-特別編3- 遠い刻 その05。
何はともあれ私達は学園に戻って来て、魔女見習いとして生活を再スタートさせることになった。
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本日は学園は休み。
なので、いつだったかにアリアとミーシャが約束してくれたことを昼食も兼ねて実行して貰っている。
王都の観光。都会はやはり何もかもが進んでる。
例えば私が住んでいた地方では魔道列車が走るのは1時間に1本なのに対して王都では最低でも15分に1本は走っているし、そもそも駅からして私達の地方は無人駅だけど、王都の駅には駅員さんが沢山いるし、この国の地方を網羅するかの如く乗り場が多くある。それに何よりも広い。ここでもしも2人を見失ったら私は30分くらいは出口を求めて彷徨うであろう自信がある。
駅だけじゃない。あらゆる店も私達の地方とは比べ物にならないくらいに多いし、ゴーレム馬車も引っ切り無しにその姿を見掛けることができる。そんなに急いで何処へ行くのだろう? 忙しない感じが私からしたらするけど、物流品などが各地方に運ばれて行っているのだろう。その恩恵を受けて私達のようなのどかな地方の者達はそこ迄不自由なく暮らせているのだから、感謝しなくてはいけない。
それにしても……。
人の多いこと多いこと。人酔いしそうになる。
そんな私を気遣って立ち止まってくれるアリアとミーシャ。
「少し休憩した方がいいみたいね」
アリアがそう言ってくれた時、彼女の横を通り過ぎていく観光客らしき男。
私は素早く空中から杖を取り出してその男に向けて魔法を放つ。
「土鎖の束縛」
「うおっ! くそっ。なんだこいつは。離せ! 離しやがれ!」
男は拘束から逃れようと藻掻いているけど無駄なこと。
藻掻けば藻掻く程に逆に拘束はキツくなり、自身を苦しめることになる。
実際、今藻掻いたせいで鎖は最初は普通に拘束してただけだったのに、現状は男の身体を「く」の字に曲げてしまっている。
愚かな奴。私が"くすくす"と笑い出すと、アリアとミーシャは私が魔法を使った理由が分からずに呆けているのが見て取れた。
私は彼女達に微笑んで男の元へ。この時期には不釣り合いなローブ姿。
そのローブを漁ると出てくるのはアリアの財布。
悔しそうな男の顔。残念でした。私はスリを見逃す程甘くない。
男はそのままにアリアの傍へ。財布を無言で手渡すと驚いた表情になるアリアとミーシャがちょっと可愛い。
「全然気が付かなかったわ。ありがとう、イリーネ」
「私も分からなかったー。よく気が付いたね。イリーネ、凄い!」
「私から見るとあからさまでしたからね。それとミーシャ、お礼を言うのは私の方です。貴女は馬車が通る側の道を私達を守るようにして歩いてくれていますよね。ありがとうございます」
「……。バレないようにしてたつもりだったんだけどなー。なんだか格好悪くなっちゃった気がする」
「そんなことありませんよ。そういう気遣いをして貰えるのは嬉しいです。それにアリアも密かに私の体調なんかを気に掛けてくれていますよね。私が少し顔色が悪かったから休憩と言ってくれたのでしょう。2人共ありがとうございます」
優しい友達。2人は自分達の行動が私に筒抜けだったことで照れ臭そうにしてるけど、私としては良い友達を持ったなぁって思うばかりだ。2人と友達になることが出来て良かった。
「アリア、ミーシャ。実は服が欲しいのですが、何処か良い感じの衣料品店を知っていますか?」
「一応何件か知っているけど、その前にそこに転がっている男はどうするつもりなのかしら?」
「男? 何のことです? ではその店に案内してください」
私は「え?」っという顔をしている2人を置いて歩き出す。
アリアとミーシャは少ししてから私に追いついて私の横を歩き始めた。
たま~に、後ろを"ちらちら"と振り返りながら。
何を気にしてるんだろう? 後ろから変な声が聞こえてくるからかな?
そのうち衛兵なり国を守護するゴーレムなりが来ると思うよ。
だから別に気を遣わず変な奴は放っておけば良いんじゃないかなぁ?
「イリーネって怒らせると怖いのね」
「平然と無視して歩き出すのが恐怖を倍増させるよねー」
怒る? 私はちっとも怒ってなんか無いよ。至って普通だよ?
そう言えば変な声はもう聞こえなくなった。取り押さえられたかな?
ローブの中にはアリアの物の他にも財布が詰まってたから自国へ強制送還は間違いなしだろう。
ルージェン王国とルーディア王国と違ってこの国は島国ではないけど、だからと言って全ての国と国交がある訳じゃない。男が持ってたパスカードは偽物じゃなければ、この国と関係してる国の物だった。
魔道列車で行き来できる範囲の国の物。
「貨物部にでも乗せられて帰らされることになると面白いんですけどね」
私が冷笑しながら言うとアリアとミーシャにドン引きされた。
なんで? 解せない。
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友達に良い衣料品店を紹介して貰い、何点か気に入った服を買って現在は昼食が届くのを待っている最中。
女3人寄ればで楽しく話しているのは学園で習ったこと。
この世界にある魔道具の品々の多くは過去に別世界から召喚された人の知恵などを借りて作られた物で自分達だけだと今でもそこ迄発展することは無かった。とは言え異世界人もそんなに積極的に手を貸したりはしなかった。この世界のことを愛していたから。あまり大きな発展はさせたくなかったらしい。
そんな異世界人達だったので、魔道列車を造る話になった時も葛藤はあったものの、貿易などを考えるとあった方が便利ということで造られることになった。
ゴーレム馬車に関しても同じ。実は異世界人達が暮らしていた世界ではもっと違う乗り物があったのだけど、異世界人達は馬車に拘って馬をゴーレムに変えるだけの物を造り出した。
馬と違って、故障さえしなければ魔力を注げば何処迄でも行ける乗り物。
但し、この世界には邪族やら野盗がいるので遠出する場合は護衛は必須。
異世界人が召喚されてから少なくとも1,200年以上の月日が流れているけれど、過去よりはそれなりに発展してはいるものの、とてつもなく大きな発展を遂げてはいないってそう習った。
「【リリエル】の中にもいたんだったよねー。異世界人」
「みたいですね。その彼女達もこの世界が大きく変わることを望まない人物達だったようですが」
「【リリエル】と言えば、私達って本当に生まれ変わりなのかしら?」
「魔王ラピス様は当時から生きていらっしゃいますからね。自分でも今でも信じられませんが。……って待ってください! だとすると過去の私はリーネさん? ですか? ではさっき話してた異世界人ということになるじゃないですか!! そんな記憶なんてありませんよ」
異世界から召喚されたとか信じたくない。
私はこの世界のことが好きだし。魔王ラピス様の勘違いだって思いたい。
「最悪です」
頭を抱える私に救いの手を差し伸べてくれたのはやっぱり友達2人だった。
「生まれ変わりでもなんでも今は今。それに貴女がこの世界が好きなら別に異世界人だったとしても関係ないじゃない。この世界が嫌いで、帰りたいって思っているなら別だけれど」
「じゃあ私はミーアさん? か。自分のことと思えないからか、なんだかどうも敬称付けちゃうねー。それはそれとしてさ、リーネさんもミーアさんも過去に異世界で酷い目に遭ってきたんでしょ? そんな世界に私は帰りたくないなー」
確かに。今は今だし、帰りたくもない。
過去の私も同じ思いだったんじゃないかな?
だったら。
「今が幸せということはいいことですね」
「そうそう。それでいいと思うわ」
「ご飯来たよー」
待ってました~。お腹空いてた。
頼んだ品はカフェのカレーとラッシー。
香りだけで食欲がそそられる。早く食べたい。
「じゃあいただきましょうか」
「そうですね。お腹ぺこぺこです」
「結構歩いたからねー」
「では」
「「「いただきます」」」
食前の挨拶を済ませたらスプーンをカレーの中へ。
ご飯はサフランで色付けされていて黄色い。
見栄えが良い。味はどうだろう? って思ってカレーを口の中へ入れると甘すぎず、かと言って辛すぎもせずに良い感じの味だった。
スプーンが止まらない。この辛さにラッシーもよく合う。
この組み合わせを考えた人は天才だと思う。美味しい。
さっき迄の騒がしさは何処へやら? 夢中でカレーを頬張る私達。
このお店選んで良かった。私達は大満足して食事を終えた。
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食事後も2人に王都の観光名所や美術館なんかに連れて行って貰った。
その美術館内で見つけた【リリエル】の肖像画。
周りから聞こえてくる「あの子達、この絵の子達に似てる」などという声。
ミーシャなんて種族が違ってもそう言われて、"じ~っ"と絵を見つめているのが微笑ましくてアリアと一緒に小さく笑ってしまった。
楽しい時というのは普段よりも過ぎるのが早い。
そろそろ寮へ帰宅しないといけない時間。
「まだ全部は周りきれてはいないのだけど、時間的にそろそろ戻らないと反省文を書かされることになるから戻った方がいいわね。ごめんなさいね、イリーネ」
「いえ、充分です。それに今夜はお泊り会するんですよね? 楽しみです」
「ふふっ。でも歩き疲れてるから寝落ちしちゃうかもしれないわね」
「あり得るー。起きたら床か机が涎で濡れてるとか」
「お菓子を口にしたままとかもあり得そうですね」
「「「あははははっ」」」
友達同士でお馬鹿な話をしながら私達は寮へと戻る。
夕食と各自でお風呂を終えたら、アリアの部屋に集合。
3人揃うとお泊り会が始まった。




