-特別編3- 遠い刻 その04。
私は魔法を使用する為にその準備に取り掛かった。
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空中から取り出す杖。
両親から魔法を学び始めた幼き頃から使っている杖。
買った覚えがない。拾った覚えもない。
それなのに私の手元にあるこの杖。
この杖については自分自身も両親も不思議がらせた。
色々両親から聞かれたけど、私だって知らないんだから応えようが無い。
最後にはなんか両親のことが怖くなり、大泣きしてしまって両親に私を宥めさせることに苦労させてしまった。
ちょっぴり黒歴史。
私はほろ苦い思い出のある杖を振るう。
アリアに負けないくらいのモノと言われて何にしようか迷ったけど、彼女が作り出した百合の園に小さなクオーレを何匹か配置して、そのクオーレが百合の花々の中から"ひょっこり"と顔を覗かせているというモノにした。
それだけでは芸がないので、後何匹か愛らしい見た目の動物も配置。
遠い過去にこの世界にやって来た異世界人が残した本で見た動物図鑑。
それを参考に作り出すはエゾモモンガにオコジョ、真っ白なキタキツネ。
可愛いが詰まった世界。後は好きじゃない光の魔法も使用して木漏れ日を再現。
光に照らされる百合の花と動物は我ながら、より一層綺麗と可愛いが増したような気がした。
魔法の使用を終え、ミーシャに振り向く。
「こんな感じでどうでしょうか?」
と尋ねようとしたんだけど、彼女は固まってしまって動かなくなっていた。
「ミーシャ?」
呼ぶと再起動。私に詰め寄って来るミーシャ。
「ねぇ、これどういうこと? さっき光が苦手って言ってなかったー?」
「苦手というか、好きではないんですよ」
「ちょっと待ってー。イリーネって他にもできるの? もっと見たい。先生」
ちょっと待って。落ち着いてミーシャ。
教師に他の魔法も見せて貰いたいとか言わなくていいから!!
なんかただでさえ注目浴びてるのが大変なことになりそうだからやめて!!
『まぁ、ミーシャの願いを却下してくださいますよね』
とか思ってた私が馬鹿でした。
「イリーネさん、他にも使える魔法があるなら是非とも見せて欲しいわ」
え~~~。滅茶苦茶乗り気になってる。
教師が椎茸目ってそれはちょっと引きます。
「え~っと、今日は[水]系統の魔法の授業ですよね?」
「そうだけど、貴女はすでに[光]系統の魔法を使用してるじゃない」
ぐぅの音も出ません。
余計なことするんじゃなかった。
こうなったら友達も巻き込もう。
親友って言ってくれたくらいだし、私が頼めば協力してくれる……よね?
「アリア、ミーシャ」
私は2人を捕獲して協力をお願いした。
やって欲しいことを伝えると、2人共渋ることなく協力に応じてくれることになった。
持つべきものは友達。ただこの魔法は体育館では難しい。
教師にその旨を伝えてグラウンドに移動。
最初にアリアが空に向けて魔法を放つ。
「千の氷柱」
次に魔法を使うのはミーシャ。
「爆発魔法」
この魔法でアリアの氷柱は空で分解される。
そこに私が最後の魔法。
「聖なる風」
これで出来上がるはダイヤモンドダスト。
氷の粒が1粒1粒、風に吹かれることと光に照らされることによって妖精のように舞う。
子供のようにそれを眺める教師と半分が茫然、半分がうっとりとした表情のクラスメイト達。
魅せる魔法はもう充分だろう。次は……。
使うは土の魔法。
「土人形生成」
グラウンドに作り上げる邪族オークに似せた3体のゴーレム。
彼らは本物そっくりにのろのろと動き出す。
そのうちの1体に放たれるアリアの最上級攻撃魔法。
「絶対零度」
一瞬で凍り付くゴーレム。
その威力にグラウンド全体も少々冷えた感じとなる。
「じゃあ次は私ー。生贄の黒炎」
2体目に放たれたのはミーシャの最上級攻撃魔法。
ゴーレムのオークに渦のように纏わりつく黒き炎。
ゴーレムごとき楽々と焼き尽くしたその魔法は先程のアリアの魔法と相乗効果を生み出してグラウンドの温度を元に戻した。
「ではトリは私ですね。流星の大嵐」
3体目。ゴーレムに降り注ぐは流星群。
ゴーレムを押し潰し、グラウンドに出来上がる幾つものクレーター。
そのままだと下手をしたら退学処分になりそうなことくらいは分かるので、魔法を使い終えてから再度土の魔法を使用して元の状態に戻した。
「こんな感じでどうでしょうか? 先生」
「あ、貴女達ってもしかして」
せ、先生? 教師が怖い。興奮してて鼻息が荒い。
なんだか凄い逸材を見つけたって1人ではしゃいでる。
「逸材って私達のことでしょうか?」
「そうなんじゃない。でも、そこ迄言われる程のことかしら?」
「なんか理事長と校長が走って来てるよー」
「「えっ」」
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魔法学の授業終了後。
理事長室に呼ばれた私達。
ソファに座らされて対面。目の前にはまだまだ鼻息の荒い魔法学の教師と物凄く真面目な顔をした校長と険しい顔をした理事長。
私達はやらかしてしまったんだろうか? でも魔法の跡は全部直しておいたんだけどなぁ。
この時の私達は多分同じことを思ってたと思う。
良くて停学、悪くて退学処分になるかもしれないって。
口を開くのが怖い。
というか、理事長の目を見るのが怖い。
睨まれて、る。
1秒1秒が長く感じる。
蛇に睨まれた蛙状態の私達は顔が強張ってるし、背筋が凍り付いている。
そのまま5分程が経過した頃、理事長が重々しく口を開いた。
「君達は……」
「はい! 退学ですか? ですが、魔法で壊してしまった所は全部元に戻しましたし、せめて停学で済ませて貰うことはできないでしょうか!」
「そうではない」
「では?」
「正直に応えたまえ」
正直に? 魔法が手品的なモノと思われたかな?
理事長の気持ちは分からないでもない。
私も内心、アリアとミーシャからどの[位]迄魔法が使えるか聞いた時に2人して属性は限られてるけど、最上級迄使えるって聞いた時は驚愕したし。
それよりもアレかな。私自身がおかしな存在だよね。
今の今迄深く考えないようにしてきたけど、気持ち悪いし、怖い……よね。
どうしよう。どう応えたらいい? これって杖の時と同じだ。
使えるものは使えるとしか言いようが無い。
両親に習ったなんて言ったら両親が追及されることになりそうだし、他の誰かの名前をでっちあげるなんてことしていい筈ないし、独学で通す?
もういっそあの時みたいに大泣きするか―――。
私はこの後に聞かれるであろうことを予想して阿呆なことを考えていたのだけど、理事長が私達に尋ねてきたことは予想とは全然違って、私が思っていた以上にぶっ飛んだ、素っ頓狂なことだった。
「君達は【リリエル】の生まれ変わりかね?」
「「「はい?」」」
次はこちらが素っ頓狂な返事。
そこから私達の「生まれ変わりだな?」「意味が分からないです」の謎なやり取りは1時間30分にも渡って繰り返されることになった。
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3日後。
事態は急展開を迎えることになった。
私達のことを【リリエル】の生まれ変わりだと信じて疑わない理事長が魔王ラピス様や姉妹国の学園の理事長達に声を掛けて彼女達の前で授業内で使った魔法を披露することになったのだ。
けどその前に、魔王ラピス様から「お主ら、生まれ変わっておったのか!」などと言われて私達の学園の理事長は得意満面の顔。
一応魔法は魅せ・見せたけど、なんだかそんなこと必要なかった感じで私達は最年少にして魔女見習いという立ち位置迄昇り詰めることになった。
見習いなのは現存する魔女の誰にもこの会合に参加して貰えなかったから。
そりゃあそうだろう。正真正銘のたかだか14歳。学園に入学してから1週間にも満たない者を認めようなんて魔女がいる筈がない。
魔王ラピス様はそのことに呆れていたけど、私としては折角入学した学園生活が1週間も経たないうちに終わるのは嫌だったので正直助かった。
私達の学園の理事長は残念そうにしてたけどね。
何はともあれ私達は学園に戻って来て、魔女見習いとして生活を再スタートさせることになった。




