-番外編3 最終話- 【リリエル】の休日 その03。
愛らしい女性3人の様子を店内の人目に付きにくい場所で顔をニヤけさせながら見ている愚か者達がいた。
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愚か者達は他国からの観光者だった。
ルージェン王国は先の戦争で王都などが破壊されており、観光するならもう少し後にした方が良い。
ということは、自分達の国の中で様々な人から聞いていた。
ただ、彼らはこうも聞いていたのだ。
「ルージェン王国の女性の美しさは、それはもう世界中に類を見ない程で、かつ若々しくて、その国に住む女性の殆どが全員と言っていい程に未成年に見えるくらいだ。他国の男性がルージェン王国に行けば、必ずルージェン王国人・女性の虜となるだろう」
そんな話を聞いた時は彼らとて、その時は半信半疑だった。
ところが「ルージェン王国に行くならもう少し後で」と言う自分達の国の役所の人間の言葉を無視して押し切り、実際に訪れてみると噂は全部本当で、彼らは瞬時にルージェン王国の女性達の虜となった。
そうなった彼らはあちらこちらで女性達を軟派して周った。
男性5人組。容姿には自信がある。実際、自分達の国では女性達の側から軟派をされることがあるくらいだ。
女性にモテる自分達なのでルージェン王国の女性達も自分達の虜となるだろうと彼らは考えていた。
甘かった。砂糖やら蜂蜜やらより圧倒的に考えが甘かった。
行く先々でフラれ続けては彼らは心を折られた。
時には無理に女性を連れて行こうとして、拉致しようとした女性のパートナーに生まれてきたことを後悔させられることもあったくらいだ。
この国は女性同士で恋愛などするのが普通の国。
特に魔物と他種族の女性同士が恋愛に発展しているケースが多い。
彼らのこの国への滞在期間は10日。この国に着いてから2日目には自国とは違うということは嫌という程に理解していたが、それでも彼らは諦めきれなかった。
残りの滞在日数は3日。日数が過ぎると強制的に自国へと戻される。
ルージェン王国は不法滞在を絶対に赦さない。
先の戦争で国の姿勢が[柔軟]から[強剛]なモノへと変わったのだ。
日数が過ぎて不法滞在をしていても、衛兵やらゴーレムやらドラゴンやらが必ず不法滞在者を見つけて、ルージェン王国から国外へと放り出される。
船やら飛行船やらのチケットが買える時はまだいい。
問題は買えなかった時。それでも不法滞在者はルージェン王国から容赦なく放り出される。
船やら飛行船やらの底部分。本来は[人]が乗るべき所ではない所に乗せられて。
或いはそれすら適わず適当に作られた筏とかに乗せられて。
そんなことにはならないように、それ迄にルージェン王国の女性と夜を共にするくらいのお知り合いにならなくては。
彼らは燃えていた。絶対にルージェン王国の女性とお知り合いになって、残りの滞在日数のうちに深い愉悦の関係になってみせると。
暑苦しく燃えていた時に見つけたのが、リーネ達だった。
「なぁ、あの女可愛くね?」
「俺もそう思ってたぜ」
「そそるよな。涎が止まらないぜ」
愚か者達は行動を開始する。
自分達が目を付けた女性達は確かに愛らしくもあるが、この地方で。この国で。いや、もしかしたらもしかして、この世界で最も凶暴な女性達でもあるということを知りもせずに。
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魔道具屋から退店して数分。
リーネはそこら辺に転がっていた石を拾い、バッグの能力を試していた。
バッグを開けてみると、中は極々普通のバッグにしか見えない。
「ふむ。見た目は普通のバッグですね」
「そうね」
「自分達も気になるからとにかくやってみてよー。リーネ」
「はい」
アリシアとミーアが見守る中でリーネはバッグに石を入れる。
と、"ふっ"とバッグの内に入れた石は何処かへと消え去った。
「消えましたね」
「消えたわね」
「消えたねー」
何処へ行ったのかはリーネ達には分からない。
石が行った所はこの世界を創造した女神ラプソディアがこの世界の創造前に失敗した世界だ。
生物なんて生まれることなく、なんなら、ただ大陸があるだけの世界。
ラプソディアは創造に失敗した世界を完全に放棄していたが、折角創った世界。
勿体無いのでセレナディアがアイテムボックス・アイテムバッグの中身の置き場として活用することにしたのだ。
「次は取り出しですね」
石の取り出し方。多分、地球の物語で読んだ本などの方法と同じだろう。
リーネは先程バッグに仕舞った石の形状など思い浮かべながらバッグの中に手を入れる。
彼女の予測は当たった。何処かへと消えた筈の石がバッグの中に入れた手の中に握られていたのだ。
「これは!! やっぱり便利です!!」
魔道具屋店内で見せた椎茸目。再びそうなるリーネの目。
アリシアとミーアは生優しい目でリーネのことを見守っていると、背後から彼女のことを抱き締めようとする愚か者達が現れた。
「つーかまえた」
とか愚か者達は言っているが、リーネは捕まってなどいない。
彼らが捕まえたのは、その辺に生えているただの木だ。
「女の子にしては意外と固い身体をしているんだね」
愚か者達達は木をリーネだと思い込み、キスをする。
固い。固すぎる。これが女の子の唇? 困惑する愚か者達。
「君、ちょっと固すぎじゃない?」
愚か者のうちの1人が目を開く。
どうも全員、そこ迄の間は目を瞑っていたようだ。
「げっ! 木じゃねぇか。じゃあ、あの可愛い女の子は何処へ?」
"きょろきょろ"と辺りを伺う愚か者達。
目当てのリーネは愚か者達から2m程度離れた所からドン引きした目で愚か者達のことを見ていた。
「くっ。まさかこれは変わり身の魔法?」
ではない。リーネは普通に愚か者達の気配を感じて避けただけだ。
一応、避けた時に杖を空中から取り出して握ってはいるが。
「くっ、くそ。絶対に捕まえてやるからな!」
愚か者達がリーネに一斉に遅いかかる。
自分に迫ってくる愚か者達を見て、薄っすらとリーネが口角を上げる。
愚か者は愚か者でしかなかった。
知らなかったのだ。自分達が何者を相手にしようとしているのかということを。
「魔力之重圧」
リーネの魔法で愚か者達に普段の何倍もの重力が身体に掛かる。
耐えられず、地面に這いつくばることになる愚か者達。
リーネは愚か者達のリーダーらしき者の傍に行き、その者を冷たく見下ろしつつ言葉を紡ぐ。
「私は見ての通り魔女ですよ。魔女の私を相手にするには少し人数が足りなかったのではないですか? これは皮肉ですけどね」
少しどころではない。規格外の存在である件のスライムならリーネとて勝利することは敵わないが、それ以外なら彼女とこの世界でまともに戦えるのは、最早魔王ラピスくらいしかいないだろう。
いや、【リリエル】も彼女 vs 他メンバーならいい線迄はいけるかもしれない。
【リリエル】は彼女の戦術を全部知っているから。
魔女に敗北した愚か者達。冷徹に見下ろされつつリーダーの彼は呟く。
「ショーツ見え……」
「……る筈がないじゃないですか。スカートの下はショートパンツを穿いてます」
「そんな……………………」
見えた物が自分が思った物ではなく落胆する愚か者のリーダー。
リーネはなんとなく頭にきたので、とりあえずソイツの頭を踏み付けた。
その後、愚か者達はリーネ達の手でゴーレムに引き渡された。
ルージェン王国の女性達とお知り合いになるのは彼らには無理だった。
儚い。儚すぎる夢であった。ところでいい加減にルージェン王国で諸々と迷惑。
やり過ぎた彼らは自国へ強制送還となったのは言う迄もないのだが、どんな風にかは……。
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愚か者達を退治し終えたリーネ達が次に向かったのはロマーナ地方の空き地。
ここでリーネが杖を箒に変え、変えた箒に横向きで乗って見せる。
ちょっとドヤ顔のリーネに素直に感心して見せるアリシアとミーア。
本当ならこの空き地でアリシアも飛行魔法を練習する予定だったが、急遽中止になった。
2人が「リーネと空を飛んでみたい」と言いだしたから。
リーネの箒は2人迄なら乗ることができる。
ということで、いつもの通りアリシアとミーアは順番にリーネの箒に乗せて貰うことにした。
ミーアが先で次がアリシア。アリシアは大体いつも自分が最初になるので、今回はミーアに譲ったのだ。
ミーアは遠慮しようとしたが、アリシアに「リーネを愛してる気持ちは2人共に同じよ。だから後とか先とかなんて関係ないわ」と言われて納得。
それなら。ということでミーアはお言葉に甘えて先に乗せて貰うことにした。
「しっかりと掴まってて下さいね」
「うん!」
ミーアは愛する女性の腰に手を回す。
そこから伝わってくるリーネの身体の温もり。
ミーアは一瞬、もうそれだけでもいい! という気持ちになったが、リーネは箒を魔法で操って空へと舞い上がった。
空からだとロマーナ地方がよく見える。
素敵な所だ。
でも……。
「どうですか? ミーア」
「うん、とっても風が気持ちがいいよ。それに、ここからだとロマーナが良い土地であることがよく分かるねー」
「そうですね。ここは素敵な地方です」
「………………うん」
ミーアはリーネの背中に"ぴたっ"と顔をくっつける。
甘い香り。柔らかい女性の、リーネの身体の感触。
情動を疼かせてやまない劇薬に触れている事実。
背徳感に似た何かが湧くと同時に悪戯心が心に芽生える。
「リーネ」
「はい」
リーネの背中から顔を離し、名を呼ぶと彼女が自分の方へと振り返る。
愛する彼女は今は無防備。ミーアはすかさず彼女の唇に自分の唇を重ねた。
「ミ、ミーア……?」
「空でするキスって格別だねー」
「…………はい」
愛らしい声色。悪戯成功と言いたいところだが、悪戯はこれではない。
ミーアは片手を静かに上げる。上げた位置は彼女の[生命]の鼓動を感じる所。
彼女の頬が赤い。夕日が出る迄にはもう少し時間があるのに、彼女はもうそれに照らされているかのよう。
脈が早い。自分を意識している。可愛い…………。
「リーネ」
返事は無い。無いのが更なる欲望を生み出す。
空という一歩間違えれば危機に陥る所で衝動に身を任せるミーア。
リーネの膨らみに腕が当たるように強く抱き締めてちょこっと指を這わす。
震える彼女。身体が切実に[色]と[戸惑い]を物語っている。
「リーネの心身共に捕まえたー」
「……もうとっくに捕まっていますよ」
「一緒だねー」
「はい」
2人は熱暴走のままに空で―――。
ミーアはもう一度リーネの背中に顔を寄せながら、アリシアにも絶対にこの[事]を教えてあげようと心に決めた。
・
・
・
ミーアから[事]を聞いたアリシアは、勿論自分も実行した。
ミーアからされているんだから、そんなに驚いたり、赤くなったりなんてことはならないかしら。
とアリシアは思っていたが、リーネはミーアの時とまるで変わらずに可愛らしい顔をアリシアに見せた。
ああ、これは…………。
ミーアがやられて当然だ。リーネは可愛すぎる。
なんとなく気恥ずかしくなる。それでもお互いを感じたくて離れない。
アリシアの微かな身動ぎにリーネが反応し、甘い吐息を漏らす。
「ハァ……」
「っ」
彼女の吐息はアリシアの理性を世界の彼方へと飛ばすには充分だった。
キスを交わし、アリシアはリーネを空で愛でる。
他の誰でもない自分がリーネをはしたない格好にさせている。
色んな意味で乱れさせている。ココロが悦びで満ちる。
満ちるが罪悪感も生まれる。
今度はミーアと共にリーネを―――。
アリシアは空から地上へ降り立った後、ミーアの元へ向かい会話。
2人で今回の[事]とリーネの処遇。深夜について語り始めた。
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夜。
ラナの村の自宅へと戻って来て、3人で夕食の準備を始めてそれも終わって後はカミラとケーレの帰りを待つだけ。ニアから貰った女飴を舐めながら、リーネ達が今日のことを雑談していた時にカミラとケーレが家へと戻って来た。
「ただいま。遅くなったな。すまない」
「ただいま…………」
「お帰りなさい。遅かったわね」
2人を出迎えたのはアリシア。
別に何処へ行っていたのかは聞かなかったのだが、カミラが勝手に話し始めた。
どうやらダークエルフの里に行っていたらしい。
そこでカミラはケーレのことを将来、自分の[妻]になる人だと紹介。
ダークエルフの人々はカミラの話に大いに盛り上がり、ケーレは人々から熱烈で熱狂的な歓迎を受けたらしい。
熱狂的な歓迎。そういうことね……。
ケーレの全身が仄かに赤いのと、少し元気が無い理由を察したアリシア。
だったが、ここは何も聞かないであげるのが大人の対応というものだろう。
でもリーネとミーアには後で教えてあげよう―――。
アリシアは腹黒く笑みを浮かべ、カミラとケーレの2人を茶の間へと誘った。
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番外編3 Fin.




