-一章- vs フレンジー盗賊団 その01。
∴
ある日の夜。
その日の執務を全て終えたルージェン王国が女王フレデリークは寝室のベッドへと身体を横たえてぼんやりと考え事をしていた。
「余が女王となってから早10年か」
それはもう、「女王に即位を。お願いします!」などと今の民達から言われていた頃は冗談じゃないと思っていた。
誰がそんな面倒臭いことなどするか―――。
とか言って断るつもりだった。
その考えが変わったのは、この世界に突如として現れた1匹のスライム。
元は地球という世界。日本という国で暮らしていた女性が自分を推薦しているからということを知ったからだった。
そのスライムには恩があるのだ。
「余が正体はブラックドラゴン」
そう。今は人型を取っているが、フレデリークの正体はブラックドラゴン。
一応この世界ではドラゴンは最強の存在のうちの1種。
故にその時は警戒を怠っていた自分が間抜けだった。
ドラゴンスレイヤーと呼ばれる聖剣。
この世界で唯一ドラゴンを殺せることのできる剣。
それを持つ人間が完全に油断をしていた時に襲い掛かってきたのだ。
絶体絶命の危機。それを救ってくれたのは、件のスライムだった。
・
・
・
フレデリークは思う。
今のこの世界で[最強]は間違いなくあのスライムであろうと。
何しろドラゴンスレイヤーを持つ人間を呆気なく殺した後、あのスライムはその剣を食して(溶かして)しまったのだ。
何者にも絶対に破壊することなど不可能と言われてきた……。
一説には神々がその力を持って創造したとされる聖剣を。
それを見た時には流石に開いた口が塞がらなかった。
『美味しくない』
ドラゴンスレイヤーを食し終えた後のスライムの感想はそれだった。
それを聞き、思わず大笑いしてしまったことは今でも鮮明に覚えている。
それからフレデリークはスライムに助けてくれたことに礼を告げると同時に[友]となった。
その[友]の推薦ならば仕方がない。
渋々ながら就いた女王の座。
そこからも色々とあった。
この国は元々オラデゾル王国という名の一地方に過ぎなかった。
それがスライム・ナツミがあまりの男尊女卑ぶりにムカついて、今で言う王都を強奪したのがこの国の成り立ち。
奪っても元の国に特に何かするでもなく、静かに暮らしていたのにオラデゾル王国が何度も兵を差し向けてきて、今度はこちらがキレてしまった。オラデゾル王国を滅ぼして土地を吸収。これによってルージェン王国は小国からそこそこ規模の国となった。
そんな頃に[友]のスライムと同じ世界から転移。
異世界人が[友]のスライムを除いて全部で100名やって来た。
全員の人数が把握できているのは、この世界各地に散らばっている自分の仲間達のお陰だ。
黒・白・金・紫・赤・青・緑。
自分を含めて仲間達は鱗の色から仲間以外の者達からそう呼ばれている。
そのうちの金と紫を除く仲間達は世界中を飛び回り、異質な存在を見分けることができる第三の目を通して人々を視て、その情報をフレデリークにリークしてくれていたのだ。
異世界人が100名。誰が何の為にこの世界に寄越したのかは知らない。
そしてそれと同じだけ、こちらの世界からあちらの世界へ、まるで交代するかのように何故か人が消えていった理由も知らない。
後は100名全員が女性な理由も、この国ばかりに転生・転移してくる理由も。
まぁ、転生は[友]のスライムだけで残りの者は転移だが。
フレデリークは勿論、他のドラゴンも、[友]のスライムも知らないと言う。
まぁただ、いずれの者達もこの国に害を成すような者達ではない者達ばかりなのは幸いだ。
寧ろ全員がその境遇を素直に受け入れ、この国に馴染んで暮らしている。
まるで最初からこの世界の住人でしたよ~。というかの如くに。
フレデリークは目を瞑る。
眠りに入る寸前、いつも思うことを今日も思う。
[白]
が怪しい……。と。
果たしてその疑念は当たっているのだが、[白]はその理由を話すつもりは無い。
これ迄も。その先も永久に。いつ迄も黙して何も語ることは無いのである。
**********
◇
ラナの村。ルージェン王国の地方ロマーナの一番隅にある小さな村。
その村の住民。私とアリシアとミーアの3人はロマーナ地方を統治している領主様からハンターギルド・ロマーナ地方支部へと呼ばれ、ギルドマスターの部屋にて対面していた。
……………。
「美女と野獣」
"ぼそっ"と小さな声で呟く。
私のその声を聴いてしまって「ぶふっっ」と女の子としてはちょっとと思うような声で噴き出すアリシアとミーア。
どうも2人共に私と同じことを思っていたようだけど、ずっと頑張って我慢していたらしい。
美女は領主様。エルフなだけあって本当に美人さんだ。
アリシアも美人だけど、そのアリシアにも引けを取らないくらいの美人さん。
アリシアよりも出るところが出てる。引っ込むところは同じくらいかな。
ところでアリシアは私と出会ったばかりの頃は16歳だったらしい。
今は2年過ぎてるから18歳。私は転移してきた時は14歳だったから今は16歳。
要するにアリシアも私も未成年。
それに対して領主様はエルフだから顔付きだけでは分からない。
エルフは15~20歳のいずれかの年齢の時に老化が止まるらしいから。
次に老化が進むのは死ぬ時の20年前。
500年生きるエルフ。ということは、480歳になる迄ずっと顔付きは若いままってわけだ。
運命的に寿命が500歳迄無いと定められていても、それは関係なくて、とにかく480歳を迎える迄は若いままだそう。
――――――
エルフの成人年齢は100歳。獣人・魔物は80歳。人間は18歳。
尚、老化が止まっても、産まれから100年を数えると成人とみなされる。
閑話休題
――――――
けれど、私の推理では領主様は200歳は超えていると思われる。成人。
落ち着きようが半端じゃないし、大人の雰囲気を凄く醸し出しているからだ。
その隣のギルドマスター。男性で顔付きはまるで深海魚・ブロブフィッシュ。
それも深海にいる間のブロブフィッシュじゃない。
陸に打ち上げられた後の残念なブロブフィッシュ。
一見魔物に見えるけど、多分人間かな? とすると年齢は50歳くらい?
人間ならば[中年]と呼ばれる頃合いなのは間違いない。お酒の飲みすぎ、油物の食べ過ぎでお腹が非常に膨れてる。
ギルドマスターについては領主様に比べてあまり興味が湧かない。
だから言い方悪いけど、それ以上はどうでもいい。
「リーネ」
アリシアが私を睨んでくる。
ミーアは何も言わずに私の太腿を抓ってる。
どうも2人共に偉い人の前で恥ずかしい声を出してしまったことを黒歴史に感じているらしい。
「ごめんなさいは?」
「う……。アリシアもミーアもごめんなさい」
「よろしいー」
「全くもう、恥ずかしい……」
戯れあう私達。
それを見ていたブロブフィッシュ。
じゃなかった。ギルドマスターがわざとらしく咳払いをする。
「ごほんっ」
ここで通常なら"びくっ"として姿勢を正すところだ。
咳はそうしろっていう合図なのは分かってる。
分かっているからこそ、意地悪な私は敢えてトボけて見せる。
「風邪ですか? そろそろ寒くなってきましたからね」
この世界。……この国? には四季がある。
スプリング、サマー、オータム、ウィンター。
言い方は地球の英語圏に住む人々と同じだけど、実際は違う。
この世界の名前はティロット。言語は東ティロット語と西ティロット語に分かれている。
私達の国で使われているのは西ティロット語。
これもこの世界に転移してきた時に勝手に頭の中にインプットされた。
「そう言えばこの国って北に行く程に寒くて、南に行く程に暖かいと聞きました。まるで私が過去に住んでいた国・日本みたいですね」
「へぇ、日本っていう国もそうなのね。案外この国もその日本という国とそっくりだったりするのかもしれないわね」
「世界地図ってないのかな。あったら見てみたいー」
領主様とギルドマスターそっち除け。
3人でいつしか盛り上がる私達。
その私達を前に領主様は"くすくすっ"と楽し気に笑っているのが横目で見て取れたけど、ギルドマスターは今にも血管がキレそうになっている。
そろそろおふざけもやめた方がいいかな?
と私が思い出した時に領主様から優しい声が掛けられた。
「ふふっ。【リリエル】の皆さんは本当に仲がよろしいんですね。見ていてとても和みます」
【リリエル】とは私達がハンターとして活動するときの通称名だ。
ハンターは基本的に単独行動は推奨されてない。
複数人での行動がハンターの鉄則。
その為にハンター達は自分達の名前とは別に通称名をギルドに登録するのだ。
【リリエル】という通称名。名付けたのは私だ。
勿論、女の子同士の百合から取らせてもらった。花じゃないよ。
この世界では女の子同士の恋愛者のことを[リリィ]と呼ぶらしい。
それなので百合にちなんだ通称名は割と多いのだとか。
【リリエル】は運良く使われていなかった。
良かった。お陰でさくっと無事に登録できた。
「領主様の前で流石にふざけ過ぎてしまいました。申し訳ありません」
立ち上がって謝罪する私。しかし領主様は朗らかに笑みを零す。
「いえいえ、本当に和ませて貰って眼福でした。ですので謝罪の必要は全くありませんよ」
流石にそれは嘘だろう。ギルドマスターに私達が怒られないように庇ってくれたのだろう。
と私は思ったけど、その表情を見るに本当に和んでいたらしい。
領主様と会うのはこれで2回目。1回目は結構緊張してて性格や人柄などは覚えていない。分からなかったけど、気さくな人みたいだ。
それとは大違いで。
顰めっ面のギルドマスター。
領主様がここにいなければキレて私達に怒鳴り散らかしていただろう。
が、ここには領主様がいる。自分よりも立場の上の人が。
その人がふざけた私達のことを許しているのだから、如何にギルドマスターとて文句を言うことは許されない。
もしも言ったら領主様の顔に泥を塗ることになるからね。
けどまぁ、いい加減に真面目に話を聞いた方がいいよね。
そう判断して私は顔付きを変えて姿勢を正す。
それに倣うアリシアとミーア。
領主様はちょっとだけ残念そうにしていたけど、ギルドマスターは"ほっ"としたみたいだ。
いよいよ本題へと入ることにする。
「それで、私達をここに呼び出した理由はなんですか?」
「ええ。そのことなんだけど、【リリエル】の皆さんに領主として直々に頼みたいことがあるの」
「はい。私達にできることであれば、なんなりとお申し付けください」
「ありがとうございます。それでは皆さんに頼みたいことなのですけど……」
領主様のお願いは、近頃このロマーナ地方で好き勝手している盗賊団の討伐依頼だった。
ブロブフィッシュ。
気になる方は是非検索してみてくださいね。
ブサカワ……。グロカワ? っていうのかなぁ? なんか凄いですよ(笑)




