-特別編2- 盟友達。
特別編Ⅱについてはこの1話のみとなります。
邪族大行進。
この世界の各国・各地方で稀に発生する迷惑現象。
発生した時にはハンターは問答無用で全員参加となる。
[人]に[害]を成す存在。放置すれば甚大な被害が発生するからだ。
邪族によって殺人が行われる。牧畜や農産物が荒らされて人々が食べていくことに困ることになる。
彼らを放置した場合に起きることは上記のことに加えて他諸々とある。
とある日、迷惑現象がロマーナ地方においてよりにもよって各所で発生した。
一ヶ所や二ヶ所ならばまだいい。対応もどうとでもなる。
しかしそれが数ヶ所となれば、正直に言って全ヶ所を何事も無かったかのように終わらせるのは不可能だ。
鎮圧に成功しても、少なからず被害の発生は免れないだろう。
ロマーナ地方のハンターギルド・ギルドマスターのヒカリは邪族大行進が起きた場所を部下から聞き、握り拳を作りながら悔しさに歯を噛み締めていた。
便乗して野盗が反乱を起こしている[事]迄伝えられたから。
こうなると、本当はやりたくないが最優先で守るべき場所とそうでない場所とを仕分けなければならない。
ヒカリの心はこの時、黒い靄に包まれていた。
それでも、それでも指示をするのがギルドマスターとしての仕事。
ヒカリは絶望にも似た気持ちに蓋をして、部下達に指示を飛ばした。
「この地方には【リリエル】がいる。けど……」
脳裏に浮かぶこの地方で人々から慕われている存在。
彼女達の中には転移の魔法が使える者もいる。
とはいえ、今回の場合は各所で一斉に邪族大行進と野盗の反乱が起こっている。
せめて時間差があれば、【リリエル】がいればなんとかなっただろう。
順番に殲滅していけば良いのだから。
「どれくらいの被害が出るかな。最小限に抑えたいけど」
ヒカリの呟き。鐘の音によって駆り出されるハンター。
彼女・彼らはヒカリによって各所に振り分けられてそれぞれの場で邪族と野盗達の暴虐を食い止めることになった。
【リリエル】の担当はロマーナ地方で最も栄えている中心地。
国で言うと王都な所。中心地の鎮圧が終われば他の場所もお願いしたいとヒカリから彼女達は依頼を受けた。
【リリエル】は異議など申し立てることなく受諾。
ヒカリの話を得て、ロマーナ地方のハンターギルドに所属をしているほぼ全てのハンターによる邪族と野盗の盗伐が始まった。
中にはハンターギルドにおいて最凶とされている邪族もいた。下手に手を出すと却って危険といわれる野盗も。いたが、他のハンター達が恐れを成す中で特別顔色を変えることなく、対象をなんなく狩ってみせる【リリエル】。
最凶の邪族と野盗の群れを平然と狩る光景に人々はやっぱり【リリエル】は特別だと感じていたが、実はこの時に【リリエル】が担当した場所と同じような[事]が起きている場所があった。
【クレナイ】と【ガザニア】が担当していた場所。
場所は違えど、【リリエル】とほぼ同様の働きを見せる彼女達。
伊達に【リリエル】の傘下を称しているわけじゃないことを彼女達は意識をしたわけではないが、働きを堂々とこの地方の人々に魅せる・見せることで呈した。
自分達が任された中心街の邪族と野盗達の始末を楽々と終えた【リリエル】は【クレナイ】と【ガザニア】と合流。
リーネから【クレナイ】と【ガザニア】に向けて掛けられる声。
「討伐が終わったら、私達だけでお茶会でもしませんか?」
こんな時に呑気だ。呑気だが、「今の状況分かって言っているの?」とか言ってリーネを叱ったりするような者は誰もいない。
叱るどころか全員が賛成する始末。
そうと決まれば……。
【リリエル】と【クレナイ】と【ガザニア】のメンバー全員が揃って邪悪な笑みを浮かべて見せる。
【リリエル】は設立当初からこんな感じだったが、【クレナイ】と【ガザニア】はそうではなかった。
傘下の者というのは主体側に似るものなのだろうか。
楽しみなお茶会。邪魔する邪族と野盗。……じゃあ狩らなくちゃ。
いつの間にか彼女達の脳内は半分[お茶会楽しみ]に置換されていた。
合流前迄は[この地方を守る]が全部だったのだけど。
合流した彼女達。邪族と野盗の殺戮が始まった。
【リリエル】も【クレナイ】も【ガザニア】も各々メンバーの中に転移の魔法が使える者がいる。
転移の魔法と個々が得意とする攻撃を駆使して邪族と野盗の討伐する。
【リリエル】はバランス型。
【クレナイ】は前衛特化型。
【ガザニア】は後衛特化型。
ミーアとカミラとケーレは【クレナイ】と共に前へ。
リーネとアリシアは師妹の関係にある【ガザニア】と共に前衛を援護しながらの最上級魔法での攻撃。
凶悪な集団。邪族や野盗達なんかよりも余程身の毛がよだつ。
邪族大行進と野盗達の反乱は【リリエル】と【クレナイ】と【ガザニア】の鋭利な刃。衝動。凶暴性剝き出しの行動によって[人]などへの被害なんて殆どない状況で終わりを告げた。
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ということを部下から聞いたヒカリ。それと領主シエンナ。
ヒカリなどは幾ら【リリエル】のことをよく知っているとはいえ、聞いたことが信じられずに部下に「今って何て言いました?」と問い返してしまったくらいだ。
返ってきた言葉は全く同じモノ。ヒカリはシエンナの方へと顔を向けて"ほっ"と息を吐きつつ「だ、そうですよ?」と伝えた。
しかし、残念ながらヒカリの言葉はシエンナには届いていなかった。
いつもならば、[事]の後に開催される【リリエル】とのお茶会。
今回は【リリエル】側から断られてしまったからだ。
【リリエル】と傘下のメンバーだけで開催するからと言われて。
シエンナは床にくず落ちて"さめざめ"と長時間に渡り涙を零した。
泣く領主様。シエンナのことをヒカリは面倒臭いので放置して、自分はさっさと仕事に戻った。
哀れなシエンナ。ハクも傍にいたが彼女も面倒臭かったのか? ヒカリと退席。
彼女の仕事を手伝いに向かった。シエンナはギルドマスター室に1人で残されることになり、孤独にも泣くことになった。
**********
シエンナが孤独に泣いていたそんな頃。
【リリエル】主催によるお茶会がマロンのエルフの里の家で開催されていた。
全員未成年なので手に持っているのは、南国で育てられた果物の果汁を絞り、色々と混ぜられて作られたトロピカルジュースが入った木彫りのカップ。
開催の初めの音頭を取るのは勿論、【リリエル】のリーダーのリーネ。
「さて、皆さんお疲れさまでした。【リリエル】の実力については当然よく知っていますが、【クレナイ】に【ガザニア】の皆さんもあれ程の実力があるとは思っていませんでした。これなら【リリエル】の傘下から外れても貴女達は充分すぎる程にやっていけますよ」
「お姉さま、我々は傘下から外れることをお断りいたします」
「リーネ師匠、私達も同じくです」
「即答ですね。ですが、何処か嬉しいです。では始めましょうか。乾杯」
「「「「「「「乾杯」」」」」」」
リーネの合図で皆が頭上に木彫りのカップを持ち上げる。
音頭が終わると"わいわい"騒ぎだすお茶会メンバー。
テーブルに並べられているのは【リリエル】が各地を旅した時に様々な場所にて購入した料理の数々。
【クレナイ】と【ガザニア】のメンバーには見たことが無い品々も数多くあり、彼女達はそれらに顔を綻ばせながら舌鼓を打つ。
「美味しいです!」
「お姉さま方、この料理最高です」
「甘辛タレが堪りません」
「こんな美味しいの初めて食べた。私も旅に出たくなって来るなぁ」
「フィーナ、その時は私も一緒に行くからね? 置いていかないでよ!」
「当たり前だってば。マリー」
楽しいひと時。最初のうちは何処でも見られる[宴]の光景だった。
様相が変わったのは、アリシアとミーアが自分達の最愛の女性であり妻のリーネに「あ~ん」してをし始めてから。さっき迄の[普通]は何処へ行ったのだろうか。もうそこは3人の空間。愛情と幸福と少量の緊張が3人の心内で膨れ上がり、心身を震わせる。口を開きつつ、リーネはアリシアとミーアの細い指を熟視。ついつい、よからぬことを妄想してしまい、体温が何度か上がる。
……………。
リーネの温度がアリシアとミーアに波及。彼女の身体に片手で触れる。
服越しではあるものの、触れた手がリーネを必要以上に認知。
アリシアはわざとでなく、スプーンに乗せた料理を零してしまった。
運命の悪戯か。零した料理はリーネの胸元に吸い込まれるように落ちていく。
「「「あっ……」」」
重なる3人の声。白いシャツにエビチリの赤い染み。
紅白。見入り、魅入るアリシアとミーア。
理性と欲望を乗せた天秤。元々危うかった天秤の均等は欲望の重きにより崩れ、理性を吹っ飛ばした。
リーネを押し倒す2人。彼女の唇と紅に染まった個所を一心不乱に吸う。
吸っている時に不運? 幸運? にも見てしまうリーネの顔。
魅惑の一言。ただでさえ可愛い彼女が、もう手の施しようもなく可愛い。
庇護心と加虐心。心が揺さぶられる。可愛がりたいし、壊したい。
彼女に骨抜きにされる。
動揺する2人を余所に切実な想いを抱くはリーネ。
嚙まれたい―――。血を吸うみたいに。
噛まれて2人に属従したい。自分を屈服させて欲しい。
……耐えられない。2人に目で訴える。言葉なんて必要ない。
噛んでください。できれば直接がいいです。
リーネの気持ちがココロに届いた2人は彼女の服をはだけさせて噛み付いた。
歯を立てて、リーネが痛がるくらいに強く。
果たして2人の噛み付きはリーネに苦痛を与えた。
痛い。顔が歪むリーネ。痛いけど……。堪らない。
嚙まれた所が甘く疼く。もっともっと噛んで欲しい。
「もっと……。強くお願いします」
気付けば声を上げて懇願していた。
3人共に荒くなった呼吸。汗が身体を伝っている。疲れたので一休み。
「アリシア、ミーア。大好きです」
2人に甘えるリーネ。彼女の艶姿を見て蕩ける2人。
「可愛いわ」
「うん、可愛いー」
猛烈な行動から一転。3人はじゃれ合いを始めた。
これ迄3人を見守ってきた他の者達。
カミラが動き、ケーレを押し倒した。
伝染してマリーがフィーナを押し倒す。
【クレナイ】のオリビア・クロエ・ジニーも3人で同じことを開始した時、全員の目がそちらに移って彼女達は他のメンバーから質問責めに合うことになった。
「え? 3人ってそういう関係だったのですか!?」
「いつからなの? 知らなかったわ」
「教えてくれても良かったのにー」
照れる【クレナイ】。こうなったのは少し前のこと。
リーダーのオリビアを中心に、いずれはリーネ達と同じように仲の良い一婦多妻の関係になるつもりだと彼女達は話した。
「「「「「「「そうなんだ~」」」」」」」
ますます盛り上がる会場。皆がそれぞれ愛する女性に寄り添いながら食べたり、飲んだり、雑談したり、戯れ合ったり、乱れさせたりとお茶会は最高潮となる。
宴もたけなわとなる頃には愛する女性同士だけではなく、お茶会に参加している者達で円陣を組むように肩を寄せ合って、この世界・果てはリーネとミーアの出身世界で誰もが知っている童謡などを歌い、彼女達は[絆]を強く深め合った。
楽しい時間も嫌な時間もいずれは終わりを迎えるもの。
お茶会は終了。だが、今日は全員別荘に宿泊することが決まっている。
お茶会が始まった頃は夕方近くだったが、時間は流れて、もうどっぷりと夜。
片付けが終わった後は流石に全員でお風呂なんていうのは無理なので、愛する女性同士でお風呂に入り、皆が上がって休憩したらミーアからの提案で枕投げ大会が開催された。
優勝者にはニアのお店の新作の服を何着かプレゼント。
ニアのお店の服の質はこの場にいる全員が知っている。
皆の目の色が変わって本気で投げられる枕。
優勝の座はマリーが勝ち取った。
その場でミーアからマリーに進呈される服。
彼女のパートナーであるフィーナがミーアから贈呈された服をマリーが着用している姿を見たがったので、彼女はリビング。お茶会の会場の隣の部屋で着替えて、ニア渾身の作品の1つ。純白のワンピース姿をお披露目した。
「「「「「「「「「わぁぁぁぁ、可愛い」」」」」」」」」
フィーナだけじゃなく、皆からの称賛の声。
照れてしまって顔が熟れたリンゴのようになってしまうマリー。
彼女の可愛さがまた皆を色んな意味で[虜]にした。
そんなこんなで幸福の時を過ごして時刻は深夜。
眠くなってきた彼女達はリビングで適当に雑魚寝。
当然、愛する女性同士で。
片時も離れたくない。
アリシアとミーアに今日はいつもとは異なる寝方を提案した。
アリシアが右側、リーネが中央、ミーアが左側なのは変わらない。
中央のリーネが横向きではなく仰向けであるということだけ。
「今日は甘えたね。リーネ」
「アリシア、ミーア。どさくさに紛れて私を脱がそうとしてませんか?」
「リーネの感触と体温を直接感じたいー」
「これから毎晩そうしない? リーネ」
「マジですか……。私に拒否権はありますか?」
「「無い」」
「……。息ぴったりですね。2人共」
じゃれつく3人。睡魔に誘われ始めた頃、リーネは思うのだった。
『半分くらい修学旅行みたいでしたね』
"くすっ"とちょっぴり笑いながら。
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それ以降も【リリエル】の活躍は変わらず続く。
否、【リリエル】だけじゃない。【クレナイ】と【ガザニア】も共に。
ロマーナ地方とマロンのエルフの里では【リリエル】は人々からの人気を集めていたが、【クレナイ】と【ガザニア】にも注目が集まるようになり、彼女達も百合の女神として奉られるようになった。
無自覚で大輪の百合を咲かせる者達。
今日は休日。ロマーナの地を全員で散策中。
愛する女性同士で手を恋人繋ぎで。
指と指の絡みが鎖にも見える。愛する者を束縛する鎖。
「あ……あっ……尊い」
「な、なんだか見る度に尊さが増しているような……。あ……っ」
「私の汚れた心が浄化されていく……」
尊死多数。ロマーナの地の人々の試練はこれで終わらない。
雑談する彼女達。純粋無垢な顔。
目撃した者は百合に殺られて散っていく。
「先立つ不孝をお許しください……」
「ふ、ぐっ……。耐えられないわ……」
自分達の周りで起こっているできごと。
【リリエル】も【クレナイ】も【ガザニア】も何故か気付かない。
彼女達は自分の愛する女性しか見えていないのだ。
最近は戦闘中も愛する女性をガン見。邪族達は視界の隅。
それでも討伐に支障はない。寧ろ捗っている。
彼女達だからこそ可能な[業]。
「皆さん」
「……? どうしたの? リーネ」
「何かあったー?」
「これからもよろしくお願いしますね」
「こちらこそよ。貴女と会えて良かったわ」
「うんうん。本当、こちらこそだよー。離さないからね」
「こちらこそよろしく頼む」
「うちこそよろしくね」
「リーネ師匠。私こそいつ迄もよろしくお願いします」
「フィーナ共々よろしくお願いします」
「「「何処迄も付いて行きますわ。お姉さま方」」」
彼女達の頭上には澄み切ったティロットの青空。雲1つ無い晴天。
輝く空に負けず劣らず、彼女達の顔に溢れるは優美な笑み―――。
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特別編2 Fin.




