-外伝- 遠い未来 その08。
私は杖に魔力を集中させて―――。
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【アングレカム】
私達がそのハンターパーティを結成してから1年余り。
私達は最初にこの地方の人々から【リリエル】の再来なパーティだと呼ばれるようになり、そのうち近隣の地方に迄それは広まっていった。
今はお陰でこの地方の人々から【アングレカム】は良く声を掛けられるようになり、お裾分けなどを良く受け取るようになった。
採れたての野菜など凄く美味しい。
その為、前の地方からアイリ様が一緒に連れて来た料理長が、「腕の振るい甲斐がある」って喜んでいるのが日常的に見られるようになった。
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ところで、突然だけど私は現在、自分が何者かにつけられているのを感じている。
今は私は1人。アイリ様とミア様はこの地方の領主シアン様と仕事中で私はちょっとしたお使いを頼まれて、その買い物に向かっている最中。
魔道具[隷属の首輪]は出来たすぐの頃は填められた者は填めた者から半径10mしか離れられなかったようだけど、その後に改良が加えられて半径1km以内なら大丈夫となり、今は半径10km以内なら大丈夫な代物となっている。だけではなく、その範囲も填めた者が決めることができるようになっている。
私達は仕事の関係上最大値の半径10kmを設定した。
なのでアイリ様からもミア様からも徒歩1~2時間くらいの距離迄なら離れられるからお使いを頼まれたのだけど……。
「相手は1人。けど、強い」
私は空中から杖を取り出し、それを右手に握る。
今回の相手は一筋縄じゃいかないのは確実。
それどころか私程度じゃ瞬殺されてしまう可能性のある相手。
ここは人通りが多い場所。それで仕掛けて来ないのだろうか? それとも他人を巻き込むつもりはないという多少の良心の持ち主なのだろうか?
勘だけど、後者な気がする。
野盗みたいな悪い[気]はそんなに感じない。
「とは言っても」
つけてきてる訳だから、相手は善人ではないだろうし、ここで私が変な動きを見せたら容赦なく襲い掛かってくる可能性がある。
仕方ないか。
他人を巻き込みたくないので敢えて人がいない通りへ。
ひと気が完全に無くなると、その女性はすぐさま私との距離を縮めてきた。
人型だけど魔物。全身がほんのり白いということはスライム。
この世界のスライムは一部だけだけど、人の形を取ることができる。
本来はサマーな時期の風物詩・水まんじゅうを少し上に伸ばして、下を少しだけ溶かした感じで、そんな身体に真っ白な楕円形の目が2つと水まんじゅうの一番上に猫みたいな耳がついているのがその容姿。
人の形を取ることができるスライムは強いし、賢い。
そして、こうして対面してみて分かる。
このスライムはアイリ様と同等かそれ以上の強さを持っている。
冷や汗が流れる。私は絶対にこのスライムには勝てない。
「何が目的?」
それでも強気な姿勢で問うと、スライムは真面目な顔で私に聞いてきた。
「ねぇ、コレットって知ってる?」
「コレットさん?」
「その様子だと知ってるみたいだね。ボクはそのコレットが何処にいるのか聞きたくて君をつけてたんだけど、教えてくれないかな?」
「聞いて、どうするんです?」
このスライムの目的が何なのか分からない以上はここで安易な返事は絶対にできない。
それでコレットさんに危険が及んだら目も当てられない。
コレットさんは私の師であり、親友みたいな女性だ。
そのコレットさんに害を与えるつもりなら、たとえ敵わない迄も精一杯の抵抗はさせて貰う。
それで私がこのスライムに命を刈られる[事]になろうとも。
杖を構えてスライムになんらかの魔法を放とうとすると、そのスライムは手を上げて私を攻撃する意思は無いという姿勢を示した。
「ボクは君と戦うつもりはないんだ。ただ、コレットに会いたいだけなんだ」
「どうして?」
「あの子は多分、ボクのかつての最愛の女性の生まれ変わりだから」
「最愛の女性?」
「うん。あ! 言い忘れてた。ボクの名前はエスタ。昔の名前はナツミ。それでボクの会いたい女性・コレットはコハル……。で間違いない筈なんだ。だから会わせて欲しい」
「どうしてそう言い切れるの? それに、どうして私をつけて来たの?」
「君をつけて来たのは前にコレットと君が一緒に歩いているところを見掛けたことがあるから。人通りが多い場所だったから、見失っちゃったんだけどね。それから色んな人にコレットのことを聞いて回ったよ。それで名前とか色々知った。お願いします。会わせてください」
スライムが頭を下げる。
こう迄されてしまっては、こちらも攻撃に撃って出るなんて真似はできない。
でも一応「身の安全の為に杖は出したままでいい?」かと聞くと、スライムは「もしボクが変な真似をするようなら、その時は全力でボクに魔法を撃ってくれていいよ」とのことなので、杖を出したままでアイリ様に頼まれていた買い物を済ませ、一度領主館に寄った後でコレットさんのいるアイリ様の邸宅へとスライムことエスタを連れて行った。
たまたま玄関近くにいた侍女を捕まえて、コレットさんを呼んで来て欲しいと言うと、彼女は「すぐに呼んで参ります」と小走りでコレットさんがいるらしい所へと駆けていった。
その間に私はエスタ……さん。に聞いてみる。
「コレットさんに会ったらその先はどうするの?」
「できれば昔みたいにまたコハル……。じゃなくてコレットと恋仲になりたいなって思ってる。だから、もしコレットとの対面が上手くいったらここで雇って貰えたら助かるなって」
「それは私の一存じゃ決められないよ」
「うん。だからここの邸宅の主様に頼んでみるつもり」
「そっか」
話してみて、エスタさんは悪い女性じゃないって思った。
だって、コレットさんの名前を呼ぶ時に節々にコレットさんのことが好きだって気持ちが表れてたから。
私は自分がエスタさんに杖を向けてるのが罪なことをしているように感じるようになって、杖を空中へと消した。
それを見てエスタさんが悪い顔で言ってくる。
「そんなことしていいの? もしかしたらボクは無防備になった君をこれ幸いと殺すかもしれないよ?」
「その時はその時。私の見る目が無かったってことで諦めるよ。それより、その悪人顔って明らかに作り顔って分かりすぎるから、もう少し上手くした方がいいんじゃないかな」
「そういうの苦手だから無理」
………………ぷっ。
私達は笑い合う。気が付けば、なんだか打ち解けたみたいになっていた。
「リーネちゃん。リーネちゃんがなんだか私を呼んでるって聞いたんだけど」
「あ! コレットさん、突然呼び出してすいません。実はコレットさんに紹介したい女性がいまして」
「その女性ってリーネちゃんの隣にいる女性?」
「はい。えっとこの女性は……」
私が紹介しようとすると、エスタさんは自分で自分の紹介を始めた。
「ボクはエスタ。見ての通りのスライム。ずっと会いたかった。コハ……。じゃなくてコレット……さん」
「どうして私の名前を知って。……ううん、それよりなんだか凄く懐かしいような感じがする。……私達って初対面、ですよね?」
「そっか。前世の記憶は無いのか。別にそれならそれでいいか」
「えっと、すみません。小声で聞き取れなかったのでもう一度お願いします」
「コレットさんはエルフ……でいいんだよね?」
「種族ですか? はい。エルフです」
「そっか。あの……」
「あ、ちょっと待ってください!!」
私は2人の会話を途中で止めさせた。
今更だけど、玄関前で立ち話っていうのもちょっとって思ったから。
「客室へどうぞ」
「いいの?」
「立ち話もなんですし」
「じゃあ……お邪魔します」
コレットさんとエスタさんを客室へと案内する。
お茶を淹れ、暫くは2人きりに。
その後、2人はまずは友達からということで付き合いを始めることが決まり、ついでにエスタさんはアイリ様と面接の結果、女性執事長に就任することが決定した。
それからコレットさんとエスタさんが恋仲になる迄2週間も掛からなかった。
気が付けば2人仲良くいる姿を邸宅内でよく見掛けるようになり、私達はその様子を生温かく見守って微笑んだりするのだった。




