-外伝 完結話- 遠い未来 その10。
【アングレカム】の全員が爵位を受け取ってから数日が経過した。
今日の私達はハンターとして邪族との戦闘を行う為に待機中。
全員お揃いの黒を基調とした衣装・見ようによっては【アングレカム】の全員が魔女に見える格好。
【リリエル】の再来と迄言われている私達。なのでそういう服装を身に纏うようにと、爵位の授与と共にこの国の女王様から言われてそうすることになった。私は過去の記憶がないからその衣装のことを新鮮に思えるけれど、アリシア様にミア様にエスタさん。その3人は少しばかり複雑な表情をしている。
特にアリシア様とミア様は元々【リリエル】だった方。
「バッジが百合からアングレカムに変わったのと、その形が少し変わっただけね」
「そうですね。前は普通に百合の花が咲いてる感じでしたけど、今は半魔方陣の中にアングレカムが咲いていて、その半魔方陣の下に水色の雫が付いた感じと言いますか。まぁ、【リリエル】との違いはそれだけですね」
「【アングレカム】は【リリエル】から心機一転するその為に立ち上げたハンターパーティのつもりだったのだけど、これじゃあ変わらないわね」
「でもメンバーは違いますよ」
「ああ、そうね」
アリシア様がエスタさんとコレットさんを見る。
この2人は【リリエル】ではなかったらしい。
私達がお世話になっているハンターギルド・リリカ支部の受付嬢のカミラさんとギルドマスターのケーレさんがそのメンバーだったんだとか。
「まぁ、でも縁があるのね。わたし達は」
「そうですね」
ミア様が小さく笑う。
それと共に何かを感じ取ったのか、腰にぶら下げている剣の鞘からその剣を抜くのはコレットさん。
少し前迄はコレットさんは侍女の嗜みで戦闘を行っていたけれど、今は剣を使うようになった。
その剣の名は聖剣グラム。その剣は持ち主を選ぶと言われていて、コレットさんが手にする迄はリリカの町の武器屋の倉庫でずっと眠っていたのだけど、コレットさんがエスタさんと共にたまたまその武器屋に訪れた際にグラムの側から倉庫から飛んできて、コレットさんの目の前でその剣体を浮かせたのだそうだ。
まるで、自分を手に取って使って欲しいとコレットさんに願わんばかりに。
コレットさんがその願いを聞き入れて手に取ると聖剣グラムはもう自分は彼女の物と言わんばかりにその手から離れなくなった。困ったのはコレットさん。だったけど、その武器屋の女将さんは実は聖剣グラムのことを厄介な物だと思っていたらしい。
その持ち主が現れた。厄介払いができる。ってことで、コレットさんは武器屋の女将さんから破格の銀貨3枚でその剣を譲り受けた。
聖剣グラムが持ち主を選ぶ剣ではなければ、恐らく白金貨3~4枚はいったであろう筈の物を。
「来たみたいね」
アリシア様が空中からダガーを出現させる。
ミア様も空中からガントレットを出現させてそれを装備。
私も杖を空中から出現させてそれを右の手に握る。
【アングレカム】で武器を持たないのはエスタさんだけ。
彼女の場合は触手がその武器だから。
「初めて見る相手ですけど、身体が緑色ってことは邪族で間違いないですよね」
私がなんとなくアリシア様に問う。アリシア様はその問いにすぐに頷いた。
邪族と魔物。遠い過去は同一視されていた。
それがエスタさん。過去はナツミさんが現れてから、[人]に害を成す者は[魔物]ではなく[邪族]と呼ばれるようになった。
見分け方は意外と簡単だ。
1つは人型の場合、魔物の肌の色はその他の種族と同じ白色・黄色・褐色のいずれかだが、邪族はそれ以外の色。緑系統か赤系統の色のどちらか。
1つは目が1つしかないこと。肌の色が[人]と変わらなくても目が1つの場合は確実に邪族。
異世界ではなんらかの変異で単眼の動物が生まれたりすることがあるようだけど、この世界ではそれはない。それは邪族だけ。
1つは不死者であること。
たまにいるのだ。邪族になってしまうから、死した後は火葬にすることが常識とされているのに、土葬にしてしまった結果、邪族とさせてしまう者が。最も、それをしなくても彼らは自然現象的に発生したりするのだけど……。
今回の相手はざんばら髪で口髭に顎髭があり、身体の色は緑色。身に着けているのは茶色の布でできた腰巻だけ。
右手に三つ又の矛を持っている。
神話の時代に女神セレナディア様から神の座から邪族に堕とされた者もいると聞いたことがある。
彼もそうかもしれない。ただの勘だけど。
「じゃあ行くわよ」
まずは【アングレカム】の前衛のミア様とコレットさんが彼が現れる迄隠れていた草木の茂みから飛び出して向かっていく。
聖剣グラムを自分の手の一部のように使いこなすコレットさん。
ミア様が拳聖ならコレットさんは剣聖。その称号はまだコレットさんには与えられていないけど、近い将来に絶対受け取ることになるんじゃないかなって私は思ってる。
邪族は防戦一方。自分だけでは不利と感じたのかな? 仲間を呼ぶ。
現れるのは多くの半魚人的な邪族達。見た目がちょっと気持ち悪い。
紅の瞳にたらこみたいな唇。しわしわの顔に魚らしく[人]であれば耳の位置と頭の中央にやヒレがついている。身体は人型だけど、これもまたしわしわで手足には水かきがある。
そんな半魚人な邪族が口から吐き出すのは海水。
それもただの海水じゃない。触れると皮膚に酷い炎症を負う海水。
「邪魔だな!」
「全くですよ」
止む無く邪族のボスから離れざるを得なくなるミア様とコレットさん。
雑魚を片付けるのは私達の役目。アリシア様と私とエスタさんが揃って茂みから飛び出す。
エスタさんは触手を使って雑魚を仕留め、私とアリシア様は魔法。
いつも思うけど、なんで[ダガー]から魔法を発動させられるのかが不思議。
普通は魔法って[杖]を使うものなのに。
「獄炎魔法」
「絶対零度」
雑魚は私達が粗方片付けたので、ミア様とコレットさんはボスに近付けるようになる。
再び始まる接近戦。しかしやはりボスはボス。ソイツは三つ又の矛からさっきの雑魚邪族半魚人が使っていた数倍の威力はあろうかという海水の魔力弾を発生させ、ミア様とコレットさんにその弾丸を発射させた。
「やばっ」
「…………っ」
「させないわ」
後少しでミア様とコレットさんにその弾丸が着弾する。
その前に割り込んだのはアリシア様。アリシア様はその弾丸をダガーを使っての10連斬り。
邪族のボスの魔法の弾丸は、それで宙へと霧散した。
「「うわぁ……」」
それを見ていた私とエスタさんが同時にドン引きした声を出す。
普通はそんな芸当できない。
まぁ、とりあえずこれでボスは隙が生まれた訳だ。
その隙を逃がしちゃったら、私は【アングレカム】失格だよね!
「土這いの雷」
この魔法は文字通りに雷が土を這っていって、最終的に敵に強い電撃が襲い掛かるという魔法。
相手は水の使い手。この魔法はよく効くことだろう。
「ぎゃぁぁぁぁぁっっっ」
ボスに命中。全身が痺れて動けなくなっている間にコレットさんが聖剣グラムによる袈裟斬りでボスにトドメを刺した。
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ボス戦終了後。
ハンターギルドへ凱旋して報告を済ませ、アリシア様の邸宅に戻れば私達は普段ならそれぞれの役職に戻るのだけど、今日は時間的にもそれなりに遅い時間となっているので、後は個人個人の自由時間。
エスタさんはコレットさんと仲良く恋人繋ぎしながらエスタさんの部屋へと2人で入っていった。
私は勿論、アリシア様とミア様に呼ばれて、ミア様と一緒にアリシア様のお部屋にお邪魔する。
そこで私はお二人の専属侍女の階級と同様に愛玩侍女の階級をアリシア様から授かることになった。
愛玩侍女なんて階級。聞いたことが無かったけど、魔物の貴族社会では常識なことらしい。
主人が[妻]や[パートナー]にその階級を授けて、主人と自分より上の立場の者から愛でられるのが、そのお仕事の内容とのこと。
つまり私の場合は、アリシア様とミア様から愛でられるのが愛玩侍女のお仕事内容ということになる。
アリシア様はその時期をいつにするか見計らっていたとのこと。
それで、良い機会なので今に決めたと言われた。
「こっちに来なさい。リーネ」
「おいで。リーネ」
なんだか分からないけど、私は呼ばれるがままに大好きなお二人の胸の中に飛び込んでいく。
皆、笑顔。私はこの後お二人からたっぷりと甘やかして貰った。
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外伝 Fin.
アリシア邸宅階級
1.主人:アリシア
2.家令:ミア
3.専属侍女 兼 愛玩侍女:リーネ
4.女性執事長:エスタ
4.侍女長:コレット
5.料理長
6.菓子職人長
7.庭師長
8.下級使用人
9.見習い等使用人
↑地球の貴族階級等とは異なると思いますが、この物語上はこうなっています。




