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-最終章- 王都襲撃事件 その01。

 その日、ハンター・【リリエル】としての活動を終えた私はとてつもなく機嫌が悪くなっていた。

 それは今日の依頼の際にある人物達から言われたことがキッカケ。

 他国からこの国に視察に来られたらしい貴族様。

 このロマーナ地方にも視察に来て、シエンナ様から色々と説明を受けて楽しそうにしていた。

 貴族様はとてもいい人だった。貴族様は。


 ムカついたのは、貴族様の護衛の為にと連れて来られていたハンター達。

 【レッドサーペント】コイツらが最悪だった。

 私達【リリエル】はロマーナ地方へと視察に来られた貴族様を王都迄お送りする依頼をシエンナ様直々に言われてそれを受諾した。


 途中迄は何事も無かったのだ。途中迄は。

 [事]が起きたのは休憩時。

 貴族様から目を離さないように気にしつつも、【リリエル】全員で戯れているとソイツらがこちらへとやって来た。

 【レッドサーペント】は男性1人に女性3人のメンバー。

 まぁ、男性にとってハーレムというやつ。

 男性はリーダーで私達【リリエル】にこんなことを言って抜かしたのだ。


「やぁ、初めまして。俺の名前はドゥートって言うんだ。よろしくね」


 初めはそのドゥートとかいう奴が何をしに来たのか分からなかった。

 だから私達はソイツのことを警戒しまくっていた。

 なんとなく予感もあったのだ。

 

 案の定だった。


 ソイツは"ふわぁさ"っていう音がする感じで前髪をナルシストの如く掻き分けた後、私達に抱き着いてこようとした。


「女性同士の恋愛なんて不健全だよ。俺が男の良さを教えてあげよう」


 言うことも言うことだけど、見た目も見た目。

 ハンターにしては物凄くチャラい。

 尖った目。金の長い眉毛と睫毛。髪も金髪で長い。

 身に着けている軽鎧も金。もう、何から何迄金。

 太陽の光で眩しいくらいには金。


 後、ハンターってアクセサリーなど付けていたら戦闘時に邪魔になることくらい分かるだろうに、ソイツは"じゃらじゃら"とネックレスやら右手にも左手にも全部の指に金色の指輪を填めていた。


 殴ったり、蹴ったり、というか触れるのも嫌だったから避けた。全力で避けた。

 モーセが海を渡るときに海を左右に割ったように私達【リリエル】は右側に私とアリシアとミーアの3人。左側にカミラとケーレの2人。それぞれ左右に避けた。

 そうなるとソイツが行く先は、運悪く私達の奥にたまたまあったそこそこ深い泥の水溜まりの中。

 これは口にこそ出さなかったけれど、その泥の中から立ち上がってきたソイツを見た時には金色よりもそっちの方が似合ってるってとっても思った。

 それからが最悪だった。


「折角ドゥートが貴女達のこともハーレムに加えてくれるって言ってくれたのに! 何のつもりよ。その態度」


 ドゥートとかいう奴のハーレムメンバーに口汚く"ぎゃあぎゃあ"と罵られること罵られること。

 主にターゲットにされたのは私だった。

 私って【リリエル】のメンバーの中で1番弱く見えるんだろうか?

 ケーレは今でこそ【リリエル】に欠かせない大切なメンバーだけど、私達が学園に通い始めた当初、狙いを定めたのは私だった。

 アリシアだって当時の彼女から見たらノマエルフだ。

 だのに狙われたのは私だけ。やっぱり【リリエル】の中で私は一番弱く見えるのだろう。

 事実、魔法が使えないと私は弱い。ケーレから弓の手解きして貰ったから今は前よりは戦えるけど、物理だけだと最弱であることは否めない。

 でも魔法ありとなると……。


 逆に【リリエル】で一番強いのは私だ。


「ちょっと! 聞いてるの!」


 そう言ってハーレムメンバーのうちの1人が私の肩を掴んだ時、珍しく誰よりも先にアリシアがキレた。


「その手を離しなさい」


 私の肩を掴んでいるメンバーの手をアリシアが掴む。

 身体から発せられているのは怒りの雰囲気(オーラ)魔力(マナ)


「はぁ! あんた何様のつも「黙れ」」

「人の言葉をさえぎ「黙れと言った」」


 アリシアらしくない言葉使い。

 他人が話をしている途中に口を挟むのも珍しい。


 以降はドゥートとかいう奴を置いてけぼりにして各ハンターメンバー・女性陣で大喧嘩になった。

 流石に武器を使うとか、魔法を使うとかはなかったけど、互いに互いを口で罵り合った。


 貴族様を"オロオロ"させてしまったのは申し訳ないと思う。

 しかし、もう歯止めが利かなかった。

 

 結局私達は、王都に着く迄醜く言い争った。

 王都到着後。

 何の弾みか。最後に言われたことがキツかった。


「キモいんだよ。あんたなんか生まれて来なければよかったのに」


 それは地球にいた頃に私を虐めていた奴らに散々言われた言葉。

 私はそれを聞いてから黙り込んでしまい、私に完全勝利をしたと思ったらしい【レッドサーペント】のメンバー達は"ふんっ"と得意げに鼻を鳴らしながら去っていった。

「ふざけないでください!」


 ルージェン王国王都フィエリア・ハンターギルド本部。

 私は荒れていた。木造りのカップの中身はオレンジジュースなのに、まるでお酒を飲んで酔っているかのように荒れに荒れていた。

 

 触らぬ神に祟りなし。


 王都のハンター達は全員が私達【リリエル】を遠巻きにするように距離を開け、依頼を見たり、お酒を飲んだり、食事を摂ったりしている。

 

「私のことなんて全然知らない癖に。私がどれだけ頑張って生きてきたか知らない癖に。この世界は私を受け入れてくれたと信じてたのに。嫌いです。元の世界も、この世界も、大嫌いです」


 脳内に蘇る嫌な思い出。

 折角忘れてたのに思い出してしまった。

 腸が煮えくり返ると共に苦しくなり、切なくなり、哀しくもなる。


「私はただ、居場所が欲しいだけなのに……。忘れてたのに……」


 目尻から自然と溢れ出す涙。

 この世界は。この世界ティロットは私を受け入れてくれたと思った。

 そうじゃなかったんだろうか。私の都合のいい思い込みだったんだろうか。


「ひっく……。うぐっ……うぁぁぁぁっ」


 涙が溢れて止まらない。止められない。

 

 ハンターが泣くのは格好悪い。情けない。

 

 早く泣き止まないといけない。

 服の袖で涙を拭う。残念ながら意味がない。

 ただただ、袖を濡らすばかりに終わってしまう。


 項垂れる私。私の身体の癖に私の言うことを聞いてくれないのか。

 あははっ。情けないなぁ。みっともないなぁ。ダメダメだ。私。


「私は……、私は生まれて来ない方がよかったのでしょうか」

「そんなことないわ!!」

「そうだよ。そんなことないよーっ。リーネ」

「うちもそう思うよ。リーネが生まれて来なければかったなんて絶対に無い!」

「ああ、それは無い。絶対に無い」


 私の近くにいつつ、今は"そっ"としておいた方が良いと思っていたのだろう。

 アリシア達【リリエル】メンバー。

 私がそれを言った途端に皆が一斉に私に抱き着いてきた。

 

「貴女は生まれて来るべきだった人よ! あんな人達の言葉に騙されちゃダメ」

「リーネ。1人じゃないよー」

「うち達がいる。それにロマーナ地方の人達だってリーネのこと好きでいてくれているよ」

「リーネは自分が思ってるより、色んな人から愛されてるぞ。嘘じゃない」

「アリシア、ミーア、ケーレ、カミラ……」


 皆の温もりが私の心を落ち着かせてくれる。

 開いた傷がまた閉じられようとしている。癒されていく。


「ありがとう……、ございます」


 やっと涙も引っ込んできた。

 顔を上げて、【リリエル】の皆を見ながら少しぎこちないのない笑みを向けると皆は優しい笑みでそれに応えてくれる。


 私は1人じゃない。皆がいる。

 アリシア、ミーア、ケーレ、カミラ。

 ヒカリお姉ちゃん、シエンナ様、ラピス様。


 ロマーナ地方の人々。ラナの村の皆。


 色んな人達の顔を思い浮かべていたら、無性に帰りたくなって来た。

 

「ロマーナに……」


「帰りましょう」私がそう言葉を続けようとしたら、王都に邪族襲来の警報が鳴り響いた。

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