-二章- プリエール女子学園 その08。
1ヶ月後。私達はそのお試しのためにロマーナ地方でよく邪族が出没する荒れ地の前に立っていた。
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「付いてきておいてなんだけど、うち【リリエル】の足手纏いにならないかな」
ここ迄来て突然ケーレが弱気なことを言い始める。
そんなケーレに優しく声を掛けるのはアリシア。
一応、【リリエル】のリーダーはハンターギルドに提出した書類上では私。
ということになっているけれど、現実的にはアリシアがリーダーと言っていい。
強さだけじゃない。アリシアには仲間を惹きつけるモノとその気質がある。
「大丈夫よ。これ迄貴女の私達から学ぶ姿勢を見てきたけれど、他の誰よりも本気だったわ。今の貴女はあの学園の教師よりも強い。自信を持って」
そこ迄言った後、"にまっ"と笑うアリシア。
私にはこの後、彼女が何を言い出すのか分かった。
ミーアを見ると、"くすくすっ"と笑っている。
ということは、彼女も私と同じくアリシアのこの後の言葉が分かっているということだ。私達、毎日一緒にいるもんね。
アリシアは、わざとらしく数秒置いてから私達が考えていた通りのことをケーレに告げた。
「戦闘の時だけは、気位の高いハイエルフに戻りなさい!」
「はっ?」
アリシアの言葉で"ぽかんっ"とするケーレ。
それを見て大笑いする私とミーア。
アリシアは周りの様子をしっかりと伺いつつ、ケーレに強い目を向ける。
「そうすれば貴女は私達【リリエル】の最高の遊撃手になれるわ」
これ迄【リリエル】には遊撃手がいなかった。
いるのは前衛・アリシアとミーア。と後衛・私だけ。
その為、遊撃は時と場所と場合によって私かアリシアが引き受けていた。
そこにケーレが完全遊撃手として加われば……。
岩だらけの荒れ地。
4人で話をしている間に、ついにその場所に邪族グレンデルが現れる。
サイクロプスと同じ一つ目の巨人の邪族。違いはサイクロプスの目の形が[人]に近いのに対してグレンデルは何処となく醜悪。
それに全身を見ても、サイクロプスよりも如何にもという感じがある。
サイクロプスは[人]を大きくしたって感じなのだけど、グレンデルは全身ワインレッドで筋肉粒々。手足の爪が異常に長い。身体には何も身に着けていない。
男性型だが、それを表すモノは無い。その部分は平べったくなっている。
そして、極めつけに腕と脚と背中に針鼠みたいな毛がある。
これのせいで彼らは、巨大な新種の猿にも見える。
「出てきたわね」
「じゃあ打ち合わせ通りにー」
「よろしくお願いしますね。ケーレ」
「えっ? ちょっと……。まじで!?」
アリシアとミーアがグレンデルの前に飛び出ていく。
グレンデルはすぐに2人に気が付いて対応をしようとするが、それよりもミーアの攻撃の方が早い。
「ふーっ。はぁぁぁぁぁぁぁぁー!!!」
陸を蹴り、飛び上がってのグレンデルへの全力の右膝蹴り。
堪らず膝を折るグレンデルの左膝にアリシアのダガーが突き立てられる。
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「煩いー」
痛みに喚き叫ぶグレンデルにもミーアは容赦しない。
次はカイザーナックルを使用してのその腹への全力パンチ。
[く]の字に曲がるグレンデルの身体。
それでもグレンデルは立ち直って、ミーアを攻撃しようとしたところでケーレの左手の弓の弦が右手で引かれ、グレンデルの目を目掛けて放たれる。
命中。これでグレンデルは視力を失った。
その為にグレンデルの攻撃は我武者羅なモノになる。
アリシアとミーアがそれを避けている間に魔法で弓を槍へと変えるケーレ。
「こっちよ」
自由自在に動き回っての攻撃。
グレンデルの身体から[赤]が舞う。
「リーネ」
アリシアの言葉。
それによりグレンデルの傍から一斉に引く3人。
「これで終わりです。暴風之破刃」
超速度で飛行した風の刃がグレンデルの身体を上下に斬り裂く。
赤の飛沫を飛び散らせ、断末魔を上げるグレンデル。これにて永逝。
この調子で私達は計5体のグレンデルを討伐した。
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これで今回の邪族討伐は終了。
皆で、ハイタッチなどをして喜び合う。
やはりケーレという遊撃手が入ると戦闘の幅が広がる。
逃したくない。ケーレのこと。
何処かのハンターに取られる前に【リリエル】に加入して貰いたい。
「ケーレ」
私が彼女に声を掛けた折に感じる嫌な気配。
私はそちらに向けて魔法を放とうとするが、それよりも一瞬だけ早く動いた者がいた。
邪族・マンティコアの首をその手に持つハルバードにより狩った者。
紅の瞳、真っ白なショートカット。褐色の肌。
見覚えがある。彼女は確かカミラという名の私達のクラスメイトの1人。
全てを見届けて私が杖を持った右手を地面に向けて下ろすと、そのカミラが私達に話し掛けてくる。
「余計なお世話だったか?」
カミラは私だけじゃない。
【リリエル】全員とケーレに問うている。
どうやら皆、マンティコアのことに気が付いていたようだ。
「いえ、助かりましたわ」
アリシアが代表してカミラに礼を告げる。
それを受け、"ポリポリ"と頭を掻きながらカミラはこっちにやって来る。
「でも全員気が付いてたんだろ? わりぃな。横取りしてしちまったみたいだ」
なんとなくばつが悪そう。
なので私は敢えて話題を変えることにした。
「ところでカミラさんはどうしてここに?」
「いや、それがな」
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あれから私達はカミラの話を聞いて唖然とすることになった。
どうも彼女、【オダマキ】という名前のパーティに属していたらしいのだけど、彼女以外はその実力は中の下。
なのでこの場での狩りは無茶があると彼女はパーティメンバーに伝えたらしい。
が、彼女のパーティメンバーはその彼女の言うことを聞こうとはしなかった。
それどころか無視をして"ずんずん"と先に進んで行った。
彼女はそんな仲間にため息を吐きながら、仕方なく付いて行ったのだそうだ。
で、予想の通りに強い邪族に襲われて、彼女達の仲間は這う這うの体で逃げ出すことになった。
その時に彼女は他のメンバーが無事に逃げ出す為の囮として使われたらしい。
メンバーの1人に足を引っ掛けられて、彼女が転んだのを見て、「今だ!」などと言って逃亡していったメンバー。
立ち上がったカミラはメンバーに呆れつつ、自分達を追い詰めてきた邪族と対立した。
負ける相手ではなかったので倒すことには成功した。
ただ、その場所から帰ろうと歩いている時に迷子となってしまい、"うろうろ"と彷徨っているうちにたまたま見掛けたのが私達。
私達をマンティコアが狙っているところを見掛けて、カミラは考えるよりも先に身体が動いたらしい。
「なんですか。それ……」
そんな話を聞いて、私が呆れた言葉を出してしまったことは仕方がないと思う。
なんとも馬鹿馬鹿しい話だ。仲間の忠告を無視した挙句に囮にして、自分達だけ逃げようなんてハンターの風上にも置けない。
「で、カミラさん。ちょっと聞きたいのですが、まだその【オダマキ】には未練があったりしますか?」
「無いな。ここから無事に帰ったら即座に抜けるつもりだ」
「そうですか。それなら……」
私達はカミラを【リリエル】に誘ってみることにした。
さっきの戦いぶりを見た限り、粗削りな面はあるけれど、彼女の実力は充分。
カミラが【リリエル】に加入をすれば、ケーレと共に私達の心強い仲間になってくれること、間違い無いだろう。
「だが……」
カミラがケーレを見る。
彼女はケーレに思うところがあるのだろう。
それはこれ迄のケーレが招いてしまったことだ。仕方がない。
カミラはしばし悩んでいたが、"ふっ"と笑って私達に手を差し出してきた。
「そうだな。よろしく頼む」
この後、ハンターギルド・ロマーナ地方支部に戻った私達。
カミラは先の宣言のままに【オダマキ】と縁を切った。
その前に自分達でカミラに酷い行いをした癖に彼女の姿を見掛けた【オダマキ】メンバーが何事も無かったかのように彼女に話し掛けて来て、脱退の話を聞くと、考え直すようになどとひと悶着あったが、揉めている現場にたまたま通り掛かったギルドマスター・ヒカリお姉ちゃん。ヒカリお姉ちゃんは私達にこれは何事なのかと尋ねてきたので、私達は荒地で起きた[事]の一部始終嘘と【オダマキ】とカミラとの間で生じた軋轢によって、カミラが脱退をしようとしているのを【オダマキ】が邪魔をしている争いであることを偽りなくヒカリお姉ちゃんに話して聞かせた。
全部話し終えると、ヒカリお姉ちゃんの雰囲気が変わったのが感じられた。
「カミラの【オダマキ】からの脱退をギルドマスター権限により承認します」
ヒカリお姉ちゃんの言葉に"ぎゃあぎゃあ"騒ぎ出す【オダマキ】メンバー。
ヒカリお姉ちゃんはそのメンバーを……。
笑顔で黙らせた。
こうしてカミラは【オダマキ】を脱退。
その場で即座に【リリエル】へ移籍となった。
【オダマキ】メンバーはヒカリお姉ちゃんの[命]によりギルドマスター室へ強制連行。
まるで拷問を受けているような悲鳴が聞こえてきたような気がしたけど、あれは多分気のせいだよね?
私達は背筋に冷たいものを感じながらハンターギルドを後にした。
お知らせ
当初、カミラを裏切ったのは【アオギリ】という名称の者達でしたが、訳があり【オダマキ】に変更致しました。
申し訳ございません。




