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-特別編3- 遠い刻 その02。

 そこには2人の女子生徒がすでにいて、仲良くお喋りをしていた。


**********


 2人共最初から友達同士なのだろうか。

 それとも女子特有のアレな感じで友達になったのだろうか。

 中の2人からは私の姿が見えないように窓硝子の下の壁となっている場所に屈みこんで頭を悩ませる私。

 2人共に私と同じエルフ。1人は黄金色の瞳に白銀色のロングヘアを上部でヘアゴムを使ってポニーテールにしている子、もう1人は琥珀色の瞳に黄金色のショートボブな子。ちなみに私は翡翠色の瞳にベージュ色のセミロングボブな容姿の女子。


「どうしたものでしょうか……」


 入室し辛い。2人が1人ずつ大人しく席に座っているだけとかなら良かった。

 けどそうじゃない。2人共スプリングの時期の柔らかな深緑の中から零れる木漏れ日のような子達だ。

 私の選択権は2つ。このまま他の生徒が来るのを待つか、待たずに挨拶くらいは済ませて自分の席にさっさと着くかどちらか。

 一瞬最初の案を採用しようと思ったけど、自分が不審者に見られるような気がして取り止めることにした。

 ってな訳で後者を採用。中の2人にどう思われるかなんて知らない。いざ突貫。


「おはようございます」


 笑顔を作って明るく挨拶。中にいた2人も「「あ! おはようございます」」って挨拶を返してくれて、私はそれから自分の名前の書いてある席を見つけ出して椅子を引いてそこに着席した。


 私的にはそれでこの2人との会話は終わりだろうと思っていた。

 が、私の思考とは裏腹に2人は私の席に寄って来て私に話し掛けて来た。


「えっと、初めまして。突然話し掛けてごめんなさいね。なんだか初めてなのに初めてという気がしなくて気になっちゃったのよ。……って、こんなこと言うと変に思うかしら?」

「私もアリア……。あ! 私の隣の子の名前なんだけど、全く同じように感じたんだよね。もし良かったら名前を教えて欲しいなー。って先に自分が言うべきだよね。私はミーシャ。ミーシャ・ウルフェン。で、私の隣の子が……」

「さっきミーシャが私の名前を言ってくれたけど、私はアリア・ブルクミュラーよ。よろしくお願いするわね。ちなみにミーシャとは幼馴染で親友の関係なの」


 2人共に人懐っこいというか、とにかく悪い女性(ひと)じゃないみたいだ。

 心の中で"ほっ"と安堵のため息を吐く私。上手くいけば初日で友達が2人できちゃいそう?

 おっと、私も自己紹介しないとね。2人共待ってくれてるみたいだし。


「私はイリーネ・ルーフェルです。その、のどかな地方の、のどかな里の出身なのでこういう都会な所は初めてで、ご迷惑をお掛けするかもしれませんが、よろしくお願いします」

「そうなのね。私達はこの王都の近くの里の出身だから、貴女さえ良ければ色々案内してあげられるけれど、どうかしら?」

「い、いいんですか? 迷惑になりませんか?」

「別にならないわよ? ね? ミーシャ」

「うんうんー。任せといて」

「それではすみませんが、お願いしてもいいでしょうか?」

「分かったわ。ところでこちらからも質問いいかしら?」

「あ! はい、勿論構いませんよ。どうぞ」


 以後は私達は教室に生徒全員が揃い、その教室に担任がやってくる迄楽しくお喋りを続けた。

 あわよくばのつもりだったのに、本当に友達が2人もできてしまった。

 


 担任の指示で教室から体育館へと移動。

 生徒数が半端じゃないだけあってこの体育館もかなり立派。

 収容人数5万人とされているだけのことはある。

 始まる始業式。人数が人数なだけに、一般常識を学ぶだけの学園・ハンターなどを養成する為の学園よりもかなり簡略化されている。

 私の里の友達はハンターを養成する為の学園に通っているけど、始業式の、特に校長やら理事長やら偉い人達の話が長すぎてうんざりしたって言っていた。

 それに比べてこちらは実にあっさりしたもの。

 友達からそういう話を聞いていたので実は身構えていたのだけど、そんな必要なんてまるで無かった。

 一言か三言話せば終わり。始業式は素早く始まって、素早く終わった。



 生徒達は再び教室へ。

 そこで担任から話を聞いて、本格的に授業が始まるのは翌日からということで本日は教本を生徒全員が受けとって担任からこれからの授業のことや、生活のルール、諸注意などを受けたら生徒は解散。

 王都に住んでたり、王都でなくても自宅が近い生徒達はそちらに帰宅するけど、私の場合は自宅がかなり遠いので寮生活。寮を目指して歩いていたら、アリアさんとミーシャさんが2人同時に私の肩を叩いてきた。


「イリーネさん、一緒に行こうー。っというか、イリーネって呼んでもいい?」

「それなら私もいいかしら? 勿論、イリーネさんが嫌ならちゃんと敬称を付けるけれど」

「私は別に構いませんよ。ところで2人共どうしたんですか? 帰らないんですか?」

「帰るわよ? 今日はもうこれで終わりだし、ここにいても意味がないもの」

「こっちは寮の方角ですが……。2人はこの近くに住んでいるのですよね?」

「あー。私もアリアもなんとなく寮生活っていうか、1人暮らしに憧れてて、だから自宅から学園迄通うんじゃなくて、寮から学園に通うことにしたんだよねー」

「そうなんですか!」

「そうなのよ。だから一緒に行きましょう」

「はい。あ! 私も2人のことは呼び捨てでいいんですか?」


 私がそう聞くと2人は「「勿論!」」と速攻で返事をし、私達は3人で自分達がこれから暮らすことになる寮へと向かうことになった。途中で「どうせなら隣同士とかだったらいいね」なんてことを話しながら。


 到着した寮もやっぱり立派だった。

 今日はこれしか言ってない気がするけれど、立派なものは立派なんだから仕方がないと思うよ。

 寮は個室と2人部屋との2棟がある。個室の寮は2人部屋の寮に比べて少々割高になるけど、両親は奮発して娘の私の為に個室の寮に入れるようにしてくれた。


 寮長さんにまずは挨拶。

 門限は夜の8時迄でそれを破った場合は反省文を書かなくてはならなくなるとのこと。

 積み重なると強制的に退寮。それで朝食と夕食は寮で用意されるけど、昼食は平日も休日もされないので自分達で調達してねってことだった。

 私達は成長期。20歳頃になると少しは落ち着くかもしれないけれど、それ迄700年余りある。

 数字にしてみると、とっても長いね。それだけじゃなくて、エルフの成人は100歳から。なんかちょっと気が遠くなってきた。スライムの溶液を使わなければ別だけど、あんな良い代物を使わない女性なんていないよね。私はこれ迄もこれから先も使うよ。


 昼食が出ないことは頭の中にメモをした。

 調達することを忘れないようにしなくては……。


 ふとアリアとミーシャの方を見ると2人共私と同じ気持ちらしい。

 それが顔に表れていた。


「それじゃあこれが部屋の鍵ね」


 渡された寮の部屋の鍵。横に広い12階建てのうちの7階。

 アリアさんが701で私が702、ミーシャさんが703。

 友達同士で隣同士。私達は寮長さんの前でちょっとばかりはしゃいでしまった。

"はっ"と気が付いて寮長さんに騒いだことを謝罪したけど、寮長さんは微笑んで許してくれた。

 今のところ、この学園に来てから嫌な女性(ひと)に会ってない。

 2人の友達もクラスメイトも担任も寮長さんも皆、人の好さそうな女性達だ。

 まだ初日だから実際のところは分からないけれど、少なくとも今のところは全員好印象。


 想像してたより学園生活楽しくなりそう。


 そんなことを考えながら私はこれから暫くか、当分かお世話になる寮の部屋へと友達2人と一緒に向かった。


**********


 3人でエレベーターに乗って7階に到着。

「じゃあまたね」なんて友達同士で言い合って寮の部屋のドアノブを鍵で開けて見てびっくりした。

 私が予想してたよりかなり良い作りだったんだ。

 ミニキッチンはあるし、お風呂とトイレも別。ベッドはダブルベッドで備え付けの姿見鏡やら冷蔵庫やらクローゼットに洗濯機と乾燥機もある。

 寮の部屋っていうよりも、これは完全に1人暮らしの人の為の部屋だ。

 ちょっと贅沢な。壁は分厚いようで隣の部屋の音なんて聞こえない。

 インテリア類も私好みだ。シックでありながら、何処となく可愛い。


「これは、思っていた以上ですね。嬉しい悲鳴です」


 私が1人で"ニマニマ"していた時に叩かれる窓の音。

 ここは7階。そんなことでできる存在は私の中では1匹しか存在しない。


「お帰りなさい。クオーレ」

「ただいまイリーネお姉ちゃん。いい部屋だね」

「ええ、私も感動していたところです」

「お姉ちゃん、お土産買ってきた」

「お土産ですか?」


 クオーレから手渡されたのは牛肉がびっしりと詰まったお弁当。

 それがクオーレ自身の分も含めて4人分。

 

『なんで4人分も?』


 と脳内に疑問符が浮かんだ私だったけど、隣の2人の友達の顔を思い出して"ぴん"ときた。


「クオーレ、貴女一体何者なんですか?」

「え? 特異種のスライムだけど?」

「そういうことを聞いている訳ではないのですが……。まぁ、どうせ応えてくれる気はないんですよね」

「本当はこれからお昼ご飯調達に行かないとダメだったんだよね? ぼくに感謝してね。イリーネお姉ちゃん」

「そうですね。ありがとうございます、クオーレ」


 私はクオーレに礼を告げてからアリアとミーシャの2人にお弁当のお裾分けをしにいった。

 2人には驚かれつつも感謝されて私の学園生活の滑り出しは順調。

 明日からの授業のことも楽しみにしつつ、私は自室でクオーレと共に彼女が買ってきてくれたお弁当を有難くいただいた。

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