-最終章 完結話- 王都襲撃事件 その02。
「帰りましょう」私がそう言葉を続けようとしたら、王都に邪族襲来の警報が鳴り響いた。
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それはもう[戦闘]じゃない。
一方的な[殺戮]になっていた。
王都に攻め込んで来た邪族。
私は、私達は、ソイツらを八つ当たりの対象にすることにしたのだ。
アリシアのダガーが邪族の首の動脈血管を斬り裂いて[生命]を刈り取る。
ミーアのカイザーナックルが風と共に唸りを上げ、邪族の腹に穴を開ける。
カミラのハルバードが邪族の腕や脚の健を斬り裂き、それで邪族が地面に伏したところをケーレの槍が心の臓を突く。
そして私。光・闇・風・水・炎・土・雷。いずれかの属性の上級魔法を行使して、邪族をこの世から完全に消滅させる。
銀ランクの私達。
しかし、【リリエル】はその上の金ランク、白金ランクのハンターでさえ、かろうじて倒している邪族達を苦にすることもなく次々と蹂躙していく。
自分達で言うのもなんだけど、今の私達は殺戮兵器。
お揃いの[黒]の制服に[赤]やら[青]の液体を【リリエル】全員揃ってその身へと被っているのは、さぞかし恐ろしい者達に映っていることだろう。
しかも皆、笑っているのだ。
笑いながら邪族を駆逐しているのだ。
これだと一体どっちが邪族なのやら。
自分達でやっておいてなんだけど。
そんな中で私達は、【リリエル】はあの【レッドサーペント】に再会した。
「ひっ……。ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ」
「まっ、待ってよ! ドゥートーーーーー」
片手には邪族に折られたらしき金の剣。
それを持ったまま必死に逃げるチャラい男。
自分が生き残ることしか考えていないのだろうか。
自分のハーレムの女性達は置いてけぼり。
そのせいで今にも女性陣は邪族によって殺されようとしている。
一瞬、そのまま見殺しにしてしまおうかと思った――――――。
あの連中の中には私の傷を抉った奴がいるのだ。
そんな奴を助ける必要があるのか?
そんなことを頭の中で思ってしまった。
ドゥートとかいう奴が私達を見つけてこちらへと駆けてくる。
彼の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃ。
よっぽど怖い目に遭ったのだろう。
死の淵で見つけた一筋の希望の光。
ドゥートにはこんな格好の私達でも光に見えているに違いない。
「た、助けてくれーーーーー!!!!」
私はチャラい男。ドゥートを、風の魔法で王都の町の中迄吹き飛ばした。
何処でどうなるか迄は考えていないから、もしかしたら石の柱にぶつかったり、石の床に叩きつけられて痛い思いをすることになるかもしれない。
それでも死ぬよりはマシだろうし、何か硬い物にぶつかって手足などが折れたとしても誰かが治してくれるかもしれないし、運が良ければ何事もなかったかのように町中に着地できるかもしれない。
どれになるかは彼次第だ。
そんなことより今は―――。
「ここで見捨てたら、私の目覚めが悪くなります。非常に不本意ではありますが、私の目覚めの為です。背に腹は変えられません」
くそっ。本当にムカつく。
こんな所で迄、私のことを苛立たせてくれて。
私は走り出す。
走りながら構築するは彼女達を確実に邪族に殺らせないようにする魔法。
「大地之断裂」
魔法が発動。大地に大穴が空き、邪族達は穴に吸い込まれるように落ちていく。
彼女達に群がろうとしていた邪族達は全滅。
断裂していた穴はソイツらが全滅するのを見届けたかの如く元に戻る。
「た……、助かったの?」
自分達の[生命]を今にも刈り取ろうとしていた連中が一気に消えたのだ。
混乱状態。呆けるような声色を出してしまう気持ちは分かる。
私の魔法で大方の邪族は死した。
でもまだ少々残ってる。
残党は私以外の【リリエル】の4人が片付けていく。
目の前で起きているできごと。
とりあえず自分達が助かったことは理解できたらしく、【レッドサーペント】の女性陣は地面に座り込んで私達を見ている。
それ以外はまだ脳が処理しきれていないんだろうか?
彼女達はそこから動こうとしない。
「邪魔です。浮力之檻」
そこに座ったままいられると、本当に邪魔だったので魔法で宙に暫く浮いていて貰うことにした。
ドゥートみたいに町中に飛ばしても良かったけど、やめた。
相手は女性。もし顔に傷とか付いちゃったら私に罪悪感が生まれるから。
巨大で透明の球体の檻に閉じ込められて空。
言霊から感じる響きとは異なって風と水の混合魔法なのだ。
彼女達は檻の中で何か叫んでいるけれど無視。
私達は彼女達をそのままに、今回現れた邪族を全て滅した。
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その後
現在ロマーナ地方へ向かう馬車の中。
私達【リリエル】は揃って困惑した顔色を浮かべている。
あれから【レッドサーペント】はドゥート。自分だけが助かろうと軽率な行動をしたことでその仲に亀裂が入り、ドゥートが女性陣から見捨てられる形で解散することになった。
ううん、正確にはドゥート1人だけが【レッドサーペント】となり、女性陣は【クレナイ】というハンターパーティを組むことになった。
で、ドゥートは無事だった。運だけは良いらしい。
但し、私に町に飛ばされたことで何かがあって、アクセサリーだとか身に着けていた鎧だとか他にも様々。全部が壊れたらしいけど、身体は頑丈だったようで無傷だった。
何があったのかは知らない。興味がないので聞きたくも、知りたくもない。
ただ、自分の眼前で自分が女性陣から"バッサリ"と切り捨てられて、彼は邪族に殺されそうになっていた時みたいに恥も外聞もなく、みっともなく泣いていた。
「俺を捨てないでくれー」
とか女性陣に縋っていたけど、女性陣は徹底的に彼のことを無視。
彼は泣き喚いても何も覆ることなく女性陣から呆気なく捨てられた。
そうなって新たに生まれた【クレナイ】。
新生パーティ。【クレナイ】が私達【リリエル】に寄り添ってくる。
彼女達の目はアニメとかで見たことがある。
確か[椎茸目]って言うんだっけ?
どうしてこうなった?
天を仰ぐ私達。
そんな私達を余所に【クレナイ】は「お姉さま方、とっても素敵でした」なんて言っている。
お姉さまってなんだ。お姉さまって。
それからどうして貴女達迄ロマーナ地方行きの馬車に乗ってるの?
貴族様の護衛はどうしたの? 貴族様の護衛は。
【レッドサーペント】の愚かさを見た貴族様によってクビにされた!?
あ! そうですか。それで私達に付いてきてルージェン王国・ロマーナ地方の[民]となると。
シエンナ様。領民が増えますよ。良かったですね。
「あの時はほんっとうに申し訳ありませんでした」
「申し訳ありませんでした」
「自分達が愚かでした。我々はこんなにも素敵なお姉さま方になんてことを」
【クレナイ】のメンバーが馬車の床に頭を擦り付ける。
彼女達は女性だ。だから私は傷を付けないように配慮したのに、ここで傷付いてくれたら配慮した意味がない。
「もういいですから。気にしてないと言えば嘘になりますが、貴女達も売り言葉に買い言葉だったのでしょう。今回は喧嘩両成敗ということにしましょう。ですから頭を上げてください。女性の身体に傷を付けるのは本意ではないのですよ」
私の言葉で素直に頭を上げる【クレナイ】メンバー。
「なんて寛大な……」
「感動しました」
「何処迄も付いていきます。お姉さま」
……………。
すっかり懐かれてしまった。
それからは私達【リリエル】の世話を甲斐甲斐しくしようとする【クレナイ】を制するのが大変だった。
アリシアが堪りかねて「貴女達は別に私達【リリエル】傘下のハンターじゃないのだから、そこ迄尽くしてくれようとしなくて大丈夫よ」なんて言っちゃったものだから、彼女達は【リリエル】傘下のハンターとなりたいと言い出して、問答の末に本当にそうなることが決まってしまった。
押し切られたのだ。……アリシアが。
私達、【リリエル】の他メンバーは自分達が素直な者達からの押しに弱いことを知っているから、下手に口を出したら【クレナイ】は【リリエル】傘下のハンターになってしまうと思ってアリシアに任せていたのだけど、肝心の、頼りのアリシアが【クレナイ】に負けてしまった。
顔を両手で覆って私達に「ごめんなさい」と謝るアリシアに対して「お姉さま方、これからよろしくお願いします」とはしゃぐ【クレナイ】メンバー。
こうなったら仕方がない。
私達は諦めて【クレナイ】の面倒を見ることにした。
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ロマーナ地方に到着。
馬車から降り、最初に見たのはシエンナ様を含めたこの地方の人々だった。
驚いて「何かあったのですか?」と声を上げると優しく微笑むシエンナ様。
彼女の背後でこの地方の人々がシエンナ様の代わりに声を挙げる。
「聞いたよ。王都では大変だったんだってね」
「けど、大活躍だったんでしょう。さすが【リリエル】だよね」
「私達の誇りだよーーー」
大騒ぎする人々。
シエンナ様が騒ぐ人々に向かって"ぽんっ"と軽く手を叩く。
さっき迄の騒ぎが嘘だったかのように静まり返った―――。
「こほんっ。では此度の件について領主のシエンナことわたくしが【リリエル】の皆様にお伝えしますね。……ですけどその前に。せーの」
「「「お帰りなさい」」」
人々からの声。泣きそうになる。ううん、もう泣いちゃってる。
これってずるくない? 泣くなって言われても無理だよ。
【リリエル】は勿論、【クレナイ】のメンバーも釣られて泣いている。
アリシアにミーアにケーレにカミラ。皆の言う通りだった。
私は1人じゃない。こんなにも多くの人が私の、私達の周りにいる。
居場所がここに在る。
「ぐすっ……」
泣きながらする皆への返事。
【リリエル】と【クレナイ】を代表して私が。
ちょっと声が掠れてしまった。
「ただいま。帰りました」
言い終わると私達は人々に取り囲まれる。
そのまま腕を取られ、「何事ですか?」なんて聞いてるうちにその場所に連れて来られた。
「お祭り……会場、ですか?」
「そういうことじゃ。お主らの無事の帰還を祝う祭りじゃよ」
「ラピスさ……。ではない方がいいですね。理事長!」
「くくくっ。さぁて、始めるとするかの」
皆が再び"ざわざわ"と動き出す。
私達【リリエル】は【クレナイ】と共にあっちへこっちへと引っ張りだこ。
「ふふふっ」
ついつい漏れる笑み。
お昼のことなんか、もう全くどうでもよくなった。
「騒がしいのはあまり得意ではないのですが、これは楽しいですねぇ」
私が本音を漏らしたと同時に花火が上がる。
そんな物迄用意されてるとは思わなかった。
異世界人の誰かから聞いて作ったのかな?
それとも異世界人本人が作った物なのかな?
花火を見て地球にいた頃の言葉が自然と零れる。
「た~まや~」
それを聞いて不思議そうにするのは、アリシアとケーレにカミラと【クレナイ】のメンバー。
ミーアは私と同じ世界の出身だから私に続いて「か~ぎ~や~」と叫んでいる。
「その言葉は何かしら?」
「花火……。今見ている火の花が空に咲くとそう言うのですよ」
「へぇ、そうなんだ」
「ふむ。意味は分からんが、面白いな」
「では我々もお姉さま方に倣うことにしましょう」
「賛成でーす」
「賛成」
一際大きな火の花が夜空に咲く。
私達は音に負けないように大きな声で合言葉染みた言葉を叫んだのだった
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それから数年が経過した。
今も私達は変わらずにロマーナ地方に住んでいる。
ある時は万事屋、ある時はハンター、ある時は学園の講師。
忙しい日々。だけど充実した日々でもある。
今日は休日。なので今日の私は普通の女性。
私服をベッドに幾らか出して、お出掛け用の服を選ぶ。
女性に生まれて良かったって思う。
可愛いの好きだし、可愛い服を選んで着たら好きな女性に褒めて貰えるから。
鏡の前で行う1人ファッションショー。
その中から1着を選び、今日の外出着とする。
服を着用し、階段を下りて行くとそこには私の大切な人達。
「「「「可愛い」」」」
褒めてくれる皆。私は皆に向けて顔を綻ばせて―――。
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転移したらエルフでした。~そして咲いた百合の花~
Chapitre complet Fin.
おはようございます。
こんにちは。
こんばんは。
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ここまでお読みくださった皆様ありがとうございます。
作者が書きたかったことは、これで全部書けたかなって思います。
一番書きたかったテーマも書けましたし。
ちなみに何がそれに当たるのかは皆様のご想像にお任せしますね。
ではまたいつか別の作品でお会いできたら嬉しいです。
後、この物語が少しでも楽しかったと思えて貰えたら幸せです。
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この作品をお読みくださった皆様に心からお礼を申し上げます。
ありがとうございました。
作者こと彩音
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最後に宣伝をさせてください。ごめんなさい。
(2023/06/24)より番外編が掲載されます。
・このお話で完結と銘打っていますが、本物の完結はこの番外編の最終章がそれじゃないかなって実は思ってたりします(ボソッ




