-特別編1- 姉妹国の契り その01。
ルージェン王国同盟国の1つ。アルゴータ王国。
【リリエル】の旅も中盤。彼女達は海を渡り、ルージェン王国と同じように島国である同盟国へと訪れていた。ここは同盟国の王都ロブビョック。ルージェン王国の王都と比べると、この国の王都は劣等の都。足元にも及ばない。なんというか、露聊かも纏まりが無いのだ。
拓けた土地に最初に城を立てて、後は建てた城を中心に人々が適当に好きな所に好きなように建物を造りましたよー。という感じ。そのせいで馬車同士がすれ違うことができないような道もあるし、建物と建物の幅が数10cmしかないような所もある。それに、致命的なのは全体的に王都は城の周り以外は不潔で不衛生で汚い。
手入れとかされてないんじゃないかな? と思ってしまうような場所だらけ。
お世辞にも長居したいと思えるような所じゃない。
【リリエル】一行は汚らしい王都の様子に若干顔を顰めつつも、微小に綺麗な方かな? と感じるカフェでお茶の時間と洒落こんでいた。
彼女達のテーブルに乗せられているのは紅茶とスコーン。
他にも彼女達が訪れているカフェにはそれなりにメニューがあるのだが、気分的に頼みたくなかった。
アリシアが優雅に紅茶を口に運びつつ、【リリエル】のメンバーにしか聞き取れない声量で話す。
「視線を感じるわね」
それはアリシア以外の全員も感じていたこと。
素知らぬフリを貫いてきたが、いい加減に鬱陶しくなってきていた。
折角のティータイム。のんびりと楽しみたいところなのだが、カフェに入店して暫くの時を得て不愉快な視線が自分達に注がれるようになって、落ち着かない。
【リリエル】全員が横目で視線の先を"ちらっ"と見たところ、着用している服装の様からして貴族だと思われる者達がいた。ここはそれ程格式高い店ではない。
平民でも割と気軽に利用できるような所。言わば並の店。貴族なら貴族らしく、本格的で格式の高い店に行けばいいのに。と【リリエル】全員が思った時に貴族達のうちの1人が立ち上がって彼女達の方へと歩いて来た。
「失礼だが、貴女達は我が同盟国、ルージェン王国でその名を知らない者はいないと言われているハンターパーティ【リリエル】のメンバーとお見受けするが、如何かな?」
正直に言ってマナー違反だ。
貴族達のテーブルには料理が残っているし、こちらもまだ食べ終わってない。
それなのに話し掛けるのは如何なものかとか思わないんだろうか。知り合いならまだしも……。
大体、話す時に口元を手で覆うなりなんなりしていないのも気に障る。
唾液の飛沫が料理に掛かったら食べる気を失ってしまう。
貴族の癖に、それくらいのマナーも守れないのか。知らないのか。
実際、これで【リリエル】一行は食欲を一気に喪失。テーブル上に残存している料理の全てに手を付ける気が無くなった。
【リリエル】のリーダーはリーネ。
なので彼女が自分達に話し掛けてきた貴族に視線を合わせて話す。
「マナーがなっていませんね。食事中に立ち上がるという行為もそうですが、他人の料理が置かれているすぐ傍で口元などを覆いもせずに会話をし始めることも不快です。それに人に名前。いえ、私達が聞かれたのは通称名ですが、今はそれはそれです。まずは自分の名前を告げてから他人の名前を尋ねるというのが最低限の礼儀ではありませんか」
「それは失礼した」
などと言っているが、かの者は微塵も反省していないのが丸分かり。
単なる……、口から出しただけの、誠意の欠片も無い謝罪の言葉だ。
……………。
"イラっ"としてしまうリーネ。
侮蔑の視線を向けるが、かの者の態度は変わらない。
何処か尊大で【リリエル】を下に見ているのが伝わってくる。
「余はアルゴータ王国が第一王子マクシミリアンである。貴君らに声を掛けたのは是非とも余が城に招待したいからだ。貴君らを余の側室として迎えたいと思ったのものでな。貴君らは平民であろう。だが貴君らの美しさや立ち振る舞いは麗人にも劣らぬ。余の側室に相応しい。どうだ? これはとても名誉なことであるぞ。勿論、断ったりなどしたりはせぬよな?」
まさかの王子。しかも第一王子。確かこの国には6人程の王子がいると事前情報で【リリエル】一行は聞いていた。眼前の者が第一王子。……ということは、次の[王]は相手を軽んじる。侮る者がなるということだ。多分。王位継承1位だろうし。
【リリエル】一行の脳裏に同じ心理が自然と湧き上がる。
大丈夫か? この国―――。
そして、この国と同盟を結んでるうちの国もちょっと拙いんじゃないかな。
「それにしても、見れば見る程に貴君らは美しいな」
第一王子マクシミリアンがリーネの髪を無断で触る。
オマケに匂いを嗅ぎ出し、恍惚とした表情を浮かべる。
寒気が全身に走り、吐き気がする。不快などという言葉では全然足りない感情がリーネの心を支配し、即座に空中から杖を取り出して使うは洗浄魔法。
アリシアとミーアは必死に殺気を抑えている。いや、彼女達だけではない。
カミラとケーレも第一王子マクシミリアンの言動に嫌悪を感じ、今ここでコイツを拳で殴打してやりたいという気持ちに駆られている。
では何故【リリエル】がそうしないのか。
それは偏にこの国がルージェン王国の同盟国であるからだ。
【リリエル】はルージェン王国の看板を背負っている身。
もしここで騒ぎを起こせば、ルージェン王国の品格を下げてしまう。
相手は第一王子。次の[王]となるもの。
故郷の元首・女王フレデリークに迷惑を掛けるわけにはいかない。
「では参ろうか。付いてくるがいい」
いちいち上から目線。
第一王子マクシミリアンはその気になり、盛り上がっているが、【リリエル】は誰1人として城に行くことを了承なんてしていない。自己中心的すぎる。
【リリエル】は互いに顔を見合わせ、大きくため息を吐く。
断りたいが、そういうわけにもいかないだろう。
止むを得ず、第一王子マクシミリアンに続く彼女達。
店外に出ると、待機していたのは王族専用の馬車。
王族専用というだけあって立派だが、人数制限がある。
流石に全員が同じ馬車に乗ることは不可能のようだ。
ということで、第一王子マクシミリアンと第ニ王子バンジャマン。将来は宰相となるらしい。
彼らとリーネとアリシアとミーアの3名が同じ馬車に乗ることになった。
他に第一王子と第ニ王子の側近騎士らしい者達も2名。同じ馬車。
カミラとケーレは執事と聖職者と王子達の教育係と同じ馬車。
馭者台側に第一王子達が座り、後ろ側にリーネ達が座る。
「しかし、本当に平民とは思えぬな」
「ですね。兄上様」
「全くです」
そう言って無遠慮にリーネ達のことを凝視する第一王子達。
そこ迄ならリーネ達もなんとか耐えられた。
しかし彼らは彼女達が耐えられる一線を越えてきた。
「肌も実に艶やかで滑らかであるな」
なんと! リーネ達の太腿を撫でてきたのである。
『気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い』
もういいや。コイツら殺そうかな―――。
殺意の衝動に駆られるリーネ達。
特にアリシアとミーアはリーネが泣きそうな顔をしているのを見て激しく怒りが込み上げたが、理性で感情を無理矢理押し殺し、ここは第一王子達の手を抓るだけで済ませておいた。
「如何に王子様とは言え、許可も取らずに淑女に手を出すのは野盗や軽薄な男性とやることが同じだと思いますわ」
そう言いながら。
当然のことだが、抓る際はリーネ達は誰も容赦しなかった。
全身全霊の力で第一王子達の手を抓り上げた。
リーネとアリシアはそれでもまだマシな方かもしれないが、ミーアに抓られた者はさぞかし痛い思いをしたことだろう。彼女は【リリエル】の中で一番[力]が強いのだから。
「ぎゃぁぁぁぁ。千切れる。千切れる。やめてくれーーーー」
「あー、ごめんなさい。手加減するの忘れちゃってましたー」
白々しいミーア。彼女の台詞は、大根役者そのもの。棒。
"へらっ"と笑う彼女の顔にリーネとアリシアの溜飲が少々下がる。
ミーアに抓られた者。第二王子は"ふーふー"と自分の手の甲に吐息を吹き掛けて痛みを緩和しようとしているが、その程度で痛みは消えやしない。暫く苦しむことになるだろう。
ミーアとしては知ったこっちゃないが。
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それからはリーネ達に下手に手を出すと痛い目に遭う。
ということを第一王子達は学んだらしい。
言葉で無意識か、意識してかは知らないが、彼女達にセクハラ染みたことは言うものの、手を出してくる者はいなかった。
それから15分後。馬車は王城へと到着した。




