-特別編3- 遠い刻 その01。
これはタイトルの通りに遠い未来のお話。
【リリエル】が前世となった頃~正史~の世界のお話です。
本編と同じ、主人公の一人称でお話は進みます。
エルメーム女子魔法学園。
そこはルーベリサ王国の王都クロッサムの北側の中心地付近位に建てられており、数多くの女生徒達がここに通って魔女となる為に魔法の腕を磨きあっている。
[魔女]神話の時代では畏怖と魔法に呪われた女性のことを指す存在のことだったけれど、神の世界ではなく、人の世界となってからはその存在は神話の時代と同じく畏怖される者と称賛される者の二種の存在に大きく分かれることになった。
いつの時代だってそうだ。道具も魔法も結局は使う者の心がけ次第。
正しく使用すれば秀抜なモノとなるし、誤った使用をすれば狂気のモノとなる。
魔法は人の心を映す鏡。
ルージェン王国・ルーディア王国・ルーベリサ王国。
3つの姉妹国の中で長女に当たるルージェン王国を拠点としてハンター活動などを行っていたとされる伝説の存在【リリエル】。その【リリエル】のリーダーの女性が愛嬢子に伝えたとされる言葉。
その後その言葉は人々の間に自然と広まっていき、魔法を自己欲の為ではなく、誰かの役に立つ為に使おうという目的で建てられることになったのが各国の王都にのみ存在する魔法学園。
王都にしか無いのは至極単純な理由で、どれだけ生徒数が多かろうとも魔女になれるのは極々僅かな者だけだから。
魔女になるには各国の魔法学園の理事長とすでにこの世界に存在している魔女の誰か、それから各国の女王様と魔王ラピス様の全員に認められなくてはならない。
あまりにも狭すぎる門。それでも魔法学園に入学してくる者が絶えないのは、やはり憧れなどが女性を惹きつけるからだろうか。
魔女になれるのは14歳~22歳の間に魔法学園に入学をして20年の間に先に述べたことを完全クリアするのが条件。
それを過ぎると魔法学園には入学できずに全て独学となる。面倒臭い手続きなども自分でやらなくてはならない。
今からは遠い過去はそうではなかったらしいけど、これも時代の移り変わりによるものだろう。
今はそういうことになっている。
エルメーム女子魔法学園の校舎前。
白が基調とされていて、所々にベージュ色の場所もあり、硝子が外から校舎を見た時に美しく見れるように配置されているこの学園。各国の魔法学園の中で歴史が最も新しい故に今の時代の最先端技術をふんだんに使って造られていて本当に素敵な場所に見える。見ていて目が楽しい。
それもその筈でルーベリサ王国が他姉妹国の仲間入りをしたのは100年程前の話だから。
それ迄はルージェン王国の同盟国でしかなかったこの国は幾代かの国家元首が亡くなり、新しい元首となった時にルージェン王国にその[事]の申し出をして、それは受理されてルージェン王国からすると2番目の妹国となることになった。
新しい国家元首様がどうしてそちらに舵を切ったのかは普通に国のことを思ってのこと。
少子高齢化に悩まされていたこの国はルージェン王国と姉妹国のルーディア王国で使用されているスライムの溶液があればそれが解消されるのではないか? と考えたかららしい。
結果的に試みは上手くいった。
なんでもルージェン王国の女王の喧嘩友達だった存在が、それ迄はバレないようにその国で暮らしていたみたいだけど、ある時にバレてしまい、そうなったらもう隠すことを止めて自分の力を全力で発揮することにしたから。
スライムの溶液の正体はその存在の力の一部。
その存在が力を隠すことをやめたことでスライム達はより多くの力をその存在から授けられて、溶液は女性相手に限って、その効力を増すことになった。
溶液の効果が適用されるのは赤ちゃんの頃からだけど、老化が遅くなるということはない。
14歳を迎える迄は溶液の効果は肌などを美しく保つだけ。
そして女性が14歳になった頃から溶液は変貌する。
肌などを美しく保つ効果はそのままで、どの種族も100年に1度しか年齢を重ねることがなくなり、その効果の副作用で心も身体も若いまま。ちなみに子孫を残していない女性に限り、それ迄は中年、壮年、老年であっても自分が望めば20代からやり直しが効くというトンデモ効果を持つ代物と化すのだ。
お陰で姉妹3ヶ国はその殆どが若々しい女性だらけ。
但し、やり直しの効果は1度きりで2度目は無い。
天寿を全うするか、それ以外の要因で亡くなってしまったら終わり。
天界か冥界で生まれ変わりを待つことになる。
後、スライムに嫌われている女性には溶液の効果は無い。
使ったところでただのトロみのある水と成分は同じ。
ついでに男性にも効果は無い。使えば溶液が薄い場合は全身の毛が抜けて死ぬ迄生えて来なくなる。濃い場合は危険物。その先に待ち受けるのは~死~。
なので姉妹3ヶ国に男性の姿はほぼ見られない。精々観光者くらいだろうか。
女性と女性とが恋愛して、結婚して、場合によっては子孫を残すのが普通の国。
生まれてくるのは女性と決まっている。それじゃあ男性の姿が見られなくなるのも当然のことだ。
逆に[金]のドラゴンが治める国では男性だらけで女性の姿は見られないらしいけれど。
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14歳を迎えてから1週間目。私は私の前に突然現れた特異種のスライムに言われてこの学園に入学することになった。
クオーレ。私は覚えていないけど、彼女と私は過去には主従の関係にあったと伝えられた。
それ以外のことは何も教えてくれなかったけど、確かに胸の中に感じた彼女との繋がり。
私はクオーレの言葉を信じ、両親をクオーレと共に説得。
その日のうちに試験を受けることが許され、つい先日に合格通知が届いて、このクオーレと一緒に学園へとやって来た。
「学園ではペットを飼うこと許されてましたっけ?」
私は今更ながら今更過ぎることをここ迄空を飛んで私を連れて来てくれた使い魔のクオーレに聞いてみる。
その時は人が4~5人は乗れるんじゃないかな? という姿だったけど、今は少し大きいぬいぐるみのくらいの大きさになってクオーレは私の胸の中に収まっている。
しかしこの子、なんというか……。うん。ちょっと口では言えない。
「確かパンフレットに侍女1人或いは小動物1匹迄なら大丈夫って書いてあったよ」
「良く読んでいますね。それなら問題ありませんか」
「うん! 全く問題な~し。じゃあリ……。イリーネお姉ちゃん、ぼくはちょっと散歩してくるから今日から頑張ってね」
「はい? 散歩ですか?」
「夕方くらいには戻ってくるから」
「ちょっ!!」
行ってしまった。なんというか、自由な鳥……じゃなくてスライムだ。
それにしても騒がしい。私は自然溢れるのどかな里の出身だから、こういう都会の喧騒はどうにも肌に合わない。
「ですが、こればかりは慣れるしかありませんね」
これから長くて20年はここで暮らすことになる訳だし。
それよりも早く[魔女]になれたら卒業が早々に認められて後は好きなようにできるけど、そんな上手くいくなんて到底思えない。
ところで早く到着しすぎてしまったのだろうか?
門は開いているけど、学園の生徒の姿が見られない。
「まぁ、それならそれで構いませんか」
独り言を言いながら私が歩いて向かうのは学園の玄関口。
そこに今年の入学者の名前が張り出されていて、自分がどこのクラスか分かるようになっている。
今年も生徒数は多いみたいだ。この中から自分の名前を探すのは大変だなぁと思っていたけれど、私の名前は幸いにも簡単に見つかった。
1-A。この学園はA~Zまでクラスがあるので私は最初のクラスということだ。
助かった。Z迄見ていくのは正直しんどいと思っていたから。
後の心配事はクラスの女性達がどういう女性達かということだけ。
希望すれば1年を単位としてクラスの変更に応じて貰えるらしいけれど、変更のことについて学園側が納得できる理由で無い限りは20年間ずっと一緒。それならば人の関係は良い所がいいに決まってる。
下駄箱でこれも又自分の名前が書いてある場所を探して、そこで外靴から中靴へと履き替え。
廊下を少々進むと1-Aクラスは早々に見つかった。
「緊張してきました」
"そ~っ"とさり気なく教室の中を覗いてみる。
そこには2人の女子生徒がすでにいて、仲良くお喋りをしていた。




