-特別編3- 遠い刻 その07。
朝食・夕食が提供される時間は決まってる。
私達は若干慌てて食堂に駆け込んだ。
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寝る時は3人でと決まってから1週間が経過した。
学園での生活は相変わらずで勉強も楽しいし、クラスメイト達も気さくに話し掛けてくれるので充実した日々を送らせて貰っている。
一時は【リリエル】の再来だとかなんだとかで騒ぎに迄なったのに、皆の態度が特段変わることが無いのが私にとっては嬉しい。
特別扱いとか、敬遠とかされたくないから。
そんな中、私達はとある試みに挑戦しようとしていた。
キャマラーダリー寮。私達が暮らしている寮。
12階建てのこの建物は実は生徒達専用の部屋が用意されているのは11階迄で、最上階にはそれが無くて代わりに特別な施設が完備されている。
それは温泉。内風呂だけだけど、代わりに泡風呂とサウナと冷房部屋と水風呂もあって、この寮を利用している生徒達は掃除時間内。12~16時の間以外はいつでもこの施設を楽しめることになっている。
ちなみに深夜も建前上は利用は控えるようにとされているけど、寮長さんも学園の偉い人達もその時間に生徒が利用していても何も言わないので、大勢の前で服を脱ぐのが恥ずかしいなどと感じる生徒は深夜帯の人が少ない時間に利用していたりする姿が見受けられる。
私達はこの寮に居ながらにしてその施設を利用したことが無い。
このままでは勿体無いということで、今夜初挑戦してみることになったのだ。
深夜帯ではなく、普通の時間帯に。だって深夜は、3人で寝るようになってから冗談抜きで3人共に寝付きが良くなって完全に寝落ちちゃってる時間帯になってるから。
「ということで来てみた訳ですが……」
「なんというか、あれね。慣れてないから恥ずかしいわね」
「タオル。お風呂につけるのは厳禁だからねー? アリア」
「知ってるわ」
3人で一斉に服を脱いで、その脱いだ物は専用のロッカーの中へ。
ロッカーは鍵が閉まるようになっていて、その鍵は腕輪のようにすることができるようになっている。
私達は3人共に14歳。服を着てない姿は初めて見るけど、2人共プロポーションがかなり良い。
幼いところはありつつも、ちゃんと女性の身体をしている。
2人を"じ~っ"と見ていたら、同じように2人も私を"じ~っ"と見ていることに気が付いた。
3人でそれに気が付いて、わざとらしく咳払いしてから脱衣場からいよいよ温泉デビュー。
中は広々としていて、聞いていた通りの設備が設置されている。
まぁ、サウナなんかは次回使うことにして今回は普通に内風呂温泉の利用だけに留めるつもり。
身体を洗っているとアリアから「背中は洗ってあげるわ」っていう声が聞こえてきた。
お願いした私が馬鹿だった。ミーシャも参戦してきて足の裏とか擽られることになった。
アリアにも背中を洗うと言いつつ脇の下とか擽られたので2人には"キッチリ"と仕返しさせて貰った。
「お風呂に入る前に疲れたんですが……」
「イリーネ、容赦なさすぎだと思うわ」
「私よりミーシャの方がよっぽど容赦なかったですよ。私のことを擽り殺す気かと思いました」
「ごめんごめんー。イリーネの反応が可愛くてー」
「やり返したからいいですけど」
ぶつぶつ言いながら湯あみして湯舟の中へ。
熱くない。温くない。良い感じの湯加減。
1日の疲れが抜けていく。
部屋のお風呂も良いけど、足が伸ばせるっていう意味では温泉の方が良い。
のほほんとしていると丁度一緒になっていたらしいクラスメイト達が数名私達の元へとやって来た。
「ねぇねぇ、イリーネさん、アリアさん、ミーシャさん」
彼女達は確かオリーブにロロエ、コニーだったっけ?
私達と同じようにいつも3人一緒に行動してて、一部界隈では3人は実は恋人関係なのでは? なんて話のある子達だ。嘘か本当か。キスし合ってるのを見たっていうクラスメイトもいる。その子はまだ恋人がいない子だったから、羨ましいって言ってたっけ。できるといいね、恋人。
……は置いといてそんな3人が私達に何の用なんだろう?
なんとな~く"ニマニマ"してる気がするけれど。
「えっと、どうかしました?」
私が口を開くと3人の中の代表者・オリーブさんが私達に聞いてきた。
3人共に16歳。だけどクラスメイト。魔法学園は年齢別ではなくて入学した順だから年齢は関係ない。
14~22歳の生徒達が混載してる。
「さっきの見てたけど、実は3人共わたし達と同じように恋人同士なの?」
「「「ごほっ」」」
オリーブの質問に私達は思わず吹き出してしまった。
私達は恋人同士じゃない。友達だ。ということでオリーブさんの質問に揃って首を横に振る私達。
「隠さなくていいのにー」
とか言われたけど、本当にそうじゃないと話すと意外な顔をされつつも納得してくれた。
「そうなんだ。てっきり恋人同士だと思ってた。仲良いし」
「……ところでさっき、わたし達みたいにって言ってたわよね? それはつまり噂は真実だったってことかしら?」
「あちゃ~。3人も同じだと思ってたから話し掛けたけど、違くてまさかの藪蛇になっちゃたなぁ」
オリーブさんが困惑した顔で自分の恋人らしい2人の顔を見る。
頷く2人。オリーブさんはそれを見た後で私達に惚気話を聞かせてくれた。
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のぼせるかと思った。
あんなことやこんなこと迄話し出すなんて思ってなかった。
最初はオリーブさんだけだったのに、後半からは3人で話し出して私達は3人の話がキリがいいところでそそくさと退散することにした。
3人はまだ話したりなさそうだったけど、私達はもうお腹一杯です。
そんなこんなで温泉から戻ってきて脱衣場。
あの話を聞いた後っていうのもあると思うけど、お風呂上りっていうのも普通にあるのだろう。
アリアもミーシャも普段は白くきめ細やかな肌がほんのり桃色に染まっていて色香の漂い方が私に彼女達のことを意識させる。2人共綺麗で可愛い。
あんまり見てると意識が持っていかれそうだったので、私は名残惜しく2人から視線を外した。
同じように2人から私への視線も外れたような気もしたけど、自意識過剰かな?
何はともあれ私達は予め持ってきておいた服に着替えて温泉施設を後にした。
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夜。
今夜は私の部屋。
3人が3人、今日の様々なことを思い出してぎこちない。
オリーブさん達の話も強烈だった。そういう[事]に興味が無い訳ではない。
けど、私が思うのは温泉施設で見た2人のこと。
正直に言って、世界中の他の何よりも美しくて愛らしいって思った。
触れてみたいとも思ったけど、触れたら壊れてしまう繊細な硝子細工のようで怖かった。
今日は緑茶を飲みつつ、何気なく私の前方に座っている2人を見る。
真っ先に目に入るのは2人の唇。薄い赤。
私の唇と2人の唇を重ねてみたい。
2人共きっと可愛い顔を見せてくれるんだろうなぁ。
……………………。
って、こないだから私は変だ。
こんなことばかり考えてしまう。
思春期だからかな。参ったなぁ。
2人は友達なのに、私がこんなこと思ってるって知ったら幻滅する……よね。
嫌われたくない。なんとか知られないようにしないと。
とか私が思っていた時、アリアが私に手を伸ばして来た。
彼女に触れられる私の唇。なんとなくだけど、彼女は無意識で私に触れてきたような気がする。
目が"ハッキリ"してないというか、1つのことにだけ集中してるのがそこに良く現れてる。
「アリア?」
その証拠に彼女はミーシャから声を掛けられると我に返ったようで超速度でその手を引っ込めた。
「ご、ごめんなさい。その、なんて言うのかしら。イリーネって可愛いわね」
「アリア。残念だけど言い訳になってないー」
「うっ……」
ミーシャに指摘されてそっぽを向くアリア。可愛い。
私もアリアに倣って無意識を装って左右の手をアリアとミーシャの2人にそれぞれ伸ばして彼女達の唇に触れてみた。
「「イリーネ!?」」
禁忌なことだった。
やったらダメなことだった。
禁忌に触れてしまった私はもう自分を止めることができなかった。




