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-特別編4- ユースリア。

 愚かなる者。ソイツを屠ってから、3ヵ月程の月日が経過した。

 これ迄は王都を守護していた【アングレカム】だったが、最近女王フレデリークからの依頼によってロマーナ地方に移住。【リリエル】達が拠点としているラナの村の村長に許可を取った上でエスタが自分達用の一軒家を建ててフラルと共に暮らしている。


 それもこれもここ数年のロマーナ地方が異常事態となっているから。

 異常事態。ルージェン王国の何処の地方よりも邪族大行進(スタンピード)が発生しやすくなっているのだ。

 [人]に様々な形で[害]を成す存在・邪族。ソイツらが事ある毎に大発生。

 ロマーナ地方は呪われた地のようになってしまっている。

 

 まぁ、この地方には【リリエル】に【ガザニア】に【クレナイ】もいるし、魔王ラピスや[白]のドラゴンことハクや聖女アレッタの生まれ変わりな聖女アレットに[赤]のドラゴンことクリスタもいるし、過去にこのロマーナ地方のハンターギルドをその手腕によって国一番のギルドと人々から言わしめたギルドマスターを勤めていたヒカリの生まれ変わりで、今はクリスタの妻であるルミナもいる。

 それに【リリエル】さえ絡まなければ、立派な領主のシエンナの生まれ変わりのシェーラもいるので毎回大事に至ることなく鎮圧されて終わってはいるのだが。

 だが、念には念を入れてということで満を持しての【アングレカム】がこの地方に移住してきたということだ。

 ロマーナ地方は相変わらず人口は多くはないが、大物揃いという点では王都にも勝っていると言っても過言ではないだろう。


 本日も小規模ながら邪族大行進(スタンピード)が起こり、【リリエル】に、その愛嬢子(まなでし)である【ガザニア】。【アングレカム】とで狩りに出掛けて連携を取りながら騒ぎを早々と鎮めてきた。


 で、現在は3パーティ揃ってのお茶会中。

 今回は紅茶ではなくハーブティとチョコチップクッキーなどを齧りながら彼女達は雑談などしている。


「ロマーナ地方は過去の私達が暮らしていた頃からルージェン王国内において有数の邪族の出没地域とは言われていたらしいですが、ここ数年は特におかしいようですね」

「師匠、私はなんだか他の地方から邪族が移住して来ているような気がします」

「移住って。それが本当だとしたら、迷惑な話ね」

「フィオナの意見はあながち外れてはないかもな。噂で聞いた話になるが、近隣の地方ではこことは逆に邪族を見掛ける機会が減ったらしいぞ」

「じゃあ本当に移住してきたってことー? なんでそんなことが」


 この場にいる全員が迷惑だと顔を顰める中でマイリーだけが他の者とは少し違う、渋い表情を浮かべつつハーブティを口にして啜る。

 マイリーは女神フレヤからその理由を聞かされていたりするからだ。

 邪族とは創造神達の穢れの集い。その穢れを自分達だけでは祓えないので自分達が創った地上に住む者に任せている。そして邪族大行進(スタンピード)が発生しやすくなっているのは、その創造神達が【リリエル】達のことを知り、これは良いことを知ったとばかりに穢れをこの地に多く振りまくようになっているから。女神セレナディアやその幼馴染のエリー、フレヤがこのままではダメだとなんとかしようと動いてはいるが、穢れを放置すると創造神が邪神となってこの世界は荒廃したものとなってしまう。なので女神セレナディア達にできることは創造神達に[神]としての自覚を持って貰うように説教することだけ。


 上手くいってないようだが……。


 逆にセレナディア達が注意すればする程に調子に乗って[神]とは思えない振る舞いをわざとする。

 それで穢れて地上では邪族大行進(スタンピード)

 もうそれで愛想が尽きたらしいセレナディア達はここのところ結構真剣に自分達がこの世界から移住することを検討中らしい。

 ただ、移住するのは自分達だけではなくこの世界の人々や動物達も一緒。

 でも世界の全員を連れて行くのは不可能で、連れて行けるのは自分達の力が及んでいるところの国の者達だけ。

 すなわちルージェン王国・ルーディア王国・ルーベリサ王国の姉妹3ヶ国で暮らしている者達とその3ヶ国と()()()同盟関係にある国の者達。

 (よこしま)な考えで同盟国入りした者達を連れて行く気は女神セレナディア達には無い。

 連れて行ってもろくなことにならないことは目に見えているし、何よりもそういう連中のことが気に入らないから。

 その為の箱舟も建造中でもうすぐ完成に至るところまで来ているとのこと。


『それはもう()()ではなくて決定事項なのでは?』


 とその話を女神フレヤから神託として受け取った時にマイリーは思ったが、神託は一方通行。

 それ故にマイリーは何も言えなかった。

 それともう1つ。邪族は今とは違う形で新しい世界でも敢えて発生させるようにするとという話も聞いた。

 なんでも邪族達は確かに[人]に害を成す存在だが、その反面彼らが生まれるからこそ、話の通じない・他人に迷惑を掛けてもなんとも思わない[人]が生まれることを()()()することができているのだそうだ。

 邪族がそれらを吸収して引き受けてくれているから。


 早くて今年中。遅くとも3~4年以内には姉妹国の人々はその箱舟に乗ってティロットから別世界へ移住の見通し。

 移住先はティロットの並行世界(パラレルワールド)のようなところ。

 新しい世界の名前はユースリア。

 ティロットと同じように人間・エルフ・魔族・魔物・獣人といった種族が暮らしている世界。

 そこは現状それぞれの種族がいがみ合っている状態だが、邪族という共通の敵が生まれるお陰で手を取り合うことになるだろうという見通し。

 それで[零]から世界を創るとなると大変だが、他の神が何らかの理由で放任・放棄した地を貰い受けるならば話は別だ。

 女神セレナディアはもうすでにその神との契約も済ませている。

 その神は世界を創ることが楽しくて、3つも創ってしまったらしいが管理が大変で悩んでいた。

 そこに降って湧いたどちらにとってもwin-winな話。

 契約は楽々と進んだ。

 

 マイリーはハーブティの入ったカップをテーブルに"そっ"と置く。

 このことは別に女神フレヤから口止めとかされてない。

 この1ヶ月の間に怒涛のように聞かされた神託。

 マイリーは神託内容を皆に話すかどうか悩んだが、どうせもう世界の移住は決定事項だ。

 ならば知っておいた方が良いのではないか?


 ってことでマイリーはこの場にいる全員に女神フレヤから聞いたことを淡々と話して聞かせた。


**********


 一方その頃。

 神々の住む世界では"こそこそ"と移住の準備が進められていた。

 ここの創造神達は駄女神なので妹の女神セレナディアがしようとしていることに全く気が付く様子がない。

 それはそれでセレナディア側は助かるが、『ほんとにコイツダメだ』という想いも強くなる。

 

 もうそんな駄女神は放置して地上を眺めるセレナディア。

 最初はルージェン王国しか手が出せなかったが、姉妹国や同盟国に手が出せるようになったのは自分の愛しき子(聖女)。リーネ。今のイリーネがそれらの国々を旅して回ってくれたお陰。

 

 セレナディアはリーネ達が訪れる国に綻びを生じさせて自分達の力を注いでいた。

 箱舟の完成迄後少し。駄女神と箱舟の完成と共にお別れとなると"スッキリ"した気分となる。


 自分達がいなくなった後でティロットがどうなるかは分からない。

 荒廃するかもしれないし、逆に[神]の自覚が出て上手く運用してくれるかもしれない。


『そうだったらいいな』と願うセレナディア。

 これがセレナディアが自分の姉にしてあげられる最後の[事]。


**********


 2年後。

 箱舟は完成して旧世界ティロットから新世界ユースリアへと一部の神々と一部の者達は移住した。

 今更だが、箱舟と言っても本当に船という訳ではない。

 ティロットからユースリアへ大陸そのものを移動させる船の形をした強大な魔法のことだ。

 これは人々が眠っている深夜帯に神々の力によって速やかに[事]が行われた。

 これによってユースリアに新大陸ができあがったが、世界の強制力によってどちらの世界の者達も元よりユースリアにその大陸はあったと記憶が改竄されて混乱などは起きてない。

 これには【リリエル】達も含まれていて、マイリーから聞かされていたことなど忘却。

 自分達は元々ユースリアの[人]だと記憶が改竄された。

 新大陸は国は別々だが、かつての姉妹国と同盟国がくっついた形のもの。

 それでユースリアを創ったのは別の神だが元々放任されていた世界。

 これによって創造神は交代してセレナディア……ではなく、彼女は新大陸の主神であることを望んで創造神は別の神に任せた。

 元々この世界に携わっていた別の神に。

 [真]なる創造神がいなくなってからはこの世界は3柱の神々が管理していた。

 そのうちの1柱の神が創造神ということになった。

 セレナディアから見て、ラフソディアよりも余程マシな神。

 新体制となったユースリア。世界は新たなスタートを始めた。

 ところでここ迄の2年間で過去の自分達の全盛期にもうすぐ手が届くというところに迄近づいた【リリエル】一行。

 彼女達は魔王ラピスにスカウトされて歴史あるプリエール女子学園に就任することになった。

 過去と同じように無自覚で生徒と教師を落としにかかる【リリエル】。

 新世界でも彼女達は変わることなく―――。

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