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-二章- プリエール女子学園 その09。

 私達は背筋に冷たいものを感じながらハンターギルドを後にした。


**********


 【リリエル】が4人となってから翌日。

 所変わってプリエール女子学園が私達のクラス。


「で、決心できましたか?」


 私達カミラを除く【リリエル】は"にこにこ"とケーレに詰め寄っていた。

 それを何事かと見ているのはクラスメイト達。

 はっきり言って先日の戦い。ケーレの活躍は言うこと無かった。

 前衛であるアリシアとミーア、後衛である私。

 どちらかに隙が生まれた時にケーレはその隙を敵に突かれないように器用に立ち回ってくれた。

 遊撃手として絶対に欲しい。ケーレがいれば、【リリエル】はこれ迄よりも格上の相手とも戦えるようになるだろう。そして勝てる。


 ケーレを【リリエル】に加入させたい。


「えっと、その……」


 なのにケーレ本人はまだ迷っているみたい?

 どうしてだろう? 自分の実力は邪族相手でも通じるって昨日の戦いで分かった筈なのに。


「正直に言いますわ。ケーレさん、貴女のことが私達【リリエル】には必要です」

「うん、うんー」

「そう言って貰えるのは、正直に嬉しいよ。嬉しいけどさ、うちが【リリエル】に加入すると……」

「すると。なんですか?」

「えっとね。皆の……」


 ケーレはそこで声を潜める。

 私達だけに聞こえる声で彼女は言う。


「評判を落とすことにならないかなって」


 彼女の顔は少し強張っている。

 それを聞いて説得しようとするのは私とアリシア。


「それなら大丈夫ですよ」

「それはどうして?」

「自分達で言うのもなんですが、【リリエル】の地位はその程度では揺らぐようなものではないからですわ」

「んっ……」


 ケーレはそれを聞いて黙り込む。

 その様子を黙って見守る私達。

 そこに歩いてくるのはカミラ。

 彼女はケーレの頭に"ぽんっ"と手を乗せて笑い掛ける。


「正直言って、お前に対しては私も思うところがあるのは事実だ。けどよ、だからこそお前は【リリエル】に加入する必要があるんじゃないのか?」

「うちが加入する必要? どういう意味?」


 ケーレの顔は困惑に満ちている。

 そんなケーレの頭を撫で始めるカミラ。


「お前が変われたのは【リリエル】のお陰だろ。それなら【リリエル】に恩返しをしなくちゃいけないと思うぜ。それによ、邪族って奴は倒しても、倒しても、際限なく湧いてきやがる。だからだ」

「だからだ。と言われても、【リリエル】への恩返しは分かるけどさ、邪族とどういう関係が?」

「分かんねぇか?」

「分からない」

「素直だな。お前」


"けらけら"とカミラが笑う。

 それでますます顔の困惑の色をケーレは濃くする。

 私はカミラが何を言いたいのか分かってしまった。

 アリシアとミーアの顔を順番に見ると、彼女達も分かったらしい。

 私に微笑み、頷いてくる。


「つまりですね……」


 それでカミラの言いたいことを私が引き継ぐことにした。


「カミラさんは……」

「カミラでいい」

「ではお言葉に甘えます。カミラはこう言いたいんだと思います。私達と共に邪族を退治することでこの地方に貢献できる。それはケーレは改心したのだと、これ迄の行いを悔いているのだと人々に知らしめることができるということです。それから、それが貴女自身の評判に繋がっていく。良い方に。違いますか? カミラ」


 私が聞くと、カミラは満足げに頷いた。


「そういうことだ。まぁ私もお前もまだまだだ。【リリエル】の3人の背中は正直遠い。だから、3人に指導して貰う必要があるけどな」

「その辺は任せてください」


 私が胸を張りながら言うと、ミーアが"ニヤっ"と笑いながら呟いた。


「スパルタでいくよー」

「まじか……」


 カミラのケーレの頭を撫でていた手が止まる。


「ふふっ」


 そのやり取りが面白かったのか笑うアリシア。

 相変わらず私の大好きな2人は可愛い。


「うちは……」

「ん?」

「自分の為だけじゃない。皆の為に何かしたい。だから……」


 カミラが再びケーレの頭を撫で始め、私はケーレの手を取る。


「ではもう1度だけ言いますね。【リリエル】に加入してくれませんか?」


 優しく声を掛けると、彼女は小さく頷いた。

 そうと決まれば、放課後。すぐにケーレを連れてヒカリお姉ちゃんの元へ。

 申請書を提出。無事に受理されてケーレは私達【リリエル】の一員となった。 


**********


 3ヶ月後。

 学生というものには()()がある。

 そう。アレ。その名をテスト。

 当然この学園にもあって、それは学期末に行われる。

 中期は無い。期末だけ。


 これに落ちたら有無を言わせずに留年という厳しいもの。

 しかも学期、学期の間にある休みも不合格者は取り上げられて、学園に通わされ続ける。

 日本と同じで1、2、3学期にそれは行われる。

 私達はこの学園には編入という形で入学したので1学期の最初から授業は受けてない。

 という訳で他の生徒よりも不利。

 

 だけど……。

 ケーレが自分のノートを私達に見せてくれながら、この学園に通い始める前迄の授業内容を教えてくれて、お陰で全員無事に誰もが通るその道を合格で通過した。

 カミラも見せてくれたけど、ちょっと彼女のは使い物にならなかった。

 なんか文字がピカソの描いた絵みたいに見えたのは凄いと思ったよ。

 合格発表の際にケーレの頭を全員で撫でまくった。

 照れるケーレが可愛くて、仕舞いには全員でハグして大喜びした。

 それからはサマーホリデー。

 本当にこの国は日本に似ている。

 ううん、世界そのものが地球と似てる?

 1年は365日。1年は12ヶ月。1週間は7日。1日は24時間。

 違うのは[月々]の言い方と[曜日]の言い方くらい。

 1月はジャニア、2月はファブラ、3月はマーチス、4月はエイプル。

 5月はメイミー、6月はジュンド、7月はジュライド、8月はオーガス。

 9月はセテプ、10月はオクト、11月はノーベン、12月はディセン。


 月曜日は闇の日(ダークデイ)、火曜日は炎の日(フレイムデイ)、水曜日は水の日(アクアデイ)、木曜日は風の日(ウィンドデイ)、金曜日は雷の日(ライトニングデイ)、土曜日は土の日(アースデイ)、日曜日は光の日(ルイートデイ)と呼ばれている。


 学園での生活。

 ジュライド(7月)の終わり頃にテストがあって、オーガス(8月)はテストを合格点で通過した者は全員休み。その間に宿題などは無い。ここは日本と違うところ。

 その休みの間は本業なり、ハンター活動なり、するのも良いのだけれど、折角の休暇。私達は少しくらいは羽を伸ばすことにした。


「とは言ったものの、どうしましょうか」

「うち、いいこと知ってるんだけど聞く?」

「勿論聞くー」

「私も聞きます」

「いいことなら教えて欲しいわ」

「この暑さをなんとかできるとかなら嬉しいんだが、そうなのか?」

「ふふふっ、それがねー」


 私達はケーレから話を聞いて満場一致でその場所に行くことにした。

 そこはラピス様がプリエール女子学園のすぐ隣に建設された施設。

 学園に通っている間はそれに気が付かなかった。

 どうもラピス様が結界を張って秘密裏に建てていたらしい。

 そこを使えるのはプリエール女子学園関係者と一部の偉い人達だけ。

 但し、女性に限るとのこと。

 プールと温泉が一度に楽しめる場所。

 オーガス(8月)は暑い。はっきり言って暑い。サマーな時期の風物詩の1つ。

 あの虫の鳴き声も日本と同じように聴こえてくる。

 そんな暑い日にプールがあると聞いてしまったら……。行くしかないでしょ。

 私達は全員で手を繋ぎながらその施設へ足を向けた。


**********


 プリエール女子学園関係者専用施設。

 そこに辿り着いた私達はまずはその施設の売店へと向かうことになった。

 学園指定の水着がそこで安値で売られてるってケーレから聞いたからだ。

 生徒はその水着じゃないとこの施設を利用することはできないらしい。

 ということで、売店へ行って学園指定の水着を買ったのはいいんだけど……。


 ビキニだった。

 まさかのビキニ。こういうのは確かホルターネックビキニって言うんだっけ?

 色は濃いネイビーでトップスの胸のところにワンポイントリボンがある。

 それからボトムスの左右にもリボン。これは完全に飾り。つまりボトムスはそのリボンで結ぶタイプのものじゃなくてショーツみたいに穿くタイプのもの。


 学園の指定水着がそれってどうなんだ?


 って思うけど、指定されてるんだから仕方ない。

 【リリエル】全員少し恥ずかしがりながら更衣室で着替える。

 着替えが終わってからプールがある場所へ。

 屋根付きで1年を通して楽しめるようになっている。

 プール入り口にある立て札を読むと、暑い時期は(ぬる)めの水、寒い時期は暖かめの水に代わると書いてあった。冷たい水を使わないのは、身体に負担をかけない為であるとのこと。


 どれくらい(ぬる)めなのか? そっと手を入れて確かめてみると、体温よりも少し低めかな? って感じるくらいの温度だった。

 サマーな時期のプールには適温な気がする。

 とりあえず入水の為に準備運動をしていると、こちらへと近付いてくる美女。


 やや釣り目で透き通った濃い青色の美しい瞳。一重瞼。細めの眉毛、長い睫毛。

 鼻は小鼻で鼻筋が通っていて、唇は見るからに瑞々しい。

 髪の色は藍色。だけど右側に一筋だけ薄い青色のところがある。

 そんな髪が腰の辺り迄伸びている。

 肌の色は見るも美しい艶のある白。地球で言えば完全に北欧系の美女。

 出るところはかなり出ていて、引っ込むところはしっかりと引っ込んでいる。

 一見すると[人間]っぽいけれど、彼女は魔物。

 その証拠に頭の上に黒色の角が二本生えているし、なんならば手首と足首付近にこれもまた瞳と同じ色の鱗が生えている。


 そんな美女が着ているのは黒のバンドゥー・ビキニ。

 色香が凄い。あまりにも似合いすぎている。


「ラピス……理事長」


「様」と呼ぼうとしてやめた。

 ここでは「理事長」の方が相応しい気がしたから。

 私の呼び方を聞いて満足気に頷くラピス様。

 ケーレとカミラを"じっ"と見て、ラピス様は口を開く。


「ふむ。お主ら、儂のことが分かるようになったようじゃのう」


 ラピス様に釣られて私もケーレ達を見ると明らかに震えている。

 ラピス様が「分かるように」と言っていたということは、以前はケーレ達は魔王ラピス様の強大な魔力に全く気が付いていなかったのだろう。

 それに気が付くようになったのは【リリエル】の一員になったからかな。


 なんでか分からないけれど、常に私の傍にいると魔力量とか増えたり、その質が分かるようにようになるみたいだし。

 それで、ケーレ達にも分かるようになったんだと思う。


「あ、あの……。うち」

「なんていうか……、その……」


 震えた声。怯えた子羊みたいな態度のケーレ達。

 私もラピス様と初対面(はつたいめん)した時はこうだったなぁって思いだす。

 あの頃が懐かしい。今はもう全然怖くない。

 だって私は知ってしまったから。

 ラピス様の中身を。残念な美女だってことを……。


 今回もやはり、ラピス様はラピス様だった。


「我ながら学園指定の水着をビキニにしたのは大正解じゃったな。眼福じゃ」


 ラピス様の鼻の下はなが~く伸びている。

 プールにいる私達を含めて生徒達を見ながら"デレデレ"と頬を赤らめている。


 ため息を吐く私。

 それから、ラピス様の態度で一瞬にして怯えが引っ込んだらしいケーレ達。

 ラピス様を見て、次に私を見て、ケーレとカミラは私に耳打ちをしてくる。


「ねぇ、理事長って今迄気が付かなかったけど、魔王様……だよね? 魔王様も魔物なだけあって女性好きなの?」

「にしてもだ。なんかこう、なんだ? この違和感」


 何と答えたら良いものだろうか。

 女性好きは女性好きだけど、ラピス様の場合はちょっと特殊(アレ)なところがある。

 私は10秒程度だけ思考して、結果、ケーレ達も情報を知っておいた方がいいよねって判断。

 ラピス様のことを正直に教えてあげることにした。


「女性好きなのは間違っていません。ですが、あの方は「女子校生」が大好物とのことですよ」


 女子校生のとこ。強調してみた。

 瞬間にケーレ達のラピス様を見る目が何か残念な女性(ひと)を見る目に変わったところを私は見逃さなかった。

 

 私と同じ道を辿ってるなぁ……。


 って私は小さく笑うのだった。

月々の言い方。以前は星座にちなんだものにしておりましたが、思うことがあり変更させていただました。

先にお読みになってくださっていた方には申し訳ありません。

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