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-序章- 燃える里。リーネの怒り。

残酷な表現があります。

後、下卑た表現もあります。

苦手な人はお気を付けください。

予めご了承をお願いします。

 エルフの里に突然の危機を知らせる警報の鐘の音が響き渡ったのは―――。


**********


「今の……」


 アンリが不安げな顔をする。

 その間も絶えず鳴らされ続けている警報の音。

 私達はすぐに乱れていた服を直して外へと飛び出す。



 目に入ってきた光景を一瞬、疑ってしまった―――。



 燃えている。エルフの里が真っ赤な炎に包まれている。

 逃げ惑うエルフ達。そんなエルフ達を、無抵抗な者達を殺している者がいる。

 首や四肢が飛ぶエルフ達。顔にその返り血を浴びて呆然とする私。


「こいつは最っ高に楽しい狩り場だぜ! 男は全員殺せ。女は殺すなよ。奴隷にして売れば儲かるからな」


 人間。人間だ。エルフを殺して楽しんでいるのは人間だ。


「なっ! 俺の言った通りだっただろ。雑魚なんだよ。こいつらは」

「ああ。感謝するぜ。なんたってお前の手引きがないと俺達はこの里を発見できなかったんだからよぉ」


 先頭に立つ者がこちらを見る。

 アロガン。人間をここ迄手引きしたのはあの男らしい。

 私を見つけて、アロガンは私を嘲笑うかのように言葉を吐く。


「よぉ。今どんな気分だ。言っておくが、これは全部お前のせいだからな。お前がこの里に来たせいで……」


 徐々に"ふつふつっ"と怒りが湧いてくる。

 頭の中の活火山はマグマ溜りがもう限界。

 私が拳を強く握り締めた時に丸い謎の物体が人間によって投げつけられてきて、それが丁度私とアンリの間で爆発した。

 

「きゃっ!」

「アンリ」


 咄嗟にアンリを庇う。

 爆発したその中から出てきたのは、無味無臭の煙?


「今のは……?」


 別に問うた訳ではないのだけど、アロガンが説明を始めた。

 どうやらエルフや人間といった魔力を持つ者の、その魔力を奪う装置らしい。

 なるほど。確かに1/3程魔力がごっそり持っていかれたような気がする。

 でもまだ2/3も残ってる。アロガンによるとこれでエルフ達は確実に魔力を全部奪われて魔力欠乏症に落ち入り、人間で言うところの貧血や熱中症のような症状が出て、立っているのもやっとな状態になるらしいのだけど、お生憎様。私の魔力量はこの程度で全部奪われる程少なくない。


 ただ、アンリは……。


「うっ……、あっ……」


 アロガン達の狙い通りに魔力欠乏症に陥ってその場に蹲る。

 それをさも嬉しそうに見て奇声を上げるのはアロガン。


「ははははははははははっ。アンリ、やっぱりお前は俺の()()になる運命だったんだよ。この里の連中を全部片づけた後でたっぷりと可愛がってやるからなぁ。お前は俺のモノだ。アンリ。ああ、楽しみだ。今度こそはお前によ……。あんなことやこんなことしてやれるんだからよ!」

「ひひっ。じゃあ俺達も他のエルフを味見させて貰うとするか」

「おう。そうしろそうしろ。なんなら目の前のアイツを味わってみたらどうだ?」

「「げへへへへへへへへへへへへへっ」」


 下卑た声。アロガンも人間も、そのどちらもが私を苛立たせる。


 ああ……。こいつらは本当に。本当に、さ。


「ぶっ殺す」

「リーネ……」

「ごめんなさい、アンリ。ダガー借りますね。後……、できれば嫌いにならないで貰えたら嬉しいです……」

「何を……」


 アンリの話を全て聞き終わる前に、私はアンリの腰に下げているダガーを鞘から引き抜いて、逆手に持って走り出す。

 その瞬間に改めて分かった。私はやっぱり[リーネ]だ。

 リーネは魔法特化型。所謂魔導女(アークウィザード)のエルフ。だが、Agility(素早さ)もある為に暗殺者(アサシン)にもなろうと思えばなれるのだ。

 身体には[風]、ダガーには刃が溶けない程度の[炎]を付与(エンチャント)して人間の元へ。

"ぎょっ"としているその人間の首を私はダガーで搔き斬る。

 まるで切れ味鋭いナイフでバターを切るかのように人間の首は簡単に落ちる。

 1人、2人、3人……。地面に広がる真っ赤な絨毯。


「お、おい! あいつ。あいつはなんで動けてるんだ。こんなの俺達は聞いてないぞ。おい!!」


 人間の数は全部でざっと20人。私に恐れをなして背を向けて走り出した者にも私は容赦しない。

 空中から私の本来の獲物・杖を出現させる。

 右手にダガー、左手に杖。

 その左手に持った杖で放つは狂気の魔法。


「エルフ達から離れてくれてありがとう。……さよなら。爆発魔法(エクスプロージョン)


 人間達が私の魔法によって爆散してこの世界から退場する。

 残りはアロガンを含めて5人。脆い。あまりにも脆い。

 私の身体は私が斬った人間達の返り血で全身真っ赤。

 第三者がもし何処かから見ていたら、どちらが犯人(クズ)か分からないだろう。


 口角を少しだけ上げる。

 また1つ。知らなかった自分を知った。

 私は自分が嫌いな相手にはとことんな迄に残忍になれるらしい。


「くっ、来るな。来るな。こっちに来るな。化け物」

「化け物? ははっ。あははははははははははははっ。抵抗できなくしてから相手を殺すお前達にそんな風に言われるとはね。化け物はどっちだよ。このクズが」


 ゆっくりと人間達に歩み寄る。

 人間達はアロガンに何か言っているようだけど、まぁお前達の計算ミスだ。

 私を潰すなら、ドラゴンを殺せる程の人間が必要だった。

 まぁ、そんな人間。ううん、こういう世界にならいるのかな? 2~3人くらいは。


「おい。なんとかしろ。アロガン。お前のせいだろ。こうなったのはよ」

「なんとかたって」


「ねぇ、歯向かって来ないの?」


 アロガンと揉めている人間達の前で"こてんっ"と首を傾げる。

 

「「「「「ひっっっ」」」」」


 どうもそれが人間達にとっては余計に恐ろしいものに見えたらしい。

 誰か歯向かって来るどころか、膝を鳴らしながら"がたがた"と震えている。


 情けない。無抵抗の相手にしか強く出れないのか。


「とりあえずさ。死んどけ」


 ダガーを人間のうちの1人に向けて投げ放つ。

 額に命中。赤きものと別のものを飛び散らしてその場に倒れ伏す人間。


 残り4人。杖を左手から右手に持ち替える。

 私がそれに気を取られた僅か、その数秒の間に何処へ行ったのだろうか。

 さっき迄いたアロガンがいないと思ったら、アンリの元に立っていた。


「動くんじゃねぇ。少しでも動くとこいつがどうなるか……」


 はぁ……っ。それはダメだ。

 私の前で一番やっちゃダメなやつだ。

 よりによってその方法を取るか。

 これでただ死ぬだけじゃすまなくなったぞ。お前。


「その汚い手をアンリから放せ」

「はぁっ? お前、今のこの状況が理解できてるのか? いいからそこから一歩も動くんじゃねぇぞ」

「リーネ……。わたしのことはいいわ……。こいつを殺して!」

「アンリ。愛してる。大好きだよ。だからさ……」


 アロガンの背後に現れるもう1人の私。

 本人はそれに気が付いていない。

 勝ち誇った顔で今のうちに(リーネ)を殺せ! なんて人間達に命令をしている。


「アロガン。後ろ。後ろだ」

「あ!? 後ろ?」


「……もう遅い」


 先ずはアンリが汚れないように彼女の身体を私の魔力で包み込む。


魔力の障壁(マナシールド)


 準備完了。次はアンリを救出する為にアロガンの腕を風の魔法で斬り落とす。


風の刃(ウィンドブレード)


 アロガンの腕が根元から"ぽろりっ"と落ちる。

 彼が喚いている間に無事にアンリを救出。

 保護したら、"ゆらりっ"と彼の前へ。


「お前。お前一体なんなんだよ」

「私? 私はリーネだよ。ちなみにあそこにいるのは私が魔法で作り出した偽物」


"パチンっ"と指を鳴らす。

 それを合図に消え去る偽物の私。

 アロガンがアンリを人質に取った後、私は[闇]の魔法を使って自分はその闇に紛れてアロガンの背後へ行って、それを見抜かれないように私の偽物を素早く[土]の魔法で作り上げておいたのだ。

 

「いつか言ってたよね」


 アロガンに話しかける。

 笑みを浮かべたつもりだが、間違いなく私の目は笑ってなどいない。


「私から手足を奪うんだっけ? それ、あんたにしてあげるね」

「くっ……。クソがぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 ここでやっとアロガンが抵抗らしい抵抗を見せた。

 残った片手で剣を抜いて私の頭上へ。

 私はその剣を左の手で受け止める。


「なっ。お、お前……。斬られることが怖くないのか!!」


 左手からは赤きモノ。刃を受け止めているだけに相応に痛いし、まぁパックリと掌が切れていることだろう。


 こんなことを仕出かしたことに後でアンリに怒られるかもしれない。

 こんな私でも変わらずに好きでいてくれたらの話だけど。


「……いや、普通に怖いよ。後、痛い。でもさ、エルフ(仲間)達はもっと痛かった筈だし、怖かったと思うんだよね。だからさ、この程度は……、何とも無いんだよ!」


 痛めていない右手で魔法を放ち、アロガンの残った腕を斬り落とす。

 そのアロガンの腕は剣を握ったまま。つまりは私の左手にその腕がある。


「汚いなぁ」


"ぽいっ"とアロガンの腕を投げ捨てる。

 それを見て逃亡を図る残り3人の人間達。

 さっき私が私に背を向けた相手を少しの容赦もなく殺したところを見ていなかったのだろうか?

 それとも、これ迄の人生で今程の恐怖を経験したこと無いのかな? 無いから感覚が麻痺しちゃったのかな?


 当然私はソイツらも殺す。


獄炎魔法(インフェルノ)


 骨をも残さずに人間達は消滅。

 これで残りはアロガン1人。


「ふふっ」


 私は残酷に笑う。

 次はアロガンの脚を斬ろうとした時、背後から抱き着いてきた人がいた。


「リーネ。もう、いいから。お願い……。もう、それ以上堕ちないで」

「アンリ……。ダメだよ。私に抱き着くなんて、汚れちゃうよ!?」

「そんなのどうでもいいわ。リーネ。ねぇ、もう終わりにしましょう」



 ……………。

 悲痛な訴え。私はアンリの言う通りに終わりにすることにする。


「さよなら。魔力の銃弾(マナショット)


 アロガンへのトドメはこれが相応しいだろう。

 但し、今度は一切の手加減なし。

 彼の首が吹き飛ぶ。


 それにより、文字通り全てが終了した。

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