表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/120

-特別編3- 遠い刻 その09。

 私は今度こそ目を閉じて再度の眠りに就いた。


**********


 時が経つのは早いもので私達が恋人同士となってから早くも1年。

 この間、つい最近迄はそれ程変わったこともなく、普通な日常という日々を過ごしていたのだけど、最近になって私達にとって転化を迎えるできごとが起こった。

 それは私達に師匠ができると共に嬢子(でし)ができるという慌ただしいできごと。

 

 話は1ヶ月程前迄遡り、学園の休日中に私達は王都から少し離れた所にある森に森林浴をしに出掛けていたのだけど、その途中で邪族に襲われている女の子2人組を発見したことが全ての始まり。

 2人共にエルフで、だからその子達も私達と同じように森林浴目的で森に訪れていたのだろう。

 ところが運悪く邪族がいて、2人はソイツらに目を付けられて襲われることになってしまった。

 それをたまたま見つけたのが私達。本当はハンターのライセンスを持たない者は邪族との戦闘は自らの防衛の為以外は禁止されている。一般人が下手に手を出して返り討ちにされてしまう。などということが起こらないようにする為に。

 

 この時の私達はハンターのライセンスなんて持っていなかった。

 なので邪族との接触はしたらダメなのだけど、私達にはライセンスは持って無くても邪族と渡り合えるだけの[力]があることは自分達が良く知っている。大体、今にも目の前で邪族によって殺されようとしている子を見捨てるなんて真似、人の血が通っているならできよう筈もない。

 こういう時に使わずして何が[魔法]だ。何の為の[力]だ。

 見つかったら何らかの処罰が下ることになるだろうけども、その時はその時。

 私達3人は2人の前に飛び出して魔法を駆使。邪族を完膚無き迄に叩きのめして撃退させることに成功した。

 女の子2人組を助けることができて安心した私達。

 安堵のため息を吐いた時にその子達が話し掛けてきて、私達に嬢子(でし)入り志願をしてきたのだ。

 どうやら彼女達も私達とクラスは違えど同じ魔法学園に通っている子達だったらしい。

 それで私達の強さを見て「嬢子(でし)にしてください」なんて言ってきた訳だけど、この子達は2つ程勘違いをしていた。

 1つは私達のことを学園に通いながらもハンター活動もしている生徒達だと思っていたこと。

 実際に小遣い稼ぎでそういうことをしている生徒もいるからそう思ったのも無理はないと思うけど、残念ながら私達は一般人でハンターライセンスは持ってない。

 1つは魔女であると思っていたこと。

 まだ見習いで魔女じゃない。

 ので、嬢子(でし)を取ることはできないと彼女達に伝えた時に現れたのが私達の師匠となる存在。

 玉響の魔女トレイシーさんだった。


 彼女はこの辺りを箒で飛んでいた最中に誰かが邪族に襲われている気配を察知。

 箒を操ってそれらしい場所に降り立つと私達が撃退中。

 危うくなれば加勢に入るつもりがその必要はまるで無かった。

 そこで思い出したのが、他の魔女から聞かされていた【リリエル】の生まれ変わりらしき魔女候補がいるらしいという話。

 彼女は興味があって是非共その存在を見たいと思っていたのに、そういう時に限って自分が守護する地方で緊急の仕事が入って行くことができなかった。


 それを今日、[生]で見ることができた。

 彼女は嬉々として私達を[魔女]として認めると言い出し、ついでに自分の嬢子(でし)にならないかって私達のことを誘ってきた。

 悩んだけど、決して悪い感じの人じゃない。逆に私達のことを気に掛けてくれた上での言葉のような気がして、私達は彼女の嬢子(でし)となることを承諾した。

 これによって私達は魔女となり、師匠と嬢子(でし)が同時にできたのだ。

 

「それじゃあ貴女達に称号を与えないとね。と言っても、本当に【リリエル】の生まれ変わりみたいだし、ミーシャちゃんだっけ? 以外の2人はそのままでいいわね。イリーネちゃんは悠遠の魔女、アリアちゃんは雪華の魔女。後はミーシャちゃんは。そうねぇ。炎帝の魔女なんてどうかしら? そのままだけど」


 3人共それを聞いた時は動揺してしまった。

 特に私とアリアなんて【リリエル】まんまの称号。

 過去の自分達らしいけど、どうにもこう、恐れ多さとでもいうのかな?

 そういうモノを抱いてしまって自分達には相応しくないのでは? と師匠に言ってはみたけれど、「貴女達以上に相応しい人物はいないわよ」と爽やかに言い切られてしまって私達の称号は師匠が言ったもので決定した。


「それからあたしは師匠って呼ばれるのがあまり好きじゃないの。だからあたしのことは名前で呼んでね。それと……」


 師匠……。トレイシーさんがこの後に言ったことは2つ。

 1つは現在はハンターギルドで特別扱いされていて、何者も使用することが許されていない【リリエル】・【クレナイ】・【ガザニア】の3つの称号のこと。それらを魔王ラピス様を介して復活させるので私達がそれらを名乗るようにとのこと。

 【リリエル】は私達。【ガザニア】は私達の嬢子(でし)となった子達。

 嬢子(でし)の子達は目を丸くしてたけど、トレイシーさん曰く歴史をなぞってるとしか思えないからと笑いながらの言葉。

 もう1つは学園にはそのまま残ってもいいけど、たまには自分が守護している地方の邪族狩りを手伝って欲しいとの要請。

 私達はその要請を勿論肯定した。

 それを聞くとトレイシーさんは「そうと決まれば、早速手続き済ませてくるわね」ってここに来た時と同じように箒に乗って行ってしまった。


 後に残された私達。


「なんて言うか、嵐のような女性(ひと)嬢子(でし)になっちゃったわね」


 そのアリアの言葉には私達も同意してこの場の全員で頷いた。


「ところでですが、貴女達の名前をまだ聞いていませんでしたね。まずは名前を教えて貰っても構いませんか?」


 これからきっと長い付き合いになる。

 師匠と嬢子(でし)。師匠側の私達が嬢子(でし)の名前を知らないなんておかしい。

 聞くと彼女達は自分達の名前を教えてくれた。


 黒髪のショートボブの子がフィオナで光の差し具合によって、黄金にも黄緑にも見える神秘的な髪色をしたもう1人のロングヘアな子がマイリー。

 

 森林浴のついでに彼女達に魔法学を説いてみたけど、彼女達は私達が思っていた以上に聡く、砂が水をあっという間に吸収していくように私達の教えを次々自分達のモノとしていった。

 元々素質は充分だったのだろう。それがあんまり上達していなかったのは、学園の魔法学の教師に恵まれなかった為だと思われる。

 魔法学園は生徒数が多いだけに、教師も多くて……。

 こういう言い方は少し罪悪感があるけれど、当たり外れが大きい。

 彼女達は外れの側に当たってしまったモノと思われる

 でなければ今頃、私達の教えなんて必要なく自分達だけで優秀な魔女になれていた筈だ。

 私達は彼女達が自分達からどんどん学びを吸収していくのが楽しくなってきて、思わず現在学園で教えている以上のことを彼女達に教えて、それを習得させた。


 その日のうちに私達はすっかり彼女達に懐かれた。

「師匠」って私達のことを呼びながら私達に着いてくる子犬みたいな彼女達のことが私達も可愛くて、嬢子(でし)から愛嬢子(まなでし)に変わるのに時間なんて掛からなかった。


 フィオナが私と同じデザインの杖を持っていたことも一役買っている。

 彼女にそれをどこで買ったのか? と聞いてみたら、彼女も幼い頃の私と同じで知らないけど持ってたとの応えで、しかも杖のことを聞いてくる親が怖くなって大泣きしたことがあるとのことで、同調した私達は昔話に花を咲かせた。

 森林浴と愛嬢子(まなでし)への魔法の授業を終えてから帰り道。

 トレイシーさんと再会したのはその時だった。

 

「手続き全部済ませて来たよ」


 彼女は笑顔だったけど、私達は少しばかり顔が引き攣った。

 行動がここ迄早いなんてね。心の準備できてないんですけど?


「【リリエル】と【ガザニア】の復活ね。……と言っても【リリエル】には後2人メンバーが足りていないんだけど。まぁ、2人ともあたしの嬢子(でし)になってるし、近々紹介するわね」

「紹介って。その女性(ひと)達ってどんな女性(ひと)達なんですか?」

「ん? 1人はダークエルフの子でもう1人はダークエルフとサキュバスのハーフの子ね。本来はハーフの子なんて生まれる筈がないんだけど、珍しい[人]の特異種ね。その子達の名前はケーラちゃんとカレラちゃんって言うんだけど、あの子達も元々【リリエル】だった子達だし、会ってみたらすぐに仲良くなれると思うわ」

「はぁ」

「なんだったら、次の学園の休日の時に会ってみる? うん、それがいいわね。是非そうしましょう。決定!」

「え? ちょっ」

「じゃああたしは帰るわね。またね~。次の休日に迎えに来るからね」


 行っちゃったし。

 ええ……。何もかも勝手に決められた。

 嵐にも程があるんじゃないかなー。

 アリアとミーシャ。愛嬢子(まなでし)達の顔を見る私。


「どう思いますか?」

「どうもこうもないわ。悪い女性(ひと)じゃないのは確かよ? ただね、これからの将来がしんどそうよね」

「「「「「はぁ……っ」」」」」

 

 私達は全員で心の底からのため息を吐き出した。

 尚、これもトレイシーさんの仕業なのかな? 学園の寮に帰宅したら学園中に私達のことがいつの間にか広まっていて、私達は学園中の人々から揉みくちゃにされて、質問責めに合う羽目になった。


 付き合う相手を間違えた―――。


 猪突猛進な女性(ひと)嬢子(でし)入りしてしまった。

 私達が後悔したのは当然のこと、なのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ