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-番外編1- 美髪の神様。

今回のお話は賛否両論になる。と思っています。

 ロマーナ地方・ラナの村。

 本日、【リリエル】は本業である[万事屋]の仕事に励んでいた。

 "カンカンカンカンカンッ"

 人口密度が高い。とは決して言えない村に響き渡る金槌の音。

 今日は村の大工さんの手伝いで村に神社を建設している真っ最中。

 というのも、つい最近、この村に1人の女性が訪れたかと思えば、突然この村で暮らさせて欲しいと村人達に頼み込んできたのだ。


 村に訪れた女性は魔物でメデューサ。

 地球ではとある女神に()()()()()()()()()()()()()を隠されもせずに()()されて、元は見目麗しかった姿を醜い姿とされた。そんな姿にされたから、人目につかないところで、ただ静かに暮らしていたいと願っていた彼女だったのに、()()()()()()()()()()人間に彼女は[魔物]と一方的に決めてかかられ、戦いの末に討ち取られた挙句に醜悪な心の持ち主の女神に首を差し出されて、死して迄も尚、辱めを受けるという可哀想な伝承の持ち主。

 彼女を()()のままに()()した神には何も罰がなかった上に、その神は彼女が苦悶している時に助けもしなかった。まさに()()。これの何所が神なのだろうか? 理解に苦しむ。神ではなく、無能かサイコパスが正しいのではないだろうか。

 神という名のサイコパスは彼女に対する[愛]なんて最初から無く、[欲]に従っただけだからこそ、見て見ぬフリをしたのだろう。


 でもこの世界では逆に醜悪な心の持ち主の女神を返り討ち。

 石化させ、首を取って、アダマンタイト製の壺の表面に取った首を埋め込んだ。

 首が埋め込まれた壺は神ではなく様々な人の手に渡った。

 そして行く所、行く所で持ち主を不幸にしていった。時には文明を滅ぼした。

 そのせいで現在は特級呪物扱いされて何処かの神殿の奥底で眠っている。

 特級呪物の壺。二度と陽の目を見ることは無いだろう。

 話が逸れたが、この世界の彼女は女神を打ち破るほどの強き魔物。

 一説にはアラクネーの始祖がメデューサに協力したとの説もあるらしい。

 討ち取られた女神の敵討ちとばかりに彼女の所へと攻めてきたクズな神や人間も全員余すことなく返り討ちにした。彼女はその後、心身の強さを恋愛とその安寧を願う女神・セレナディアから認められて彼女の護衛 兼 側近として従事している。


 天界にいる筈の魔物が何故?

 あり得ない訪問者に村は緊迫。混沌化した。


 事態の収束の為に開かれることになったラナの村の村長宅での緊急会議。

 メデューサから詳しく話を聞くと、セレナディアからこの国へと神の使いとして赴くよう言われたとのことだった。


 セレナディアは自分の姉であり、この世界の創造神たるラプソディアよりも自分を大切にしてくれる。信仰してくれる。この国のことを甚く気に入ったらしい。

 そこで信仰の恩に報いる為にこの国に寄こしたのが自分の側近たるメデューサ。

 この国に繫栄を齎し、慈愛の精神を広めるのが目的と彼女は語った。


 彼女の話を聞くに、セレナディアは別にラナの村を指定したわけじゃない。

 ルージェン王国であれば何処でも良かった筈だ。


「なのに貴女はどうしてこの村を選んだのですか」


 今は少し遠い昔。ジャンケンに敗れてラナの村長ととなることになってしまったエルフの女性・セルリアがメデューサに問い掛けると、彼女は少しだけ首を(かたむ)けてセルリアの問いに返事をした。


「そこにいる子の魔力の[質]がセレナディア様のそれに似てて落ち着くし、この村の雰囲気も気に入ったからかな」


 メデューサが首を傾けた方角。

 そこにいるのは【リリエル】のリーダーたるリーネ。その人。

 リーネは自分の魔力の[質]が神様と似ているとか言われて困惑を隠しきれなかったが、それよりも自分の妻と仲間と村人達の視線に居た堪れず、つい視線を皆から逸らしてしまった。


 視線を逸らしたリーネに見て圧を掛けるは村長のセルリア。

 彼女はあのエルフの里での生き残り。なので里の焼失事件のことを知っている。

 従って、リーネこそ村長になるべきだと最初から言っていたのだが、リーネ本人が彼女の提案を聞き入れず、最終的にジャンケンで負けた者が村長という、それでいいのか!? という決め方で村長になってしまったことを割と根に持っていたので、この際リーネに責任の一切を(なす)り付けることにしたのだ。


「だそうですので、リーネさん。後のことはよろしくお願いしますね」

「わ、私ですか!?」

「だってメデューサさんがリーネさんを気に入った。落ち着くからとおっしゃっていますし?」

「うっ……」


 セルリアに言われてリーネはメデューサを"ちらり"と見る。

 彼女の顔は美しく、髪はさらさらの黒髪。

 どうやらこっちの世界のメデューサは自分の意志で姿を地球でよく見る姿にも、そうじゃない姿にも変えることができるらしい。

 今現在は美人な方の姿。

 過去に地球であの神話を読んだ時にメデューサに情を移したことのあるリーネはほんの数秒だけ悩み、「分かりました」とセルリアに返事を告げた。


 で、今に至っているという訳である。

 神様の使い。間違っても、一般人が暮らすような家に住んで生活して貰うわけにはいかないだろう。

 そんな思いから村の大工さんが建設することになったのが神社。

 これはリーネが大工さんに説明して、日本では神様はそこに居住している。

 村の様相を考えると神殿ではなく神社が合っている気がすると伝えると大工さんが乗り気になったのでそうなった。リーネの説明を受けた直後から建築が始まった神社。リーネとしてはメデューサの面倒を引き受けると言った以上は無償で神社の建築の仕事の手伝いをするつもりだった。


 ところが大工さん側がそれを断ってきたのだ。

 神社の建設の仕事とメデューサの世話は違うという建前で。


 かくしてリーネは【リリエル】として神社の建設に携わることになった。

 急ぎなので魔法を駆使し、どんどん神社の形を造り上げていく。

 

 鳥居に参道に手水舎に社務所に御社殿……。

 メデューサは[蛇]がシンボルマークなので狛犬を置く所には[白蛇]の石像を設置した。

 後は女神セレナディアの象徴たるミスリルの鏡。名称:貴女達の絆の鏡(エンゲージミラー)

 象徴を設置して祝詞を唱えれば神社の完成。

 祝詞は流石に分からなかったので、神社のガワが完成する迄の間、終始感心して仕事を見ていたメデューサに頼もうとしたら、彼女は「リーネちゃんだっけ? が鏡に魔力を注いでくれたら大丈夫だよ」とのことでリーネはメデューサに言われた通りに鏡に魔力を注ぎ、ガワに力を持たせて、今度こそ真に[神の社]を完成させた。

 3日後。メデューサは昼間は"ふらふら"と何処かに行っては夜になるとラナの村に戻ってくるという生活スタイルになった。

 多分、セレナディアに言われたことを律儀に守っているのだろう。

 セレナディア教の信仰の広め。慈悲の与え。リーネは真面目なメデューサに好感を抱き、それ迄は地球でも、この世界でも無宗教だったが、メデューサが信仰するセレナディア教なら入教してもいいかなと段々と考えるようになっていっていた。


 翌日に早速リーネはメデューサにそのことを伝える。


 とメデューサは大喜びしてリーネに飛びつき、抱き着いてきた。


「ありがとう。リーネちゃん。嬉しい」


 なんだかこの世界のメデューサは子供みたいだ。

 身体は大人なのに、性格は穢れを知らない子供。

 リーネはそう思うと、ほぼ無意識にメデューサの頭を撫でていた。

 相手は神様の使い。……であることに"はっ"と気付いて慌てて彼女の頭から手を離そうとするリーネ。

 メデューサはそんなリーネを見ながら、か細い声で彼女に言葉を紡ぐ。

 

「ねぇ、リーネちゃん。リーネちゃんがよかったらでいいんだけど、友達になってくれないかな?」


 神様の使いとて独りは寂しかったのだろう。

 メデューサは木偶(でく)人形ではない。

 ちゃんと感情がある女性(ひと)だから。

 リーネはメデューサに微笑み、彼女の言葉を快く受け入れた。

 

「本当? 本当にいいの?」

「はい。勿論ですよ」

「嬉しい。ありがとう。えっと、それでもう1つお願いがあるんだけど」


 リーネの前で"もじもじ"とするメデューサ。

 これが計算されたものなら、『あざとくてうざい』とリーネは拒絶反応を示したことだろう。

 だがしかし、メデューサは計算ではなく、天然でやっているのだから可愛い。

 異性間ではどうだか分からないけど、同性間では天然か計算かは案外分かるものなのだ。

 リーネは頬を少し緩めてメデューサの願いを聞く。


「どうしましたか? 私にできることならやりますよ」

「私、セレナディア様にメディって呼ばれてたの。だからお友達のリーネちゃんにもそう呼んで貰いたいなって」

「そんなことですか。分かりました。メディちゃん」

「ありがとう。リーネちゃん」


 リーネに自分の願いを無事聞き届けられ、嬉しくなったメデューサことメディはリーネの胸に顔を擦り付ける。無意識でやっているのだろうが、彼女の行動が子犬のように見えて"くすくすっ"と笑ってしまうリーネ。


 こうして友達同士となった2人だが、この時リーネは致命的なミスを冒していることに気が付いていなかった。自分達の背後にメディとの戯れを羨ましそうに見ている存在が2人程いたのだ。

 

 その日の夜にリーネが嫉妬した2人により足腰立たなくされたのは語る迄もないだろう。

 リーネは天界の幸せのような、冥界の恐怖のようなモノを味わったのだった。


**********


 それから1ヶ月くらい経った頃からだろうか。

 メディはセレナディア教を広める傍らで美髪店を営み始めた。

 元々この村には美髪店を営む人物はいたのだが、メディの技術を見た途端に舌を巻き、店長交代を申し出たらしい。

 これにより、ラナの村の美髪店店長はメディとなった。


「今日もお客様が多いですね。メディ店長」

「指名沢山貰えて結構嬉しい」

「メディ店長の美髪技術は他に類を見ない程素晴らしいですからね」

「そんなに言われると照れる~」


 メディが店長となった美髪店はそれはもう大繁盛した。

 髪を切る技術も当然のことながら、特に洗髪技術が「ここは天界?」と人々が思わず感じてしまう程に素晴らしいのだ。優しく、丁寧で、あまりにも心地が良いが故にメディが担当したお客様は洗髪の最中に必ず眠気に襲われる。


 サービス含めた全ての事柄が終わると、髪はそれ迄の2倍は美しい艶と滑らかな手触りとなっているのだ。

 これで繁盛しない筈がない。


 異世界地球・日本の美容技術を認知しているリーネもメディに髪を整えて貰ってからはすっかり彼女の技術の虜となってしまった。

 下手をしたら日本のそれより素晴らしいものだったのだから、リーネがそうなるのも必然だ。


 リーネは【リリエル】と傘下の【クレナイ】に大々的に宣伝。ならぱ物は試しとメディの営む美髪店に行った【リリエル】と【クレナイ】の面々も瞬時にリーネと同じ。虜になった。


 いつしかメディはセレナディアの御使い 兼 美髪の神様として人々から崇められるようになっていく。


 メディはそうなった自分のことをセレナディアに申し訳なく思う反面、人々からの気持ちが擽ったくて嬉しいとも感じる。

 彼女の様子を神々の住まう地で優しく見ているセレナディアがいることをメディは知らない。



 セレナディアがメディを地上に遣わせた本当の目的。

 それは……。

メデューサはよく悪者扱いされますが、作者的には悲しき人物だと思うのです。

それよりも[神]や[人間]の方が余程クズではないかと……。

私は彼女を救うことできたでしょうか。

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美髪店 = 日本でいうと美容院になります。

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