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-閑話1- ミーアの初歩 その01。

 プリエール女子学園を卒業し、【リリエル】専用の制服が完成しての数日後。

 日付けが変わるよりも前から草木も眠る丑三つ時を幾らか過ぎるくらい迄の時をリーネと愛し合ったミーアは、疲れ果てて先に眠ってしまった愛しい女性(ひと)の寝顔を優しい笑顔で眺めながら、今からは少し遠い過去のことを思い出していた。


 思えばリーネとはそれなりに長い付き合いだ。

 ユーザーの大多数からクソゲーと本気で言わしめるゲームができた頃。お互いにまだ小学校の高学年だった。

 素晴らしいキャラメイク。だけど中身はスッカスカ。ミーアは自身のキャラだけ作り上げて、後は気が向いたら適当に遊ぼうという程度に思っていたが、ある時にそのゲーム内で出会ったのがリーネだった。

 彼女とは気が合った。育ってきた環境が似ていた為だろう。


 以来、ミーアはリーネと某SNSのアカウントを交換し合い、連絡を取り合って、彼女がクソゲーにログインする時は自分もログインするようにした。

 時に一緒に狩りを行い、時に自分達の環境のことについて話し合う。

 ミーアは両親から躾と称して虐待を受けるような環境の中で育ってきた子だったが、そんな有様の状況下にあるミーアから聞いても、リーネの方は自分よりもある意味でもっと酷い環境で育ってきた子で、怒りが湧き、一度は自分の部屋の壁を心のままに全力で殴りつけた。

 そのせいで後から両親から酷い目に遭わされてしまったが……。


 やがて小学生から中学生に2人はなった。

 その頃でも変わらずに続いていた親交。

 不思議なものだ。お互いにお互いの本名も住所も知らない。

 それでも限りなく[親友]に近い[友達]となれたのだから。


「んっ」


 リーネが仰向けだった恰好から"ごろり"と横きの姿勢となる。

 それから何やら手探りを始めて、目的のモノが見つからなかったのか? ちょっと悲しそうな顔に変わったので、ミーアは自身の身体をリーネに寄せて、彼女のことを抱き締めた。

 途端に横向きになる前と同じように"ぐっすり"と眠り始めた愛しい女性(ひと)


「か、可愛すぎるよー」


 ミーアはリーネの可愛さにこの女性(ひと)の[妻]となれて幸せだと感じる。

 だってそうじゃないか。可愛いにも程がある。


「けど、あの時は本当に焦ったなー」


 ミーアは再び思い出す。過去のことを。

 リーネのSNSのアカウントの内容がそれ迄とは全く異なったモノとなり、彼女はクソゲーにログインさえしなくなった。

 風の便りでリーネらしき人物が犯罪を犯して逮捕されたと聞いた時には自分の耳を疑った。

 リーネはそんなことをするような子じゃない。

 それは他ならぬミーアがよく知っていることだったから。

 リーネは優しくて、それで何処か1つ抜けているところがあって、クラスメイトから虐めを受けながらも強い芯を持っていて、それを誇りにすることで心から虐めに屈するようなことは無い女の子。

 後、生粋の人間嫌い。

 

 ミーアは先のようにリーネの本名などは知らない。

 知っているのは、ゲームのキャラクターの名前とSNSの仮初の名前。

 なので、そのような風の便りは別人のことだと信じようとした。

 したのに、ダメだった。ある時から180度変わったリーネのSNSへの投稿の内容と風の便りの内容が"ぴったり"と一致してしまっていたからだ。


「貴女は……誰?」


 学校から帰って来て、スマホで見たその内容。

 スマホにそんなことを問うた瞬間、ミーアの足元に青白く輝く光で描いた魔法陣が浮かび上がった。


「何ー!?」


 叫び終わると、そこはもう異世界。

 ミーアは呆然とし、「もしかして夢でも見てるのかな?」と独り言を言って自分の頬を抓ってみたら、痛かった。痛すぎにも程があった。まるでクソゲーのミーアを現実の[人]にしたらこれくらいの痛みを伴わせることになるんじゃないかなって思うくらいに痛かった。


「どうなってるのー?」


 次にミーアが上げてしまったのは悲鳴にも似た声。

 特に何かをしようと思ったわけではないが、何気なく横に身体を向けて、そこに映ったモノにミーアは心底驚くことになった。

 そこはとある商店街のショーウィンドー。映っている姿は狼の獣人。


「え? ミーア?」


 それが今の自分の姿だと認識する迄に少しだけ時間が掛かった。

 確かめる為に何度か首を振ってみたり、手足を動かしてみたりして、それが自分と同じように動くとミーアはもう、それが自分だと受け入れざるを得なかった。


 これって異世界転移ってやつだよねー?


 ミーアもリーネと同じだ。現実逃避する為に三次元から二次元へと逃げていた。

 そのお陰で一度受け入れたら後はもう早かった。

 やるべきことは決まっている。まずはこの世界のお金を手に入れることだ。

 ミーアは自分が着ている私服を仕立て屋に売ることにし、等価交換でしっかりとこの世界のお金を手に入れた。

 

「よし! これでお金は手に入れた。問題はー」


 お金の価値が分からないことだ。

 手にしたのは金貨1枚。それでこの世界の服を買って、残りが銀貨8枚。

 それが西暦2020年代の日本のお金の価値に直すと、どれくらいの金額になるのか全く以って分からない。


 ミーアは暫く悩み、まぁいいかと開き直った。


 なんとかなる。の精神でミーアが目指して歩きだしたのは、こういう場合に定番の冒険者ギルド 或いは ハンターギルド。のどちらかの名称で呼ばれている所。

 場所が分からないので道行く人に方向を尋ね、ミーアは10分くらい歩いて無事にそこに辿り着いた。

 この世界ではハンターギルドがその名称のようだった。

 扉を開き、ハンター登録しようと受付嬢さんの所へと行こうとすると、フラグが仕事をしたようで変なハンターに絡まれた。


 例えるならノーザンスターゲイザー。

 ミーアは少しばかり"じっ"とその顔を見つめてしまった。

 

 人間……だよね?

 それとも、こういう世界だし、そういった種族がいるのかな?

 さっき町を歩いただけでも色んな種族がいたし。


 ミーアは物珍しく感じて見ていただけだが、どうやらそのハンターにはミーアが自分を見てドン引きしているように思ったらしい。

 突然狂ったように雄叫びを上げて、ノーザンスターゲイザーは自分の得物である巨大な斧をミーアの頭上へと振り上げた


「てめぇ。今、俺の顔を見て笑っただろ!! 死ねやーー」


 いつ笑ったんだろう? ミーアは少しも笑ってなどいない。

 

 しかしこれをまともに受けたら死ぬなー。


 とミーアは後数秒もすれば自分の頭上へと落ちてくるであろう斧を"ぼんやり"と眺めながらそんなことを考えた。

 騒ぎになるハンターギルド。

 ギルド内で死者が出るなど、ギルド側としては堪ったものではないからだろう。

 しかも現役のハンターと今はまだ一般人のミーアとの争いで。


 地球にいた頃のミーアであれば、怯え切ってて今頃はノーザンスターゲイザーに殺されていたであろうことは必至。なのにこちらの世界に来てからは、どうも神経が図太くなっているというのか、それこそあのクソゲー内にてRP(ロールプレイ)をしていた時のミーアそのものの精神となっている。


 ミーアは"ニヤっ"と笑い、その斧を片手で受け止めた。

 それだけでは済まさず、その斧を受け止めた手に握力を込めて斧を破壊した。

 これがもしもアダマンタイト製・オリハルコン製の斧であれば、()()()()ミーアなら破壊することは不可能だっただろう。


 しかし、この斧はアイアン製品。Strength(力)が最大値なミーアは容易にそれを破壊した。

 それも、ただ破壊するのではなくて粉々に砕け散らせた。


 ミーアには魔力は全然無い。なのでリーネのように魔力を身体に纏わせて相手を威圧するような芸当はできない。できないが、その代わりに殺気を身体に纏わせて威圧することはできる。

 ノーザンスターゲイザーを睨みつけ、言葉を紡ぐミーア。


「死にたくなければ、さっさと失せろー!!」


 と言われても、ノーザンスターゲイザーはミーアの殺気に中てられて地面に尻餅をついてしまっている。

 立つことすらできないようで、後ずさるのが精一杯。下半身からは湯気に液体。


 ハンターってこんなものなの?


 それを見て、ため息を吐くミーア。

 一気に気持ちが萎えた。ここでハンター登録をしようと思っていたが、別の場所ですることにした。

"くるり"と背を向けてハンターギルド内から出ていこうとするミーアに受付嬢さんから声が掛かる。


「お、お待ちください。あの、勘違いでなければ貴女様がこちらに来られた目的は、こちらでハンター登録をする為ですよね?」


 ミーアの強さと素質を見て、質問を投げ掛けた受付嬢さんは彼女のことをここで逃したくなかったのだろう。

 ミーアはハンター登録をすれば確実に即戦力となる逸材。戦闘を生業とする者達ならば誰もが欲しがるであろう人材。

 ミーアは背を向けたまま、手を"ひらひら"と振って受付嬢さんの質問に答えた。

 

「そのつもりだったけど、萎えたからやめるー。ごめんね」

「そんな! そこの者が貴女様に無礼を働いたことはギルド員一同謝罪を致します。ですので、どうかこちらでハンター登録をお願いします」

「でもさ……」


 ミーアは足を止めて振り返る。

 ハンターギルド内を"ぐるり"と見回して一言。


「この争いを誰も止めなかったよね。一般人に平気で手を上げるハンターがいる所で登録するなんて、ましてやそれを見ていて誰も止めない所でハンター登録をするなんてさ、馬鹿がすることだよねー」


 ミーアは顔に冷笑を浮かべている。


「それは……」


 受付嬢さんが言い訳しようとするが、それをミーアは許さなかった。


「ハンターが一般人を殺してしまった。なんてことになっていたらどうするつもりだったのかなー? その事実を隠蔽するつもりだった? ……ここのハンターギルドは前々からそういうことしてたりしてねー」

「そんなことはしていません!」

「どうだかー。どっちにしても、さっきの態度でそういう烙印を押されたんだよ。お前達は!!」


 ミーアは殺気をギルド中に振り撒く。

 もう、誰も彼女に口を開くことはできない。

 それを見たミーアは今度こそ、ここのハンターギルドを後にした。

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