-特別編3- 遠い刻 その03。
明日からの授業のことも楽しみにしつつ、私は自室でクオーレと共に彼女が買ってきてくれたお弁当を有難くいただいた。
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クオーレを抱き枕にして、されてかな?
彼女の人をダメにする触り心地でそれなりに睡眠を取ることができた私は今日から本格的に始まった授業に臨んでいた。
私が生まれ育った里でも一般常識や魔法学などは両親や周りのエルフ達が教えてくれるんだけど、やはり専門な場所だけあって、教わる内容に深みがある。
例えば社会学・歴史1つを取ってみてもそう。今は[魔族]と呼ばれている人達はかつては[魔物]と一括りにされていた。
それがこの国がルージェン王国の姉妹国となった時期を同じくして[人型]の魔物のことを[魔族]と呼ぶようになり、[動物型]の魔物のことはそのまま[魔物]となったそうだ。
それにこの国がルージェン王国の姉妹国となったのも私が知っている以上の[事]があってのことだった。
この国の元の名前はノンデリー公国。
貴族が纏めていて、その中でも公爵が国家元首として立っていた国。
その国の名前の頃に今の王都が邪族に攻め入れられそうになったことがあったのだそう。
そんな危険な状況を未然に防いで見せたのが【リリエル】。
ルージェン王国を拠点にしていたハンターで彼女達は旅の途中だった。
その【リリエル】が邪族に襲われている人を見て助け、結果的に邪族の王都への強襲を防いで見せた。ちなみに襲われていた人達はこの世界から見たら[異物]で【リリエル】が戦闘を終わらせた後に血で描いたような紅の魔方陣が現れてこの世界から消されたそう。
【リリエル】の女性達はこの[事]を誰にも言ってなかったし、秘密裏に処理したつもりだったようだけど、一部始終を見ていた人がいてその人の伝聞によって人々に【リリエル】はもしかしたら女神様の御使い様方なんじゃないかと元の国では噂となった。
ルージェン王国の姉妹国となろうと思ったのも、そう言った背景があったからなんだって。
女神様の御使い様がおられる神聖なる国ルージェン。
この国もその仲間入りをしたかった。と。
最も、肝心の【リリエル】は寄る年波には勝てずにすでにハンターを引退して自分達が暮らしていた拠点で隠居生活をしており、後は天界なり冥界なりに旅立つのを待つばかりとなっていたようだけど。
【リリエル】。そのリーダーさんに名前も容姿も似ている自分。
そのリーダーさんに自分を重ねてしまうのは恐れ多いことだろうか。
誰かに知られたら拙いかもしれないけど、自分の世界の中でくらいなら別に良いよね?
後、アリシアさんにミーアさん。アリアとミーシャに似ている気がする。
ミーアさんとミーシャの種族は違うけど。
何より気になるのはクオーレ。【リリエル】のリーダーさんが連れていたらしい使い魔。
何故か彼女のことはそんなに有名になっていなくて、多くの謎に包まれていると社会学の教師は言っていたけれど、話を聞く限りだとクオーレだとしか思えない。
ただ、確信を得るには1つ情報が足りない。
【リリエル】のリーダーさんが連れていた使い魔はスライムの他に数種の魔物達の種族名が挙げられているからだ。
これがハッキリとスライムとされているのならば、使い魔はクオーレで間違いないんだけど。
「ですが、それならそれでどうしてその使い魔が私と繋がっているのかが分からないんですよね」
授業を終えて"ぽつり"と零した独り言。
その独り言を聞いていた者が2人程いた。
「使い魔って何のことかしら?」
「さっきの授業の話-? でも繋がってるとか言ってたけど、イリーネって使い魔がいるのー?」
「わっ! アリアにミーシャですか。脅かさないでください」
「別に脅かしたつもりはないのだけど。イリーネが自分の世界に入っていたからでしょう」
「そうだそうだー。それにしても、使い魔ねぇ。イリーネってそういう趣味があったんだ?」
「ちが、違います! 誤解ですから!」
使い魔。姉妹国以外の国ではそれは文字通りの意味なのだけど、姉妹国の場合はそれは別の意味になる。
あんまり良い意味じゃない。なので慌てて誤解を解こうとする私。
ミーシャはそんな私の様子を見て爆笑を始めた。
「冗談だよー。そもそもイリーネはエルフだし、分かってるって」
人が真剣に慌てていたというのにこの友達は!!
「冗談キツいです! という訳で友達に対する侮辱の罰としてジュース奢ってください。喉乾いてたんですよね」
「なんでそうなるのか納得できないけど、まぁいいよー」
「本当ですか! 言ってみるものですね」
「何がいいー?」
「そうですね。炭酸系は逆に喉が渇くのでさっぱりしたもの……。アップル100%生絞りジュースをお願いします」
「ミーシャ、私もそれでお願いね」
「いや、アリアには奢るとは言ってないけど?」
「子供の頃にアイスを分けてあげた覚えがあるのだけど?」
「いつの話を……。まぁ分かったよー」
アリアとミーシャは本当に仲が良い。
アリアの半ば脅しのようなお願いに呆れ顔をしつつも結局頼まれた品物を買いにいったミーシャの行動に思わず笑ってしまう私。
「2人は本当に仲がいいんですね」
とアリアに伝えると、「イリーネのことも私達はすでに親友のつもりでいるわ」と言葉が返ってきた。
出会って2日目。親友にはまだ少し早いんじゃないかなぁ? そうは思いながらも私は心からのニヤけを止めることができなかった。
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ミーシャに奢って貰ったジュースを飲んでから数分後。
私達は体育館へ移動しての魔法学の授業。
教師が言葉で説明してくれて、ついでに実践もしてくれて、私達は教師がしたことを真似るという授業内容。
水の魔法を操って自分が思うデザインを宙に作り出すという内容。
教師とて最初から上手くいく筈が無いことは充分に承知の上でのことだったのだろう。
ところがアリアは水の魔法を自らの手足のように巧みに操り、氷の百合園を体育館の一部に完成させた。
それを見て、目を丸くする教師と生徒。
ミーシャはあんまり驚いてないところを見ると、アリアは昔から水の魔法が得意だったのだろう。
ますますアリアが【リリエル】のアリシアさんに見えてくる。
魔法学担当の教師もそう思ったようで、「凄いわ!! まるで[雪華の魔女]の再来のようね」とアリアのことを褒め千切って彼女のことを照れさせていた。
その照れ顔についつい見惚れてしまった。
だって、可愛い。笑んでいるような、それでいて困惑しているような、そんな顔で頬を赤に染めているんだもの。可愛いよ、うん。暫く呆ける私。我に返らさせてくれたのはミーシャ。
「イリーネ。アリアに見惚れてばっかりいないで自分も何かしなきゃー。アリアが可愛いっていうのは私も分かるけどさー」
「うっ……」
ちょっと恥ずかしい。見惚れてるのバレてた。
ミーシャの"ニヤニヤ"した顔がなんだかちょっと憎らしい。
悔しいので、平静を装うフリをしつつミーシャに嫌味を言ってあげた。
「そう言うミーシャはどうなんですか? まだ何もできてないじゃないですか」
言うと、苦笑いするミーシャ。
彼女はアリアとは対照的に[炎]系統の魔法は得意だけど、[水]系統の魔法はあまり得意ではなくて、ということで苦戦しているらしい。
アリアは[水]系統が得意でミーシャは[炎]系統が得意。
また1つ友達のことを私は知った。
「イリーネは得意・不得意とかあるのー?」
「そうですね。私は……」
使えない魔法はない。
敢えて言えば[光]系統の魔法かな?
使えなくはないけど、どうも拒絶反応を示してしまう。
昔から好きになれない。
「光系統の魔法が苦手ですかね」
ミーシャにそう言うと、彼女は「じゃあ水系統は大丈夫なんだよねー? なんか作って見せて欲しいなー」なんてリクエストをしてきた。
期待の眼差しで見ないで欲しい。
擽ったいというか、なんというか。
友達にリクエストされたからにはやるけどね。
「あんまり期待しないでくださいね」
「アリアと同じくらいのことしてくれるって信じてるー」
「……。仕方ありませんね」
私は魔法を使用する為にその準備に取り掛かった。




