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-外伝- 遠い未来 その01。

これはタイトルの通りに遠い未来のお話。

【リリエル】が前世となった頃~if~の世界のお話です。

本編と同じ、リーネの一人称でお話は進みます。

 ハイエルフの里の閉鎖的な雰囲気に耐え兼ねて、衝動的に里を飛び出して来てしまった私。

 そんな私は現在、途方に暮れていた。


「どうしよう……」


 これから食べていく為、生活の為に仕事をしなくちゃいけないんだけど、何処に行ってもハイエルフというだけで門前払いされてしまうのだ。


「はぁ……っ」


 私がため息を吐いてしまうのは仕方ないと思う。

 今からは遠い過去にはハイエルフも人々から信頼されていた過去があったのだ。

 エルフと獣人とダークエルフ。別種族の人達と時には友人として、時にはダークエルフの女性(ひと)の恋人として、時にはハンターとして別種族のその女性(ひと)達と共に自分達の拠点としている地方を荒らす者からその地方を守る為に共に戦った経歴などを人々から称えられて。

 その女性(ひと)はそのお陰で多くの人々から愛されていた。


 逆に私達ハイエルフの里では[裏切り者]として嫌悪の対象になっていて、私は自分の親などから「あんな風になったらダメよ」なんて言われていたけれど。

 まだまだ本当に小さい子供の時代には親の前では「うん、分かった」とか聞き分けの良い子を演じて来た。

 でも胸の内ではずっと思っていた。


 私は自分の親みたいな人じゃなくて、人々から信頼されていたその女性(ひと)みたいになりたいって。


「だからその時をずっと待ってて、やっと時が来たと思ったから里から抜け出して来たんだけどなぁ……」


 里を飛び出して町に出て、初めて知った現実。

 過去に私の憧れのハイエルフの女性(ひと)が築いた他種族の人々との信頼関係を台無しにした、同じくハイエルフの存在がいるということ。

 その男性(ひと)は私と同じように里から飛び出して来た迄は良かったが、他種族のことを見下してゴミ扱いした挙句に「自分達こそ志向の存在である」なんて言って憚らず、それが原因で人々から煙たがられるようになった彼は自分が嫌われているのは他種族がおかしいなんて逆恨みして、各地で魔法を使って他種族の里を焼き払ったり、それだけでは飽き足らずにこの国の人だけではなく、この国と同盟を結んでいる人々迄も大怪我を負わせるという暴挙を犯した。


 当然そのハイエルフの彼は衛兵に捕まってから数日後に死刑判決が下されて実行された訳だけど、その彼が齎した[事]は大きく国内外を揺るがし、大変な事態となった。


 そもそもにして、その彼が普通のハイエルフならまだ良かったのかもしれない。

 ところが彼は[炎獄の魔公]なんていう肩書きを持っていた為に、その事件が起きる迄は魔女や魔公などは何処にも縛られない存在という概念が覆り、魔導士連盟なんて組織が作られる有様となってしまった。

 そこは文字通りに魔女や魔公などの称号を持つ者を管理する組織。

 また、その称号を与えるに値するか否か見極める為の組織でもある。

 後、その称号を与えた存在が何らかの犯罪を犯した場合には、速やかにその者を暗殺するという物騒な事柄を受け持ってもいる。


 ちなみに魔女は魔法に長けた女性が授けられる称号。

 魔公は魔法に長けた男性が授けられる称号。

 拳聖とか聖女と言った称号を持つ者もいる。


 魔女に聖女に拳聖に魔公など合わせて全世界で合わせて50数名程。

 その割合は若干だけ女性側が高く、女性の称号者が27名に対して男性側の称号者は23名程となっている。

 私も実は魔女の称号の持ち主。

 

 悠遠の魔女―――。


 私が密かに憧れていたエルフの女性(ひと)が持っていたその称号。

 私は10歳の頃に魔導士連盟からその称号を授けられた。

 魔導士連盟の人が言うには、種族こそ違えど、私はまるで[悠遠の魔女]の生まれ変わりなのではないかと思えるような人物なのだそうだ。

 容姿も耳の長さ以外は同じ。魔法の[質]も[量]もその[悠遠の魔女]と呼ばれていた人物と変わりがないと魔導士連盟の人々に言わしめる程。

 それを聞いた時は嬉しくて堪らなかった。あまりにも嬉しすぎて、喜びで目が冴えて一晩眠れなかった。


「なんだけど……」


 その肩書き、全然役に立ってない。

 種族だけで判断されて人々から拒絶される。

 心が折れそう。里を飛び出すときにアイテムポシェットに1ヶ月は生きていけるだけのお金と食料と水は入れて来た。

 それも残り2.3日もすれば底をつく。そうなっちゃったらどうしたらいいんだろうか。

 里には絶対に戻りたくない。あそこに戻るくらいならば飢え死にでもした方がずっとマシだ。


「ハンターギルドからも追い出されるんだもんなぁ」


 本当に余計なことをしてくれたよ。[炎獄の魔公]。

 本人は死んで終わりだから良いかもしれないけど、残された側は多大な迷惑を被るということを少しは考えて欲しかった。魔公なんて立派な称号を貰った割には頭が悪い。馬鹿だ。


魔素(エーテル)が食事の代わりになればなぁ……」


 子供の頃に読んでいた絵本の中にそんな存在が確かいた。

 仙人だっけ? 霞を食べて生きてたとかどうとか書いてたこと覚えてる。


 あんなのお伽橋の上だけの存在だって分かってはいるけど、今はあまりにも何もかもが切実すぎて、そんなことが現実にできたらいいのになんて考えちゃっている。


 とある公園のベンチに座り込んで自分の未来について悲観に暮れている私。

 そんな時に、私の顔面に1枚の紙切れが風に飛ばされて張り付いて来た。


「……。風に迄馬鹿にされる私って」


 ちょっと泣きそうになりながら顔面に張り付いたその紙を引き剝がす私。

 その紙は求人募集の張り紙で、何気なくそれを読んだ私はその紙を手にすぐにその場所に駆けて行くこととなった。


**********


 到着したのはデルモーテ領主館。別名:魔王宮殿。

 その領主館の主は魔人(デモンノイド)の魔王様。

 彼女は2代目の魔王様で、初代様は今も健在だけど、魔王の座は2代目の彼女に譲って、今はただの魔物の1人として、この国の地方の1つであるロマーナ地方。その地方にある学園で理事長をやっているって噂に聞いた。

 800年以上もの歴史がある学園。流石に何度か全面補修工事とか行われたらしいけど、当時の面影を残すモノが今もあるとかなんとか。

 その学園に私も通ってみたいって思ったことがあった。あったけど、その地方はここからかなり遠い。なのでそれは現実的じゃないってさっさと諦めた。

 それで今はそんなことより仕事を見つけるのが大事だ。


「ここでも門前払いされたらどうしよう……」


 そうされるといよいよ行き場が無くなる。

 本気で飢え死にを覚悟しなくてはいけなくなる。


「セレナディア様。私をお助けください」


 この国で国教とされているセレナディア教。

 恋愛とその安寧を願うセレナディア様にお祈りして私はそのお城の門へと近づいていく。

 恋愛とその安寧の女神様って就活とは全然関係ないんじゃない? っていう現実。『思い』は遠くに置いておいて……。


「あ、あの……。この求人紙を見てここに来たんですけど」


 白の前に立つ衛兵さんにその紙を差し出すと、衛兵さんは入念に私のボディチェックをした後、領主館の中へと通してくれた。


 ここからはこの領主館の侍女さんが面接会場迄案内してくれるらしい。

 何も分からない私には助かる。黙って付いていくと随分と厳かな扉の前。


「こちらで魔王様が直々に面接をされることになっています」

「え゛っ」


 侍女さんの言葉を聞いて、私が変な声を出しちゃったのは仕方がないと思う。


**********


 侍女さんに通されて魔王様との対面。

 魔王様はとても美しい方だった。ううん、魔王様だけじゃない。

 その隣にいる家令様? も素敵な方だった。


 魔王様は端正な顔立ちに黄金の瞳と腰迄届く白銀の髪がとても似合っていて美しい方。

 頭には過去に異世界人がこの世界の動物を見て「ジャイアントイランドとそっくり」と言ったことからその名となった動物の角を少し短くしたような2本の角が生えている。

 家令様? かは分からないけど、こちらの方は魔王様よりもやや凛々しい顔立ちで琥珀色の瞳と黄金のショートボブに前髪に一筋、白の毛がある方。狼系の獣人さん?


 色んな意味で心臓が煩い。

 私はぎこちなく挨拶をする。


「は、初めまして。この度はこのような機会を与えていただいてありがとうございます。貴重なお時間を取らせてしまって申し訳ありません。そ、その、求人募集の紙を見て応募させていただいたんですが、是非ともこちらで雇っていただけないかと思いまして」


 お、落ち着け私。

 て言ったって、まさか魔王様直々に面接を担当されるなんて思ってなかったし、私の目の前にいるお二人共、美人すぎる女性(ひと)だし、落ち着くの難しい。


 私が挨拶を終えた後、魔王様と家令様? の言葉を待っていると、そのお二人が"ごくりっ"と唾を飲む音が私に聞こえて来た。


「失礼だけど、貴女の名前はなんて言うのかしら?」


 魔王様が私に問うて来る。

 そうだ。自己紹介に名前を言うことなんて基本じゃないか。

 すっかり忘れちゃってた。慌てて名乗る私。


「リーネと言います。昔は違ったんですけど、魔女の称号を貰った時に今後はその名前を名乗るようにって魔導士連盟の方から言われまして」


 よし! さり気なく魔女の称号を持っていることをアピールできた。

 これで少しは採用確立が上がったかもしれない。そう思いたい。

 私が希望に縋っていると、今度は家令様? が私のその魔女の称号名を聞いてきた。


「その連盟からリーネ……さんが受け取った称号名を聞いてもいいか?」

「あ、はい。私の称号名は」


 悠遠の魔女です。


 その称号名を私がお二人に告げた瞬間、それ迄椅子に座っていたお二人が勢いよく、その椅子を蹴飛ばすかのように机に手を強く叩きつけながら立ち上がった。

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