-特別編6- 龍神と学園と。
このお話は特別編5の裏で起きたこと・その延長線上でのこととなります。
それはある日の午後のことだった。
謁見の間にて女王としての公務を行っていた女王フレデリーク。
様々な人々から話を聞くことを丁寧に行い、最後の1人も終わって漸く一息。
後は人々から聞いた話を脳内で纏めて取捨選択。必要と思われることだけを側近達に伝えて会議の場に持ち込むようにすればそれで終わり。
フレデリークは側近達に話をし、玉座から腰を上げようとする。
その時に聞こえてくる近衛兵の足音。
騒がしい足音からして相当焦っているらしい。一体何事なのだろうか?
フレデリークは『面倒事ではないと良いが』と思いつつ玉座に座り直す。
と同時に開かれる謁見の間の扉。
現れたのは何所となく青ざめた顔色の近衛兵。
息を切らせている近衛兵の様子を見て心の中でため息を吐くフレデリーク。
面倒事であること確定。
が、女王たるもの顔にはおくびにも出さずに"ドッシリ"と構えてなんらかの話を持ってきた近衛兵からの伝令を受けることを静かに待つ。
「た、大変です!!」
それはフレデリークに取って寝耳に水の話だった。
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場所は変わってフレデリークの私室。
そこにいるのはこの部屋の主たるフレデリークと[緑]のドラゴンことアルマ、[青]のドラゴンことミュリエル。
アルマとミュリエルが眩いばかりの笑顔を見せているのに対して、フレデリークは対照的な渋い顔。
軽い頭痛を覚えているのか、頭を押さえていたりもする。
できれば2人の話を聞きたくないが、そういうわけにもいかないだろう。
覚悟を決めて口火を切るはルージェン王国の女王としてのフレデリーク。
「で、先程の話だが本気か?」
「本気です。是非ともこの国で暮らさせてください」
「この間、ミュリエルと2人でカフェに行ってね。そこでさ、尊いモノを見ちゃってそれが頭から離れないんだよね。この国に住んだら行きやすくなるでしょ? だからそうしようって2人で決めたんだ~。……ということでお願いフレデリーク。この話受け入れてくれないかな」
カフェ。それを聞いてフレデリークの脳内にある者達のことが思い浮かぶ。
生きているだけでこの国の人々を魅惑して尊死させる魔性の存在。
昔は[戦姫]などという称号持ちもいたが、今は魔法連盟によってそれらの称号は廃止されて全員が魔女と呼ばれているようになっている。
悠遠の魔女、雪華の魔女、繚乱の魔女、奮迅の魔女、威風の魔女。
久遠の魔女、白透の魔女。
彼女達程[魔女]という称号が似合う者は他にいないだろう。
魅惑の魔法を使っているわけでも無いのに、人々を魅了する存在。
まさしく魔女だ。
「はぁ……っ」
盛大にため息を吐くフレデリーク。
彼女達はこの国にとっては無くてはならない存在だが、時折こういう頭痛の種を持ってくるところが悩ましい。
これでこの国は黒・白・赤・青・緑・紫・金の7大龍神のうち5大もの龍神が住み着く場所となる。
残る紫は金のドラゴンの国に居つくことになったようだが……。
「ねぇ、フレデリークってば~」
「分かった分かった。好きにすれば良い。だが、条件がある」
「条件?」
「2人とも仮にも龍神じゃ。一般人として住まわせるわけにはいかん。2人には[龍]に相応しい席に就いて貰うぞ。文句は無いな?」
「無いですよ! で、何をしたら良いのですか?」
「そうだな……」
言いはしたものの、どうするか迄は考えていなかったフレデリーク。
暫く考えて、決めたことを2人に話す。
「ロマーナ地方には2つの学園がある。1つはプリエール女子学園。もう1つは過去は男子校であったが、男性がこの国からいなくなったが為に今はプリエール女子学園と同様に女子校となっているレーグル女子学園。現在レーグル女子学園の理事長が諸事情で後任を探していてな。そこでだ、アルマにはレーグル女子学園の理事長の座に就いて貰おう。それからミュリエルは同盟国の女王ということでどうだ?」
「何故かアルマと自分とで立場が随分と違う座が用意された気がしますね」
「ミュリエルは冷静沈着で周りの野次に流されることなく、物事を正しく見極められる能力に長けておるからな。その座に相応しかろうて。アルマは人懐っこさで生徒達に慕われる理事長になれると余は思う。2人の座の理由はこういうことであるが、どうか?」
「なるほど! フレデリークってしっかり女王やってるんだね~」
「当初は冗談じゃない! ……っと思っていたのだがな」
「今はどうなんです?」
「この国を愛しておるよ」
真剣な目付きでの即答。
フレデリークが見せた[女王]たる者の器。
[女王]を見て息を呑むアルマとミュリエルの2人。
彼女達は[黒]のドラゴンであった時のフレデリークしか知らない。
風の噂で様々聞いていたものの、真の[女王]に会うのは今回が初めてだ。
フレデリークが纏う雰囲気。
圧倒される。思わず彼女の前に跪きそうになってしまう。
今は[友人]としてここに招かれているのにも関わらずにだ。
「……フレデリーク様って呼んだ方が良いのかな~」
「この私室。プライベートの場以外ではそうしてくれ。これでも余は一国の主なのでな」
「そういう意味じゃないんですけどね」
「……? ん?」
「いえ、なんでもありません」
「そうか。ところで2人とも余の決定に異論は無いということで良いのだな?」
「うん!」
「はい!」
「そうか。では今週中に引き継ぎを済ませるとしよう。よろしく頼むぞ。2人共」
「こちらこそだよ~」
「頑張ります」
こうしてルージェン王国には[黒]と[白]に加えて[青]と[緑]の龍神が加わり、国を守護するようになってますます繁栄していくことになる。
**********
プリエール女子学園。
この学園の理事長たる魔王ラピスは少々焦りを感じていた。
というのも、これ迄はロマーナ地方のプリエール女子学園とレーグル女子学園。
2つの学園のうちプリエール女子学園側の方が人気が高かったのだが、レーグル女子学園に新たな理事長が就任してからはプリエール女子学園とレーグル女子学園は人気もほぼ平等となりつつあったからだ。
生徒数の減少。それすなわちラピスにとっては死活問題である。
女子校生が大好きな魔王。もしかしたら愛らしい女子校生を眺めるという趣味を楽しめなくなるかもしれない。
そんなことになれば、自分は枯れてしまうだろう。
ラピスの魔力の根源は趣味にあるのだから。
「う~む。このままではダメじゃな! なんとかせねば……。なんとか……」
深く、深く思考の中に潜り込むラピス。
あれやこれやと考えるが、これぞ妙案という案は浮かばない。
「うぐぐぐぐぐぐぐっ」
歯軋りして理事長室の机に上半身を突っ伏させるラピス。
情けない魔王の様子を少々呆れ気味に見るのはたまたまここに用があって来ていた学園医の聖女アレッタ。
――――――
彼女は人間。なので本来ならば溶液が変貌するその前に冥界へと旅立っている筈だったのだが、アレッタを聖女とした女神エリーの力によって溶液の変貌時迄彼女は生き延びていた。
今も現役。これについてはミーアも同じ。彼女は聖女ではないが、聖女であるリーネの眷属であるが故に長寿となることができていた。
閑話休題
――――――
ラピスの気持ちはアレッタにも分からないでもない。
自分自身もラピスと同じ趣味を持っていたりするのだから。
しかしだ。まだ起こってもないことを気にするのはどうなんだろう? という気持ちがアレッタにはある。
それに彼女の用事はそれを解決させる為のモノ。
だというのに、ラピスのこの有様。
話を振るタイミングが掴めずにラピスが落ち着いてくれるのをただひたすらに待つアレッタ。
「ぐわぁぁぁぁ。思いつかん!!!」
急な大声。アレッタは"びくっ"と身体を震わせることになってしまった。
「いっそ、レーグル女子学園を強襲でもするか!!?」
いや、物騒。っというより、そんなことをしたら幾ら魔王と言えど、犯罪者として領主館か王都の城の地下牢に投獄されることになるだろう。
「バカなんですか?」
つい、心中の思いを言葉にしてしまうアレッタ。
ラピスは彼女の言葉を聞いて「お主、いつからそこに?」などと尋ねて来る。
まさかの気が付かれていなかった。
入室の際に扉をノックしたし、ラピス本人からの入室許可も得てから理事長室に入室したというのに。
「上の空だったんですね」
本格的に呆れた様子になるアレッタ。
ラピスはバツが悪そうに頬を掻く。
「で、何の用じゃ?」
「今更余裕を見せてるフリしても意味ないですよ。まぁ、落ち着いてくれたみたいなのでいいですけど」
「すまん。死活問題になりそうだったのでな」
「そうですか? それにはまだ充分に余裕がある気がしますけどね」
「じゃが、この先は分らんではないか!」
「理事長って意外と……。いえ、今はそんなことより……」
アレッタはロマーナ地方が領主シエラから賜ってきた[命]についてラピスに話し出す。
それは一気にラピスの悩みを解決させるものだった。
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1ヶ月後。
プリエール女子学園とレーグル女子学園の両方で改革が行われることになった。
2つの学園の合併。以前は女子校と男子校に分けられていた為に1つの地方に学園が2つ必要であったのだが、2校とも女子校となったのであれば経費削減などの面から考えて1校で良い。
そこで、領主シエラは2校を合併させることにしたのだ。
母体はプリエール女子学園の方が大きいのでそちらを残してレーグル女子学園は組織は解体してプリエール女子学園側に移って貰う。
建物は他の何かの施設として使うことにする。
新しい組織の編成についてはシエラの独断で決めることにした。
理事長は女王フレデリークから期待されているアルマ。
校長に魔王ラピス。
学園医は聖女アレッタ。
その他は教員の座に相応しいと思う者を振り分ける。
こうしてプリエール女子学園とレーグル女子学園は合併して、プリエーグル女子学園として新たなスタートを切った。
ラピスは理事長から校長へと降格となったが、学園に残れるだけで良いと思ったのだろうか?
何も言わずにシエラの決定事項を受けいれた。
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数日後。
プリエーグル女子学園の理事長となったアルマは学園内の廊下を歩いている時に見てしまった。
鼻の下を伸ばしながら生徒達のことを見ている校長ラピスの姿を。
「あ~~~、今日は奇跡的にカフェ・リリエルの予約が取れたんだよね~。今から楽しみだな~」
アルマは頭の中のスイッチを切り替え、何も見なかったことにした。
お知らせ。
ここまでマリーの魔女の称号は[爽涼]でしたが、作者に思うところがあり、[白透]に変更させていただきました。
読者の皆様には困惑を招いてしまったこと、お詫び申し上げます。




