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-番外編3- 【リリエル】の休日 その01。

 ロマーナ地方・ラナの村。サマーな時期。

 この地方にはこの時期だけしか見られない特別なモノがある。

 それは、いつもは[黒]な【リリエル】が[白]となるというもの。

 単純にローブと腰巻きを身に着けないようになって、ブラウスとスカートだけになっただけというだけのことなのだけど。

 尚、ブラウスはこの時期でも他の時期と変わらずに長袖。日焼けを防ぐ為と邪族との戦闘やら野営の際に肌を剝き出しにして怪我などをする。というようなことが無いように安全面を考慮してのこと。

 それでもこの地方の領主・シエンナを初めとして、この地方に住まう人々の目を彼女達は例年楽しませていた。


 今年もその時期。風物詩を楽しみにしていたシエンナはいつものお茶会の席。

 少し呆けることになってしまった。


 今年は例年と趣きの異なることが彼女達……。

 全員ではないが、リーネとアリシアの2人に起きていたのだ。


 2人を見て、思わずカップを落としそうになるシエンナ。

 一体彼女達に何があったのか。余程のことがあったに違いない。

 だってそうじゃないとおかしい。


 

 髪は女の[生命(いのち)]。その髪が2人揃って短くなっているのだから!!!



 リーネもアリシアは元々はロングだった。

 それが今はリーネもアリシアもセミロングボブになっている。

 【リリエル】の婦々仲は誰もが認める程に良い。

 それなのに……。


 あり得ないことだと思うけれど、喧嘩でもしたのだろうか?

 もしかして、離婚? 1人で妄想して不安になるシエンナ。

 聞きたい。物凄く聞きたい。聞きたいけど、もしも彼女達が自分が妄想しているままのことを認めてしまったら、自分は立ち直れなくなってしまう可能性がある。

 【リリエル】が失われる。そんなことは絶対にあってはならないことだ。


"ごくり"と唾を飲むシエンナ。


 深刻な心情の彼女の横で、特に何も考えずに普通に彼女達に質問する者がいた。


「その髪型どうしたの?」


 その者はこの地方のハンターギルドのギルドマスターであり、彼女達の姉代わりでもあるヒカリ。

 彼女の全く躊躇のない質問の仕方に"ぎょっ"としてヒカリを見るシエンナ。

 ヒカリは何も変わらず、リーネとアリシアのことを見ている。


 ちょっ! もし「離婚することにしたので」なんて言い出したらどうするのよ!!

 わたくしの、わたくしの生き甲斐が…………。

 リーネとアリシアの答えを聞く前に勝手に何もかもを決めつけて、心の中で号泣するシエンナだが、彼女達2人の答えは彼女が妄想していたそれとは殊の外違っていた。それはもう、まるっきり。


「私は暑さ対策と気分転換の為に思い切って、髪を短くしました。自分で言うのもなんなのですが、やや丸みを帯びた髪が可愛いと思うのですが、どうでしょうか? ヒカリお姉ちゃん」

「わたしは単純に暑さに負けてしまったこともありますわ。でも、どっちかというと、メディさんのお店で髪を切ってきたリーネを見て可愛いと思ったので、自分も真似をした感じです」

「なるほど! 2人共よく似合ってます。……? シエンナ様? どうしたんですか?」


 ここで漸くシエンナが妙な顔をしていることにヒカリが気が付いたらしい。

 "へなへな"とソファに崩れ落ちるシエンナ。


 流石にそれでヒカリだけでなく、【リリエル】もシエンナに注目する。

 皆の視線を集める中でシエンナが告げたのは、リーネとアリシアにとって思ってもみなかったこと。


「よ……。良かったですわ。わたくしはてっきり喧嘩とか、最悪離婚されてしまうのかと思ってしまいました」

「私達が……」

「離婚?」


 顔を見合わせるリーネとアリシア。

 そりゃあ婦々と言ってもたまには喧嘩くらいはする。

 ずっと仲良しで居続けるということは、誰からも仲良しな婦々だと見られている2人でも少しばかり無理な話だ。些細なことで口喧嘩なんてことくらいはある。


 でも……。


「離婚なんて考えたことも無いです。アリシアもですよね? まさかそんなこと考えたこと無いですよね?」


 自分の右側に座るアリシアの顔を見ながら彼女の手をリーネが握る。

 不安に揺れる瞳が大変可愛らしい。リーネの手を握り返すアリシア。


「無いわ。貴女と別れるなんて考えたことも無いから安心して。リーネ」

「よか……」


「た」を言う前にリーネは今度は左隣のミーアを見る。

 そう来ることは予想していたのだろう。

 自分の予想通り過ぎて笑ってしまうミーア。


「大丈夫だよー。リーネは可愛いねー」


 愛するリーネの頭を撫でるミーア。

 リーネは2人の答えを聞いて安堵。今度こそは「良かったです。安心しました」さっきの言葉を最後迄続ける。


「リーネったら、相変わらず可愛いわね」

「そういうところ大好きだよー」


 アリシアとミーアがリーネに自分達の肩を寄せる。

 暑くても"イチャイチャ"するのがいつもの【リリエル】。

 カミラもちゃっかりとケーレの肩にさり気なく手を回し、自分の方へと引き寄せていたりする。

 ケーレはそれに逆らったりはしない。カミラにされるがままに抱かれて2人は見つめあう。


「キスしてもいいか?」

「いいけど、ここでは普通のキスにしてね」

「ん~、仕方ないか」


 唇を重ねあうカミラとケーレ。

 普通のキスにするという約束は何処へやら???

 カミラは約束なんて無かったかのように平然と破っている。

 これにはケーレも抵抗しようとするが、カミラの方が力が強い。

 仕方がない。ケーレは諦めてカミラに従うことにした。


 【リリエル】毎度の光景を見てシエンナがいつものシエンナに戻る。


「はぁ……っ。はぁ……っ。そう、それでこそ【リリエル】ですわ」


 この残念さがなければ素晴らしい領主で美人さんな女性なのだが、生憎在るから何もかもがダメになっている。

 人知れずため息を吐くヒカリ。シエンナはヒカリの気持ちなんて知る由もなく、お茶会の間中荒い息を吐き続けた。最後には……。


 ここはシエンナの名誉の為に伏せておこうと思う。


**********


 後日。

 今日は【リリエル】ではなく、それぞれ普通の女性として過ごす日。

 カミラとケーレは朝も早くからデートへと出掛けて行った。


 残されたのはリーネとアリシアとミーアの3人。

 婦々3人も今日はカミラとケーレと同様に外へと繰り出している。

 目的はカミラとケーレとこれまた同じでデート。

 それと、リーネの扱う杖を箒に変えてそれに乗って空を飛ぶ。

 飛行の魔法を彼女から教えて貰う為。


 余談になるが、[隷属の首輪]はかつては首輪を填められた者は填めた者から半径10m以上離れると、強い電撃が身体を襲うようになっていたが、現在は魔道具屋によって改良が加えられ、10m~1kmの間で首輪を填めた者から離れることができる物が売られている。

 これが他の国であれば、[隷属の首輪]は奴隷に使う為の物であって、それはあり得ないことだろう。

 しかし、この国の場合は違う。

 この国での[隷属の首輪]の扱いは愛する者へ送る婚約の証的な感じの扱いだ。

 それにしては、ちょっとばかり? 過激なところがあることは否めないが……。

 その辺りは(くだん)のスライム・ナツミが悪い。

 この慣習をこの国に広めたのはナツミだから。


 こういう訳でリーネの今の[隷属の首輪]はアリシアとミーアの2人から半径1km以内であれば離れることが可能な代物となっている。

 10mだと買い物に行きたい時など少々不便なものがあったが、1kmなら割と余裕ができる。

 ので、リーネは1人でメディの営む美髪店迄行けたというわけだ。

 それで帰ってきて、アリシアとミーアに「可愛い」「可愛いー」と滅茶苦茶に褒められて、撫でて貰ったのはリーネにとって"にまにま"としてしまうことだった。

 それからリーネの髪形を見て、気に入ったアリシアも彼女の真似をして美髪店で髪を切ってきたから、今度はリーネとミーアで"きゃあきゃあ"と大騒ぎした。

 ミーアについては元々ショートボブで、本人が気に入っているので変えることはなかったが。


 リーネとアリシアとミーア。3人はロマーナ地方の中でもそこそこに賑やかな町の商店街をあちこちウィンドショッピングしながら歩く。

 尚、今日のリーネ達の格好はリーネはこの時期。風物詩の【リリエル】の恰好。

 魔女としてのアイデンティティを保ちたかった為。

 ここで捕捉だが、時期が時期なので服は生地が微量に薄めになっている。

 アリシアは見た目からしてちょっと涼しい感じがする格好。

 トップスはやや濃い水色の七分袖カットソー。

 ボトムスは膝下20cmくらいの薄いグレーの生地のフレアスカート。

 アンダー部から上に向かって10cm程度黒色になっている。

 腰に黒の細い帯を巻いている。

 ミーアはトップスは白のノースリーブTシャツ。

 ボトムスはデニムショートパンツ。

 彼女の服の様を見ていると、獣人らしく元気いっぱいな女性に見えるのが不思議なところだ。

 この中で【リリエル】とすぐに分かるのはリーネだけだが、この地方では彼女達は知らない人なんていない程の有名人。守護者であり、百合災害を起こす者達。

 仮装しているわけでもないので、行く先々で人々から声を掛けられる。

 中には無料で飲食物をくれる人もいて、リーネ達は流石にそれはとお金を払おうとしたが受け取って貰えず、好意に甘えて礼だけは告げ、受け取ることにした。

 貰ったのは甘いクレープ。日本でよく見る形状の物。

 これも異世界人の誰かが広めたのだろう。

 食べ歩きしながら彼女達はのんびりと町を歩く。

 そのうち見えてくるのはニアのお店。

 特に用は無いけど、彼女達はお店に入店することにした。

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