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-二章- プリエール女子学園 その12。

 私達【リリエル】の前に現れたのは、体長5m程度の邪族キマイラだった。


**********


「キマイラですか。この山にそんなのがいるなんて聞いたことありませんけど」


 ソイツを見て、最初に私が言った言葉がそれ。

 この山はゴブリンしかいない筈だ。

 それなのにそんなのがいるだなんて、この山で何かの異変でも起きているのかと思ってしまった。

 とりあえずソイツに魔法を放とうとする私に対して、ケーレがソイツにおかしな箇所があることに気付いたらしく私に言う。


「ねぇ、アイツ」

「どうかしました?」

「見て。アイツ羽が一部破れてる」


 ケーレに言われて私もソイツの羽を見る。

 なるほど。確かに破れてしまっている。

 ……ということは。


「他の[人]か或いは自分よりも格上の[邪族]と争った末に羽を傷つけてしまって、ここに落下してきたということですか」

「そうみたいだね」


 全く。人騒がせな邪族だ。

 まぁ、異変が起きているってわけじゃなくて良かったと言えば良かったけれど、よりにもよって、なんで今日。

 別の日に落下して来て欲しかったと心から思うよ。私は。


 キマイラから注意を逸らさないようにしつつ"ちらっ"と自分達の背後を見る。

 そこには大多数が青い顔となっている生徒達。

 それと私達【リリエル】のことを心配そうに見つめている教師陣。

 絶対に敗北は許されない。もしもここで【リリエル】が敗れたら、最悪の場合は全滅の可能性もある。


"すーっ、はーっ"

 息を整え、私達は駆け出す。

 アリシアがダガーでキマイラの頭のうちの1つを狙うが、キマイラは私達が思っていたよりも動きが速く、自分に向かってきたアリシアに体当たりしようとする。

 それを反射的に察知し、ダガーから魔法を発動。アリシアは自分の身体に中てることでキマイラの行動を回避した。

"ほっ"と彼女が息を吐いたのも束の間。

 キマイラの頭のうちの1つ。口から発せられる炎。

 コイツはどうも特異種らしい。

 普通のキマイラにそのような能力は無い。


「えっ!!」


 今のアリシアは体勢が悪い。

 キマイラが発した炎の対処は間に合わない。


「くっ……」


 それでもアリシアがどうにかしようとダガーを構える。

 と、アリシアの眼前にカミラが立ちはだかった。


「させるかよ!!」


 ハルバードを回転させてその炎を散らすカミラ。

 しかしキマイラの炎はなかなか収まらない。

 カミラはそれでも余裕そうではあるけれど、段々と苛々が募っているのが表情に表れている。


 そんな時に、生徒達から悲鳴が聞こえてきた。


「え?」


 生徒と教師陣の前には私が障壁を張っている。

 だからキマイラが何かしたとしても、彼女達に届くことはない。

 その筈だ。なのにどうして?


 振り向くと、さっき逃げて行ったゴブリン達が戻ってきていた。

 最悪なことに、ゴブリンキングもいる。

 私の障壁は彼女達の前方だけ。背後には何も無い。

 隙を突かれた。


「まさかっ! ですが、やらせませんよっ!」


 私は慌てて彼女達の元へ駆けて行こうとする。

 その私の肩をケーレが掴んだ。


「ここはうちに任せて。リーネはキマイラに集中して」

「……1人で平気ですか?」

「ミーアに散々(しご)かれたからね。全然平気」

「……分かりました。ケーレを信じます」

「うん!」


 私はケーレにゴブリン達のことを頼んでキマイラを睨みつける。

 魔法の構築。完成したそれを未だに炎を吐き続けているソイツの首を目掛け解き放つ。


大海之砲(シーカノン)


 これは水の上級魔法。

 高圧力の水力がキマイラに襲い掛かる。

 それを見たキマイラは一旦炎を吐くのを止め、私の()()()()の場所へと移動してくれた。


「ミーア!」

「分かってるー!!」


 誘導成功。そこで待っていたミーアの拳がキマイラの身体にめり込む。

"ごりっ"という音が私の耳にも聴き取れた。


「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」


 肋骨でも折れたのだろうか。

 苦しむキマイラ。ミーアは容赦などなく次の攻撃を加えようとするが、キマイラはかろうじてそれを避ける。


「反応はいいですね。ですが……」


 キマイラは忘れていることがある。

 それは、カミラとアリシアの2人が自由になっているということだ。

 気が付いてももう遅い。カミラのハルバードがキマイラの3つの頭のうちの1つを叩き斬る。

 アリシアも1つの頭の首をダガーで斬り裂き、キマイラから[赤]を舞い踊らせる。

 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 痛みと苦しみと怒りで吠えるキマイラ。

 尻尾の蛇が2人を狙って何かを吐き出す。咄嗟に避ける2人。

 見ると、蛇が吐きだしたモノは、さっき迄は土だった地面を石と変えていた。


「おいおい。まじかよ」


 カミラが若干ドン引きした声で叫ぶ。

 キマイラはやけくそにでもなったのだろうか。

 蛇が続けざまに石化の毒? を所構わず吐き出す為に【リリエル】の前衛と遊撃手は近付くことができない。


 なら。


 遠距離攻撃が可能な私とアリシアがどうにかするしかない。

 アリシアの周りに渦巻くは風と水の魔力。

 私の周りに渦巻くは雷の魔力。


 2人で同時に魔法を放つ。


凍雹の大嵐(ヘイルテンペスト)

滅亡之雷(フォールライトニング)


 アリシアの魔法がキマイラの身体を包む。

 吹き荒れる嵐。ここからは風が邪魔をして見えないけど、嵐の中では鋭く尖った雹がキマイラの身体を強襲し、傷だらけにしているものと思われる。

 そこに私の魔法。天から降り注ぐ幾筋もの雷。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ」


 キマイラの叫びが聞こえる。

 魔法の効果が終わると、キマイラは満身創痍の状態だった。

 だが、蛇はあの中で生き残っていた。

"ボロボロ"になりながらもキマイラはまたしてもその蛇を活用しようとする。


 が、先程迄とは違って蛇には元気がない。

 なんとか首を擡げることには成功したようだけど、私にとっては良い(まと)だ。


 折角の機会なので、ここで弓を使用することにした。

 ケーレに習った技術と村の鍛冶屋の人が私専用に作ってくれた弓。

 使わないとどちらも錆び付いてしまうからね。

 杖は一旦空中へと消す。代わりに背中に背負っていた弓を手に持ち、矢を番えて弦を引く。

 狙うのは蛇の身体。私は蛇をよく狙って矢を解き放つ。


"びゅん"飛んでいく矢。命中。蛇を矢によって、捥ぎ取ることに成功した。

 それでもまだ蛇は生きている。

 ソイツはキマイラと共に戦おうと再び首を擡げようとしたところをカミラのハルバードがトドメを刺した。


「じゃあな」


 左右に真っ二つになった蛇。

 蛇はそれで動くことはなくなった。



 残りはキマイラ本体。

 弱った獣程、何をしてくるか分からない。

 私達【リリエル】は決して気を抜かないように、ソイツのことを囲んで少しずつ追い詰めようとする。


 

「くくくくっ」


 何故か。ソイツが笑ったような気がした。


 瞬間、闇に包まれるキマイラの身体。

 数秒でそれが収まったかと思うと、そこにいたのはさっき迄と違うキマイラ。

 頭は獅子。身体は筋肉隆々の[人]。


「なっ!」


 私が思わず驚愕の声を上げるのと、人型になったソイツが私の目の前に私が本気で走った時と同じくらいの速度で突っ込んできたのは同時だった。


「げほっ!」


"メリメリ"って自分の身体から嫌な音が聴こえた。

 お腹にソイツの全力の拳を受けたらしい。

 吹き飛ぶ私。背後の自分が張った障壁に背中を強く打ち付ける。


「痛っ……」


 小さく悲鳴。それから重力には逆らえずに落下。

 アリシアとミーアがそれを見て2人揃って悲鳴を上げる。


「「リーネ!!」」


 我を忘れてこちらに駆けて来ようとするアリシア。

 ミーアは割と冷静に状況を見て、この最悪な[事]に対処しようとしている。


「リーネ」


 アリシア。今は来たらダメです……。


 叫ぼうとするが声が出ない。

 アリシアの真横にソイツ。

 このままだとアリシアも私と同じ目に!!!

 目の前が真っ暗になる私。


 そんな光景なんて見たくなくて、つい目を閉じてしまった。


"バキッ"と私の耳に聴こえてくる音。

 続いて"ゴロゴロ"と多分アリシアが地面を転がる音。


 杖を振るい、魔法を自分に使う。


最上級治癒魔法(グレーターヒール)


 なんとか声を振り絞って身体を治癒させる。

 痛みは消えた。後は……。


 恐る恐る目を開けると、そこに転がっていたのはアリシアではなく、元キマイラのソイツだった。

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