-特別編5- もう1つの正史 その1。
こちらの正史はリーネ達が生まれ変わることの無かった場合の正史となります。
分岐点ですね。どちらに分岐したのかは読者の皆様のご判断にお任せしたいと思います。
それでは特別編5。よろしくお願いします。
ルージェン王国がロマーナ地方・ラナの村。
リーネが異世界転移。ティロット地に降り立ってから800年程が経過した。
寄る年波には勝てずに隠居生活に入った【リリエル】一行。
終活を細々と始めていた頃。この世界に大きなできごとがあり、終活の必要性は失われて彼女達は一度は呆然としながらも現役に復帰することになった。
その時の[事]をリーネはラナの村の自宅・縁側に座って美しく晴れた空を見上げながら思い出す。
今からは1年程前。朝起きた時に違和感を覚えて、不自然の正体を探る為に何気なく魔法で創り出した鏡に自分の姿を映すと、リーネは自分が若返っていることに気が付いた。
前日の夜迄は確かに老婆だったのだ。半日で14~15歳の少女の姿。
この上なく驚いたリーネはその場で思わず大きな声を上げ、彼女の絶叫染みた声によって、老いても変わらず同衾していた愛する妻達も目覚めて互いの姿を見て、リーネと同じように驚愕の声を上げることになった。
そう。若返ったのはリーネだけではなかったのだ。
【リリエル】全員。いや、ルージェン王国と同盟国の女性のほぼ全員がリーネ達が若返った日の朝に10~20代となっていた。
[ほぼ]と言ったのは若返っていない者達もいた為。
国中で大騒ぎ。声の大きさに動かされることになった各国の元首達は若返った者とそうではない者との違いをその筋の研究者達に調査するように命じた。
後日、研究者達は若返っていない者達にはある共通項があることを見事に見つけ出した。
共通項はスライムに嫌われている者達であるということ。
ということは、人々が若返った事件はスライムが関与していることになる。
だが、研究者達の報告を聞いた元首達には腑に落ちない点があった。
スライムが関係しているということは、若返りという怪現象は溶液の仕業。
スライム達の溶液に若返りなどという効力なんてない筈。
国を挙げての調査は不明瞭で暗礁に乗りかかったが、3日のうちに急転直下。
全てが判明するに至ることになった。
やはり原因はスライムの溶液。
それ迄はスライム達の[力]の大元である[白]のドラゴンことハクが控えめにしかスライム達に[力]を渡していなかったのだが、[黒]のドラゴンことルージェン王国が女王フレデリークについこの間、それらのこと全てがバレた為に開き直って[力]を全開放したのでこういうことになったのだ。
又、今回の[事]に便乗した者がいた。その者は世界一の魔道具士マロンによってホムンクルスの身体を手に入れたナツミ。彼女はハクの[力]が全力開放されたのを感じた時、悪い顔をしながら彼女の[力]に自分の魔力を注ぎ込んだ。
ハクとナツミの[力]の相乗効果。スライムの溶液はそれ迄とは比べ物にならない代物と化した。
老婆になる迄老いている者を2度だけ強制的に心と身体を10~20代に若返らせる効果に加えて、各種族の女性達のこれ又、心と身体の年齢の重ね方を10年に1度にすることによって、寿命を劇的に伸ばす効果、月のモノを身体には一切の負担なく3時間で終わらせる効果が付与されたのだ。
これ迄同様に女性達の美貌を保つ効果も相変わらず溶液にはある。
ついでに言えば、女性達は見た目は[人]として変わっていないが実は1段階進化を遂げていたりする。
進化。今迄魔法を使えなかった者が魔法を使えるようになった。
やがて、ルージェン王国と同盟国は後に魔法国家に至ることになる。
「と、いうことをクオーレが女王フレデリーク様の眼前で暴露したんですよね」
リーネはクオーレの話を聞いた女王フレデリークの顔を思い出して苦笑いする。
今思い出しても、彼女の顔はなんとも形容し難い顔だった。
無理もない。前触れなく国で発生した事柄。良いことなのか悪いことなのか如何ともしがたいし、何もかもが身内の仕業。
さしもの女王フレデリークだって、頭を抱えてしまうことに頷ける。
「でも、私には特段この国が変わったようには思えないです」
多くの女性達は10~20代になったがそれだけだ。
魔法という[力]を持ったからといって[力]を悪用しようとする者はいない。
人々は適切に魔法を行使している。お陰で治安の良い国。
唯一の難点は[人]に害を成す者・邪族が割と頻繁に出没するという点だろうか。
最も、魔法という奇跡の力を使えるようになって、[質]が上がったハンター達。
以前よりも素早く邪族の討伐が完了されることになって、収穫物や人命に被害が及ぶ件数は減少傾向になっているが。
リーネが視線を空から庭へと落とす。
彼女の視線の先にあるのは【リリエル】全員で作製した花壇と、花壇に咲き誇る百合の花。と、同じ季節に咲く花々。
花々を見て、顔を綻ばせるリーネ。
和んでいた彼女の肩に手が置かれる。
振り向くと笑顔のミーア。
リーネの愛する妻の1人。だけれど、顔が若干引き攣ってしまうリーネ。
理由は、ミーアの訪問。それすなわち苦手な時間が始まるという合図だから。
「……そろそろ開店ですか?」
「だよー。だからリーネ、早く準備してきてねー」
「ミーア。あの制服ってもう少しこう……布の面積増やせませんか?」
「ん? 何か言ったー?」
「……………なんでもないです」
笑顔だが、心に恐怖を覚えるミーアの表情。
余計なことを言うと大火傷してしまう可能性がある。
リーネはミーアの視線を背後から受けつつ、縁側から私室へと向かった。
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カフェ・リリエル。
若返った【リリエル】一行と傘下の【ガザニア】一行が営む飲食店。
ラナの村の郊外に在るプリエール女子学園の右斜め横に構えられている店。
立地が立地。故に主に学生達が利用して連日賑わっている。
人気の理由は提供される全ての料理の味が優れていることと、店員。
【リリエル】一行と【ガザニア】一行の可愛さにある。
オフショルダートップスで半袖、膝上20cmなミニスカートとショートソックスなミーア考案のメイド服。
ウェイトレスとして働くリーネとアリシアとケーレとフィーナの制服。
シェフとして働くミーア、カミラ、マリーの制服は上下乳白色のコックコートとシェフパンツ。
カフェが開店してから半年。リーネ達は未だミーア考案の制服に慣れずに笑顔でお客様を接客するも、恥じらいが滲み出ていて、彼女達の恥じらう姿がお客様の目を幸せにさせている。
カフェをやりたいと最初に言い出したのはミーア。
彼女が言い出した時はリーネ達はいいかもね。くらいにしか思わずに反対などはしなかった。
実際問題、カフェを営むことについては別に良いのだ。
かつての本業。講師の仕事は引退していたし、兼ねてから飲食店の営業に興味があったから。
ただ彼女達、ウェイトレス組は過ちを犯した。カフェの開店場所やウェイトレスの制服についてミーアが「任せておいてー」と言った時に具体的な内容を確認しておくべきだったのだ。
一流仕立て人、ニアの生まれ変わりと言われるニナの店でミーアが彼女に制服を注文して、仕立てられた制服が届いた時にリーネ達はミーアに任せたことを激しく後悔することになった。
制服だけじゃない。場所についても。プリエール女子学園の傍。
余程不味い物を出さない限りは学生達がやってくるに決まっている。
「後悔先に立たずですね」
お客様からの注文を聞いて、厨房にオーダーを伝えに行く途中にリーネが口から零した台詞。
本人は独り言のつもりだったが、偶然にすれ違ったアリシアに独り言が聞かれていたようで、彼女は大きく頷きつつリーネに顔を寄せて小さな声で呟いた。
「でも、わたしも眼福だわ。可愛い、リーネ」
愛する女性から贈られた言葉。
リーネの頬が紅に染まる。
アリシアは自分の言葉で愛らしくなったリーネの顔を見て何もせずにいられる訳もなく、彼女は微笑みながらリーネの頬にキスをした。
ますます紅くなったリーネの顔。幸せ感で足取り覚束かずフラつきながら厨房に辿り着く。
幸せ感が抜けないままにお客様からのオーダーを読み上げようとした時、リーネとアリシアの行為の一部始終を見ていたミーアがリーネを傍に呼んでアリシアとは逆の頬にキス。
愛する妻2人からのキスにリーネは耐えられず、軟体化する。
何時もの如くな3人。お客様にお届けするめくるめく百合世界。
「尊い」
「あ……、スキ」
「キ……キス……。頬になのに、色っぽい」
お客様数名尊死。
【リリエル】一行と【ガザニア】一行は過去をなぞるように無自覚で百合の花弁をお客様達に振り撒いていく。
最初に先程のリーネ達。次にカミラがケーレの腰を曲げるように抱き締めて首筋に痕を残すキス。そうなると一連の[事]を見ていたマリーが自身の愛するフィーナに行動を起こすのは道理。
マリーはフィーナを呼び、不意打ち気味に彼女の唇にキスをした。
愛された者達は漏れなく全員茹っている。
早鐘を打つ心臓。胸を押さえつつ、はにかむ愛嬌ある娘達。
愛した者達は自分達が愛した者達を瞳で愛でいる。
カフェの、どのスイーツよりも甘やかな空気が店内を揺蕩う。
砂糖や蜂蜜のように直接的じゃない甘さ。滑らかな至福の甘さ。
「うっ……。これだから何度も来たくなるのよ。このお店」
「分かるわ。私、この為に週に5日は通ってるもの」
「美味しい味、それでいてリーズナブルな値段、可愛い女性達、尊い百合。人気で当然よね」
「今日初めて来たけど、決めたわ。毎日通う!!」
リーネ達の知らない間に新規のお客様獲得。
カフェ・リリエルは口コミなどで次々とお客様の来店総数。収益を右肩上がりに増大。開店から1年も経たないうちに人手が足りなくなって大爆発。
爆発に伴い、予約制のお店へと変わるのだった。




