-特別編4- 新天地でのお仕事事情 その02。
【リリエル】がかつての【リリエル】と同じようにプリエール女子学園で働き始めた頃、【カザニア】に【クレナイ】、【アングレカム】もハンター稼業とは別に仕事を見つけて、自分達が出張らないと人々に危険が及ぶような邪族が出現した時以外はそちらに本腰を入れるようになっていた。
【カザニア】はプリエール女子学園で会計の仕事。
手が空いた際はたまに【リリエル】の仕事を手伝うこともある。
【クレナイ】はついに念願だった温泉を掘り当てて、過去の自分達が残した遺産を元に旅館を建築。
あの魔法学園の寮には無かった露天風呂なども造って女将と仲居としてその仕事に従事するようになった。
一応高級旅館の部類に入るのだが、庶民でもほんの少しだけ頑張れば利用できる値段設定とされている。
これは【クレナイ】が決めたこと。旅館を建築する為に使った料金の元を取り戻すには時間が掛かることになるだろうが、どうせ自分達は寿命が長い。
それならばお客さんに楽しんで貰い、「また来たいね」と笑顔で帰宅して貰えるような旅館にしようということでそうなった。
現状その試みは大当たり。人手が足りずにバイトを雇ってやりくりしている。
忙しいが充実した日々。特に人気の季節は意外にもウィンターの時期。
寒い中で心温まる接客と雪を眺めながらの露天風呂。人々にはこれらが堪らないことらしい。
【クレナイ】も利用客からそれを聞いた時は嬉しくてその人に心からお礼の為の頭を下げた。
そして【アングレカム】。過去は引き籠もりだった彼女達は人造人形となってからはちょくちょく外に出てくるようになった。
【アングレカム】の活動を通して人々と触れ合うことが増えたのが良かったのだろう。
そんな彼女達は何を思ったか? アウトドアを楽しんで貰う為の案内と管理の仕事を始めた。
邪族という[人]に害を成す存在がいるこの世界。
なので町の外に出るのはわりと命懸けだったりする。
けど、【アングレカム】のような強力なハンターがそこにいるのならば話は全然別となる。
【アングレカム】と魔道具士マロンが共同で開発作製した邪族を寄せ付けない為の結界石。
見た目は極小のピラミッド。【アングレカム】がそれが置いてある大きな町の外の広場迄人々を案内して、以降はその広場で天幕をその日の住処として暮らして貰うという仕事。
焚火をするも良し。BBQをするも良し。川もあるので釣りをしても良い。
何をするのも自由。開放感溢れる場所で好きに楽しんでリラックスして貰う。
邪族は寄ってこないし、万が一危険があっても【アングレカム】がいる。
これは【アングレカム】の2人が野営をしている時に思いついたこと。
一般の人々もこういうのできたら楽しめるのではないかと。
始めてみると盛況。人々の笑顔が眩しい。
その様子を見て笑むエスタとフラル。
「皆、楽しそうだね」
「エスタ、変わったよね」
「あははっ、自分でもそう思う」
「大好きだよ、エスタ。ずっとずっと」
「うん」
肩を寄せ合う【アングレカム】の2人。
焚火に照らされる中で2人はキスを交わす。
他のお客さんに見られないようにしながら。
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それにしてもロマーナ地方は変わった地方だ。
人口比率は決して多いとは言えないのに、この地方で販売されている物やサービスは大人気で観光客で連日賑わっていたりするのだから。
特に今は魔道列車やゴーレム馬車が当たり前にあるし、1つの大陸になったので移動が比較的容易になったことも関係している。
【リリエル】と【ガザニア】のいるプリエール女子学園。
真心込めてお客さんをおもてなしする【クレナイ】の旅館。
娯楽の少ない世界で娯楽を提供する【アングレカム】のアウトドア業。
メディの美髪店にニアの生まれ変わりニーナの仕立て屋。
ニーナのパートナーであるソフィアの生まれ変わりソフィーの薬師店。
これらが全て1つの地方に集中している。
それだけでも見所、土産には困ることはない。
観光客が来たがるのもよく分かる。
ついでに言えば、これは全くの別問題となるが昔は創造神達の穢れで発生していた邪族という種族。
今は人々や動物達・世界の穢れにより発生することになっている存在。
女神セレナディア達が敢えてこの世界に組み込んだシステムだが、女神達自身にもどんな邪族が発生するかは分かってない。人々や動物達に世界の穢れなんて様々。人々なんて多くの汚い欲望を持っているし、動物達だって欲がある。自然も何らかの異常によって発生する濁りなどがあるので例え女神といえど、邪族の種類を限定なんてできないし、分かろう筈もない。
ただ、女神セレナディア達が最初に企んでいた[事]は上手い方向へと持っていくことができた。
共通の敵を作ってそれぞれの種族が手を取り合うという狙いは大当たり。
ところで稀に強大な力を持った邪族が発生することもあるのだが、新大陸で発生した場合においては、このロマーナ地方を拠点としている【リリエル】を始めとしたハンター達に案外易く始末されていたりする。
箱舟完成前。ティロットにいた頃、彼女達は弱族大行進の多さに辟易して皆で手を組んだので連携に慣れていて、それで邪族は彼女達に赤子の手を捻るよりも簡単に殺られていく訳だ。
【リリエル】が主体でそのすぐ下に【アングレカム】が続いて【クレナイ】と【ガザニア】が同列。その下に女性のみで構成された5つ程のハンターパーティ達が続いているという最強……。最恐? の布陣によって。
これはハンターギルドで取り決められたことだが、【リリエル】が主体になることに関しては彼女達は幾らか抵抗をした。
が、彼女達以外は全員賛成。押しに弱い【リリエル】は結局そのまま主体となることになった。
しかしそれはティロットの頃の話で今は弱族大行進が連動で起きたりなんてすることはなく、たま~に程度になっているのだがこの関係は続行されたまま。
【リリエル】達自身にはよく分からないが、他のハンター達曰く【リリエル】と一緒にいるとやり易いのだそうだ。
それといつしか恒例となった邪族を全員で討伐した後でハンターギルドで開催されるお茶会も楽しいので解散は無いと全員が言い切っている。
尚、主犯はトレイシーだったりする。
彼女の鶴の一声でこうなったのだ。
悪気は無いのだろうが、面倒臭いことをしてくれたものだ。
これが決まったその日は【リリエル】は全員で頭を抱えた。
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今日の【リリエル】は魔道列車で他国へ移動しての邪族討伐を行った。
別に魔道列車を使わなくても転移で行けるのだが、列車の窓から見える風景を楽しみながら移動したかったのだ。
それに列車の中でお弁当を広げるのも1つの楽しみだった。
列車の中。騒ぐのはマナー違反なので彼女達は静かに旅を楽しんでいたのだが、それでも人々を惹きつけてしまうのが【リリエル】という存在。窓から見える風景にまるで子供の用に目を輝かせながらそれを見つめるイリーネ。普段なら椅子などに座る時は彼女は中心にいるが、今回はアリアとミーシャに窓側を譲って貰ったので彼女は移り行く風景を楽しんでいた。
一方、風景よりもはしゃぐイリーネを見て目を細めて楽しんでいたのがアリアとミーシャ。
ミーシャに関してはイリーネを見て愛おしそうにしているアリアのことも眺めて和んでいた。
列車の旅。彼女達は自分達の愛しい女性を微笑ましく見守ると同時に今すぐに抱き締めたい衝動と戦い続けた。
でもって、イリーネを愛らしく見守っていたのは実は2人だけじゃない。
クオーレも今回は人型サイズで主人であるイリーネの前に座って"じっ"と主人のことを見つめ続けていた。『ぼくの主人が可愛い』って思いながら。
その横にカレラとケーラ。カレラはケーラに旅の間中、膝枕とか肩を寄せ合ったりとか、スキンシップを欠かさなかったのだから、これで目立たずにいられる訳がない。
【リリエル】と偶然にも列車に乗り合わせた人々はついつい彼女達に目をやってしまい、無意識的に女神セレナディアに感謝の祈りを捧げる者が多発したのだった。
ルージェン王国ロマーナ地方。
今日もその地は観光客で賑わっている。
その地はちぐはぐで矛盾した土地。
だが、この地方にはそれが丁度良い塩梅なのかもしれない。




