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-特別編1- リーネの不調 その02。

 彼女達の顔を交互に見て、聖女アレッタが言ったことは、2人には何ら問題ないと思うようなことだった。


**********


 聖女アレッタがリーネに処置を施した翌日。

 リーネは目を覚まし、アリシアとミーアを見て泣きついてきた。

 余程自分の身に起きていることが恐ろしいことだったらしい。

 リーネは暫く2人の前で泣き、少し落ち着くと「ごめんなさい」と頭を下げた。

 

 可愛い子。


 愛してやまない人。リーネの頭を彼女が使っているベッドに腰掛けて、アリシアは撫でる。

 ミーアはリーネの背中を軽く撫で、彼女を2人懸りで落ち着かせる。

 アリシアが暫時行為を続け、「お腹空いてるでしょう? 何か食べる?」とリーネに問うと彼女は「軽い物がいいです」と答えた。


「分かったわ。女将さんに頼んでみるわね」


 言って立ち上がり、女将さんへの依頼を実行しようとベッドから数歩足を進めたアリシアの服の裾をリーネが掴む。


「リーネ?」


 そうされて振り向くと彼女も何故自分がそんなことをしているのか? 分からないのだろう。

 尋常ではない、困惑した顔をしている。彼女達の有様を見て、『アリシアに傍にいて欲しいのかなー?』と思ったミーアが代わりに行こうとすると、彼女はミーアの服もアリシアと同じように掴んで結局2人の動きを止めさせた。


「リーネ? どうしたのー?」

「分かりません。どうして私はアリシアとミーアの服を掴んでいるのでしょうか? ……しかも放せないんです」

「ねぇ、リーネ。わたし達はもう貴女を置いて行ったりはしないわ。戻ってくる。 少しでもいいから貴女のお腹に何か入れないと」

「分かっています。分かっているんですけど……」


 リーネは"ぎゅっ"と強く2人の服の裾を掴む。

 絶対に放さない。彼女の強い意思がアリシアとミーアに感じられる。

 こうなったら仕方がない。彼女の傍に戻るアリシアとミーア。


「寂しいのかしら?」

「……分かりません」

「じゃあ、怖いのかなー?」

「分かりません。分からないのです。でも、2人共私の傍にいてください。お願いします」


 また泣き始めるリーネ。幼な子に戻っている。

 愛する女性(ひと)じゃなければ、鬱陶しいと感じていたかもしれない。

 でもそうじゃない。アリシアもミーアもリーネは自分達が心から愛する女性(ひと)だ。

 庇護欲やら母性やら心の中を柔く擽られた2人はリーネを2人揃って抱き締める。

 腰に回した腕。彼女の腰は折れそうな程に細い。

 守りたい。2人の気持ちが一致する。


「分かったわ。傍にいるから安心して」

「うんうん。大丈夫だからねー。リーネ」


 リーネに優しい声を掛け、撫でまわし、とにかく肩を寄せ合ってくっついていると、いつしか安心感で満ち足りたリーネが"うとうと"と船を漕ぎ始める。

 アリシアとミーアはもう1度、「傍にいるから」と声を掛けるとリーネは睡魔に誘われて眠りに就いた


 

 残されたアリシアとミーア。

 リーネの愛らしい寝顔を慈しみ見ながら2人は雑談を始める。


「病気の時は[人]は甘えたがりになると言うけれど、リーネも同じね」

「でもなんだろう? なんて言うかさ、リーネの場合は世界に1人きりにされるみたいな感じじゃなかったー?」

「そうね。わたしもそんな気がしたわ」

「やっぱり過去のことがリーネの中から完全には消えてないのかなー」

「貴女は、大丈夫なの? ミーア」

「全然平気って言えば嘘になるけど、多分リーネ程じゃないかなー」

「貴女も甘えてもいいのよ?」

「ありがとうー。じゃあちょっとだけ」


 ミーアがアリシアに抱き着く。

 アリシアの胸の中、頭を撫でられるミーア。

 アリシアの寛大な包容力。いつ迄もこうして貰いたくなってしまう。


 ダメだ。今は自分じゃなくてリーネがそうされるべきだ。


 ミーアはアリシアに落ちそうになる自分の気力を総動員させてなんとか彼女の腕の中から抜け出した。


「リーネが眠ってる間に女将さんに軽い食べ物作って貰うように頼んで来るから、アリシアはここで待ってて。万が一リーネが起きたら……、「ミーアはトイレよ」とでも言っといてー」

「分かったわ」

 

 アリシアの返事を聞いて、即ミーアは疾風迅雷。部屋から出て女将さんの元へと向かっていく。

 この宿はそんなに大きくないし、広くない。なのに『そこ迄慌てる理由ってあるかしら?』とミーアを見送ったアリシアは首を軽く傾げる。


「リーネが起きてしまったらって思ったのかしらね」


 そうではない。アリシア自身のせいである。

 のだが、彼女は深く考えずに決めつけ、リーネの首に在る[隷属の首輪]。

 自分達の色濃い愛の証をリーネの生肌に触れるように指を何処となく厭らしさを感じさせる手付き。指を滑らせながら聖女アレッタが言っていたことを思い出す。


「魔力の循環を今後手伝ってくれる代わりに、代償としてこの子は死ぬ迄、首輪を外すことはできなくなります。それはつまり、2人がこの子の傍から離れられないということも意味する訳です。覚悟はありますか?」


 覚悟も何も……。

 

「わたしもミーアも貴女から離れるつもりなんてないわ。リーネ」


 アリシアはリーネの唇にキスをする。

 と、リーネの手がアリシアの首に回されて彼女はリーネに捕まえられた。


「行かないでください。私を……置いて行かないで。お願いです」

「置いてなんか行かないわ。大丈夫よ。リーネ」


 アリシアがリーネの寝言に答えた時に丁度ミーアが戻って来た。

 手招きでミーアを呼ぶアリシア。

 アリシアに招かれるままにミーアがそこに行くと、リーネはアリシアから片方の手を外し、外した手でミーアのことも捕獲する。

 

「……ねぇ、アリシア」

「何かしら?」

「さっき女将さんにご飯のこと頼んで来たんだけど、時間的に夕食になるってさ。で、夕食迄はまだ時間があるよねー」

「そうね」

「リーネに捕まえられて2人供動けないわけだし、ちょっと寝ないー?」

「たまにはいいかもしれないわね」

「じゃあ決まりで」

「ええ。決まりで」


 リーネを挟んでいつもと同じ。

 アリシアとミーアは愛する女性(ひと)の温もりを感じながら眠りに就いた。


**********


「ん~。久しぶりの外という感じがしますね」


 2日後。一応聖女アレッタの助言通りに3日の休憩を得て、久しぶりに外へと出てきたリーネ。

 もうすっかり元気になったようで、彼女は晴れ晴れとした顔をしている。

 外の空気を何度か吸って深呼吸。したら自分の背後にいる【リリエル】の面々に彼女は顔を向けて「今日はどうしますか?」と尋ねる。


 リーネがベッドにいる間、食料の調達などはカミラとケーレ。たま~にクオーレが担当していた。

 アリシアとミーアのことをリーネが放さなかったからだ。

 トイレなどの時は別だが、それ以外の時はとにかく一緒にいたがった。


 アリシアとミーアの2人も満更じゃない。

 嘘だ。満更どころか2人もリーネの傍から放れたくなかったので彼女の甘えたを喜んで受け入れた。


「カミラとケーレ。それとクオーレには多大な迷惑を掛けてしまいました。ごめんなさい」

「わたし達もそうね。ごめんなさい」

「リーネから放れたくなくて。ごめんなさいー」


 3人にとっては甘酸っぱい時間を過ごせたが、他の【リリエル】の面々には迷惑を掛けることになってしまった。

 謝る3人。それに対してカミラ達は軽く笑う。


「別に私達は何とも思ってないけどな。でも、そこ迄言うなら今日の昼飯くらいは奢りってことでどうだ?」

「そんなことでいいんですか?」

「構わねぇよ。ケーレはどうなんだ?」

「スイーツをつけてくれたらいいかな」

「あははっ。分かりました」

「ぼくもスイーツ欲しい」

「不思議ですね。貴女が言うと別の意味に聞こえます」

「リーネお姉ちゃん、酷い」

「あははっ、冗談ですよ」


 幾ら元気になったと言ってもハンター活動は避けたほうが良いだろう。

 今日は大事をとって観光。【リリエル】一行は町を仲良く歩き始めた。


**********


 それから数日後。

 ハンターとしての活動を再開した【リリエル】一行。

 リーネはそれ迄の鬱憤を晴らすべく[悠遠の魔女]の力を存分に発揮した。

 他のメンバーはやることが無くて見ているだけだった。

 リーネが全属性の最上級魔法を邪族の弱点に合わせて連発して、邪族が出てきた片っ端から片付けてしまったせいだ。


 凶暴性剥き出しだったリーネはさっき迄のことなんて、忘却してしまったようにアリシアとミーアに甘えている。


 今日は夜にしか姿を見せないという盗賊団を壊滅させる為に野営。

 夕食を食べ終えてからリーネはずっとこの調子。

 2人に密着。自分の身体を2人の身体に擦り付けている。


 たまに2人に「キスして欲しいです」とか「2人共綺麗ですし、可愛いですよね」とか「愛していますよ」とか言っては2人とスキンシップをリーネはしたがる。

 

 アリシアもミーアもリーネが甘えてくるのは、この上なく嬉しいことなのだが、彼女の言葉に心臓が最大出力で血液を身体に巡らせるし、浮足立つ。現在野営中。過剰な求め、懐きは厳禁。暗黙の了解を放棄してリーネが自分達に擦り寄ってくるのが可愛すぎて困ってしまう。手を握られる。指を1本ずつゆっくりと絡めてくる彼女。手から「愛しています」が2人に伝えられる。本能が疼く。頭が湯立つ。

 ダメになる。表皮を越えて内側の奥の奥迄甘やかな[愛]が駆けていく。

 言いたいことは沢山あるが、言えない。どうでもいい。

 不都合なんてどうにでもなる。……いや、やっぱり。


 ミーアが別の意味で堪り兼ねて「リーネってそんなに甘えただったっけー?」と聞くと、彼女は逆にミーアに問い掛けてきた。


「妻に甘えたらダメですか?」


 悲し気に潤んだ瞳で聞かれて「ダメ」なんて言える者がいるのだろうか?

 問うたミーアは勿論、傍にいたアリシアも揃えて首を横に振ることになった。


「じゃあ……」


 今度は何だろうか。別の意味で身構えるアリシアとミーア。

 しかし、構えは全くもって意味を成すことはなかった。 


「私は2人が大好きですよ。いえ、大好きや愛しているでは足りません。私の全てです。2人のお陰で私は私を成し遂げられています。完成に至っています。私は、きっと、2人に会う為にこの世界に来たのだと思います」


 からのキス。2人の身体を自分に混合させるように強く抱き締めて。本当に自分がアリシアとミーアの2人にどうしようもなく惚れているのだということが伝わるように、と。最初はアリシアで次はミーア。


 この時のリーネはナニかが融解していて、2人は収容量を遥かに凌駕した彼女の可愛さに心不全か何かで死にそうになった。


「リーネ、甘えてくれるのは嬉しいのだけど、死にそうよ」

「可愛いんだけどね。可愛いが過ぎてねー」

「愛している女性(ひと)に「愛している」と言えないのは私が辛いです。甘えたい女性(ひと)に甘えられないのも辛いです。ですから、甘えさせてください」

「今すぐに野営をやめてリーネを宿にお持ち帰りしたいー」

「気持ちは分かるわ」


 この後、【リリエル】が待っていた盗賊団は姿を見せた瞬間に今度はアリシアとミーアの2人の哀れなる犠牲者・生贄となった。時間にして20秒で40名が死した。

 不完全燃焼に終わったカミラとケーレとクオーレ。

 彼女達はリーネにも、アリシアにも、ミーアにも、何も言えなかった。

 3人共仲間内で見ても怖かったから。



 野営終了後。

 アリシアとミーアはすぐにリーネを宿にお持ち帰り。

 ここでもリーネは先の甘えたを発揮し、アリシアとミーアに自分を委ねた。

 委ねられたアリシアとミーアはリーネを"どろっどろ"に……。

 それ以降のことは3人だけの、甘い秘密。


**********


 数ヶ月後。

 【リリエル】の旅もついに終わって帰郷。

 眩い朝日の中、彼女達の瞳に映るのは久しぶりの再会に歓喜するロマーナ地方の人々。


「「「お帰りなさい」」」


 自分達を迎える為に集まってくれた人々の声を受け、【リリエル】一行は笑顔で返事をする。


「ただいま帰りました」

「ただいま帰りましたわ。お久しぶりです。皆様」

「ただいまー。待ってて貰えるなんて嬉しいなー」

「ただいま、土産話が沢山あるぞ」

「ただいま。懐かしいなぁ。ここ」


 大空から大地へ。【リリエル】一行は懐かしい土地を踏みしめて―――。

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