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-番外編1 最終話- 女神の憂鬱。

―ハクがティロットに異世人を召喚する前―

 神々の住まう地。

 その日も女神セレナディアは"ぼ~っ"と自分の姉・ラプソディアが創造した世界の様子を眺めていた。

 なんだかあんまり発展する様子がない。ずっと一定のところで滞っていて、このままだと、この世界は生物がいながらも何も変わらず、動いていながらも停止しているという変な世界になってしまうんじゃないかとセレナディアは心の中に危機感を抱いていた。


 姉であるラプソディアには何度か注意を行った。

 だが彼女には暖簾に腕押し。


〔大丈夫大丈夫。そのうち発展するわよ〕


 で毎回済まされてしまっている。



〔はぁ……っ〕


 思わずため息が漏れる。

 自分が創った世界なのに、姉はあんまりにも無関心すぎると呆れてしまう。

 セレナディアは別の世界に観光に行き、その世界の神々と情報交換を行った時のことを思い出す。

 勿論、全ての世界の神々が自分の創った世界に関心を持っているというわけではなかったが、適度に関心を持っている神々の方が無関心な神々よりも多かった。

 

 私としては世界を巡る旅は適当に選んだつもりだけど、無意識的にそこそこ発展してる世界を選んじゃってたのかもしれないけどね。


 セレナディアは地上から今度は自分が住む神々の地へと視線を移す。


 どうにも頼りないというか、らしくないというか、もっとちゃんとしてよ! って言いたくなる神々がこの地には多い気がする。


 あ~、他の世界に移住しようかな。


 セレナディアが割と本気でそんなことを考え始めていた時のことだった。

 地上からなかなかに面白い話が聞こえてきたのは。


 それは姉であるラプソディアが自らが楽をする為に創り出した存在。

 7柱のドラゴンのうちの1柱のドラゴンが、こちらは世界に自然発生した存在なる魔王ラピスとしている会話。


 異世界人の召喚の話―――。


 セレナディアはそれを聞き、姉達にバレないように自分も神しらずに彼女達の話に一枚噛ませて貰うことにした。

 この世界のドラゴン。神々の代わりに自然界の力を守護する存在。

 さっきも言ったが、姉であるラプソディアが自分の代わりに実質この世界を管理させる為に創り出した存在。

 その力は神の使いであるだけに確かに絶大だが、ドラゴン達だけでは異世界人をこの世界に召喚して、しかもこの世界の発展の為に貢献して貰おうというのは少々無理がある。

 まして[事]を成そうとしているのが[白]のドラゴンだけ。

 

 ふむ……。


 セレナディアはその日から[白]のドラゴンの動向を隠れて見守るようになった。

 [白]のドラゴンは幾つか世界を回っていたが、そのうち1つの世界に的を絞った。

 地球(アース)。セレナディアも観光に訪れたことがある。

 良い所だったか? と聞かれると〔普通かな〕としか答えようがないが、変な世界から異世界人を召喚することに決められるよりはずっとマシだ。

 セレナディアは気になっていたことが1つ解決したので、その時点で"ほっ"と胸を撫でおろした。

 後は[白]のドラゴンがどうやってこの世界に()ぶ者を決めるのか。

 セレナディアは召喚する者の決め方に期待と不安を抱えながら[白]のドラゴンのことを見ていたが、[白]のドラゴンは興味深い方法を使った。


 へぇ……。


 と[白]のドラゴンに対して感服心を覚えたセレナディア。

 召喚者の選択と決定。全部が決まったら、後は実行の時。

 


 [白]のドラゴンの召喚術が始まる。


 

 最初はナツミという名の少女。

 やはり[白]のドラゴンだけでは、召喚が不完全なモノになってしまうことが[神]であるセレナディアには分かる。

 そこで、セレナディアは[白]のドラゴンにさりげなく力を貸した。

 かくして、この世界ティロットに召喚されたナツミはセレナディア的に予想外なことも()()()あったが、面白い働きをしてくれて、セレナディアは苦笑いしたりもしたが、同時に喜びもした。


 転生者1人。転移者100人。全部で101人。

 召喚者全全員に結局セレナディアは力を貸した。

 能力も与えた。手からコーラが出せるとか、虫歯になっても鮫の歯みたいに幾らでも生え変わるとか、大体の者が変な能力ばかりとなったが……。

 これはハクが召喚の儀式をしている最中にセレナディアが自身の手で作ったクジを引いて、当たった能力をその者に与えたからそうなったのだ。僅か数名は当たりを引いた者もいる。代表的なのがヒカリと他数名。よって、悪いのはセレナディアではない。


 異世界人の運が無かっただけだと思って欲しい。

 

 ハクはその[事]を知らないので、自分の召喚の結果だと思っているが、実は全ての元凶はセレナディアだったりする。


 その中でも30人目の召喚の際の娘だっただろうか?

 地球での名を捨て、ゲームの世界での名を名乗ったあの娘とセレナディアは妙に波長が合った。

 その為、依怙贔屓になるとは分かっていても、セレナディアはその娘にはクジは引かずに自分の力の一部をその娘の能力として与えた。

 リーネ。本人は気が付いていないが、それが故にゲームの世界でのリーネよりも少しだけ強かったり、運が良くなっていたりしている。

 

 ミーアについても実はそうだ。彼女はリーネの友人であるが故にセレナディアが依怙贔屓で能力を与えた。あのクソゲー内のミーア、そのままの能力を。


 後はナツミ。彼女は恐ろしいことに自分で能力を引っ張り込んで、吸収して自分のモノとした。

 ところで、この世界は姉が創った世界。

 なので、妹であり、その補佐でしかないセレナディアはその全部に手出しをすることはできない。

 だけどその中の一部分だけなら―――。


 セレナディアはナツミの召喚の際に世界に綻びが生じた所を見逃さなかった。

 綻びが生じた地。そこはナツミが召喚されたルージェンの地。

 セレナディアはその地にすかさず自分の力を注ぎ込んだ。

 このようなわけでルージェンはセレナディアや[白]と[黒]のドラゴン達によって創造神たるラプソディアの元を離れ、特別な地となったのである。


**********


―現在―

 同じく神々の住まう地。

 セレナディアは冷え冷えした目で姉を含む他の神々のことを見つめていた。

 その理由はルージェンの地がセレナディアに乗っ取られていることに気が付いていない神が多い為。

 一部の神々は、姉達と違って最初から仕事をしっかりしていた神々は、乗っ取りの事実に速攻で気が付いた様子だった。

 だったが、誰もセレナディアに文句・抗議・窘めを言ってきたり、(おこな)ってくる者はいなかった。

 恐らくセレナディアと同じように、ラプソディア達に相当に不満が溜まっていたのだろう。

 部下が無能というのも困るものだが、上司が無能というのはもっと困るものだ。

 どうもセレナディアがルージェンを乗っ取ったと気が付いた神々は、そっちの方が余程いいと思ったらしい。

 そのような神々達はラプソディアを見限り、セレナディアの下に就いた。



 ラプソディアを見限ったうちの1柱の女神がセレナディアのことを呼ぶ。


〔セーレちゃんこっち来て~。早く早くセーレちゃんったら~。早く~〕


 セレナディアと彼女を呼ぶ女神は幼馴染。

 それに伴って……。というわけでもないが、セレナディアのことをセーレちゃんと愛称で呼ぶことが許されている。

 セレナディアは当然、幼馴染の女神の性格を概ね把握しているので、若干の警戒モードになるのは仕方がない。


〔行かないとダメ? エリー〕

〔来ないと損するよ~。あの時エリーの言うことを聞いておけば良かったって後悔するよ~〕

〔……なんだか不安だけど、そこ迄言うなら〕


 とか言いながら、警戒モードが抜けないままに自分の幼馴染である女神・エリーの元へ歩いていくセレナディア。

 到着するとエリーは笑顔で自分の足元を指でさす。


〔あの娘、セーレちゃんのお気に入りの娘でしょ~〕


 エリーに言われてセレナディアが幼馴染が指さした先を覗くと、そこにいたのは召喚時に依怙贔屓をした娘・リーネだった。


〔相変わらず大変そうね〕


 リーネを見て"ぼそっ"とセレナディアが呟く。

 セレナディアの目に映るは、アリシアとミーア。

 2人の妻に追い詰められて、今にも襲われそうになっているリーネの様子。

 2人から迫られるのは決して嫌ではないのだろうが、リーネからは強い戸惑いが感じられる。

 強き戸惑い方が気になったセレナディアは神の力を使ってリーネ達が何を話しているのか聞いてみることにした。


「ふ、ふたり共。今は野営中ですよ? いつ邪族が現れて襲ってくるか分からない中でそういうことは」

「流石にそれくらい弁えてるわ。だから、したいのはキスだけよ」

「うん。リーネにキスしたいー」

「本当にキスだけですか?」

「ええ、勿論よ。ねっ? ミーア」

「当たり前だよー。だってここじゃあ、ねー」

「それなら……」


 リーネが身体の力を抜く。

 アリシアとミーアは目と目で合図。

 アリシアが最初に決まったらしい。


「本当に先でいいの?」

「いいよー。ほらほら、邪族が来る前にさっさとしちゃって」

「それならお言葉に甘えるわ」


 アリシアがリーネの首に手を回す。

 2人で見つめあい、少し微笑んでから目を閉じるのはリーネ。

 アリシアは目を閉じたリーネを見て、彼女への愛の気持ちが高まったのだろう。

 ほんのりと頬や耳などが赤く染まっている。


 いや、アリシアだけじゃない。近くで見ているミーアも同様。


「もう、可愛すぎよ。リーネ」


 リーネとアリシアの唇が重ねられる。

 今は時と場所と場合を考えて軽くて短いキス。


 アリシアが名残惜しくリーネから離れると、次はミーア。

 彼女もアリシアに倣いリーネの首に手を回し、愛する人の顔を見てからキス。

 キス後の3人。……リーネを除く2人。

 愛する人の一挙手一投足を見逃さないとばかりに熱し線で見つめる。

 セレナディア達がいる所には届かない筈の熱が感じられる。

 3人の火照りが感じられる。不思議減少。

 

 次の瞬間、抱き着きあう3人。とびっきりの笑顔。

 邪族が現れる迄3人の抱擁。……愛と熱の贈りは続いた。



 一部始終を見届けたエリーが騒ぎ出す。


〔と、尊い~。あの子達が愛し合う姿って、どうしてこんなに尊く思うのかな~? ねぇ? セーレちゃん~〕


 エリーははしゃいでいるが、セレナディアは複雑な気分だったりする。

 リーネは……、彼女自身は預かり知らないところだが、セレナディアは自分の力を分けた存在であることが分かっている。

 リーネはセレナディアにとって言わば自分の分身の様な存在。

 そのせいか、自分もアリシアとミーアとキスしたように感じてしまうのだ。


〔私としては、その……。愛しき子(リーネ)を通して自分が愛しき子の妻達とキスしているようにも思えて恥ずかしくなるかな〕


 セレナディアは正直にそのことをエリーに話す。

 それを受けて"けらけら"と笑い出すエリー。


〔セーレちゃんはウブだね~。私は私の愛しき子(アレッタ)が何してても全然平気~〕

〔貴女の愛しき子(アレッタ)ねぇ……〕

〔なにさ~? 私の愛しき子(アレッタ)に文句あるの~? セーレちゃん~〕

〔無いけど、でもあの子ってたまに神様なんか糞くらえ~って言ってるの知ってるよね?〕

〔そうなんだよ~。そこは悲しいよ~〕


 喜怒哀楽が激しい。

 自分の幼馴染ながらそれが楽しくて、ついつい笑ってしまうセレナディア。

 ひとしきり笑った後、ふと思い出したことをエリーに聞いてみる。


〔そう言えば邪族って、アレって何なのか知ってる?〕


 地上に住む人々にとって謎の存在・邪族。

 狩っても狩っても湧いてくる厄介な存在。

 それがどうして湧いて出てくるのか謎に包まれている。

 邪族はセレナディアも実は知らない存在。姉が創ったモノ達の中にそんな存在はいなかったとセレナディアは記憶している。

 エリーにはダメ元で聞いてみたのだが、彼女は邪族のことを知っていた。


〔えっ?セーレちゃん知らないの~〕

〔うん、全然〕


 エリーのセレナディアを見る目が可哀想な子を見ているように感じられる。

 そんな目をされると余計に気になるセレナディア。


〔知ってるなら勿体ぶらずに教えてよ〕


 言うと、エリーは邪族という存在の正体を語りだした。


〔神様もさ~。7つの大罪とか犯しちゃうことあるでしょ~。私達だって~〕

〔うん。それが?〕

〔普通、やっちゃったことは自分達で祓うよね~。私達もそうだよね~〕

 

 セレナディアはそこ迄聞いたところで嫌な予感を心に覚えた。


〔まさか……〕

〔そうだよ~。あれはラプソディア様達の穢れだよ~。自分達だけじゃ穢れの祓いが間に合わないんだろうね~。穢れに覆われたら穢れ神になっちゃうから~。容姿が醜くなるの嫌なんだと思う~。だから穢れ神になる前に自分が創った地上の人々に祓わせてるんだよ~〕

〔ア……〕

〔アホかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〕


 神々の住まう地にセレナディアの声が木霊する。

 この後、この地で何が起こったのかは…………………………。


-------

番外編1 Fin.

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