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-序章- コロッセオでの決闘。

 着いた場所は、地球でいうと古代ローマ時代のコロッセオみたいな所だった。


**********


「ここだ」


 なるほど。確かに[決闘]には相応しい場所だなって目の前に(そび)え立つ建物を見ながらなんとなく頷く。

 ただ、なんと言えばいいのだろうか……。



 そう。物凄く浮いている。



 エルフという存在は私のヲタク知識の中では自然と共にある存在。

 この世界のエルフもそうみたいで、このコロッセオ以外は自然を利用して建てられた建物ばかり。

 言うなればログハウスみたいなのが多い。


 そんな中で堅牢な石造りの立派な建物。

 違和感がありすぎて困る。


「俺がアンリ以外の奴と戦った際に勝者の権利としてソイツに建てさせた代物だ。人間の真似事だがな。だが、なかなかに立派な物だろう」


 コロッセオを見上げながら胸を張ってドヤ顔をするアロガン。

 それを聞いたから私は、改めて何処の世界でも人間はクズだということと、コイツの性格が分かったような気がする。


「貴方、実はこの里のことあまり好きじゃないでしょう? と、いうよりも外の世界に憧れていますよね。それと脳筋。違いますか?」

「脳筋というのは何のことかよく分からんが、確かにこんな堅っ苦しくて狭い場所なんざよりは外の世界に憧れてるのは確かだな。まぁ、なんでか知らんがよく分かったな」


 アロガンは自分のことを言い当てた私に対して少しだけ感心している。

 ……ようだけど、私から言わせて貰えば正直に言って逆に分からない方がどうかしてると思う。

 ううん、エルフ族はその特性から分からないのかもしれないかな。

 だけど転移者やこの世界の他の種族。この世界の他の種族が私のヲタク知識通りの存在であるならば、そんなことはすぐに分かることだろう。


「さて、行くか」


 余裕綽々といった様子でアロガンが悠々とコロッセオの中へと入っていく。

 それを見ていたコロッセオの周りにいたエルフ達も多少騒めきながらアロガンの後に次々と続いて入っていく。


「……アンリ、決闘って人気あるんですか?」


 その様子を見て思わずアンリに尋ねてしまう私。

 アンリからの応えはこうだった。


「ここは娯楽が少ないから」


 合点がいった。

 これは私の憶測だけど、恐らくは古代ローマの人々もそうだったのだろう。

 地球の、西暦2020年代に生きる人々。特に先進国と呼ばれる国に住む人々にとってはそれは[残酷]で[残虐]で[何が面白いのか意味不明]なものとして捉える人々が多いと思う。

 しかし当時は[命]はとても軽くて、そして安いものだったのだ。

 故にこういう決闘や公開処刑なども[娯楽]として楽しめたのだろうとそう思う。


 まぁ、……うん。


 ため息を1つ吐いた後、私もコロッセオの中へと入場する。

 と、中央には決闘者の為の石造りで円状の決闘場が設置されている。

 その周りには段々となった、これまた石造りの見物客用の席。

 一番上にそれなりに煌びやかな席が用意されていて、そこにはエルフ達の中でも権力の高い者が座るよう。

 あとは早い者勝ちらしい。

 席はあっという間に客で満員。


 私は『こんなにもエルフっていたのか』。


 って思いながらそれを見て、私が感じていた通り、一番上の席に座して心配気にこちらを見ているアンリを見つけて微笑みながら軽く手を振って見せた。


 こんな時に何を―――。


 とアンリは内心は思ったことだろう。

 でも無理に笑みを作り、彼女は私に手を振り返してくれた。


「ん~~っ」


 それを見て少し安心した私はアロガンの前で伸びをする。

 大袈裟だけど、血行が良くなって全身に血が巡っていったような感じがする。

 アロガンはそんな私の目の前で呆れを隠しもせずに顔を歪ませている。


「お前、今の自分の立場分かってるのか?」


 と聞かれてたので即座にその質問に私は応える。


「分かってますよ。貴方に手足を奪われるかもしれないんですよね?」

「良く分かってるじゃねぇか。覚悟はできてるって事かよ」


 こういうのを悪魔的な微笑み。と言うのだろうか。

 冷笑をその瞳に浮かばせながら、アロガンは腰に差していた剣を抜く。

 彼は二刀流の剣士らしい。片方は見た目70cm程だろうか? 長くて、もう片方は40cm程で短い。


 アロガンが剣を抜き終わるとコロッセオの喧騒が高まる。


「おいおい。アロガンの奴。子供の女の子相手に本気かよ」


 子供。私は地球で暮らしていた頃、中学3年生で14歳だった。

 この世界のエルフの寿命がどれくらいか知らないし、いつから成人となるのかも知らないけれど、少なくとも14歳という年齢は確かに子供の年齢に当たるだろう。


 そんな騒めきなんて何処吹く風。

 アロガンが私に問うてくる。


「お前の得物は?」

「私は……」


 アロガンに問われて空中から出現させる杖。

 長い棒のやつじゃなくて、短い棒のやつ。

 ちなみにこれは魔鉱石(まこうせき)ことミスリルでできている。

 ファンタジーでは定番の数ある金属の中で最も魔法と相性が良いとされる金属。


「ほお。お前は完全魔法型ってやつか」

「まぁ、似たようなものですね。で? いつ始まるんです?」

「すぐだ」


 アロガンが言ったと同時に決闘場の管理者らしきエルフが会場に備え付けられている銅鑼(ドラ)を桴で叩き、その音を鳴り響かせる。

 どうやらそれが決闘開始の合図らしい。


「オラッ。さっさとくたばれや!!」


 私に魔法を使わせる前に勝負を決めようと思ったのか。

 それとも単純に猪突猛進なだけなのか。

 多分後者だろう。アロガンが私に剣で斬りかかって来る。

 その剣が狙っているのは、私が杖を持っている右腕。

 私はそれを"ひらりっ"と躱す。


「ほぉ。今のをよく躱したな。が、次はない」


 アロガンの猛攻が始める。

 だけど全部見切って私は紙一重で躱して見せる。

 この世界に来た時に感じた通り。

 っていうか、やっぱりリーネ。今の私はあのゲームのキャラクターそのままだ。


 キャラメイク以外はクソゲー オブ クソゲー。

 運営は頭がおかしいと言わしめたあのゲーム。

 実際ストーリーが薄いのは先に触れた通りで、更に強キャラが異常な程に作りやすかった。


 リーネはMagic Point(魔力)、Magic power(魔法攻撃力)、Intelligence(知力)、Agility(素早さ)、Dexterity(器用さ)に特化したキャラクター。レベルもカンストを済ませている。

 この世界にそういったステータスのようなものが無いことは、この世界へ転移してきた時に頭の中に流れ込んできた情報によって知っている。それと私に(かな)うのはドラゴンとか、なんか一部のスライムくらい? ということも学び終えている。

 要するに他の者はそう簡単に私を倒すことはできないということ。


 ただ、そんな私でも弱点がある。

 魔法と素早さに特化しているが為に体力はないし、防御力は紙。一撃を受けたらあっさりと瀕死となる。

 長期決戦には向いてない。短期決戦型のキャラクター。

 それが私。リーネ。私は全部が強いよりも、何処かに弱点があるキャラクターの方が好きなのだ。


 今は軽々アロガンの剣を見切っているけど、このまま戦闘が長期化すれば、私はアロガンの思うがままにされて先の宣言通りに手足を失うことになるだろう。

 その前にケリをつけなくてはならない。


「このっ! 避けてんじゃねぇぞ」

「避けないと手足を失うじゃないですか!! 冗談じゃないですよ」


 そんな軽口を叩きながら脳内でこれから使う魔法をイメージをする。

 [風]の魔法。実は現在も使っているから剣の風圧で身体が紙みたいに動いて剣を避けられている訳だけど、その一部を攻撃に回すことにする。


 まずは自分に強い風圧を中てる。

 それによりアロガンから充分に離れたところで生まれるのはアロガンの隙。

 剣はここ迄は届かない。私は杖に魔力を込めてそれをアロガンの額めがけて解き放つ。


魔力の銃弾(マナショット)


 所謂空気銃。

 その気になれば、頭を前から後ろ迄空気で貫通させることも可能だけど、今回は気絶する程度の弱さに留める。

 と言っても、力の加減がいまいち分からなかったから、私が虐めで相手に暴力を振るわれていた時の2~3倍程度の威力にした。

 女性より男性は強いし、それにこの世界は魔物がいる世界。

 なのでこの程度で死ぬことはないだろうと思う。多分。


 そう思っていたら、アロガンは私が予想していたよりも頑丈だったようで、額に手を当てながらもこちらを睨んできた。


「やってくれるじゃないか」


 すぐさま反撃に移ろうとするアロガン。

 それよりも攻撃は私の方が早い。


「どうやら貴方を甘く見ていたようですね。それなら……」


 私の周りに浮かべる複数の空気の球体。

 見た目はシャボン玉だけど、これはそんなに可愛いものでは決してない。


魔力の散弾(マナパレット)


 アロガンの身体に容赦なく次々当たる空気の弾丸。


「がっ!!! うがっっっっ!! ぐっっっっっっっっ!!!」


 流石にこれにはアロガンも耐えられなかったらしい。

 その腹に重圧な空気の弾丸が命中した時、彼は白目を向いて石造りの決闘場に倒れ込んだ。

 静まり返る会場。

 数秒して音がそこに戻ってくる。



"うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ"



「あの子何者だ。あのアロガンに勝つなんてよ」

「凄い! 凄い凄い凄い」


 私を称える多くの声。

 私はそれを聞き流しながらアンリに拳を突き上げて見せた。

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