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-特別編4- 完結話- 変わらない愛。

 箱舟により、ルージェン王国などがユースリアへ移住してきてから3年目。

 【リリエル】達が拠点とするラナの村では最近行われたクジ引き大会によって、新しく村長に就任することが決定したマーゴットという名の女性によってちょっとした改革が行われようとしていた。

 1つはラナの村という名称をラナの里に改めること。

 1つは里の防衛の為にマロンの里のような軍事力を持つこと。

 1つは老朽化してきたインフラ設備と建物の補修をすること。

 以上の3つの事柄がマーゴットが打ち出した改革。

 1つ目は即座に実行可能だろうが、残りの2つはそう簡単なものじゃない。

 マーゴットは長い目で見て、それらを少しずつ実現させていくつもりでいた。

 だが彼女は忘れていることがあった。

 この里には【リリエル】、【ガザニア】、【アングレカム】、【クレナイ】と言った規格外な存在がいることを。すっかりと。

 マーゴットから軍事力とかインフラとか建物とかどういうイメージの物を脳内に思い描いているのかと彼女から、その構想を聞き出した【リリエル】達は翌日からマロンと、その里で暮らすエルフ達にも力を借りてそれらを実現させていった。

 軍事力。今迄と同様に肩に大砲つきのゴーレムを数体作製。

 その他に、これは後に自動人形(オートマタ)と呼ばれることになる自動で動く女性型の人形を数十体作り出した。

 造形としては[人]に似ているが、触ると硬いし、関節部が球体でできている。

 後、全員侍女(メイド)服を着ていて、[人]に奉仕することを喜びとするように設計されている。

 とはいえ、それは自分達のことを大切にしてくれる[人]にだけ。

 そうでない者には彼女達は見向きもしない。

 これは【リリエル】達の(思考)を彼女達の心臓部である[核]に埋め込んだ為だ。

 つまり命令を言わないと動かない・マニュアル通りの行動しかしないゴーレムと違って彼女達は疑似的ながらも[心]を持っていて、臨機応変に動くことが可能だということ。

 ちなみに戦闘も可能。[侍女の嗜み]という技を全員が持っていて、投げナイフや投げフォークで戦う。

 それでも制圧が不可能な時は過去のミーアと同等の格闘能力で敵を潰す。

 接近戦と遠距離戦が可能なゴーレムと自動人形(オートマタ)

 この組み合わせがあれば相当の兵士を集めないとラナの里を落とすということは不可能だろう。

 ラナの里はマロンの里と同等かそれ以上の凶悪な里と化した。


 次にインフラと建物の補修。

 これは本当に補修だけだったので、イリーネ達の魔法と里の大工や魔道具屋などの力と技術によってそう時間も掛かることなく楽に終了した。

 ラナの里は人口が少ないので土地が広い。

 なので密集することなく、広々とした距離を取って並ぶ外見はログハウス風味の建物。

 室内は過去に召喚された異世界人が言っていた[和]と[洋]の2種類がある。

 その両方が用意された建物もある。

 【リリエル】達が住んでいるのは過去は[和]だったが、現在は[和]と[洋]の両方が用意されたものだ。

 尚、お風呂やトイレにキッチン、魔道具の冷蔵庫や暖房器具などなど生活必需品は全建物内に完備されている。

 水道は地下水脈から組み上げているので天然水。飲むととても美味しい。


 やや言い過ぎかもしれないが、つい最近できあがったばかりのように見える里。

 村長改め里の長のマーゴットは大体1週間程度でこんなことになった里を見て、暫く呆然とすることになった。

 

 以降、ラナの里の観光の案内などは自動人形(オートマタ)が勤めることになり、要人の傍にも必ず彼女達が着いて回るようになった。

 お茶の用意などもしてくれるし、危険から守ってもくれる存在。

 有難いが、マーゴットはこんなことも思うのだった。


『誰がここまでしろって言いましたか……』


 なんてことを。


**********


 それから数日後。

 本日【リリエル】はルーベリサ王国のイリーネが生まれ育った里にいた。

 正確には【リリエル】全員じゃなく、イリーネとアリアとミーシャの3人。

 カレラとケーラの2人は何か用事があるようで、別の場所に行っている。


 懐かしい里の風景。ラナの里・マロンの里よりもこちらは自然そのままを活かした里という感じだ。

 それだけに美しくもあるが、軍事面では不安がある。


『変わっていませんね』


 と思いつつ歩く懐かしい里。顔ぶれもそんなに変わりない。

 イリーネに気が付いて挨拶してくれる里のエルフ達にイリーネは頭を軽く下げることで挨拶を返す。

 自分の右横を歩くアリア、左横を歩くミーシャも共に。


『それにしても、アリアもミーシャもどうして急にこの里に行きたいだなんて言い出したのでしょうか』


 イリーネがこの話を聞いたのは先日だったりする。

 いつものように抱き締めあいながら眠ろうとしている最中に2人から本当に突然言われたのだ。


「ねぇ、イリーネ。お願いがあるのだけど」

「私もからもアリアと同じようにお願いがあるー」

「はい? どうしましたか。私にできることなら聞きますが」


 イリーネがこう言った後で顔を見合わせたアリアとミーシャ。

 お願いは「せーの」の後で2人同時にされた。


「「私達、イリーネの生まれ育った里に行ってみたいの。連れて行って」」

「私の生まれた里ですか。一体何をしにです?」

「それは秘密ー。お願い」

「ダメかしら? イリーネ」

「ダメではありませんが……」


 理由は聞いても教えて貰えなかった。

 ともあれ支障はないのでイリーネは2人の願いを了承してここにいる。


「自然豊かな里ね」

「空気が美味しいー」

「ありがとうございます。しかし、ここは変わりませんね。確かに緑豊かですが、ラナの里と比べて軍事面に不安があります」

「でもラナの里と違って結界で隠されてるし、そんなに心配しなくても大丈夫なんじゃないかしら?」

「結界。念の為に後で補強しておきましょう」

「私達も手伝うよー」

「ありがとうございます」


 仲良く恋人繋ぎで手を繫いで歩く3人。

 やがて見えてくるイリーネの生まれた家。

 たまたま母親の1人が外にいて、娘の顔を見て驚いた表情となる。


「イリーネ!? びっくりしたわ。どうしたの?」

「何も言わずに帰って来てごめんなさい。ラノアお母さん。メルお母さんも今日はいますか?」

「中にいるわよ。ところで貴女の隣にいる2人はもしかして彼女さん?」

「あ、えっと……」


 ズバリ聞かれてイリーネの顔が赤くなる。

 これは当たりだと娘を見て確信。"ニヤニヤ"する母親。

 アリアとミーシャはイリーネに身体を近く寄せて彼女を更に赤くさせてから彼女の母親に挨拶をする。


「初めまして。突然お邪魔してしまってすみません。私はイリーネの……。娘さんの恋人のアリアと言いますわ」

「私も初めまして。私も同じくイリーネの恋人のミーシャと言いますー」

「あらあら。同時に2人なんてうちの娘も隅に置けないわね。メルー。メル聴こえてる? イリーネが帰って来てるわよ」


 返事は無い。が、家の中から大きな物音がするのが4人に聴こえた。


「慌てすぎて階段ででも転んだのかしらね。まぁいいわ。とにかく3人共中に入って頂戴。大したおもてなしはできないけれど、ごめんなさいね」

「いえ、そんなお構いなく」

「アリア、ミーシャ。歩きにくいです」

「イリーネ、お構いなくー」

「いや、構いますよ。照れますし……」

「ふふっ、イリーネったら耳迄真っ赤よ。ウブなのね」

「ラノアお母さん!!」


 (イリーネ)の抗議の声なんて母親に取っては可愛いとしか思えないもの。

"くすくす"笑いながらイリーネの母親の1人は3人を家の中へと案内する。

 もう1人の母親も合流し、5人で集うお茶の間。


 円形のテーブルに用意されたのは聖霊樹の葉を煎じて作られたお茶と市販の醤油煎餅。


「ごめんなさいね。こんな物しかなくて」

「いえ。全然大丈夫です。あ、これつまらないものですがー」

「私からもつまらないものですが」


 イリーネを生んで育てた母親2人。彼女の両親を前にアリアとミーシャの緊張の声がお茶の間に響く。

 行動もなんだか"ガチガチ"。イリーネの両親に手渡されるロマーナ地方の有名な店で買ってきたそこそこ高いお肉とチーズケーキ。


 イリーネの両親がアリアとミーシャの2人に「あらあら、別にいいのに」なんてお礼を言いつつそれを受け取ると、2人は真剣な顔をして彼女の両親の前に正座してそのまま頭を下げた。


「お母様方、実は今日はお願いがあって参りました。まだ早いと思われるかもしれませんが、イリーネを。娘さんを私達にください」

「絶対に幸せにすると誓います。お願いしますー」

「アリア? ミーシャ?」


 2人からこんな話は聞いていない。

 イリーネにとっては青天の霹靂。

 狼狽えるイリーネとは対照的に落ち着いているイリーネの両親。


「可愛い娘が3人になるという訳ね」

「は~、それにしても私達の娘はあれだね~。変な(スライム)に懐かれたり、悠遠の魔女なんて畏怖を覚える称号を貰ったり、最強のハンターなんて呼び声も聞こえてきたり、かと思えば可愛い婚約者を2人も連れて帰って来るなんて、なんというか……騒々し……。(とんび)(たか)を生んだみたいね」

「ふふっ。そうね。えっとアリアちゃんとミーシャちゃんだっけ?」

「「はい」」

「イリーネのこと、頼んだわね」

「この子は少し暴走しがちなところがあるから、できればそういうところも2人でしっかり見張っててくれると助かるかな~」

「うぐっ」


 身に覚えがありすぎる。

 反論できないイリーネ。いや、それより……。


「アリア、ミーシャ。私はこの話、今初めて聞いたのですが……」

「だって貴女、前もって言うとヘタレそうだもの」

「うんうんー。それでなんとかしてこの日を引き延ばそうとしそうだと思ったから、アリアと相談して言わないでおいたんだよ」


 …………………………。


「無言ってことは図星ってことよね?」

「やっぱり言わないでおいて良かったねー。アリア」


 アリアとミーシャが姿勢を崩してイリーネに抱き着く。

 彼女の左右それぞれの腕に巻き付ける自分の身体。


「今日からは婚約者、ね。イリーネ」

「大好きだよー」


 イリーネの両親の前で愛する女性(ひと)の頬へのキス。

 微笑ましいものを見たような表情になる両親。

 アリアとミーシャ。愛する女性(ひと)からのキスで"ふにゃる"イリーネ。

 

「お母さん。私、幸せすぎて死にそうです」

「イリーネが幸せそうで良かったわ」

「娘の成長は嬉しくもあり、寂しくもあるけどね」

「ところで、今夜は泊っていく?」

「いえ、すみません。仲間が待っているので」

「そう。それじゃあまたいつでも来てね」


 アリアとミーシャは改めてイリーネの両親に頭を下げる。

 イリーネも一緒に下げることで、巣立ちとなり、3人は恋人同士という関係から婚約者となった。

 

**********


 その後、自宅に戻って来たイリーネ達。

 カレラとケーラ、フィオナとマイリーも帰宅していて、彼女達もそれぞれの両親に婚約の誓いをしに行っていたことをイリーネはこの時に知った。

 

 後日。

 今度は覚悟を決めたイリーネがアリアとミーシャの家を訪問。

 まさかのその里で結婚式が催され、イリーネ達はあっという間に婚約者から一婦多妻の婦々になるという珍事が起きた。


「いや、え? 気が付いたらウェディングドレス姿でした」

「イリーネの両親から手紙で私の両親に話が伝わって、ミーシャの両親にも話が行って、結果それぞれの両親が結託して、()達に内緒で結婚式をサプライズとなったみたいね。私も今回ばっかりはびっくりしたわ」

「でもイリーネもアリアもドレス似合ってたよー」

「ミーシャも良く似合っていましたよ」

「そうね。綺麗だったわ」

「ありがとう。ところで結婚後、初の夜だねー」

「そうね。結婚して初の夜ね」

「なんでしょう。意味深に聞こえます」

「イリーネ、今夜は寝かさないわ。なんて、ね」

「アリアもだけどねー」

「え? ミーシャ。それってどういうことかしら?」

「私、アリアのことも好きだからー」

「えっ!」

「……アリアも意外と鈍かったんですね」


 結婚後初の夜。

 3人は朝迄甘くて蕩ける時間を過ごした。

 生まれ変わっても変わらない愛。

 再度の遠い遠い未来でも彼女達はきっと―――。


-------

転移したらエルフでした。~そして咲いた百合の花~

特別編 Chapitre complet Fin.

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