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-序章- 葛藤と決断。

それにより、文字通り全てが終了した。


**********


 エルフの里が失われて、アロガンという首謀者が死んだ後、今更ルージェン王国から騎士団達が様子を見にやってきた。

 話を聞くと、里を襲ったのは騎士団側でもマークしていた盗賊達。

 なのでできれば殺さずにいて欲しかったなどと言われ、私は一瞬で頭に血が上って、それを言った騎士の1人に杖を突き付けてしまった。

 一触即発。そこで騎士団長とアンリが止めに入らなかったら私は確実にソイツのことを殺していただろう。



 危ないところだった―――。



 そうなれば投獄間違いなし。下手したら死刑だった。

 今の自分はまだ興奮していて何をするか分からない。

 自分で自分のことが危険な爆弾のままだと思った私はその後、それ以上は何も喋らず、遠く離れて行って、残りのことはアンリと僅かに生き残ったエルフ達に心中で申し訳ないと思いつつも全てのことを任せることにした。


 木に寄りかかって、そのうちにずるずると身体を滑らせて、最終的に根元に座り込んで地面を見つめ続けること。どれくらいだっただろうか。

 騎士団は引き上げて行き、後に残ったアンリとあの強襲で生き残ることができたエルフ達がこちらへとやって来た。


「わたし達のことは王都で面倒を見てくれるらしいわ。家もあっちで用意してくれるみたいよ。……里は無くなっちゃったし、これから住む所どうしようって思ってたから、とりあえずは助かったわね」


 普段は耳に心地良いアンリの言葉が今日は私を苛立たせる。

 助かった? 何、それ……。

 ううん、分かってる。本当はアンリだって辛いことは分かってる。

 そんな中で私の為に本音を隠して明るく振舞ってくれてるのは分かってる。

 分かってるんだ。分かってるのに。


「……随分軽く言うんだね。アンリにとって、この里はその程度のものでしかなかったの?」


 皮肉を言ってしまった。



 静寂が訪れる……。



 暫くして私の肩を掴むアンリ。


「じゃあどうしろって言うのよ? ずっとしょぼくれたのままっでいろって? そんなの、そんなの……。わたしだってできるならそうしてたいわよ。でも、でもそれでどうするの? 何が変わるの? しょぼくれたままでいて、死んだ仲間と同じように死ねって? 貴女はそう言いたい訳? ねぇ? リーネ」


 アンリの怒りは最もだ。返す言葉がない。


「ごめんなさい。今は1人にして欲しい……」


 だから今の私が言えるのはそれだけ。

 再び黙り込むとアンリ以外のエルフ達の気配が遠くに行くのが分かる。

 だけどアンリは私の横に座り、顔は空へ。

 おかしいな。私は確かに1人にして欲しいって言った筈なんだけど。


「私、1人にして欲しいって言いましたよね?」


 問うと「やっと普段のリーネの言葉使いが戻って来たわね」なんて今は全然相応しくない言葉が返ってきた。


「リーネ」


 アンリが私に寄り添ってくる。

 

「好きよ。今も好き。わたしの気持ちは変わってないから……。今言いたいことはそれだけ」


 私の頬への軽いキス。

 それからアンリは立ち上がり、「王都で待ってるから」と言って去っていく。

 残された私。私は何も言わず、振り向くことさえもせずにアンリを見送った。


**********


 伝えるべきことは、伝えた。

 後はリーネの気持ちが落ち着くのを待つだけ。

 きっとわたしの元へ戻ってきてくれる。

 そう信じているけれど、本当は不安で不安で堪らない。

 もしも、もしも今回のことでリーネの心が折れていたとしたら?

 もしも、もしもわたしから離れた方がいいなんて勝手な判断をリーネがしたら?

 後者なんて特にあり得そう。だからわたしは、リーネがわたしの傍に戻って来てくれるその時迄ルージェン騎士団の方々が用意してくれた家の中。落ち着くことなく、ずっとそわそわそと家の中を歩き回っていた。


 結局、リーネはその日はわたしの所に来てくれることはなかった。

 来てくれたのは翌日のお昼。


 待たせすぎ。

 わたしは仮にも婚約者よ。

"イラっ"としてついついリーネに八つ当たりしてしまった。


「遅い!!」

「ごめんなさい」


 リーネの再会後の一声はそれだった。

 それから遅れた訳を聞くと、一晩ずっとあの木の根元で考え続けていたらしい。

 わたしが考えていた、そのことを。


「でも、流石にそれは人としてあり得ない行動かなって思い直しまして」


 あ、危なかった。

 リーネが思い直してくれて良かった。

 じゃなければ今頃はわたしは泣き喚くか逆に()()てリーネを意地でも見つけてやるって地の果てでも追いかけようとしていただろう。


 ……わたしのことだ。多分泣くよりもキレてたと思う。

 それでリーネを追いかけて、追いついたらまず殴っていたに違いない。


「ふざけないで」


 とか言いながら。


「……………。殴られずに済んで良かったわね」


"ぼそっ"と呟く。

 それを聞いて顔を少し青ざめさせるリーネ。

 どうも独り言のつもりがしっかりとリーネに聞こえていたらしい。


「アンリに殴られるのは、痛いでしょうね。アロガンの剣を止めた時。いえ、あの後アンリに抱き着かれて泣かれた時以上の痛みがあるでしょうね。きっと」


 それを聞いて思い出す。

 リーネが左手で剣の刃を受け止めるなんていう、とんでもない真似をしていたことを。


「リーネ。手は」


 ほぼ無意識でリーネの手を取る。

「痛っ」って小さな悲鳴を上げさせてしまった。

 そしてその手には騎士団の方が施してくれたらしい。

 包帯が痛々し気に巻かれていた。


**********


 実際のところ……。

 もうアンリには会わない方がいいんじゃないか。

 って気持ちの方が強くなっていた。


 我を失うと人を平気で殺せてしまう私。

 そんな私とアンリは一緒にいるべきじゃないって思ったから。

 アンリはやんごとなきお嬢様だ。

 そのお嬢様を、私の手で汚してしまいたくはなかった。

 

 またいつか同じようなことがあったら―――。


 怖かった。きっと私はその時、また今回と同じようなことをしてしまうだろう。

 下手をしたら今回もそうだったけど、アンリを巻き込んでしまうかもしれない。

 あの白く綺麗な子を赤く汚いモノで塗ってしまうかもしれない。

 私は丸々1日中思い悩み、結局アンリの元へ行くだけ行く決断をした。


 最後に一目だけ会いたかった。

 本音はそれだった。

 でもアンリに怒られて、本人は気付いてなかった様だけど、私に言葉を発する時にこの世の終わりの様な顔をされて、私はその顔を見た為にその場所に留まる決断をすることになった。


「左手は魔法で治さないの?」


 アンリにそう聞かれたことがまだ記憶に新しい。

 治そうと思えば、治せる。

 のだけど、私は色んな痛みを忘れたくなくて、わざとそれを残すことにした。

 傷は自然治癒に任せることにした。


「そうですね。治そうと思えば治せるんですけど」


 アンリには理由(わけ)を全部話した。

 なんとなく嘘を吐いてもバレそうな気がしたから。

 聞き終わったアンリの表情は複雑だった。

 彼女にも思うことが色々とあるんだろう。

 私の心配とか、自分が怪我を負ってないことへの申し訳なさとか色々。


「そう聞くと、少し羨ましくもあるわね」


 アンリはそう言って私の左手をそっと自分の頬へと添えさせた。


「ごめんなさい。何もできなくて……」


 泣かせたかった訳じゃないのに泣かせてしまったことに焦る私。

 アンリは暫くそのまま泣き続け、それから私に抱き着いてきた。


「リーネ」

「はい」

「貴女はわたしの前からいなくなったらダメよ」

「…………っ」

「はぁ……っ。天界でも、冥界でも、この地の果てでも、リーネが何処へ行っても絶対に追いかけるわよ。絶対にね」

「本当に。アンリなら本当に追いかけて来そうですね」

「当り前じゃない。絶対にリーネのことを逃がしたりしないわ」

「でも私は。私は……」


 拳を強く握りこむ。

 あの時の気持ちが蘇って来てしまった。

 私は、汚れてる。

 そんな私が傍にいたら、いつかアンリも……。


「リーネ」

「はい」

「今ここでわたしにキスされるのと殴られるのどっちがいいかしら?」

「私は、私はアンリの傍にいても……っ。んっ!!」


 そこから先は言えなかった。

 アンリが自分の唇で私の唇を塞いできたから。 

 そしてアンリに丁寧に脱がされていく私の服。

 夜も更けた頃。

 アンリは子供のように笑いながら言ってのけた。


「はい。これでわたしも汚れましたわよ」

「……………。ぷっ」


 すっかり毒気を抜かれてしまった。

 私はひとしきり笑った後にアンリを抱き寄せて、今度はこちら側から彼女の唇に自分の唇を重ねた。

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