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-閑話1- ラナの村の仕立て屋さん。

最初はリーネの一人称。

途中から三人称に変わります。

 文化祭が終わってから数日後。

 私はなんだか、これ迄と周りの雰囲気が多少変わったように感じていた。

 それというのも、ここ迄【リリエル】への視線は[崇拝]と多少の[畏怖]との2つに分かれてた。

 それが近頃は皆が[温柔]で、[良い百合]というのも少々変だけど、【リリエル】はそういう風に見られているような気がする。

 特に私は皆の前で[狂気]を撒き散らして、ケーレをこれ以上ないくらいに惨めに叩きのめした過去があるだけあり、あまり近寄ったらダメな人って感じだったのに、休憩時間中に主にクラスメイトからたまにお菓子なんかを貰うようになった。

 

 餌付けされてるような気がするのは気のせいかな?


 まぁ、私にはアリシアとミーアという、私のことを心から愛してくれている女性(ひと)がいるのはクラスメイトは勿論のこと、学園のほぼ全員が知っていること。

 なので妻から私を奪うような真似をするつもりはないんだと思う。

 そんなことをしたら、自分達の[生命(いのち)]に関わるリスクがあることは本能で多分、感じ取っていると思うから。

 じゃあどうしてそんなことになってるのか?


 自分で言うのもなんだけど、マスコット的な存在になっているのかなって。

 【リリエル】の中では私が一番身長が低い。

 具体的に言うと、私が152cmでアリシアが156cm、ミーアが158cmでケーレが157cm。で、カミラが女性にしては高い方の167cm。

 その為に私がマスコットなら、カミラは「麗しの戦姫」なんて陰で言われてる。

 カミラは顔立ちもいいし、実際にかなり強いしね。そんな彼女だから、学園の皆から称え言われるのは私にも分かる。

 これが地球の女子校だったりしたら、「王子様」になるのだろうけれど、この国では女性と女性が恋愛し、結婚をするのがある種、常識とされている国だ。

 一婦多妻も普通に認められている。

 そんな国だから、カミラが「王子様」になることは断じてない。


「ん~~~っ!」


 授業と授業の合間の休憩時間。

 右の手と左の手。絡ませて空中に上げて"ぐぐ~っ"と背伸びをしていたら、私の隣の席の子が私に話し掛けてきた。

 かつてケーレと揉め事を起こし、その後ケーレに助けられた子。


「あ、あのリーネさん。今ちょっといいかな?」


 などと言いながら私にイチゴ味の飴玉を渡してくるその子。

 私に話し掛ける時は何かお菓子を渡すことが自分の規則(マイ・ルール)にでもなってるのかな。

 この子は私にこうして会話を振ってくる時は必ず飴なりチョコなりクッキーなりを渡してくる。


「別に私にお菓子を渡す必要はないんですよ?」


 と言ったこともあるけど、私の顔を見ていると、その子的になんだか私にお菓子をあげたくなるのだそうだ。


 小動物かゆるキャラ認定されてるなぁ……。


 とか思いつつも、くれるというものを断るのも失礼な気がするので、ちゃっかり貰う私。

 飴を包んでいる袋を剥いで、それによって中身が分るようになった一口サイズの飴を口に含むと、その子は愛らしい生物(いきもの)を見ているような目で私を見ながら会話を続けてきた。


「あ、あのね。私、この学園を卒業したらラナの村の仕立て屋さんにお世話になることになってるんだけど……。というか、リーネさんが紹介してくれたから知ってるよね」

「そうですね。もしかして不安になってるとかですか?」

「そう。そうなの! 私なんかで大丈夫かなって」


 私はその子・ニアの顔を見ながら頬の筋肉を緩ませる。

 ニアの仕立ての腕は今の段階でプロ並みだ。

 その筋の教師でさえも舌を巻く物を縫い上げることができる程の人物。

 そんな人物が何を不安になる必要があるのだろうか。

 不安になるどころか、寧ろ自分のことを誇ったっていいと思う。


 この子なら、ニアなら現在のラナの村の仕立て屋の店長の座を取って代わることもできるんじゃないかな。今のラナの村の仕立て屋の店長が縫い上げる物も悪くはない。悪くはないが、なんというか、とっても普通だ。

 私から見たら、ニアの方が今の店長の腕よりも数段(まさ)っていると思う。


 ということで、今、ここでニアにその旨を伝える。

 

「貴女の仕立ての腕はこの[学園]の誰よりも。いえ、この[地方]の誰よりも優れていますよ。ですから絶対に貴女は成功します。なんなら私個人の名だけではなく、【リリエル】の名称においても保証しましょう。ニアはとても素晴らしい仕立ての腕の持ち主です。自信を持ってください」


 ここ迄言うと、流石にニアも少し自信が出てきたらしい。


「そ、そうかな。そこ迄言って貰えるなら頑張ってみようかな!! リーネさんに相談して良かった。聞いてくれてありがとう」

「いえいえ。どう致しまして。その代わり。……というのもなんですが、ラナの村の服の売り上げに貢献してくださいね。期待していますよ」

「う……。頑張る」


 それは半分冗談で、半分本気だった。

 休憩時間が終わり、別の授業が始まる。都合よく仕立ての授業。

 その時にふとニアの顔を見ると、彼女の顔は不安なんて何処かへと飛んで行ったみたいで、希望に満ちた目をしていた。

 

 これでもう大丈夫かな。


 私はニアの輝く瞳を見て、自分も授業に集中することにするのだった。

 

**********


 それから数ヶ月後。

 プリエール女子学園を卒業したニアは仕立て屋の従業員。新入社員の1人として働き始めた。

 その際にリーネがニアに直接、【リリエル】のお揃いの制服を仕立てて欲しいと頼み込んだところ、仕立て屋で働くニアにとっては同僚の1人・アラクネーが自身の手から発射させることのできる特殊な糸とプリエール女子学園の制服の元の生地を巧みに利用して、ニアはリーネが期待していた以上の物を作り上げた。


 これによってその腕を店長に買われたニア。

 まだまだ経営に関しては彼女の知識が乏しい為に店長に取って代わるということはなかったが、ただの一従業員という立場から一気に店長助手という座に迄彼女は昇りつめた。


 そこから更に数ヶ月の月日が経過した。

 ニアの腕前は口コミによって巷で評判となり、ラナの村の仕立て屋はまぁまぁの評価から素晴らしすぎるという評価に変わった。


 そうなると当然にロマーナ地方の別の仕立て屋、他の地方の仕立て屋、ついには王都の仕立て屋からも引き抜きの声がニアに掛かるようになった。

 が、ニアはそれらの勧誘のどれにも決して首を縦に振ることはなかった。

 

 ラナの村から離れるつもりはないと―――。


 一度は店長から引き抜きの話を受けるのもいいんじゃないかと勧められたこともあった。

 あったが、ニアは勧めを丁重に断った。自分の為を思い言ってくれている店長には申し訳ないなぁと心中で思いながら。


 実際のところ、引き抜きを受けたらラナの村よりも優れた機器が設置された場所が提供されることになるし、給金だって今よりも上がるだろう。

 しかしながら、ニアは絶対の絶対の絶対にこの村から離れるつもりは無い。


 何故なら……。


 【リリエル】の傷付いた制服を仕立て直しながらニアは軽く微笑む。


「この役を誰かに渡すなんて絶対に嫌だし、この村にいれば【リリエル】の皆さんのことを必ず見掛けることができるもの。【リリエル】の皆さんが帰る場所はここだから。だから私はこの村から離れたくない。それに……」


 ニアは【リリエル】の皆の他に、とある1人の女性の顔を思い浮かべる。

 思い浮かべた女性はアリシアから紹介された女性。

 元はアリシアと同じやんごとなきご身分の女性で今はアリシアと同じく平民。

 錬金術師としてこの村で働いている女性。

 治癒魔法というものがあるこの世界。しかし、魔力を持たない者。いや、魔力を持っていても枯れてしまっては意味がない。そこで活躍するのが体力・魔力を回復させる為のポーション。

 戦闘を生業としている者達にとって必要不可欠な物。

 【リリエル】もハンター活動の際はそれを活用している。


 女性はそれ迄はただただ苦い草の味だったポーション。

 ハンター達が嫌々飲んでいた物。嫌々を無くそうと試行錯誤を繰り返し、何度も失敗を重ねながら、ついに美味しい味の物に変えることに成功した。

 体力回復ポーションはぶどうジュースのような味。

 魔力回復ポーションはみかんジュースのような味。

 現在のところ、それらは彼女にしか作れない物。

 レシピは彼女が公開しているので誰にでも作れるのだが、何故か彼女以外が作ると、味は同じ物になるが、効果が著しく下がるのだ。理由は不明。そのせいで彼女の作ったポーションは店頭に並べるとすぐに売り切れる様となっている。


 ニアが仕立てる服も似たような感じだ。

 特に下着類が評判がいい。

 男性用の下着類はこの国の他の地方・他の国のものとそんなに変わりがないが、女性用の下着類は下手をすれば西暦2020年代の地球の各国で作られている物よりも質が良いかもしれない。なのでこぞって女性達がそれを求めて買いに来る。全てのサイズが売り切れになることも稀にある。今日もそうだった。


 ニアは仕立て終わった【リリエル】の制服を"うんうん"と頷きながら見つめる。

 渡された時には"ボロボロ"になっていたけど、今はこの制服は新品と言われても誰もがそれを疑うことは無いだろう。


 いつかにリーネが言っていたこと。

 それをニアはちょっぴり恥ずかし気にしながら実行してみる。


 【リリエル】の制服を見ながら一言。


「流石私。完璧な出来!!」


 従業員はもう今日は皆帰った後なので、そんなことをしていてもニア1人だけが恥ずかしい思いをするだけで終わる。……その筈だった。


 ところが"くすくすっ"と背後から聞こえてくる笑い声。

 ニアが慌てて振り返ると、そこにはアリシアから紹介されたニアの想い人の姿。


「い、いつからそこに?」


 顔を真っ赤にしながら想い人の女性。名をソフィアという。に尋ねるニア。

 問われたソフィアは「結構最初からかな」と答えてニアのことを抱き締める。


 彼女の耳元で囁くは愛の言葉。


「可愛かったわ。ニア。大好きよ」


 ニアとソフィアはもう何度もデートしている。

 なんならキスだって済ませているし、その先も……。


「ニア。【リリエル】のリーネさんから聞いたのだけれど、今日はね、異世界ではクリスマスイヴっていう日なんですって。国によってその日の過ごし方は変わるとリーネさんは言っていたわ。でね、彼女の出身国の場合は恋人同士がお互いの愛を深め合う日なんだそうよ」

「そ、そうなんだ!?」

「ええ。だからニア」

「なぁに? ソフィア」


 ソフィアは"そっ"とニアの首に隷属の首輪を填める。

 いつ頃からだろうか? パートナーに首輪を填める行為が、首輪自体が婚約の証となったのは。

 そうされるのを感じて驚いた顔になるニア。


「わたくしと結婚してください。ニア」

「ソフィア……」


 ニアがソフィアの胸の中に飛び込んでいく。

 彼女達はこの日、改めて生涯の愛を誓いあい、愛を深め合った。


**********


 後日談。

 ラナの村の人々は勿論のこと、ロマーナ地方の人々から祝福を受けながら結婚式を挙げたニアとソフィア。

 今はニアはお世話になった店長の元を離れ、ソフィアの錬金術師店の向かい側に自分の店を造ってそこで店長として働いている。

 両方の店が連日大盛況。2人は相変わらず大忙し。


 そんな中、ニアの店の扉が開き、"カランカラン"と扉に取り付けられたベルの音がする。

 ベルの音を聴いて、「いらっしゃいませ」と頭を下げて丁寧に挨拶をするニア。

 見本のようなお辞儀と挨拶。笑顔も眩しい。お金では買えないモノ。

 ニアの店を人気にするのに一役買っている。本人は無自覚だが。

 彼女の接客を受けて薄く微笑む客。 


「忙しいのにごめんなさい。また仕立て直しをお願いできますか?」


 扉のベルを鳴らした客は【リリエル】のリーダーのリーネ。

 ニアは2つ返事で「お任せください」と言って彼女達の制服を受け取る。

 店長となった今も【リリエル】の制服の仕立て直しはニアが受け持っている。

 これだけは断固として誰にも明け渡すつもりは無い。

 例え、自分の店の従業員であっても。


 口元を緩ませるニア。ポケットを探り、そこから取り出すのはレモン味の飴。

 それをリーネに渡すと苦笑いしながらも受け取るリーネ。


「ありがとうございます」

「いえいえ。リーネさんが変わってなくて嬉しいです」

「……ニアさんは私をどう見てるんですか」

「そうですね。可愛い生物(いきもの)なのは間違いないですね」

「はぁ……っ」


 ため息を吐くリーネ。


「まぁ。いいですけどね」


 そう言った後、リーネはニアに「いつも迷惑をかけてしまってすみません。私達も制服を傷つけたくはないのですが、相手が相手の場合はどうしても傷つけることになってしまいまして」と頭を下げる。


 それを受け、「いいえ。全然平気です。今回も完璧に仕立て直して見せますよ!」と胸を張るニア。

 そこにはもう、自信が無かった頃のニアはいない。


 リーネはニアにお金を前払いし、「お願いしますね」と伝えて店を後にした。

 一方、ニアは傷付いた【リリエル】の制服を手に持ち、不敵なる笑みをその顔に浮かべるのだった。



 今回も【リリエル】の皆さんを驚愕させて見せましょう。

 新品同様に仕立てあげますよ。

 


 夜。ニアは自分のことを傍で見守ってくれるソフィアに時々キスなんかを強請りながら、一晩で【リリエル】の傷付いた制服を本気で新品同様に仕立て直した。


「相変わらず凄いわね。ニアは」

「ねぇ、ソフィア。リーネさんにあげるお菓子。今度は何がいいかな?」


 それを聞いてソフィアは笑ってしまった。

 リーネが仕立て直された制服を受け取りに来る時、ニアからまたしてもお菓子が渡されるところを想像して。


**********


 その頃、リーネは何度か咳をしていた。


「リーネ、もしかして風邪ー?」

「え? 平気なの? リーネ」

「いえ。これは風邪ではなく誰かが……」


 何か良からぬことを言っているんだと思います。

 

 と言おうとしたリーネだったが、彼女の言葉は途中で止められることになった。

 アリシアがリーネの熱を測る為に自分の額をリーネの額に重ねてきたから。


「大変。少し熱があるわ」

「違います。これは違いますから!!」


 リーネの慌てる様子を見て"ニヤニヤ"するミーア。

 彼女の背後から彼女を抱き締め、わざとらしく言う。


「本当だー。ちょっと熱があるみたいだねー」

「ミーア。分かってて言っていますよね」

「看病してあげないと。ねっ、アリシアー」

「そうね。ほら、リーネこっち来て」

「いえ。ですから、これは違……」

「風邪は万病の元だよー。リーネ」

「ミーアーーーーーーーー!!」


 この日、リーネは元気なのになんだか少し恥ずかしい思いをすることになった。

 翌日。2人の誤解を解いたリーネ。全部知ってて、その上で看病が必要だ。

 とか言ったミーアはともかくとして、アリシアに怒られるかもと思って身構えていたリーネだったが、「そうだったのね。良かったわ」とアリシアに伝えられて、抱き締められることになった。

 愛されてるなぁ、私。予想外の結果にリーネは幸せを嚙み締めたのだった。


-------

閑話 Fin.

ニアは元々は名前も与えられないモブのうちの1人の予定だったのですが、サブ人物に昇格しました(笑)

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