-外伝- 遠い未来 その04。
私は観念し、魔王様に全てを吐露した。
**********
それから数日後。
今日はイザベラさんが処刑される日。
私の告発を受け、魔王様はその日のうちに他の侍女や料理人見習いや庭師見習いなどの使用人にも聞き取り調査を行った。
そうすると出るわ出るわの不満の山。言葉や暴力だけでは済まず、彼女はお客様が来ていた時にわざとその対応をする侍女に粗相をさせようと[罠]を仕掛けていたこともあったらしい
ボタンを1つ掛け間違えると、侍女ではなくお客様の側が危険な目に遭っていたかもしれない[罠]を。
これによってイザベラさんはその身分を剥奪。
だけでは済まず、数日投獄されて鞭打ち刑の後で毒杯をいただくことになることが魔王様の権限と言葉によって確定した。
イザベラさんの後を継ぐのはコレットさん。
彼女の名誉は私の告発によって無事に回復できたのだ。
ただ、当の私は[自分のせいで人が死ぬ]ということに耐えられず、一度は魔王様に退職の願いを届け出た。
そしたら今度は「コレットが侍女長になるという時に退職願いなんて出すのね。貴女はあの子の教え子。この行為はあの子の顔に泥を塗るということって分かっているかしら?」と言われて私は何もできなくなってしまった。
貴族ってやっぱり怖い。
前は里のことをああだこうだと言ってたけど、私は外の世界を甘く見すぎていたことが良く理解できた。
かと言って、里に戻りたいかと言われると戻りたくはない。
心の中の糸が絡みに絡んで複雑な気持ち。
気持ちの持って行き場がない。しんどい。
今頃はイザベラさんは1人で処刑される時を待っているのだろうか。
怯えていることだろう。私達のことを呪っていることだろう。
でもそれは自分が蒔いた種でもある。
芽吹く前に壊せば良かったのに、彼女は芽吹かせてしまった。
それもミントのように繁殖力の強いモノを―――。
「でも、なんとか助けられないかなって思うのは甘い考えなのかな」
独り言のつもりが、すぐ横から返事がされた。
「うん。甘い考えだね。イザベラさんは自業自得。処刑されたくなかったら、あんなことしなかったら良かったんだよ」
「コレットさん!! いつの間に」
「結構前からかな。リーネちゃんが仕事をせずにぼんやりしてるから叱りに来たんだけど、その顔を見てたら何考えてるのか、なんとな~く気になってね。見てたら蜂蜜みたいに甘いこと言い出したから声を掛けたんだよ」
「趣味が悪いですよ。コレットさん」
私の言葉で"けらけら"とコレットさんが笑う。
それを見て私がため息を吐くと、コレットさんは急に顔を笑顔から真顔に変えて聞いてきた。
「リーネちゃんさ、イザベラさんのことを考えているのはよ~く分かったよ。で? アイリ様のことはどうして考えてあげないの? 魔王様だから冷たい女性だとでも思ってる? そんなの偏見だよ。綺麗事だと思うかもしれないけどさ、アイリ様だってこんなこと命ずるの辛い筈だよ。それでもやらないといけないのは、そういう立場だからだよ。これを赦せば他の地方から舐められるし、場所によってはアイリ様の立場とか、命が危ないかもしれない。だって、イザベラさんの[罠]は少し間違えたら、その地方の領主様が危険な目に遭ってたかもしれないんだから。それに、この地方だけで済めばいい。でも国としての立場も考えないといけない。リーネちゃんの優しさは美徳だとも思うけど、同時に悪徳でもあると思うかな」
返す言葉が無い。確かに私は一方のことしか考えてなかった。
魔王様の気持ちとか、地方単位のこととか、国単位のことなんてまるで考えが及んでいなかった。
「馬鹿だ。私」
「そうだねー。ところで、そろそろちゃんと仕事しようか? じゃないと叱ることになっちゃうんだけど。私の仕事増やさないで欲しいなぁ」
「はい! ごめんなさい」
コレットさんの笑顔怖い。
今回は優しく注意されるだけで済んだけど、今度はサボってたら何千万ボルトの雷が落ちると思う。
私は持ち場に行っていつものように仕事を開始した。
**********
その日の夜。
私は魔王様の部屋の前に立っていた。
あの事件が起きる前に魔王様と家令様から言われたことを実行する為だ。
"すーっ、はーっ"扉の前で深呼吸。
あらゆる意味で私は落ち着かないといけない。
私は[意]を決して扉を叩こうと……。したら内側から先に開いた。
「やっと来たのね。リーネ」
まさかの魔王様。
ところでその恰好。ネグリジェとは思わなかったです。
「遅くなって申し訳ありません。あの、魔王様。その恰好は……」
「これから寝るのだもの。何か変かしら?」
「い、いえ。決してそんなことはないんですけど」
「とりあえずこんなところで立ち話もなんだから、入って入って。ミアも待ちくたびれてるからね」
「あ! はい。お邪魔します」
魔王様に促されるままに部屋の中へ。
入室すると家令様もそこにいた。
ベッドの上にキャミソール姿で。
似合いますよ。似合いますけど、目のやり場に困ります!!
「遅いぞ、リーネ。本来なら侍女が上の立場の者を待たせるなど言語道断だ。が、今回だけは大目に見てやろう。だが、遅れた理由は話せ」
家令様に言われて私は素直に遅れた理由をお二人にお話しする。
「申し訳ありません。何を着てここに来ればいいのか分からなくて遅くなってしまいました」
伝えたら、魔王様に呆れられてしまった。
「……何を着てって。これから寝るのだから寝着を着てくればいいだけのことじゃない」
「それを着て廊下を歩くのはどうなのかなと……」
「はぁ……っ。だからリーネは侍女服なのね」
「えっと、……はい」
「侍女服で寝るのか? それはちょっとどうかと思うが」
「ですよね。私もどうかと思ったんですが……」
「仕方ないわね。今日はわたしの寝着を貸してあげるから、それで寝なさい。それで明日からは自分の寝着でここに来ること。分かった?」
「は、はい。ありがとうございます」
そんなやり取りの後、魔王様から借りた寝着は水色の可愛いのだった。
時期的に半袖のトップスと半ズボンのボトムスでトップスの襟部分とボトムスの裾部分が白いレースになってる物。
可愛いんだけど、まさかその場で着替えさせられるとは思わなかった。
2人の視線がかなり痛かった。
「眼福だったわ」
「そうですね。アイリ様。いいモノを見させて貰った気がします」
「恥ずかしいのでやめてください……」
「ふふっ、そういうところは相変わらずなのね」
「相変わらず?」
「……っと。なんでもないわ。ほら、リーネ。こっちに来て」
魔王様の言葉がちょっと気になったけど、忘れることにして私は"おずおず"と魔王様のベッドの上に乗させて貰った。
「ふわぁ。それじゃあ寝ましょうか」
「そうですね。リーネのお陰で寝る時間も遅くなりましたし」
「うっ……。申し訳ありません」
「冗談だ。ほらほら早くこっちに来い」
「は、はい」
ベッドの中、魔王様に前から抱き締められる。
顔が魔王様の膨らみに当たって、その……。
背後からは家令様が私のことを抱き締めている。
そちらは私の背中に家令様の膨らみが……、えっと……。
これ。なんなんだろう?
「抱き枕になりなさい」っていう命令だったけど、本当に抱き枕だ。
寝れるかな、私。
「リーネ」
「は、はい!!!」
魔王様に急に声を掛けられてびっくりした。
ちょっと裏声になってしまった。
「ごめんなさいね」
「え?」
どうして私は魔王様に謝られて???
「貴女にキツいことを言っちゃったわ。でもあの時はああするしかなかったのよ。自分の立場をひけらかすつもりではないのだけど、わたしはここの領主だから」
そのこと、か。それならコレットさんに叱って貰ったからもう充分に分かっています。
だから。
「いえ、そのことはコレットさんに叱られながら教えられました。ですので充分に理解しています。謝らないでください。魔王様」
「そう。あの子が……。コレットをリーネに就けて正解だったわね。ところで、その魔王様って言うのどうにかならないかしら? できればアイリと呼んで欲しいのだけど」
「私も家令様ではなくミアと呼んで貰いたいな」
「あ! 申し訳ありません。分かりました。アイリ様、ミア様」
「それでいいわ。良い子ね。リーネ」
「うん。良い子だ。リーネ」
まお……。アイリ様とミア様から交互に頭を撫でられる。
さっき寝れるかな? って心配だったけど、アイリ様とミア様の[生命]の音を聴いて、感じていたら段々眠たくなってきた。
私がうとうとし始めたのを見て取ったのだろう。
アイリ様がミア様に声を掛ける。
「眠くなったみたい」
「みたいですね。では私達も寝るとしますか?」
「そうね。おやすみなさい。わたし達の可愛いリーネ」
「おやすみ、リーネ」
「……はい。おやす。…………すーすー」
寝る前の挨拶。最後迄言えなかった。
私はお二人に抱かれながら朝迄"ぐっすり"と眠った。




