-二章- プリエール女子学園 その11。
あっという間に学園最後の学期。3学期がやって来た。
**********
3学期。いよいよシエンナ様からの依頼も終わりの時が近付いてきたそんな頃。
プリエール女子学園では卒業に向けた重大な授業が行われようとしていた。
これが成功に終わるか否かで生徒達の今後が決まると言ってもいい程の授業。
騎士になれるか。衛兵になれるか。ハンターになれるか。
もしくはそのいずれにもなれずに別の道を歩むことになるか。
騎士や衛兵やハンターを養成する学園と銘打っていても、全員が全員そうなれるわけじゃない。
やはり零れ落ちてしまう者も出てきてしまう。
そういった者は、これ迄の授業を真面目に受けていれば学園の卒業は可能だけど、それからは自分に合った仕事を探さなくてはならない。
でも例えば筆記が得意であったならば、何処かの貴族様だとか何らかの組織から文官としてヘッドハンディングされる可能性があるし、学園で行われる授業の中でなんらかの秀でた技術があれば、学園が生徒の持てる技術を活かす為の組織に推薦してくれる可能性もある。
それがダメならいよいよ自分で就職先を見つけないといけないけれど。
何処の世界でもそういったところは世知辛いものなのだ。
その為にこの授業に参加する生徒達の顔は少し硬い。
自分達の将来の展望が決まるのだから、当然だ。
生徒達をここ迄連れて来た教師陣の説明が始まる。
「さて、これから皆さんには邪族狩りをして貰います。皆さんもすでにご存じだとは思いますが、この山・ソンブルグ山には邪族が住み着いていることが確認されています。幾ら山狩りを行っても2~3日もすればいつの間にか邪族達は復活しているという、ここは暗黒の山です。でも安心してください。この山は邪族の中で最弱と言われているゴブリン達しか現れません。皆さんにはそのゴブリンを討伐して貰います。尚、それは2日に渡り実施されます。ですから皆さんには野営ができるように装備を整えてこの山に来て貰ったということです」
今の季節はまだウィンター。しかもファブラ(2月)の上旬。
1年の中でも1・2を争う寒さの時期。そんな中での野営。寒さだけではなくて、邪族もいる。
1歩間違えると[生命]を落とすことは確実。
そうなりたくなければ、自分で[生命]を守らなくてはならない。
最も、本気で生徒達が危なくなれば教師陣が助けに入ることになってはいるようだけど。
「では、皆さん。野営の準備を始めてください」
教師に言われて生徒達がその準備を始める。
やれやれ。やっと楽になれると背中の荷物を地面に置く私。
体力が無い私にはウィンターの中での野営を行う為の荷物を背負い、学園から10km程離れたこの山迄移動。
大いにキツかった。せめて私に地球の物語内でよく見掛ける[アイテムボックス]なるスキルなり、それに似て変わる魔法なりがあれば良かった。
だけど私には残念ながらそんな便利なものは無い。
得物の[杖]だけは空中に仕舞うことができるのだけど……。
"ん~~っ"と背筋を伸ばしてちょっと休憩。
その間に【リリエル】の皆が私の元に集まって来る。
私達は【リリエル】でいつものように野営することが決まっている。
「リーネ、大丈夫?」
「はい、大丈夫ですよ。心配してくれてありがとうございます。アリシア」
「もし辛いなら私達だけでテントを張っても構わないが?」
「だねー。その間リーネは休憩しててくれてもいいよー」
「いえ、そういうわけにはいきませんよ」
どれだけ疲れていたってこれは授業の一環だ。
やるべきことはキチンとやらなければいけない。
疲れた身体に鞭を打って私も野営の準備に取り掛かる。
テントを張って、次は火おこし。
これはまぁ、魔法を使っちゃえばいいので楽。
私がやろうとしたけど、ケーレが「うちに任せて」と言うので彼女に任せることにした。
無事に火がつけば腹ごしらえ。お腹が空いたままだと勝てる筈の戦闘で敗北するという可能性があったりするものねー。
飯盒でご飯を炊いて、その間にオカズ作り。
海鮮類や野菜をまずは包丁で食べやすい大きさに切る。
包丁で………………。
「こんなものかしらね」
食材を宙に放り投げて、ダガーを振るうアリシア。
確かに食べやすい大きさにはなっているけど、なんかこう、凄く何とも言えない気持ちになるのは仕方ないよね。包丁さん、君の出番は無いようですよ。
その後はアルミホイルにその海鮮類と野菜を置いて敷き詰めて、オリーブオイルをかけ、胡椒と塩、白ワインで味を調えたら、さっき起こした焚き火台の火の上に網を敷いてホイル蒸し。
美味しそうな香りが漂ってくる。
これだけだとちょっと寂しいので隣で他のオカズも作る。
お肉焼いて上にチーズ乗っけて胡椒かけるだけの簡単なのだけど。
それと"さっ"と湯通しした野菜サラダ。
これが今夜の私達【リリエル】の夕ご飯。
周りを見ると、皆色んなものを作っているのが目に入る。
この世界には異世界人がいる。
それによって野営品にしても、調理器具にしても、調味料にしても、それっぽいものが各地に広まっている。
それがこの国だけなのか、世界中なのか迄は知らないけれど。
「私達もこの世界に貢献できいてるということですよね」
それを少し嬉しく思いながら皆を眺めていると、私達の料理がどうやらできあがったらしい。
アリシアが私に声を掛けてくる。
「リーネ。そろそろ食べ頃よ。この山はいつ邪族が現れるか分からないわ。食事中に現れる可能性もある。邪魔されないうちに食べちゃいましょう」
「そうですね」
私達【リリエル】はフォークを手に取る。
それでは……。
「「「「「いただきます」」」」」
全員で食前の掛け声。
まずは海鮮のホイル蒸しを食べてみると味がとても染みていて美味しい。
魚の味が繊細で、鮮明に感じられるのは、この世界に転移して来る前迄は日本で生まれた純日本人だったからだろうか。
気になって【リリエル】の他のメンバーに聞いてみると、そうじゃなかった。
この海鮮ホイル蒸しには何種かの魚が使われている。
皆、それぞれの魚の味を楽しんで食べているとのことだった。
ルージェン王国人って日本人に似てるのかもしれない。
あのサマー時の煩い虫の声も「声」として聞こえるって言っていたし……。
確か地球の西洋人の多くは「声」ではなく、「音」として認識してるって聞いたことがあったような、無かったような。
まぁ、いいか。
次はお肉。不味い筈がないよね。
そんなに高級なお肉じゃないけど、普通に美味しい。
上に乗せられたチーズもお肉と仲良しで堪らない。
その合間合間に湯通しした野菜サラダを食べると、口の中の濃さを消してくれて、また美味しくお肉が食べられるのが良い。
私達【リリエル】は大満足の食事を終えた。
ふと見ると、【リリエル】以外の皆も美味しくご飯を食べられたみたいだ。
女性らしい柔らかな笑顔が可愛らしい。
「リーネ」
「むぅっ」
痛いです。アリシアにミーア。違うから。そういう目で見てたんじゃないから。
頬を左右両側から抓るのはやめてください。
私が悪い? はい、ごめんなさい……。
片付けを終えていよいよ邪族討伐時間。
生徒それぞれ得意の得物を持って邪族ゴブリン達を割と余裕で狩っていく。
その様子を見て安堵している教師陣。
生徒達の成長を素直に喜んでいる。
それにしても………………。
なんだろうか。この胸騒ぎは。
杞憂に終わってくれたらいいのだけど、私だけじゃなくて、【リリエル】全員の顔付きから嫌なモノを感じている様子を見て取ってしまうと、このまま何事もなく無事に終わってくれることは無いみたいだ。
急に、ゴブリン達が私達に背を向けて森の奥へと走っていく。
その様子は何かに怯えているかのよう。
嫌な予感が的中した。
山に響く遠吠え。
生徒達がそれを聞いて"びくっ"と身体を固める。
"みしっみしっ"私達の眼前の木々が倒される音。
つまり、ソイツは結構な体躯であるということだ。
生徒達を下がらせる教師陣。私達【リリエル】もそうするように言われたけど、従うことはできない。
学園の教師と生徒の在り方に背くことになるので申し訳ないけど、ソイツの強さは私の第六感的なモノだと、ハンターギルドでランクを付けるのならば、ゴールドからプラチナの間くらいだと思う。
そのランクの邪族と渡り合えるのは、この学園では【リリエル】だけだ。
なのに【リリエル】がここで下がると犠牲者が出てしまうのは必至。
だから教師陣の[命]には従えない。
「何してるの!? 貴女達も早く逃げなさい!」
「申し訳ありませんが、足手纏いなのでそちらが下がっていてください」
空中から杖を取り出して、風の魔法を使用。
強引に教師陣を私達の後ろへと下がらせる。
そこから前には出てこれないように障壁も張る。
これでソイツと戦えるのは私達【リリエル】だけだ。
「さて、どんなのが現れるのでしょうか」
「リーネ、油断しないようにね」
「分かっていますよ」
アリシアと会話しているうちについにソイツが姿を現す。
身体は獅子。でも頭は1つじゃなくて3つ。1つは獅子だけど、残りの2つは鷲。
背中には蝙蝠のような羽が生えている。尻尾は蛇。
私達【リリエル】の前に現れたのは、体長5m程度の邪族キマイラだった。
私の物語の主人公は人を選ぶタイプの主人公が多いですね(笑)




