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-閑話2- フィーナの日記 その03。

 私はマリーちゃんを抱き締め返して互いに互いが抱き枕。

 微かに高揚感を覚えつつ私は眠りに就くことにした。


**********


 リーネ師匠から話を聞いてから3ヶ月の時が流れた。

 月日の中で私達が暮らす里の近辺で邪族大行進(スタンピード)が起こり、早急に鎮圧する為に【リリエル】の皆さんや私達【ガザニア】も参戦したけど、里のゴーレムが邪族の殆どを片付けてしまった為に私達の出番はほぼ無かった。

 私達が暮らす里の長・マロン様が改良ゴーレムを造ろうと思った発端は私に記憶は無いけれど、私の里が邪族大行進(スタンピード)で滅びたことを知ったことと、前時代は違ったけれど、現在は姉妹国のルージェン王国が他国から攻められて滅亡の憂き目に陥る寸前だったことを知ったかららしい。


 マロン様は凄い! 凄いんだけど……。


 この女性(ひと)。普通の人と違って残念なところがあるのが玉に瑕。

 残念なところ。1日24時間中起きているのは3~4時間だけ。

 魔道具を作る・造る・創る以外の時間はベッドの中で生きているのだ。

 [(まつりごと)]もベッドの中で指示を側近の方達に飛ばしている。


 はっきり言って『ベッドと一心同体なんじゃないかな?』って思うくらい。

 【リリエル】の皆さんが里の別荘と転移門を譲渡して貰う時に使い魔さんの借用が条件だったってリーネ師匠から聞いたことがある。マロン様が譲渡の条件にした理由が物凄くよく分かる。

 使い魔さん、抱き枕に最適だもんね。

 だからこそ、何も知らない人が聞くと馬鹿馬鹿しい取り引きが行われたんだ。

 ベッドの化身。マロン様。今日は珍しく起きている姿を見掛けた。

 見掛けたんだけど、身に纏っているのは寝着(ナイトウェア)

 里の長とは思えない身なりで堂々と外を"うろうろ"してて、モンブランケーキを頬張っていた。

 口の周りをケーキのクリームでいっぱいにしながら。


 私は【リリエル】の皆さんと共にルージェン王国の地方の1つロマーナの領主様にもお会いしたことがある。

 あの方はあの方で残念な方だったけど、個人的にはマロン様の方が優秀な魔道具を作れる・造れる・創れるだけに酷く残念なところが表立ってしまって、なんとも言えない気持ちになる。

 私以外のこの里のエルフの皆はすっかり見慣れてしまっているらしい。

 マロン様が呆れる身なりで出歩いていても誰も何も言わないから。

 マリーも「相変わらずだね」で済ませていた。


 マリー。私の友達。

 お泊りの日の翌日から私達は互いのことを敬称を付けて呼ぶことをやめた。

 理由は、なんだろう? なんとなくかな? ところでマリーはお泊りをした日を境に私の部屋に入り浸るようになった。

 3ヶ月ずっと自分の家に帰ってない。幾ら隣同士って言ったって普通親は心配をするよね?

 でもマリーの親は呑気だった。一応マリーがうちにいることを私が伝えに行くと「あら~、それなら安心ね。あの子はちょっとだけ小悪魔的なところがあるけど、悪い子じゃないからよろしくね~」なんて物凄く軽くそう言われて終わった。


 それでいいのか―――。


 って私がマリーの家の前で頭を抱えたのは言う迄もない。

 そんなこんなでなし崩し的に始まった同棲生活。

 思ってたより快適に感じるのは何故だろう?


 1つ屋根の下どころか1つの部屋で毎日一緒。

 なのに息苦しさは別に感じないし、不思議なことにマリーがいるのに1人の時間が取れている。

 1人の時間が取れることが謎でマリーのことを意識して観察していたら、この子は距離の取り方が上手いのだということが分かった。

 私の心が読めるように『今は1人にしておいて欲しい』っていう時にはマリーは私から離れて何か別のことをしているし、逆に『傍に来て構って欲しい』と思う時にはマリーは私の傍に来てお姉さんぶったり、軽いスキンシップをしてくるのだ。


「マリーって私の心が読めるの?」


 マリーの謎。聖女様の力か何かかな? と思って聞いたことがある。

 返ってきた言葉は「え? そんな力無いし、いらない」だった。

 マリー曰く、「他人の心が読める力なんて真っ平ごめん。だって、それで例えば誰かと仲良くなったとしてもそんなの偽りだよね。虚しいだけだよ」とのこと。

 ごもっとも。だと思った。


 マリーは何の力も無しで私との距離を感覚を通して図っているってことだ。

 一緒にいても心地良く感じる空間。私はいい子と知り合ったなって自然に笑みを零した。

 私が表裏で笑んでいる時に話し掛けてくるマリー。


「ねぇ、フィーナ。前から思ってたんだけど、ベッド買わない? 今のままだと毎晩狭くてさ。ちょっと寝苦しい」


 うん。さっき距離を取るのが上手いって言ったけど、就寝時だけは距離を露骨に無視してくるもんね。

 一緒のベッドに入って来るのが当たり前。マリーが狭くて寝苦しそうだから床に布団を敷いて私が寝ていたらマリーは私が寝ている布団に入ってきた。

 私と、変な意味じゃなくてベッドを共にしてから2人で寝ると快眠できることをマリーは知ってしまって同衾の虜になってしまったのだそうだ。


「ん~、セミダブルかダブルのどっちがいい?」

「ダブル」

「まぁそうだよね。でもこの部屋っていうか家って、一応【リリエル】の皆さんの所有物だし勝手にベッドとか変えちゃってもいいのかな?」

「あ~~、確かにそうだよね。所有者に許可取った方がいいよね。今度師匠様達が来たら聞いてみよう」


 という訳で、この件は次に【リリエル】の皆さんにお会いした時に決めることになった。

 それ迄は狭いけど、今のままのシングルベッドで我慢。

 数日後。その日。私達には忘れられない日がやって来た。


**********


 ここはいつかの荒れ地。

 ベッドの件であっさりと許可を貰った私達はリーネ師匠と【リリエル】の皆さんと共にこの場所に転移してきた。


『またここで魔法の指導かな?』


 最上級魔法の習得は終えた。習得した魔法を洗練させる訓練。

 だと思っていた私。けれどリーネ師匠から告げられたのは全然違うこと。


「フィーナ。これから最終試験を実施します。私はこの場から1歩も動きません。どんな形でも構いません。貴女が私を追い詰めることができたら貴女は晴れて魔女となれます。私から卒業です。これからは自身で道を切り開いていってください」


 呆然とした。リーネ師匠から卒業? それならこんな試験落ちた方がマシだ。

 ここ数ヶ月で私はリーネ師匠が師匠であることを誇りに思ってる。

 私はリーネ師匠と出会ったばかりの頃の私じゃない!!


「嫌です! リーネ師匠は師匠のままでいてください。師妹(しまい)の関係は現状維持がいいです。代わりに、良くできましたって褒めてください。そうじゃないとこんな試験やりたくありません」


 思わず、叫んでいた。

 鳩が豆鉄砲を食らったって言葉。今のリーネ師匠みたいな顔をしている人のことを言うのだろう。

 リーネ師匠は少ししてから「はい?」と私が言っていることの意味が分からないという返事をしてきた。


「ですから師妹(しまい)の関係は現状のままがいいです」

「普通は卒業できることを喜ぶものだと思うのですが」

「私は全然嬉しくありません! リーネ師匠が私を卒業させるって言うなら、こんな試験。何があろうと受けません。全力で拒否します」

「……。この間言ったではありませんか。貴女にはマリーさんがいます。孤独ではありません。私や私の仲間達も貴女達を見守っているんですよ」

「見守って貰ってるだけなんて嫌です! 孤独と変わりません。リーネ師匠。師匠のままでいてください。お願いします」


 頭を下げて叫ぶ私。何としても卒業を取り消しして貰うんだ。

 なんだったら、魔女になれなくてもいい。見習いでいい。

 時間にして数秒。私にはリーネ師匠の称号名。悠遠の時が流れたように感じた。


「分かりました。貴女が師妹関係の維持を望むのならそうしましょう」


 リーネ師匠からの返事。頭を上げる私。

 私の目に映るリーネ師匠は薄く笑っていた。

 我が儘を聞いてくれた。調子に乗った私はもう1つ我が儘を言ってみた。


「リーネ師匠。試験を突破出来たら、魔女になれたら私の頭を撫でてください」

「いいでしょう。貴女の望みを叶えてあげます。頭を撫でてあげます」

「やった。やったぁ!! 約束ですよ。リーネ師匠」


 万歳三唱。泣いていた烏がもう……。


「はい。約束です。でも、私は嬢子(でし)は師を超えて1人立ちすることを喜ぶものだと思っていたのですが、そうじゃない場合もあるのですね。1つ勉強になりました」

「リーネ師匠がそうさせたんですよ。いい師匠だからです。責任取ってください」

「責任。この場合は案外悪くないですね。……さて、始めますよ」


 リーネ師匠の最終試験が開始される。

 私に向かって放たれるあらゆる種類の魔法。

 リーネ師匠は確かに最初の場から1歩も動いてはいないけど、無数の魔法の嵐が荒れ地に吹き荒れている。それも、驚異的なモノばかり。

 驚異的な魔法の嵐を潜り抜けなくちゃいけない。それだけでも難しい。


 必死に逃げ回り、なんとか隙を突こうとするけど、そんなものなんてリーネ師匠にはまるで見当たらない。

 アリシアさんならリーネ師匠の魔法を斬って前進できるのかな?

 恐らく無理だろう。例えアリシアさんでも、これ程の[質]の魔法を斬るのは至難どころの話じゃない筈だ。


「フィーナ、逃げてばかりだと終わりませんよ? 私が魔力欠乏症になるのを狙っているなら止めておいた方がいいです。結構な時間が掛かりますよ」


 言われなくても知ってます。リーネ師匠。私は嬢子(でし)ですよ!?


 だから―――。


 隙が無ければ作るしかない。


万象の爆裂(エクスプロージョン)


 リーネ師匠の足元に放つ魔法。

 ここは荒れ地。岩だらけの。私の魔法によって岩は砕け散り、リーネ師匠に小石が群がっていく。


「地味ですが、考えはしたみたいですね。でも……」


 リーネ師匠が風の魔法を使用する。

 こちらへと逆に飛んでくる小石。

 私は仁王立ち。避けもしない(さま)を見て、リーネ師匠はやや狼狽えている。


「いたっ。痛い痛いいたたたたっ」

「な、何を考えているのですか! 貴女は」


 可愛い嬢子(でし)が傷だらけになるのを想像したら慌てますよね。

 リーネ師匠。私の狙い通りです。罠です。


「フィーナ!」

「はい」

「えっ!?」


 私を呼ぶリーネ師匠の声。すぐ隣で返事をする私。

 小石の群を隠れ蓑。リーネ師匠が慌てている間に自分に[隠蔽の蓑(ハイド)]を掛けて移動してきた。


「普段通りのリーネ師匠ならこんな小細工通用しなかったでしょうね」


 私、リーネ師匠は自分が心を開いている相手には甘いこと知ってるんです。

 甘さを利用しました。ごめんなさい。


「私の勝ちです」


 リーネ師匠の眼前に杖を突き付ける。

 突き付けられた杖を見て魔法の嵐が止む。最終試験は終わりを迎えた。

「してやられましたね。ですが、決して褒められた方法ではありません。傷だらけではないですか。上級治癒魔法(ハイヒール)

「こうでもしないとリーネ師匠に勝てる気がしなかったので」

「全く。仕方のない嬢子(でし)ですね。貴女は」


 朗らかに笑むリーネ師匠。約束を守って、私の頭を撫でてくれる。

 優しい手付き。気持ちいい。……そう言えば。心に湧く不安。

 師妹(しまい)の関係は維持して貰えるのかな?

 不安をリーネ師匠に聞いてみる私。


「リーネ師匠。師匠はそのまま師匠でいてくださいますよね?」

「約束しましたからね。破るようなことはしませんよ」

「良かった~」


"ほっ"とした。最終試験を突破できたことよりも何よりも嬉しい。

 喜びを噛み締めていたら、リーネ師匠はバックを漁りだした。


「フィーナ。魔女就任おめでとうございます。これは私からの就任祝いです」


 リーネ師匠がバックから取り出したのはローブと三角帽子。

 【リリエル】の皆さんの物と似てる。違うのは【リリエル】の皆さんのローブの濃いグレー部分が濃い青なところとバッジが[百合]ではなく[ガザニア]なところ。


「ありがとうございます。リーネ師匠」

「どう致しまして。先程師妹(しまい)の関係は維持と言っていましたが、【リリエル】との関係はどうしますか? 独立したいなら認めますよ」

「【リリエル】の皆さんの傘下のままでお願いします!」

「そこもですか」


 苦笑いするリーネ師匠。私達2人の間にマリーが走ってくる。

 彼女も私と同じローブと三角帽子を持っているのを見るに、アリシアさんからの最終試験を無事に突破したみたい。それはそうと、アリシアさんの顔が引き攣っている。もしかして、マリーもアリシアさんに私と同じことをしたのかな?


「顔色が悪いですよ。アリシア。何があったんですか?」

「肝が冷えたわ。千の氷柱(サウザンドアイシクル)に突っ込んでくるのだもの」


 わ~、私よりずっと危なっかしいことしてる。

 やりすぎだよ。マリー。


「ところでさー。2人に魔女名はあげないのー?」

「しかし、無茶苦茶だったな2人共」

「特にマリーね。うちもアリシアと同じで死んじゃうんじゃって思ったよ」

「ごめんなさい。でも、アリシア師匠様には効果覿面でした」


 マリーの無邪気すぎる笑い。

 【リリエル】の皆さんは揃ってため息を吐いている。

 その後、改めて私に振り向くリーネ師匠。


「フィーナ」

「はい、リーネ師匠」

「貴女は私。悠遠の魔女の愛嬢子(まなでし)です。今後私は貴女以外と師妹(しまい)の関係を締結するつもりはありません。そこで悠遠に関連付けて久遠というのはどうですか?」

「久遠……」

「そうです。貴女の称号は久遠。久遠の魔女フィーナです」

「久遠の魔女ね。それならわたしも雪に関連した称号を与えるのがいいのかしら? でも、マリーにはなんだか似合わない気がするのよね」

「別に雪に拘らなくてもいいのではないですか。アリシアが感知した。そのままをマリーさんに授けたらいいと思いますよ」

「そうね」


 マリーが"ワクワク"した目でアリシアさんを見てる。

 気持ちは分かるけど、アリシアさんはかなりやりにくそう。

 アリシアさんは暫く悩んで、マリーの目を見ながら口を開いた。


「白透の魔女というのはどうかしら? 貴女の心の内に符合する称号。わたしの愛嬢子(まなでし)であることを表す称号。わたしは貴女に白透を授けたいわ」

「それでいいです! いえ、それがいいです」

「そう。それなら決まりね」

「はい!」


 久遠の魔女と白透の魔女。

 悠遠の魔女・雪華の魔女の嬢子(でし)

 私達はハンター【リリエル】の傘下【ガザニア】。

 嬉しさが顔に滲み出てくるのが分かる。


 私とマリーは抱き締めあって類のない喜びを交わし合った。

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