-特別編3- 遠い刻 その08。
禁忌に触れてしまった私はもう自分を止めることができなかった。
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「こないだの恋人ごっこってまだ有効ですか?」
私が私の突発的な行動に呆気に取られているアリアとミーシャに最初に言ったことはそれだった。
歯止めが利かない。私が言ったことをまだ理解しきれていないのかな?
2人が返事をする前に私は行動を開始して、「ごめんなさい」と一言謝ってから彼女達のことを私の両手の中に抱き込んだ。
軽蔑されるかもしれない。それだけならまだ良い。
これで友達を失うことになるかもしれない。
ただの友達じゃない。私にとってはもう親友以上に感じている大切な友達。
3人で同衾なんてことを始めたあの頃からだ。
さっきの温泉施設ではオリーブさん達にただの友達なんて言っちゃったけれど、本当の私の気持ちはそうじゃない。
もっと大人な女性達から見たら今の私は思春期の勘違い的なものに映るのかもしれない。
自分でも早計なところがあるとは思っているけれど、この気持ちは絶対に勘違いなんかじゃない。
「ごめんなさい。嫌な思いをさせるかもしれません」
もう1度謝罪してから最初にアリア、次にミーシャの順番で彼女達の頬にキス。
これで離れようとすると、アリアとミーシャの2人に両腕を片方ずつ掴まれた。
「いや、これで頬だけで終わらせるとかヘタレかー」
「ごめんなさい、イリーネ。私もミーシャに同意見だわ」
「えっ!?」
「あ~もう、このヘタレ!! 分かったわ! 私達が分からせてあげたらいいんでしょ? ミーシャ、先にしてもいいかしら?」
「いいよ。アリアに譲ってあげる。イリーネのことを好きになったのは、私よりもアリアの方が先だと思うし」
「え? 好き?」
「そうよ! 貴女のことを一目見た時からなんとしても私達の恋人にするって思ってたわよ。悪い?」
「私はその頃はそうは思ってなかったんだけどねー。実はアリアがイリーネを王都観光に誘う前に聞かされたんだよね。計画」
「け、計画ですか? ミーシャは良いんですか? それで」
「私がアリアの言いなりで行動してると思ってるー? そうじゃないんだよね。あの王都観光の時のイリーネを見てからかな。私もアリアと同じ気持ちになったのは。だから、私は2番目。ということで一目惚れしちゃったアリアに最初は譲るよ」
「ありがとう、ミーシャ。さぁ、覚悟しなさい。このどヘタレ」
ヘタレヘタレって言いすぎだと思います。アリアさん。
反論できないところが悔しかったりするけど。
アリアの両腕が私の首に回される。
黄金の瞳で見つめられているうちにどんどん身体が熱くなっていく。
心臓の音が煩いし、脈も異常な程早くなってるのがよく分かる。
「私は頬で済ませるようなことはしないから! 目を閉じなさい。ヘタレ」
「すみません。流石に言われ続けると傷つきます」
「あんなこと言っておいて、かつ行動迄しておきながら、あれで済ませる貴女が悪いのよ!」
「うっ……」
「分かったら黙って目を閉じる!」
「はい」
アリア、怒ると迫力あるんだなぁ。普段はなんだかこう、お嬢様っぽい感じだからギャップがあって怖い。
これ以上彼女を怒らせてしまう前に私は静かに目を閉じる。
気配は感じるけど、いつ重なってくるか分からないことに目を開けてる時よりも言葉で表現できない気持ちがある。しいて言えば、昂ってる?
「一目見たその時から貴女のことが好きだったわ。イリーネ」
アリアの唇が私の唇に重ねられる。
こんなにも柔らかいんだ? ってびっくりした。
少ししてアリアが離れていく。目を開けるとさっき迄の怒ったような、照れたような顔とは打って変わって満面の笑みを浮かべてる。
「じゃあ次は私だねー」
そう言ってアリアの時は首だったけど、ミーシャが腕を回すのは私の腰。
「イリーネ、目閉じてー?」
「はい」
「素直なところ可愛い。好きだよ。イリーネ」
キスの仕方もアリアと違う。彼女は正面からだったけど、ミーシャは私の身体を少しだけ折れさせての上からのキス。こ、これはこれでちょっと心臓が飛び出そうというか、なんというか。2人共私とは全然違う。
これじゃあ私がヘタレって言われてしまうのも仕方ない。
ミーシャが離れると、彼女達は揃って私に言ってきた。
「告白の返事は最初に貰ってるようなものだから、私達はこれから恋人同士ってことでいいわよね?」
「私で良いんですか?」
「え? まだヘタレるのー? 私達は気持ちを伝えたつもりなんだけどなー」
「えっと、その……急展開だなぁと言いますか」
「それ、貴女が言う? 最初にキスしたのはイリーネよ?」
ごもっともです。
これで私達は友達から恋人に昇華したんだ。
心臓は変わらずに喚いてるけど実感が伴わない。
こんな素敵な女性達が私の恋人でいいんだろうか。
「イリーネ!」
「はい!」
ジト目で見るのやめて。アリア。
いや、アリアだけじゃなかった。ミーシャも私のことを同じ目で見てる。
「今、何考えてるか当ててあげましょうか?」
「……。その、ごめんなさい。多分2人が考えてることは当たってると思います」
「ふ~ん。じゃあ分かる迄何度でもしてあげる必要があるような気がするかなー。私は。アリアはどう思う?」
「そうね。イリーネはヘタレな上に鈍感みたいだから1度だけじゃ分からないみたいだし、ね?」
「ということでー」
笑顔の2人にまたまた掴まれる私の両腕。
そのまま連行されるのはベッドの上。
右腕はアリアに押さえられて、左腕はミーシャに押さえられちゃって私はベッドに張り付け状態。
その後私は2人に代わる代わるでキスをされて、3人は恋人同士っていうことをしっかりと心に刷り込まれた。
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深夜。
いつもなら朝になる迄目が覚めることなんてないのに今日は珍しく目が覚めてしまった。
視線を動かすと私の前方にはアリアがいて、後方にはミーシャがいる。
これはここ数日と同じだけど、同じじゃない。
私の前方にいる女性も、後方にいる女性も私の恋人になったのだから。
嫌われるどころか恋人になるなんてね。
しかも実は2人は私より先に私のことを好きになってた。なんて事実が発覚したから夢みたい。
…………夢じゃない、よね?
起きたら「何のこと?」とか言われたら凹む自信があるよ。私は。
でも、でもあれだけキスして貰えたんだから。夢な筈がない。
唇に2人の唇の感触が残ってるし、覚えてる。
多幸感が溢れてくる。自然と顔が緩む。
私、恋人ができたんだ。
「ふふっ」
思い出すオリーブさん達の惚気話。
今度は私達も惚気話返しをすることができる。
祝福とかして貰えたりするかな?
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うん。想像してみたけど、他人に惚気話するのって恥ずかしいな。
アリアとミーシャからは今夜みたいに「ヘタレ」呼ばわりされることは確実だろうけど、生まれ持っての性格はそう簡単には直せないよ。
3つ子の魂100迄だっけ? そう言うし。これって[人間]に当て嵌めて使う言葉らしいけど、私達エルフの方が合ってる気がする。エルフは100歳で成人だし、ね。
「とは言え、黙っていたら黙っていたでアリアとミーシャに私の分迄あれやこれやとバラされて私は羞恥に悶えることになりそうな気がしますね」
これは勘だけど、恐らく当たる。今日の2人の調子を目の当たりにした私だし、外れは無いと思う。
「それなら私も少しくらいは変わらないといけませんね」
最低でも好きな2人から「ヘタレ」って言われずに済むくらいには。
「アリア、ミーシャ」
なんとなく名前を呼んでみたら、2人から返事がされた。
「「好きだからね! イリーネ」」
「……! 起きてたんですか!?」
「「すーすー……」」
寝言だったっぽい。それにしても、寝言で迄私のことを呼んでくれるなんて。
何処迄私を幸せな気持ちにさせたら気が済むんだろう。この2人は。
「私も好きですよ。アリア、ミーシャ」
2人の想いに包まれながら目を閉じる。
その前に私達の傍でずっとぬいぐるみのフリをしていたクオーレと目が合ったような気がした。
「もしかして最初からこれが貴女の企みだったんですか?」
クオーレは何も言わない。あくまでもぬいぐるみのフリを続けるよう。
そんな態度を取られると益々怪しい。この子は何を狙っているのやら?
「ですが、ありがとうございます。クオーレ」
クオーレがあの時に来てくれなかったら、アリアとミーシャとは会えてなかったかもしれなかった。
これがクオーレの暗躍によるものだとしても、心の底からそうなりたいって思える女性達とそうなれたんだから感謝するべきだ。
私は今度こそ目を閉じて再度の眠りに就いた。




