-特別編3 最終話- 遠い刻 その10。
私達が後悔したのは当然のこと、なのだ。
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休日。ルージェン王国ロマーナ地方。
これって偶然なのかな? それともなんらかの[力]が働いているのかな?
かつて【リリエル】が拠点とされていたとされるその地方。
トレイシーさんはこの地方を守護する魔女で領主様ことシェーラ様の側近として働いている。
その場所に呼ばれた私達。ここ迄は私以外には今迄ぬいぐみのフリをし続けていたクオーレがついに他の皆にも自分の正体を明かし、私達を迎えに来てくれていたトレイシーさんも彼女が背に乗せて連れて来てくれた。
クオーレは可愛い。可愛いし、人をダメにする触り心地が彼女の魅力。
正体を明かした彼女はあっという間に私以外の彼女のことを知らなかった皆から人気者になったけど、私は彼女のことを良く知ってるから、ちょっと複雑な気持ちになってしまった。
まぁ、よく言って聞かせておけば彼女も妙なことはしない。と思う。うん。
まずは領主様に挨拶。一言で言うと「残念な女性だった」。
私達のことを見た途端に急に鼻息が荒くなって、領主様はトレイシーさんと並ぶもう1人の側近の方にまるで暴れる動物を大人しくさせるかのように諫め、宥められていた。
その側近の方の手際が妙に手慣れたものな気がしたけど、普段から領主様はああいう感じの方なのかな?
だとしたら、トレイシーさんといい領主様といい……。
私達はそれ以上深く考えることを止めた。
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ロマーナ地方。【リリエル】の拠点だっただけに、彼女達の再来とされる私達は何処を歩いても騒がれた。
中にはサインを強請ってくる人とか、何故か無料で食べ物をくれたりする人なんかもいて、こちらは恐縮しっ放しだった。
【リリエル】の再来と言われても私達がここの地方の人々の期待に応えられるかどうか分からないんだから。
トレイシーさんは呑気に大々的に私達のことを宣伝していたけど、ね。
お蔭様で【リリエル】の残り2人とされる繚乱の槍聖、威風の戦姫と呼ばれる女性達とは予定よりもかなり遅れての初対面となった。
遅れたこと申し訳ないなぁと思っていたけれど、2人は恋人関係にあって、私達が到着する迄の間はイチャイチャしていたと聞いて、その考えは何処か遠くへ飛んで行った。
で、初対面。お茶でも飲みあって交流を図るのかと思ってたら、トレイシーさんから言われたことは会ったばかりの5人でまさかの邪族狩りをして貰うってこと。
5人共面食らったけど、トレイシーさんに容赦なく風の魔法によって邪族の巣に私達は放り込まれて唖然としつつも戦闘開始。
普通は初対面で連携なんて取れない。
それなのに、私達には彼女達の動きが分かってその巣の邪族を壊滅に至らしめるのにそれ程の時間を有することはなかった。
あまりにもあっさりと終ったものだから、呆けることになった私達。
「は? うちらって初対面だよね? なんか貴女達ってうちらのこと全部知ってるみたいにサポートしてくれるし、攻撃して欲しいところにしてくれるしで戦いやすかったんだけど」
「そうだな。正直びっくりしている」
「それは私達も同意見なのですが……」
「そうね。イリーネの言う通りこちらもびっくりしてるわ」
「ところで2人は魔法は使えないタイプー? 見た限りハルバートと槍でしか攻撃してなかったけど」
「ああ、私達は魔力がない。だから完全前衛タイプだ」
「なるほど。ですが、その辺りのことは補い合えば問題なんてなさそうですね」
私達は後衛タイプだけど、完全に後衛しかできない訳じゃない。
ミーシャは拳に炎を纏わせて敵を殴るなんてことができるし、アリアは杖の他にダガーを持っていて、それを持つと彼女は魔女から暗殺者へと変わる。かくいう私もそのアリアと同じ。
5人で意気投合して主に戦闘法について話をしていたら、いつからそこにいたんだろう?
"ひょこ"っとクオーレが私達の近くにある大岩の背後から顔を覗かせてきた。
嘴に何かが咥えられている。
濃いブラウンのバッグ? 見た目からするとマジックバッグのようだけど、彼女は何処からそんな品物を手に入れてきたのか。マジックバッグって希少品で店に出回ることなんて滅多にないというのに。
そのバッグ。クオーレが渡したいのは私のよう。
魔法陣が表面に描かれていることから、すでに持ち主がいるのでは? と思いつつも受け取ったけれど、手に持った瞬間にバッグと私が繋がっていることが分かって今日だけで何度目? 私は驚くことになった。
「イリーネお姉ちゃん、【リリエル】ならその衣装を身に纏わないとね」
「衣装って、【リリエル】であることを示す為のですか?」
「うんうん。そのバッグの中に入ってるから」
クオーレに言われてバッグを漁ってみると本当にそれが出てきた。
「出てはきましたが、ここって外なんですよね」
「その為の障壁だよ。イリーネお姉ちゃん」
「ここで着替えろと言うんですか?」
「【リリエル】の復活を教えてあげなきゃだよ?」
………………………………。
「魔力の障壁。それから土の壁」
私の魔法で私達の周りに創り上げる高さ30m程の土の壁。
それを守るように障壁も張ったので、これで中で着替えていても誰かに見られる心配は無い。
「着てみますか?」
「それって特許で守られるんじゃねぇのか? 大丈夫なのか?」
「【リリエル】と共にらしいし、それで私達は【リリエル】。問題ないんじゃないかしらね」
「私は着てみたいー」
ミーシャの言葉が後押しになって、私達は【リリエル】の衣装を身に纏うことが決まった。
なんとなく恥ずかしいので、全員後ろを向いての着替え。
ブラウスにスカートに靴下にブーツ。襟部にリボンタイをつけて、後はこれぞ【リリエル】たる代名詞と言えるローブを羽織る。最後に私のみ被る三角帽子。
着替えている間、クオーレの視線が……。
やっぱりこの子は、うん。そういう子だ。
「着替え終わりましたか?」
皆に聞くと、終わったとのことで一斉に振り向く。
言い方は変だけど、そこには【リリエル】が確かに立っていた。
「これを着たら急に身が引き締まった気がするわ」
「分かるー。それに、懐かしさを感じる気がする」
「私もです。やっぱり私達は【リリエル】の生まれ変わりで間違いないのかもしれませんね」
「それがまたこうやって揃って出会えた訳だ。これって奇跡だよな」
「雰囲気に水を差して悪いけどさ、うちはちょっと作為的なモノも感じるけどね。そこにいるスライム? の特異種の画策のような?」
「それは私も思いますが、こうして出会わせてくれたのですし、良いことではないですか?」
「まぁ、そうだね。これからまたよろしく」
円陣を組み、5人の右手を重ねあう。
その右手が全員分揃ったら手を上へあげて、私達は互いに顔を見合わせて微笑みあい、3人から5人となった完全なる【リリエル】の再結成を全員で祝いあった。
魔法を解いて外へ。私達の姿を見て感動するトレイシーさん。
私はトレイシーさんに笑み、彼女が油断しきっているところで魔法を使って邪族の巣送りにした。
やられたことはやり返す主義なのだ。頑張ってくださいね。トレイシーさん。
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その日の夜。
今日はロマーナ地方でお泊り。
ラナの村。かつて私達が暮らしていた家。
もうかなりの年数が経過しているのでそのままではない。
最新のモノと伝統のモノが融合された家となっている。
【リリエル】亡き後も村人達によってその家は大切に修繕・保管されていたらしくて、傷んだりなどしているところとかは無い。
私達はその家に村人達に案内して貰って、気が付けばこの家を譲り受けていた。
「で、これからどうしますか?」
私が皆に、特にアリアとミーシャに聞きたかったのは、学園を卒業するか否かのことだったのだけど、何を勘違いしたんだろう?
2人は私の右腕と左腕を掴んで真新しい私の部屋に連行した。
部屋割りはもう決めてある。
前に私達が暮らしていた頃よりも家は大きくなっているようで、愛嬢子達が暮らすことも可能になっている。
1階はリビングやお風呂などがあり、2階は南と北で4室ずつの個室がある。
そのうちの北側がアリア・私・ミーシャの部屋。
南側がカレラ・ケーラ・マイリー・フィオナの部屋。
北側に1室余ってるけど、そこはこの先に多分倉庫として扱われることになると思われる。
クオーレの部屋にしても良いんだけど、彼女は私の部屋から離れることを嫌がるだろうし、ね。
「あの、ここに連れて来られた理由を聞いてもいいですか?」
「これからどうする? って聞いたのは貴女じゃない?」
「そうだよー。だから連れて来たんだよ? イリーネ」
「すみません。聞いてもイマイチよく分からないのですが?」
「どうするって言われたら、ね?」
「ねー」
アリアとミーシャの2人が私に抱き着いてくる。
ベッドに押し倒されて2人から順番にキス。
私はキスして貰うのが好きみたい。
久しぶりだったから嬉しい。
「もっと」
「「ん?」」
「もっと、キスしてください」
私が強請ると2人の顔が赤に染まった。
「か、可愛いのね。イリーネって。知ってたけど」
「その蕩けた目は反則だと思うなー。アリアも頬赤いの可愛い」
「そういう貴女もそうなってるわよ」
「あははっ。まぁ、イリーネのお願い聞いてあげるねー」
可愛い2人。私のお願いに応えてくれる。
まずはアリアが私を強く抱き締めながらキス。
私も抱き締め返して息が苦しくなる迄私はアリアを放さなかった。
呼吸を整えたら次はミーシャ。彼女は私に笑みを浮かべてから私の両腕を掴むようにしてキスをしてくれた。
2人が離れたら部屋に漂う甘い雰囲気。
そこから先は私達だけの甘くて、少しだけ切ない、大切な秘密の思い出。
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以降、もう1年だけ魔法学園に在籍してから卒業。
卒業の際に【リリエル】を輩出したと大喜びしていた理事長にはちょっと引いてしまった。
それからは私達はかつての【リリエル】と同じようにこの地方・この村で暮らすことにした。
私達の愛嬢子【ガザニア】も一緒。
賑やかな7人での生活。
極々たまに口喧嘩くらいはすることはあるけれど、基本的には7人皆で仲良しの暮らし。
この地方の人々は皆優しい。過去の私達がここを拠点に選んだのも頷ける。
夜。軽く叩かれる私の部屋の扉。
訪問者は分かってる。
それ迄椅子に座って読書をしていたけど、本に栞を挟んで中断。
椅子から立ち上がってドアの前に行き、開けると笑顔で廊下に立っているアリアとミーシャ。
「今日は私の部屋に来る日よ。イリーネ」
「寝る時は3人一緒って。この習慣ずっと続いてるねー」
「そうですね。ちなみにフィオナとマイリーも私達を真似てどちらかの部屋で寝るようになったみたいですよ」
「カレラとケーラは……。言う迄もないわね」
「ですね。この家のドアや壁が静穏構造になっていて良かったと思います」
「うんうん。ああ、そう言えば【クレナイ】。オリーブさん達もそろそろこっちに引っ越してくるってさー」
「結局そうすることにしたんですか。寮の設備が気に入っているからと悩んでいたようですが」
「温泉がないなら造ればいいじゃない! とか言い出したらしいわ」
「あの女性達は何処へ向かおうとしてるんでしょうか」
「温泉宿の女将さんと仲居さんー?」
私達は廊下で"くすくす"と笑いあう。
ひとしきり笑ったら私達はアリアの部屋へ。
私達は今日も大好きな女性達と抱き合って―――。
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特別編3 Fin.




