リーネはそう決めてメディに問われたことの答えを返す。

 敢えて曖昧にしてメディ自身が心に芽生えたモノを自覚するように。


「どうですかね。でも、1つだけ言えることはどんな名医であっても治せない病気であることは確かです」

「どんな名医でも……。でも、セレナディア様なら治せるかも」

「……メディさん次第だと思いますよ」

「どういうこと?」

「ふふっ、後は自分で考えてください」

「え~~。リーネちゃん、それって酷い!」

「蕾が開くといいですね」

「どういう意味か分からないよ」

「ふふふっ」


 リーネの答えに頬を膨らませるメディ。

 リスみたいに膨らんだ頬を突きたくなる。


「セレナディア様にも治せないってなんなのー!」


 セレナディアは恋愛が無事に成就した後にパートナー間の[愛]の行く末の安寧を願ってくれる女神様だ。

 それ迄はただ見守るだけ。縁結びの[力]も無くは無いが、その辺りのことは[人]に頑張らせようとする節がある。

 神様はそういうもの。

 [人]に直接奇跡を授けてくれたりは余程のことが無い限りは無い。


『ああ、ですがこの世界の神様はちょっと違うかもしれませんね』


 リーネが思うのは聖女という存在。

 アレッタやマリーは神様から奇跡を授かっている。

 リーネとかつての異世界人達も奇跡を受けているのだが、リーネはそのことはセレナディアではなく、[白]のドラゴンことハクが原因と思っているので想像することは無かった。

 メディによる髪の手入れが終わる。

 鏡を見て、今回も大満足なリーネ。

 彼女はそれから、メディに一言だけ「咲かせてくださいね」とだけ言って美髪店を後にした。


 

 今はまだ百合の蕾。

 花となるか、蕾のままで終わるかはこれからのメディ次第。

スキャラについては様々な説が存在していますね。

作者は女神が[毒]によって彼女を化け物に変えた説を選択されて貰いました。

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