-二章- プリエール女子学園 その10。
って私は小さく笑うのだった。
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そこからは全力でプールで遊んだ。
競泳をしてみたり、【リリエル】内で皆でプールの水の掛け合いをしてみたり、浮き輪も売店で売ってたのでそれを使ってみたりもした。
この施設。単純に長方形の箱の中に水が入っただけっていう感じのプールもあれば、流れるプールもあるし、一定時間で海の波みたいに水が押し寄せてくるプールもあるし、ジャグジーな感じのプール迄もあるのだ。
海の波プールではケーレのトップスがカミラの悪戯で流されて大変なことになったし、ジャグジープールでは私にアリシアとミーアがちょっと口では言えないような悪戯をしてきてこれまた大変なことになったけど、その日、私達は大満足な1日を過ごしたのだった。
ラピス様はと言うと、プールサイドでサマーベッドに転がって、ずっと私達生徒のことを見ていた。
幸せそうでした。
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その日の夜。
私達はプリエール女子学園の寮。
ケーレとカミラはこの寮で暮らしている。
今回はケーレが暮らしている、その部屋に泊まらせて貰うことになった。
本当は寮生しか使えない場所なのだけど、申請をすれば余程のことがない限りは許可されるのだそうだ。
その代わり寮で大騒ぎとか喧嘩とかしたら一発で追い出されるから気を付けてとケーレから教えて貰った。
そんなことしないから大丈夫だよ!
寮の食事はなかなかどうして? 美味しいものだった。
朝と夜、この美味しいのが無料らしい。
ちょっと寮生活に憧れてしまった。
後はお風呂も広かった。
部屋にも備え付けのがあるけれど、どちらかというと私達が今いる寮の最上階にある広いお風呂が生徒からは人気らしい。
裸の付き合い。湯船にバスタオルを浸ける行為は禁止されている。私達は互いの背中を洗いあい、ゆっくりと湯舟の中に身体を沈めていく。
熱くない。丁度いいお湯加減。遊び疲れた疲労感が抜けていく。
「はぁ~~っ。気持ちいいですね」
ついつい出てしまう声。
暫くのんびり浸かっているとアリシアがこちらへと近寄ってくる。
「ねぇ、リーネ」
「はい? どうしました?」
「キスしていいかしら?」
「えっ?」
アリシアの顔はほんのり赤い。
これは湯にのぼせたからじゃないっていうのは分かる。
「皆、見ていますよ」
「ん、知ってる」
「なのでここでは……っ。んっ」
アリシアが私の唇に自分の唇を重ねてくる。
私達を見て、お風呂にいる女性達から上がる黄色い歓声。
「大好きよ」
唇を離したら、今度は両手を私の首に絡めてくる。
それからまたキス。
頭が"ぼ~っ"としてくる。
このままだとのぼせる。
「さ、先に上がりますね!!」
逃げようとしたけど、ダメだった。
ミーア迄絡んできて、キスもされて、抱擁という言葉なんて生温い密着。
熱に浮かされて、紅潮。2人の身体の感触と香りにより私は見事にのぼせた。
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気が付くとケーレの部屋のベッドの上だった。
アリシアが私が目が覚めたことに気が付いてすぐに謝ってくる。
「リーネ、気が付いたのね。その、ごめんなさい。どうしても貴女とわたしとの仲を見せつけたくなっちゃって」
ミーアも近くに寄ってきた。
彼女もアリシアと同じように頭を下げる。
「ごめんねー。プールにいる間に独占欲が抑えきれなくなっちゃってー」
身体がまだちょっとしんどい。
水が欲しい。
頼んでみたらケーレがコップに注いだ水を持って来てくれた。
生き返る。ひと心地着いてから2人に今の話の意味を聞いてみる。
「独占欲ってどういうことですか?」
聞いたら2人に微妙な顔をされた。
変な沈黙。重たくなる空気。
アリシアがため息を零してから話してくれる。
「リーネのことをずっと見てる女性が結構いたのよ。貴女って庇護欲がそそられるから、その気持ちは分からなくも無いのだけど、わたし達としては決していい気分では無かったのよ。それにあの学園指定の水着って……。その、好きな人が着てると、ね。だから貴女のことは絶対に渡さないっていう気持ちになってしまったの。それでお風呂で……。ごめんなさい。リーネ」
「自分もアリシアと全く同じ理由だよー。ごめんなさい。リーネ」
2人がしょぼんとした顔をする。
そんな暗い顔はあんまり見たくない。
もう身体は大丈夫。
半身を起き上がらせて、2人の首に両手を回す。
「なるほど。話してくれてありがとうございます。幸せ者ですね。私は」
2人の頬に順番にキス。
唇にもして? と強請られたから、順番にキスもした。
それから眠くなる迄は女子会。
騒ぐのは禁止だから、なるべく声を抑えてのお喋り。
話題はケーレとカミラのことが中心。
ケーレによるハイエルフの里のくだりは聞いただけで息が詰まりそうな所だって思ってしまった。
そんな所で育ってきたら私と対立したあの日みたいな性格になっても仕方がないよね。
私達は4人でケーレのことを撫でまわした。
撫でまわされて髪とか"ぐちゃっ"となっちゃったけど、ケーレは何所か幸せそうだった。
次はカミラのこと。ダークエルフの里はエルフと呼ばれる種族の中で一番自由を満喫してるっぽいことがよく分かった。裸族も結構いるって聞いた。
「なんなら連れて行ってやろうか?」
とか聞かれたので、私達は丁重にお断りした。
目のやり場に困りそうだし、なんなら巻き込まれそうな予感がしたからだ。
カミラは残念そうにしてたけど、多分この判断は間違ってないと思う。
そんな話をしているうちに、カミラから不意に私達の恋愛模様についての質問が成された。
「うっ」と怯む私とは裏腹にアリシアとミーアによって始まる惚気。
私にとっては公開処刑ならぬ公開羞恥。
私は勿論だけど、聞いてるケーレも刺激が強かったのだろう。
私と同じくらいに顔が真っ赤に染まっていた。
カミラは楽しそうに聞いていたけれど。
「そそそそ、そんなこと迄?」
「へぇ、すげぇな。3人」
「でしょう。でもこれはリーネが……」
俗に言う丑三つ時。
そのくらいの時間迄私達は色々なことを話した。
親睦を深め、皆のことをよく知った日。
喋り疲れた私達は、ベッドだと狭いので床で全員で団子みたいになってくっつきながら眠りについた。
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2学期の開始。
日本で言う稲穂が黄金に染まる頃。
この世界でもそれは同様で、そんな時期に学園では文化祭の話が持ち上がった。
私達のクラスが催すことになったのは、定番といえば定番のメイド喫茶。
普段はラピス様の魔法で関係者以外を拒絶する魔法が施されている所。
絶対に足を踏み入れられないプリエール女子学園に堂々と入場できる日。
それはもう、大勢のお客さんが押し寄せた。
ただ、チケット制なので持っていない者は当然入場できない。
それに不服を言っていた人達もいたけど、ここは知る人ぞ知る魔王様が理事長をやっている学園。
もっと言えば、領主・シエンナ様がその上にいる学園。
不服を言っていた人達は魔王様に分からされることになった。
メイドの恰好。なんだかちょっと照れ臭い。
別にミニスカート的なメイドさんじゃなくて、黒の足首地近く迄あるワンピースに白のエプロン、頭にはヘッドドレスな王道なメイドさんの姿なんだけどね。
ヘッドドレスがちょっと曲がってる気がする。
それを手で綺麗に整え直していたら、私と同じ格好をしたアリシアとミーアが私の傍にやって来た。
2人共可愛い。これはきっと愛する者への欲目じゃない。
クラスの皆が私達に注目しているから、2人が可愛いのは間違いない。
2人に見惚れていたら、アリシアとミーアが私に抱き着いてきた。
「リーネ、可愛いわ。よく似合ってるわよ」
「うー、こういうのをそそられるっていうのかなー」
アリシアとミーアの2人から褒め千切られ、頬に熱を感じてしまう私。
それを2人に見られた私は、余計に2人に可愛がられた。
「ずっと抱き締めていたいわ」
「分かるー」
なんて言ってる2人だが、当然そんなわけにはいかない。
戯れる私達の間に割り込んでくる【リリエル】残り2人のメンバー。
「ほらほら。気持ちは分かるけど、いい加減準備しないと」
「しかし、なんか視線が痛いな」
ケーレとカミラ。
この2人もよく似合ってる。
というか、カミラなんて反則だと思う。
私達のクラスの催しはメイド喫茶だけど、何人か女性執事もいたりする。
カミラもその1人。似合いすぎにも程がある。
アリシアとミーアにしか興味を示さない私が「へぇ」って思うくらいなんだから、他のクラスメイト達がカミラに注目するのは当然だ。
ケーレは別の意味で注目を集めてる。
その、なんて言うか……。膨らみで。
そんなこんなで文化祭開始。
私達の担当は給仕係。予想以上に大人気となった。
教室の外迄大行列。注文が飛び交い、私達に休む暇なんて無い。
【リリエル】の人気は高いみたいだ。あちこちから「可愛い」とか「格好いい」とか「羨ましい」とかな声が聞こえてくる。他にも給仕係はいるのに、何故か私達ばかりがお客さん達から呼ばれる。
中には「握手して貰ってもいいですか?」なんて言う人もいて、それに対して「女性限定ならー」ってミーアが返すと意外や意外。数多くの女性のお客さん達が私達に握手を求めてきて、余計に大事になってしまった。
「余計な事言わなかったら良かったー」
あれやこれやで慌ただしく午前の部終了。
この文化祭は午前と午後と夜の3部に分けられていて、3部の合間合間に1時間の休憩時間がある。
その休憩中は何をしてもいいのだけど、午前中が大変すぎた私達【リリエル】に動く気力は無い。
結局、その休憩時間は【リリエル】全員ぐったりと椅子に沈むように座り込んで動かずに過ごすことになった。
午後からはメイドな給仕係からたこ焼き屋さんに転身。
なんでメイド喫茶にたこ焼き屋さんって思うけど、この世界100人もの異世界人が転移して来ている割にはたこ焼きを食べるのは初めてという人も結構いて、クラスでの催し物を決めるその時に私が何気なくたこ焼きの話をしたらそれも取り入れられることになったのだ。
予想していたよりも大繁盛。午後も私達の教室の外に迄お客さんが並んでいるのを見た時は嬉しくもあったけど、眩暈もした。そりゃあもう、全部売り切った後で私は見事に腱鞘炎になった。
もう当分たこ焼きなんて見たくない。
夜の部はお客さん達はもういない。
午後の部終了と共に学園の関係者以外は帰宅を促されることになり、現在残っているのはいつも学園にいる皆。
普段は決闘場として使われている場が今日はキャンプファイヤーの場として使われ、その周りには生徒や教師がいて、運動場が社交ダンスの場と化している。
メイド服から制服に着替えた私達はその様子をひと気の無い教室からぼんやりと眺めている。
【リリエル】私達以外。カミラとケーレの2人は社交ダンスに混ざりに行った。
よって今ここにいるのは私とアリシアとミーアの3人。
「今日のリーネ、可愛かったわ。ああ、いつも可愛いのだけどね」
そう言ってアリシアが私の右腕に自分の腕を絡めてくる。
それに倣うのは勿論ミーア。
「お持ち帰りしたい気分だったよー」
ミーアが自身の身体を絡めるのは私の左腕。
私も2人のことを同じように褒め称える。
「アリシアとミーアも可愛かったですよ。その、愛しくて堪らなくなりました」
「どんな風にかしら?」
「そうですね。とりあえずキスしたいなって思いました」
「じゃあ、するー?」
「はい」
3人1度には無理なので順番に。
とか私が思っていたら、なんか2人に壁際に追い詰められた。
「えっと?」
この後教室で何があったのかは、3人だけの秘密―――。
せわしない文化祭を終えて迎えたウィンター。
雪合戦が授業として行われた。
生徒達に楽しいひと時を楽しんで貰おうっていう学園の催しの一種かな?
って思ったけど甘かった。ただの雪合戦じゃなかった。
魔法あり。
力で固められた、最早雪玉じゃなくて石みたいになった物を使うのもあり。
そんな邪悪な塊をぶつけられた私はキレて、水と風の魔法を駆使して生徒も教師も全員雪玉で駆逐した。
その日の放課後は【リリエル】全員でただ雪ではしゃいで遊んだ。
ケーレに制服の中に雪を入れられた時は悲鳴を上げてしまった。
キッチリ仕返ししたけど。
そうしてテストがあって、合格したから私達【リリエル】はウィンターホリデーを満喫。
サマーホリデーと比べてウィンターホリデーは短い。
【リリエル】皆で迎えた新しい年。
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ついこの間、「今年もどうぞよろしくお願いします」って言ったばかりのような気がするのだけれど。
あっという間に学園最後の学期。3学期がやって来た。




