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-特別編4- 幸福な主従。

始めに。

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ここ迄ご拝読頂いた読者様ありがとうございます。

このお話は特別編Ⅲの中で伝えきれなかったことの補填のお話です。

ですので展開など早いです。先にご了承をお願いします。


尚、三人称で物語は進みます。

 イリーネの使い魔なクオーレ。

 彼女は自分の目の前で無邪気にスキンシップに戯れるいつもの3人を『眼福』と思いながら眺めつつ、主人のイリーネと再会する迄のことを思い出していた。


 過去の【リリエル】。

 稼業を引退してから隠居暮らし。

 皆、老いても仲良く暮らしていたが、ある時にカミラが謎の難病に侵されて他のメンバーの必死の看病の甲斐もなく、彼女は最後に「ありがとう」の言葉を残して遠くへと旅立ってしまった。

 こうなると一気に生きる気力を失ったのがケーレ。

 リーネ達は元気を取り戻させようとあれこれと世話を焼いたが、彼女は1年も絶たないうちにカミラの後を追うようにハイエルフには早すぎる老衰によって亡くなってしまった。


 2人を失ったことで悲しみに暮れたリーネ達。

 リーネ、アリシア、ミーアはそれでも生き続けたが、やがて[時]に負けて力尽きる日が来てしまった。

 【リリエル】一行は実は以前にマロンから、とある方法を試さないかと言われていた。

 だが彼女達は全員それを断った。死ぬ時は自然に任せたいからと言って。


 【リリエル】の中で残った3人を看取ったのはクオーレ。

 彼女達は逝く時迄も仲良く手を繋ぎながら「また会いましょう」と微笑みながら3人で同じ日・同じ時間に息を引き取った。


 後に残されたクオーレはそれはもう泣いた。泣いて泣いて泣き喚いた。

 

 どうして自分だけが取り残されることになったのか―――。

 

 そう思った時にクオーレはそれがおかしいことに気が付いた。

 スライムの寿命は何もなければエルフよりも少し短いくらい。

 それに主人が亡くなったら使い魔はただの魔物に戻る筈。

 なのに自分は生きてるし、リーネとの関係も切れていなかったのだ。


「リーネお姉ちゃん、生きてるの?」


 クオーレは不思議に思って彼女の身体を揺さぶってみた。

 生きているならば、主従の関係が続いていることに説明がつくから。

 が、彼女の身体は冷たくなっていて生命活動は感じられなかった。


 益々困惑することになったクオーレ。

 寿命については特異種だからだろうか? ということで片付けることにした。

 分からないのはリーネとの関係。繋がり続けている理由が解明できない。


「けど、けどこれってもしかして輪廻転生したリーネお姉ちゃんを待つようにっていう知らせ? ぼくはまたリーネお姉ちゃんの傍にいられるの?」


 絶望の淵に見えた僅かな希望。

 クオーレはリーネ達の遺体を丁寧に埋葬した後、自分は翼をはためかせて空へと舞い上がり、世界で一番高くて、人も邪族も動物もいない山の頂上でその日が来る迄眠りに就くことにした。

 スライムの溶液を巧みに使い、卵の形にしてその中での睡眠。

 いや、睡眠というよりも封印に近いかもしれない。

 クオーレはその中で楽しかった日々を夢に想いながら眠った。

 何年? 何十年? 何百年が経過しただろう?

 夢の中で女神セレナディアによく似た人物が現れ、クオーレは優しく言葉を掛けられて目を開けることになった。


〔目覚めの刻ですよ。守護獣(フェニックス)クオーレ〕


 卵を割って久しぶりの外。『さっきの女性(ひと)と言葉の意味なんだったんだろう?』と思いながら空を見上げていると、強烈に感じるリーネとの繋がり。


 クオーレはすぐに翼を広げてその場所へと急いだ。


「リーネお姉ちゃん」

「リーネお姉ちゃん」

「リーネお姉ちゃん」

「リーネお姉ちゃん、会える。会えるんだよね!!!」


 やがて到着した場所。

 そこには確かにリーネがいた。

 少女だった頃のリーネが。


 すぐにでも彼女に飛び付きたかったクオーレだが、理性がそれを押し留めた。

 ちょっと待て! 情報収集が先だろうと。

 言われてみるとその通りだ。

 クオーレは小鳥サイズになり、少女リーネのことを嗅ぎ回った。

 ちなみにそこは必要ないだろう? と言われる所にも密かに付いて行っていたのはクオーレだけの秘密だ。

 まぁ、何はともあれ情報収集は大きな成果を得ることになった。

 リーネは生まれ変わって今はイリーネと呼ばれていること。

 両親はエルフの女性2人で大事に育てられていること。

 昔と変わらずに魔力の[質]と[量]がすさまじいこと。

 後は、うん。身長とか体重とか、何のとは言わないがサイズとか色々と知った。


 これだけ知ればもう充分だろう。

 

 クオーレは小鳥サイズから大き目なぬいぐるみなサイズになり、ついにその姿をリーネ……。イリーネの前に現した。


「初めまして。えっと、イリーネお姉ちゃん」

「貴女は……? 鳥? いえ、[人]の言葉を喋れるということは魔物でしょうか? 何者ですか?」


 イリーネは最初は警戒心丸出しだった。

 空中から杖を取り出してそれを握っていたくらいだ。

 いつでも魔法が発動可能なように。


 クオーレはそれがちょっと悲しかったが、自己紹介とボカすべきところはボカしながら自分との過去からの関係をイリーネに嚙み砕きつつ説明すると、イリーネは案外とすんなりクオーレの言葉を信じて杖を空中へと収めた。


「イリーネお姉ちゃん、信じてくれるの?」

「不思議ですね。明らかに荒唐無稽な話なのですが、何故か貴女の言っていることは嘘ではないと感じるのですよ。先程「繋がり」という言葉を貴女は使っていましたよね? それが私にも感じられるんです」

「イリーネお姉ちゃん!!!」


 イリーネの言葉を聞いたクオーレは今度こそ彼女の胸の中に飛び込んだ。

 尻尾を彼女の腰に彼女の両腕諸共巻き付けて、自分から絶対に離れられないようにしながら。


「クオーレ。ちょっ!! これでは動けないのですが!!」

「イリーネお姉ちゃん、イリーネお姉ちゃん、イリーネお姉ちゃん」

「頭を擦りつけないでください。擽ったいです! っていうかわざとですよね。放してください」

「イリーネお姉ちゃん。やっと会えたよ!」

「聞こえないフリしないでください。クオーレ」

「イリーネお姉ちゃん。……うんうん」

「くっ。更に締め付けを強くしてきましたね。この使い魔(情欲魔)


 自分を解放して欲しいイリーネと解放したくないクオーレとの攻防は1時間近くにも及んだ。

 やっと解放されたイリーネ。怒りが込み上げていて、クオーレに最上級攻撃魔法を放ってしまおうかと考えていたが、彼女の目を見ているうちに不意にその気が無くなり、イリーネはため息1つで何もかもを終わらせた。

 昔も今も身内とか自分に本気で[害]を及ぼそうと考えている訳ではない者には甘いのだ。この子は。


「しかし、過去の私は何を考えてこの子を使い魔にしたんでしょうか。まぁ、別にいいですけどね」

「正直言うと事故みたいなモノだよ?」

「貴女はそれで自由を失ったようなものですよね? それで嫌ではないのですか?」

「変わってないね。お姉ちゃんのそういうところ。ぼくは嫌どころか嬉しいよ」

「……そうですか」


 イリーネはクオーレの頭を撫で、以後は特別何か聞く訳でもなく彼女と共に行動するようになった。

「そう言えばイリーネって昔はヘタレだったわよね」

「そうだったねー。意味深なこと言ってきたかと思ったら頬にキスだけで済ますとか無いわーって思った」

「その話はもういいじゃないですか! 黒歴史です」

「ふふっ、今はヘタレじゃなくて甘えたね」

「2人に甘えてると落ち着きます」

「よしよし。可愛いなー」


 アリアとミーシャに頭とか背中とか撫でて貰いながらご満悦なイリーネ。

 カレラとケーラ、フィオナとマイリーはここにはいないが、今頃彼女達も愛し合っていることだろう。

 クオーレは心の中で軽くほくそ笑む。


 イリーネ達が同じクラスになったのはクオーレの暗躍があったからだ。

 毎晩理事長の耳元で3人を同じクラスにするように囁き続けたらそうなった。

 理事長は一種の洗脳状態になったと思われる。

 イリーネが学園で試験を受けている時に見つけたアリアとミーシャ。

 クオーレはアリシアとミーアの生まれ変わりだと気が付き、彼女達のことを調べて理事長を洗脳状態に陥らせたのだ。


 ついでに言えば、アリシアとミーアがいるならカミラとケーレ、フィーナとマリーもいる筈だと調べたのもクオーレ。

 クオーレの予想通りに4人は生まれ変わっていて、クオーレは【リリエル】に代わってロマーナの地を守護していたトレイシーの傍にカレラとケーラを邪族と彼女達を誘導させて、あたかも偶然鉢合わせたかのような状況を作り出し、トレイシーが彼女達のことを嬢子(でし)にしたくなるようにした。

 そこ迄したら残るは最後の仕上げ。

 あの時にトレイシーに邪族に気付かせるように彼らの邪気を翼をはためかせて空に舞い上がらせて、トレイシーとイリーネ達を接触させるように図った。

 上手くいくかは分からなかったが、作戦は成功。


 そして、【リリエル】と【ガザニア】は再結成されて今に至っている。

 【クレナイ】についても調べてはいたが、彼女達は前世も今世も少々立ち位置が特殊なのでクオーレは何もしなかった。どうせあちら側から接触してくるだろうと勘で思っていたのもある。

 その予想は大当たり。【クレナイ】はイリーネとアリア、ミーシャの3人の心情を[友情]から[愛慕]に変えてくれた。

 クオーレは幸せそうな主人を見て薄く笑む。


「良かったね。イリーネお姉ちゃん」


 小さな声でそう言ってからは、クオーレは羽繕いを始めた。

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