-外伝- 遠い未来 その06。
翌日。私は朝寝坊をしてしまいコレットさんに叱られてしまった。
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あの日から私はアイリ様とミア様を意識するようになってしまった。
というか、意識させられるようになった。
お茶の時に隣に呼ばれて座らされたりされるし、侍女の仕事中にさりげなく私の背後を通って頭を撫でて行ってくれたりされるし、ゴーレム馬車での出張中にさり気なく私の手の甲の上に自分達の手を重ねて来られたりされるし、お風呂では相変わらず密着して来られるし、寝る時にはわざとらしく私の唇を右手の人差し指で撫でて微笑んだりされる。
これで意識しない人っているのかな? 幾ら鈍感でも意識してしまうと思う。
そのせいで3人一緒にいるのが別の意味で辛い。
何もされなくても顔が熱くなる時がある。
視線を合わせることができない。
これはかなり拙い。相手は領主様とその側近様。
身分が違いすぎる私がお二人に近付きすぎるのは絶対に良くない。
アイリ様ともミア様とも離れなくちゃ。
でも私の場合はお二人の命令でお二人の傍にいる。
それなのに離れるということは、その命令を破るということになる。
1人じゃ抱えきれなくなった私は、この領主館で一番信頼しているコレットさんに相談してみることにした。
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「……という訳なんです」
そんな訳で現在絶賛相談中。
うんうん頷いて私の言うことを聞いてくれるコレットさんが相変わらず優しい。
怒るとちょっと怖いけど、普段は優しい。
「それで私、もうどうしたらいいか分からなくなってしまっていて」
「なるほどね。つまり、リーネちゃんはアイリ様とミア様のことを意識しすぎてしまうくらいに好きってことだよね?」
「好き。……そうですね。きっと、そうなんだと思います。だからこそ、私はアイリ様からもミア様からも離れないとって思いまして。でも私の場合はお二人の命令でお傍にいる訳ですし、どうしたらいいと思いますか?」
「……リーネちゃんはどうしたいの? アイリ様からもミア様からも本当に離れたいの?」
「離れたくは……ないです。でも私は侍女の身。身分が違いすぎです。好きになることなんて許されません」
「身分……か。…………だそうです。アイリ様、ミーア様」
「えっ?」
コレットさんが前触れなくお二人の名前を呼ぶ。
その視線は私の遠く背後に向けられていて、その視線を追うとそこそこの距離のある場所からアイリ様とミア様が朗らかな笑みを浮かべながらいらした。
「い、いつからですか!!」
それに気が付いた私はコレットさんに聞いてみる。
これ絶対にコレットさんが仕組んだことだって思ったから。
案の定だった。私が相談を持ち掛けたその時にコレットさんがアイリ様とミア様に知らせていたらしい。
全部知られてしまって、恥ずかしいやらなんやら頬の辺りが物凄く熱くなる。
「コ、コレットさん。これはあんまりだと思います!!」
抗議するとコレットさんは、私の抗議なんて何処吹く風。
「告白しちゃったね」
なんて言ってのけた。
呆然とする私にアイリ様とミア様が近付いて来られる。
後ずさりする私。しかしコレットさんが私の背後に回り込んで私の逃亡を許そうとはしてくれない。
そうこうしている間に、アイリ様とミア様がとうとう私の目の前に迄やって来てしまった。
「リーネ、さっきのはわたし達への告白と受け取っていいのよね?」
「好きって言ってたしな」
「う……。ですが私は……」
「身分が問題なのよね?」
「はい……」
「そう。でもそれも時期に解決するわ」
「え?」
時期に解決する? それって一体どういう?
私が困惑していると、アイリ様は話を早々に切り替えて私への告白を逆にして来られた。
「リーネ、好きよ。ずっと昔から貴女のことが変わらずに大好きよ」
「うん。私もだ。リーネへの気持ちは変わってない。大好きなままだ」
「ずっと、昔?」
私達が出会ったのは半年前。
それってずっと昔って言うのかな?
なんだかちょっと大袈裟な気がするのは私がおかしいのかな?
「貴女は覚えてないみたいだけど」
アイリ様は私に色々と話してくれた。
それは俄かには信じがたい話。荒唐無稽にも程がある話。
私は元は異世界人で、アイリ様とミア様と出会って、私がお二人を娶って一婦多妻の関係になったっていう話。
アイリ様が私の右腕に自分の腕を絡めて来る。
ミア様がアイリ様と同じように私の左腕に自分の腕を絡めて来る。
「「大好き」」
お二人からの私の頬へのキス。
私はお風呂でのぼせたように熱に浮かされた挙句に腰が抜けて立てなくなってしまった。
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夜。
あれで私の記憶が戻った。……なんてことは無かった。
私は私。今のリーネのまま。
なんだかアイリ様とミア様に申し訳なくて謝罪したけど、それならそれで新しい関係を築いて行けばいいって微笑まれて私は安心することができた。
今日も3人で一緒に同衾。
アイリ様が私を抱き締めながら怖いことを話し出す。
「そう言えば昔、リーネかミアか他の異世界人か。誰だったかは忘れちゃったんだけど、あることを聞いたことがあったことを思い出したわ」
「あることですか? 何をです?」
「異世界人って約束を破ったら針を千本飲ますんでしょ」
「えっ……」
こっわ。私って昔はそんな世界に住んでいたの? 針って、そんなの飲んでも平気なの? しかも千本も?
ドン引きしてしまった。でもすぐにミア様がそれは比喩だと教えてくれた。
「そうだったの。でも丁度良い機会だから約束を決めましょう。わたし達は何があっても寝る時は必ず3人で寝る。で、それを破ったら罰ゲームってことでどう?」
「あの、針を千本飲むのは無理です」
「そう。だ・か・ら、別のことにしましょう」
「別のことって、例えばなんですか? アイリ様」
「そうね。例えば……」
アイリ様はとんでもないことを口にした。
私とミア様の顔が真っ赤になってしまうようなことを。
「アイリ様。本気ですか?」
ミア様がアイリ様が言ったことに対して顔を赤に染めたまま聞く。
アイリ様はそれを面白そうに笑いながら、「勿論よ」と即答した。
そして―――。
「ところでリーネ。私達は恋人関係になったってことでいいのよね? 貴女から返事を貰っていないような気がするのだけど」
「そう言われてみれば貰ってないですね。どうなんだ? リーネ」
身分関係は何も解決していない。
でもアイリ様は時期に解決すると言っていた。
なら、私はそれを信じてお二人に私の気持ちを伝えることにした。
「……アイリ様、ミーア様」
「なぁに? リーネ」
「どうした? リーネ」
「私はアイリ様とミーア様のことが大好きです。昔のことは私は覚えていません。そんな私でも良ければ、私とパートナーになってくれませんか?」
言っちゃった。言ってしまった。
私からの返事を受け、アイリ様とミーア様が微笑まれる。
その口から紡がれるのは、とても優しい言葉。
「勿論よ。昔のことなんて覚えてなくてもいいわ。さっきも言ったけど、今の貴女と新しい関係を築いて行けばいいだけだもの」
「私もそうだ。リーネと新しい関係を築いて行けばいいと思う」
「ありがとうございます」
「そこで、だ」
「はい?」
「リーネは私のことを獣人だと思ってるかもしれないが、私は獣人に似た魔人だ。その証拠がこの前髪の一筋の白いところだな。魔人は必ず髪に一筋色が違うところがある。アイリ様もよく見たら白銀よりも白いところがあるのが分かるだろう? まぁそこは見なくてもアイリ様の場合は角で分かると思うが」
「……? えっとお話が見えて来ないです」
「あのね、リーネ。魔物って他の種族よりもね。アレなの」
アレ? アレってなんですか? それを聞くことは私にはできなかった。
アイリ様の唇が私の唇に重ねられたから。
その間にミア様が寝着のボタンを1つ1つ外していく。
今日の私の寝着はトップスは濃いピンク色の半袖ボタン式の物。ボトムスは同じく濃いピンク色の膝丈のズボン。
「安心しろ。優しくしてやるから」
ミア様によって私の寝着のトップスのボタンが全部外された頃、アイリ様の唇が私から離される。
「ふふっ。ここからは私も加わるわね」
何に? いえ、なんとなく分かりますけどね。
「あの、私達って告白しあったばかりですよね?」
「そうね」
「そうだな」
何当たり前のこと言ってんだ。みたいな目で見ないでください。
今日なの? 今からなの? すぐなの? 早すぎだよ!!!
「大好きよ。リーネ」
「大好きだぞ。リーネ」
「お二人共ちょっと待ってください!」
「「断る!!!」」
私はこの後、たっぷりとお二人に―――。




